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第71話 女毛皮商人のルーリャ (2) 〜美女の招待は受けるべきですか?



 いよいよ、目指す禁断の森まで、あと一息。


 禁断の地の前に広がる大森林ルヴォニアの入り口の商都ルヴォンの料亭(レストラン)で。 


 お腹いっぱいのエミナは、これからの森林の旅のことを考えて、瞳をキラキラさせている。


 「この大森林、いっぱい動物がいるんですよ! 楽しみですね! 熊も鹿も兎も山鳥も! みんな、エミナたちに食べられるのを待っているんです!」


 相変わらず能天気だな、とユリオ。完全に物見遊山(レジャー)感覚だ。ま、それだけ狩りの腕に自信があるんだろうけど。


 ユリオだって森林狩猟の経験はあるから、エミナに負けるつもりはないけど。


 「ルルさん、狩りといえば、狩猟肉(ジビエ)だけじゃありませんよ」


 「なに?」


 「毛皮です! この大森林は、毛皮の産地で有名なのです! 他国にも輸出されています! いいのが手に入るかもしれません! 素敵な襟巻きや外套(コート)になる毛皮が手に入ったり!」


 「俺たちの旅は」


 口を挟むユリオ。 


 「余計な荷物は増やせないぞ。狩った獲物から取るのは、肉だけだ。毛皮なんて持ち歩けないからな」


 「うーん、残念ですね。エミナは狐の襟巻きを持っていたのですが、お屋敷から逃げる時、置いてきてしまったのです。また、欲しいです」



 ルヴォニア大森林が、毛皮の一大産地として有名なのは、エミナの言った通りである。


 最高級の貂の毛皮は王国が独占する禁制品だが、兎や狐、熊などの毛皮は普通に売られ、出回っている。


 この料亭(レストラン)の客も、まだ季節にはだいぶ早いのだが、毛皮を纏っている者が多い。毛皮を扱う商人や、猟師などだろう。猟師は、熊の毛皮を好んでいる。自分で狩った大物の毛皮を纏うのが、存在誇示(ステータスシンボル)となるのである。熊の毛皮を纏ったいかつい大男。この(まち)でよく見かける。中には、熊の頭の皮を提げている者もいた。


 荒っぽさ(ワイルド)。それがこのルヴォンである。



 ◇



 「あれ」


 ルルが、目を見張る。


 料亭(レストラン)に、新たな客が入ってきたのだ。女だ。


 給仕が、恭しく出迎えている。(ここ)の大物のようだ。


 「ルーリャ様、ようこそ」


 ルーリャと呼ばれた女性は一つ微笑むと、奥の(テーブル)に案内されていく。1段高いところにある、特等席のようだ。


 みんなの注目を集めている。

 

 ルルが目を見張ったのは。


 ルーリャの纏う毛皮。純白で艶々と輝いている。一目で超高級品とわかる。無骨な熊の毛皮とは、まるでものが違う。


 「すごいですね、あの毛皮」


 エミナも感嘆している。さすが女の子、こういうのには、ついつい惹かれるのだ。


 ルルは、純白に輝く毛皮から、目が離せない。


 「なんだろうね、あれ」


 「あれは、貂ですよ」


 「貂?」


 「はい。白貂だと思います」


 貂。王国指定の禁制品。勝手な狩猟は禁止され、すべて王国が一括で買い上げることになっている。王侯貴族の威信財(ステータスシンボル)となるものである。一般にも売却されるので庶民も手にすることができるが、超高額なので、身に纏うことができるのは、大金持ちだけである。


 「あの女、凄え金持ちなんだな。なかなか美人だし」


 ユリオが注目したのは、ルーリャがこれ見よがしに纏っている貂の毛皮ではなく、その容姿だった。


 ルーリャはもう40代半ばだったが、若々しく見えた。その肌は、貂の毛皮より艶々と光り輝いていた。大人の美しさを湛えているが、どこか鋭く獲物を狙う女豹にも、見えた。


 この料亭(レストラン)には、よく来るようだ。いかにも勝手知ったる、という体で、ぐるっと店内を見回す。女王の貫禄である。


 その視線が。


 ユリオと出会った。


 その瞬間、ルーリャはハッとした表情(かお)を見せた。


 うん? なんだ?


 ユリオはなんとなく年齢(とし)上の美女に見とれていたのだが。


 目を逸したルーリャ、にこやかに、給仕に何か注文している。



 ◇



 腹ごしらえの済んだユリオ一行、一旦宿へ戻る。


 これから、いろいろせねばならない。


 いよいよ旅も大詰め、最終装備を整え、準備をするのだ。


 買い物をし、大森林監督所に狩猟許可のための森林税を払いに行き、ここまで乗ってきた馬の処分も考えねばならない。


 でも。


 「ちょっと食べ過ぎたな」


 あまり動く気分じゃないので、部屋でゴロンとすることになった。ユリオとしては、旅で最後の(まち)に、離れがたい想いもあった。


 「準備はしっかりしなくちゃいけない。明日、1日がかりでやろうか」


 と、ユリオの部屋に集まっていたルルとエミナに言って、出発を先延ばしにする。


 宿の心地よい寝台(ベッド)。まともな寝台(ベッド)も、当分、おさらばかも。



 くう、



 ルーベイ大公爵である俺が、とうとうこんな辺境まで来ちまった。いや、これからが勇者ルルーシア様の大冒険の本番(クライマックス)なのだ。


 寝台(ベッド)の枕を抱く。


 フカフカの枕なんてのも、この先無いかも。


 「あれ?」

 

 なんだ?


 枕の下に、何かあった。


 「どうしたの?」


 と、ルルも覗き込んで来る。


 「うん、何かあった」


 なんだろう。


 みると、丸めた襟巻きだ。何の毛皮かわからないけど、美しい光沢。なかなかの上物のようだ。


 何かの紋章が縫い込まれている。


 「前の人の、忘れ物?」


 「でも、綺麗ですね」


 これにはルルとエミナも、首を傾げる。


 ともあれ。


 宿の主人を呼んで、忘れ物があった、と渡す。


 「おや、これは」


 じっと襟巻きに見入る主人。


 「ひょっとして……ルーリャ様のものでは」


 「ルーリャ?」


 料亭(レストラン)であった、金持ちの年齢(とし)上美人。


 「はい、この紋章は、ルーリャ様のものです」


 「ふうん、そうか。じゃ、届けてもらえるか?」


 「はい」


 出て行く宿の主人。


 ユリオは、またゴロンと。


 ルルとエミナも、思い思いに休憩している。


 暫しして、夕暮れどきになると。


 「明日は忙しくなるから、今日のうちにこの(まち)の見物でもしておくか」


 「うん、いいよ」


 「エミナも賛成です!」


 話してるところに、また宿の主人が現れた。


 「どうだった?」


 「はい。あれはまさしく、ルーリャ様のものでした。なんでも大事なものだったとかで、どこで失くしたのかわからず、とても困っていたということで、大層喜ばれていました」


 「そりゃ、良かった」


 「つきましては」


 宿の主人が、改まって言う。


 「なんだ? まだ何かあるのか?」


 「ルーリャ様より、大事な襟巻きを見つけてくれたお方を、自邸(うち)に招待したい、そう言付かって来ました」


 「え?」


 顔を見合わせる、ユリオたち3人。


 大事なものなのかもしれないけど、たかが襟巻き1つで大袈裟だな、と思うユリオ。一応訊く。


 「ルーリャってのは、何者なんだい?」


 「おや、お客様、ルヴォンは初めてで?」


 「ああ」


 「なるほど。それでご存じなかったのですな。ルーリャ様は、この(まち)1番の毛皮商でございます。大層手広く商いをされていますが、とても気さくで、(まち)の者に親しまれている方です。昔は凄腕の狩人(ハンター)をされていたのですが、やがて商いを始め、今の地位を築いたのです」


 ルーリャ。女毛皮商人。大森林の集散地ルヴォンで一番の毛皮商というからには相当成功した、裕福な商人なのだろう。


 「ふうん。あの女、そんな凄い大物だったんだ」


 確かに、白貂の毛皮をみせびらかすだけのことはある。(まち)1番の毛皮商だから、わざわざ最高級の毛皮を纏って誇示してるんだ。


 ちょっと考えるからといって、宿の主人を退がらせ、相談する3人。


 「どうしようか?」


 (まち)の大物毛皮商からの急な招待である。いきなりのことに面食らう。


 「でも、ちょっと変ね」


 小首を傾げるルル。


 「この(まち)の大物が、この宿に大事なものを忘れ物? 何だかおかしくない?」


 「そうだね」


 ユリオも、考え込む。


 「ひょっとしたら、自分の(うち)で盗まれて、盗んだ誰かが、ここにうっかり置き忘れたとか」


 「そんなとこかな。失くし物が思いがけないところからひょっこり出てくるって、確かにあるよね」


 結局。 


 招待を受けることにした。


 これから大森林踏破をせねばならないのである。


 この森林都市ルヴォンの大物と繋がっておけば、何か役に立つことがあるかもしれない、そういう話になった。


 ユリオとしては。


 単純に、あの美女に、もう一度会いたくなったのである。


 ユリオは10代少女が好みで、年齢(とし)上の事はあまり考えたことはなかったが、そのユリオを惹きつける艶やかな魅力が、ルーリャにはあったのである。


 大金持ちの美女に招待されたのだ。


 断る手は無い。


 宿の主人に教えられて、ルーリャのところに向かった3人。


 ルーリャの豪邸。(まち)の中心から、少し離れたところにあった。


 立派な門構えを見上げながら、美女との再会の期待に思わずニヤけるユリオだった。



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