第66話 賞金稼ぎのアルベロ (5) 〜追剥に狙われて助かりますか?
「うぐ……」
ユリオは、やっと目を覚ました。意識はまだ、はっきりしない。ガンガン頭を殴られているようだ。
なんだ? ここはどこだ?
目の前。
視界が利かない。何も見えない。
ここはひょっとして?
俺はまた、死んだのか? 死後の世界か?
いや。
ええと、何があったんだっけ。
確か……コステクの宿でルルとエミナとみんなで夕食を……うん、そうだ……旅のいつもの通過儀礼。そしたら、そうだ、トナコムの商人という2人組が、勝手にユリオの卓に割り込んできた。そうしてしばらくしたら、急に眠くなって……
そこで意識が飛んだんだ。
で、今は?
身動きしようとするが、できない。
気づくと、手首足首がしっかり縛られている。
なんだこりゃ。死後の世界とかじゃなさそうだ。
ガトゴト、ガトゴト、揺れている。
これは、馬車?
どっかへ運ばれてる最中?
首は動いた。
「あ」
すぐ隣に、ルルがいた。
ルルも、ちょうど目を覚ましたところ。
近い距離で、見つめ合う。少女の髪の甘い匂いがする。クラス委員長琴見咲良と、至近距離で見つめあう……とか、今は言ってる場合じゃない!
「ルル……こりゃ、なんだ?」
「しっ、静かに。私たち、誘拐されたのよ。大きな声出さないで」
「……誘拐?」
「うん。宿で勝手にまとわりついてきたあの2人組、あの人たちにやられたのよ。きっと飲物に眠り薬を入れられたんだわ。で、意識を失くしたところで、用意した馬車に連れ込まれて、縛られて運ばれている」
「……あいつらが? トナクムの商人とか言ってたけど」
「旅の商人じゃなかったのね。うまいこと近づいて、何か詐欺にかけようとしてるんじゃないかと警戒してたけど、こんな荒っぽいことするんだね。本職の追剥よ。旅人に近づいて、眠り薬を飲ませて、介抱するふりをして、そのまま連れ出して身ぐるみ剥ぐ。この手口、結構話題になってたけど、ずっと北のほうの街道の事件だったから、まさかここで起きるなんて思わなかった」
「……俺たちどうなるんだろう? あ、そもそも俺がユリオだって気づいてるのかな?」
「それはないと思う……きっと裕福な旅商だと狙われたのよ」
確かに。
ユリオは懐が潤っているのを幸い、旅路では結構豪奢に金を費いまくっていた。
「なるほど。裕福な旅商エスト=デュレイとして、誘拐か。で、どうなる? 身ぐるみ剥がされて、おっぽり出されるのかな」
「最悪、殺されるわね。この手口の追剥一味、平然と人殺しをするって」
「ええっ!」
青ざめるユリオ。ちゃんとした街道筋の宿で、堂々誘拐。旅ってこんなに危険だったんだ
ユリオのもう一方の隣では、エミナが、うーん、と目覚める。
「ユリオ様の敵は、必ず私がぶった斬ってやります!」
「おい、大声出すな。縛られてるんだぞ。ぶった斬るも何も」
縛られ転がされ、大きな布をかけられているようだ。状況が全くわからない。
「ルル」
殺されるかもと知って必死のユリオ。
「魔法で何とかならない? この縄、解けないの?」
「うん。やってみるよ。普通の縄だから、頑張れば魔法で破れる。でも、まだ頭がズキズキして、意識が集中できない。それに王国の魔力探知を避けるのに、魔力を小出しにしなくちゃいけない。一気には、解けない」
「なるべく早くしてくれよ」
ルルの魔法、大体何でもできるみたいだけど、魔力探知を逃れてコッソリ使うので、制約がありすぎる。
とにかく、手足が縛られてちゃ話にならない。これをなんとかしないと。
重い頭で、必死に魔法に集中するルルを隣に見ながら、気が気でないユリオ。
◇
「おや」
御者台から振り返ったアルベロは、気づく。
荷台でユリオたちを見張っていたはずの、セムトとロムニがいない。
「どこに消えた?」
さすがのアルベロも、訳が分からない。2人の持ってきたユリオ誘拐計画、途中で横槍が入りはしたが、大成功したのだが。
「なんだろうな。ま、いいか。小悪党のことだ。急に気が変わったが、怖じ気づいたかなんかだろう。ユリオはしっかり押さえた。問題ない。ん?」
後方から。
一団の騎馬が駆けて来るのが見えた。
「なんだ、ありゃ」
アルベロの眼が険しくなる。
全部で八騎。全力で飛ばしてくる。
「いかんな」
傍の大剣を撫ぜるアルベロ。
荷馬車は、一頭立てである。ガトゴト、ガトゴト、としか進めない。
騎馬の一隊に、たちまち取り囲まれた。
前を3騎に、塞がれた。弓を持っている者もいる。
「止まれ!」
リーダーらしき大男が叫ぶ。
「ち」
舌打ちし、荷馬車を停めるアルベロ。
「よーし、いいぞ、そのまま動くな」
騎馬の大男がいう。大きな山刀を提げている。不敵な面構え。一目で、まともでない人間だとわかる。
停まった荷馬車に、ゆっくりと包囲を詰めてくる騎馬の一隊。全員、武装している。山刀、弓、両刃剣、斧、槍、それぞれの得物をこれ見よがしにかざしている。あの2人もいた。宿でユリオたちに絡んで眠り薬を盛った、トナクムの商人キンエイとその相棒だ。ニコニコとして人の良さそうに見えた2人、今は山刀を手に、凶悪な表情を浮かべている。やっぱり追剥の一味だったのだ。
「てめえ!」
リーダーの大男が叫ぶ。
「この俺が誰か知ってるか!」
「うーん、どうやら」
アルベロは、落ち着き払って。
「ひょっとして、有名な追剥団のラドゥマさんかな」
「おうよ」
目を瞋らすラドゥマ。ものすごい形相だ。
「知ってるなら話が早えな。てめえ、よくも俺たちの獲物を横取りしやがったな。それで無事に逃げられると思ったのか? 残念だったな。手を出した相手が悪かったな。おい、荷を改めろ」
一味の中から2人、ヒョイと荷台に飛び乗ると、ユリオたちにかけてあった布を剥がす。
縛られ転がる3人が現れた。
「間違いねえ、こいつらだ」
確認するキンエイ。
「よし」
大声のラドゥマ。
「上出来だ。ま、手間が省けたな。わざわざ、こんな場所まで運んでくれてよ」
夕暮れの街道。曠野である。風に、茂みの草木が揺れるだけ。人っこ1人いない。
ニヤニヤするラドゥマ一味。
もともと、キンエイと相棒の騙し役2人組がユリオを薬で潰し、仲間を呼んで外に連れ出し、そのままコステクに用意してあった隠れ家に運び込む算段だったのだ。
それをアルベロに横取りされたので、慌てて騎馬で追って来たのである。
ふう、と息をつくアルベロ。
やっぱり、こいつらか。
ラドゥマ一味。
著名な追剥団である。荒っぽさで有名。旅人を騙して、人気のないところに連れ込んで、身ぐるみ剥ぐ。そのまま殺して埋めて、証拠を消すとも言われる。命乞いする哀れな犠牲者に、自らの手で、埋める穴を掘らせる。そんな話も広まり、恐れられていた。
主に北の街道筋で暴れていたはずだが。
やっぱり仕事の場所を変えたんだな。
この地方での仕事は、初めてのはずだ。
油断のない視線を走らせるアルベロ。
急に、覆っていた布が剥がされて視界の開けたユリオ一行。
何事かと、目をぱちくりさせることしかできない。
なんだか……凶悪な人相の男が、ニヤニヤしながら見下ろしている。その1人は……キンエイだ。宿の時とは、全然違う顔をしている。
今は、凶悪そのもの。
これって……もしかして……最悪の事態?




