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第59話 緋の色を好む少女 (3) 〜美少女の血は何を呼びますか?



 血溜まりの部屋。


 ルルと、赤毛紅瞳の少女の姿はどこにもない。


 赤毛紅瞳の少女は魔族。ルルは、あの魔族少女に喰われたーー


 イーセルから告げられた衝撃の事実。


 ユリオは身動きできず、固まる。


 扉を破った大きな物音に、エミナも何事かとやってきた。が、血溜まりを見て、あっ、と同じく固まる。


 ガックリと肩を落とすイーセル。


 「申し訳ありません、エスト=デュレイさん。私は、王国の魔力監督官です。私の不手際で、このようになってしまいました。お許しくださいーー」


 若い魔術師は語った。


 イーセルは、ドルジェより少し南の地方の魔力監督官であった。魔力監督官とは、魔力の不法な行使がないか、常に魔力探知をして見張る役職である。王国は広い。1人で全域の魔力探知をすることはできない。大勢の王国魔術師が受け持ちを分担し、それぞれの監視地域を担当していた。


 1週間前のこと。


 担当地域に、弱い魔力を感じた。それもただの魔力ではなかった。微かに魔族の気配がしたのだ。イーセルは若年だが、6年前の対魔族戦役にも出征し、魔族の気配は知っていたのである


 魔族魔物領域との境界線から遠く離れた王国の内部での、魔族の気配。


 魔族がここまで侵入。それが事実なら、一大事である。


 ただちにイーセルは、王国の魔法協会に報告し、人数を集め、魔力を追った。


 しかし見つかったのは、人間の魔法使いだった。中年の女性魔法使い。シンシアと名乗った。


 シンシアは、王国の魔術師ではなく、南の方から来た、旅の魔法使いであった。ヴァルレシア王国では、魔法の統制管理にうるさく、他国の魔法使いでも、王国に入国通過滞在する折には、王国に申告し、王国の魔法についての規範(ルール)に従う旨を誓約し、登録許可証を発行してもらう必要があった。


 しかし、シンシアは手続きが面倒であると思って、申告してなかったと言う。そして道中怪我をしたので、うっかり治癒(ヒーリング)の魔法を使った。それを探知されてしまった。そう言って、申し訳ありませんでした、と平謝りに謝った。


 結局、シンシアに他に疑わしい点も無いので、数日の拘留と罰金刑で済ませ、きっちり王国入国通過の手続きをし、登録許可証を与え、そのまま旅を続けさせることにした。北の国へ抜けていくという。魔族の気配については、イーセルの勘違いだろうということになった。


 これで一件落着した。


 だが。


 イーセルは気になった。


 魔族の気配。あれが勘違い? 本物としか思えなかったのだが。


 一旦は勘違いで納得したのだが、時間が経つにつれ、疑念は膨らんでいった。魔族の存在を放置したら、大変なことになる。


 何か見落としがあるのではないか?


 そこで、シンシアのことを調べてみた。


 女魔法使いの旅程を調べると、シンシアが赤毛紅瞳の小さな少女を連れて旅をしていた、との証言を得られた。


 イーセルは、ハッとなった。


 王国魔術師たちがシンシアを見つけた時、女魔法使いは間違いなく1人だった。しかし、それまではシンシアは小さな少女を連れて旅をしていたのだ。その少女はどこへ行ったのか? なぜ、シンシアは共に旅をしていた少女のことを隠したのか?


 ひょっとして。


 その少女こそ、魔族だったのではないか?


 南の方。魔界との境界地帯がある。シンシアはそこで魔族の少女を拾い、何らかの理由で連れて旅をしていたのではないか?


 魔族。人に(あだ)なす者。


 人間(ひと)とは、宿敵天敵の関係にある。


 ヴァルレシア王国だけでなく、どこの人間世界でも、発見次第殺害されることになっていた。


 勝手に連れて人間世界を旅するなんて、絶対に許されないことである。見つかれば魔族は殺され、魔族を連れ歩いた人間も、重い罰となる。


 ーーこれは大変だ。 


 あくまでも疑いに過ぎないが。もし、本当に魔族が野放しになっているというなら。必ず人間に災いが降りかかることになる。


 イーセルは役人を使って近傍地域に捜索を依頼した。シンシアは魔力を隠してコッソリ移動しているらしく、見つからなかった。


 そして今日。


 ドルジェの都の広場に、迷子の赤毛紅瞳の少女を保護しているとの高札が出ている、との情報が寄せられた。


 これはもしかして。


 イーセルは、飛翔(フライト)の魔法を使い、この都に着き、高札を確認すると代官所に相談し、人数を集め、この宿に来たのだった。


 しかし、もう赤毛紅瞳の少女はいない。 


 少女を保護したルルーシアもーー



 ◇



 ユリオとエミナは、呆然となりながら、聴き取りに応じた。


 素直に話した。


 今日、広場で、迷子の女の子を見つけ、保護した。親を探したが、見つからなかった。もうちょっと探してからどこかに預けようと話が決まった。それでこの宿をとった。ルルと少女が同じ部屋だった。夕食を終え別れるまでは、何もおかしなことはなかった。あの少女が魔族だなんて、思いもよらなかったーー


 「憎むべきは魔族です。彼等は、人間の敵です」


 イーセルは肩を震わせていた。魔族や魔物が王国内部に侵入して人に危害を加えるのを防ぐのも、魔力監督官の務めなのだ。


 「あれが……魔族……小さな女の子だったけど、ルルを、丸ごと姿形残さず食べちまった? そんなことあるんですか?」


 ユリオは、まだ信じられられない。


 「はい。そうです。魔族にも様々なタイプがあり、特性があります。人間を喰うと、急に魔力を上昇させるものもいます。おそらく、その一種だったのでしょう。魔力を得るために、人間相手には、恐ろしく貪婪で邪悪な食欲を発揮するのです」


 「……」



 その時。



 ドオオオオーン!



 大きな音がした。すぐ近くだ。


 ハッとなるイーセル。みるみる顔が険しくなる。


 「魔族だ! ……魔族が動いた!」


 すぐ部屋の格子窓を開け、外の空を仰ぐ。


 「魔力の飛翔体……飛んでいく。なるほど、魔族めは人間を鱈腹喰って得た魔力で、次の獲物を探しに行ったというわけですね。飛翔(フライト)の魔法を使った。どんどん遠ざかっていく。凄いスピードだ……ひょっとして私の追跡に気づいたのかもしれない。この方向……シルミール高原の方だ。こうしちゃいられない」


 イーセルは険しい顔のまま、王国捕吏と何か話す。そして、ユリオとエミナに、


 「私は、すぐに逃げた魔族を追跡します。ルルーシアさんのことはかえすがえすも残念ですが、あの魔族は、私が必ず仕留めます。これ以上の暴虐は、絶対に許しません。どうかご安心ください。それでは」


 そう言うや、


 「風を呼べ、雲を起こせ、神霊の気を纏わし我が身を運べ飛翔(フライト)!」


 呪文を詠唱する。たちまち青白い光に包まれ、窓から外へ飛び立って行った。かなりなスピード。すぐ光の点となり、遠ざかっていく。


 黙って見送る一同。


 ややあって、ドルジェの捕吏隊長が、ユリオに敬礼する。


 「我々はこれで引き上げます。この惨事、何があったか宿の者には伝えておきます。魔法協会へも急ぎ報告せねば。まさかこの都に魔族が出現するとは。もうここで捕吏を勤めて30年ですが、初めてのことです。世の中、何が起きるかわからぬものです」


 ぞろぞろと引き上げる捕吏たち。


 ユリオとエミナも。ずっと血溜まりの中にいるわけにもいかないので、とりあえずユリオの部屋へ。


 ドタッ、と崩れるように寝台(ベッド)に倒れるユリオ。


 エミナも、しょんぼりと隅の椅子に座る。


 ルルが、喰われた。


 血溜まりだけを残して。


 ユリオは、身動き一つできない。体に全く力が入らないのである。


 考えるのはただ1つ、ルル。ルルーシア=琴見咲良(ことみさくら)のこと。ルルの笑顔が、頭の中いっぱいに広がる。


 「ルルが……もういない……どうやっても自分のものにならない……そんなこと、そんなこと、本当にあるのか? ……俺の奴隷……20万パナードで買った唯一無二の美少女が……俺の女神が……こんなところで、あっさりと。なんでだ? ルルは宿命に選ばれし勇者じゃなかったのか? これからヒーロー勇者の大冒険が始まる。俺は支える【財布担当】で……もう、お終いなの? そうだ、これは現実(リアル)なんだ。現実(リアル)のファンタジー大冒険なんだ。ゲームとは違う。一歩道を間違えたら、1つ地雷を踏んだら、それで終わりなんだ。セーブポイントに戻ってまたやり直しとか、リスタートとか、それはできないんだ。もうお終い。ゲームオーバー。全然ハッピーにならなかった。バッドエンド。妄想は妄想で終わっちまった。クソッ、宿命なんかがルルを選びやがるから……宿命の奴はどうするんだ? また誰か選ぶのか? 勇者様を。あなたこそ選ばれし人です、とか上手いこと言っちゃって……で、そいつがダメだったら、また次……おいおい……ふざけるなよ! 人の奴隷を勝手に勇者に仕立てて、この人は残念でした、おあいにくさまでした……チクショウ! そんなの、そんなの、俺は絶対認めねえ、許さねえ、おい、宿命の女神とかいういう奴! 魔王ユリオの名に懸けて、絶対に絶対に貴様を徹底蹂躙してやるからな!」



 トントンと、窓を外から叩く音。


 「ねえ、開けてちょうだい。ユリオ、エミナ、いるんでしょ?」


 よく知っている声だ。


 エミナがガバっと身を起こし、すっ飛んで行って窓を開ける。


 窓から入ってきたのは、ルル。


 その腕には、赤毛紅瞳の少女を抱いている。


 何事もない、という顔のルル。



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