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第54話 ドルジェの饗宴 (7) 〜美少女をグヘヘな目で見ちゃダメですか?



 嵌められた!



 これ……まずくない?


 いや、最悪にまずいよね。


 絶対、絶対、もう、最悪、これ以上ない、最悪!


 口あんぐりしすぎなユリオ。


 ウナギの寝床の裏長屋のどん詰まりの奥の部屋で。

 

 ユリオ、ルル、エミナの3人。


 完全に逃げ道を塞がれた!

 

 目の前の狭い通路、いかつい男どもが目を怒らせている。バラバラと部屋の中に入ってくる。


 えーと、何?


 ユリオは、チラリと脇を。


 シーリン。ツンとして、ワンピースを直している。


 俺たち、あの子を助ける計画だったんだよね。でも、それは違っていた?


 目の前には、満面の笑みのトクロン。


 こいつが……ひょっとしてもしかして、黒幕? だったりするの?


 はあ?


 ええ?


 トクロン……そう、こいつは無銭飲食の詐欺師で。それは間違いない。で、なに? 俺たちをもっと大掛かりな詐欺に引っ掛けた? 昨日からの話って、要するに全部嘘なの?



 まさか!



 蒼白となるユリオ。


 トクロンは余裕の態度で、コホン、と咳払いする。


 「何があったのか、はっきりさせねばなりませんな。お嬢さん、一体どうしたのです!」


 「はい」


 しおらしく俯くシーリン。


 「私、ここで休んでいたんです。そうしたら、いきなりこの人たちが入ってきて……私を拐って行こうとしたんです。いきなり掴まれて……私、怖くて、どうしたらいいかわからなくて、必死の思いで大声を出しました。そうしたら、長屋(ここ)のみんなが助けに来てくれたんです。それで助かりました。もし拐われていたら……私、いったい、いったい、どうなっていたでしょう……」


 肩を震わせるシーリン。


 ユリオはやっとの思いで声を出す。


 「あの、君。ここ、悪党の(アジト)じゃないの? 君が縛られているって言うから……」


 「ここは私の(うち)よ! あなたたちが勝手に入ってきたんじゃない! 縛られてる? 私のどこが縛られているの? あなたたちこそ私を縛ろうとしたんでしょう! いったい私をどうするつもりだったの! もう絶対許さないんだから!」


 また叫ぶシーリン。


 「俺たちは見たぜ」


 いかつい男の1人がユリオを指差す。


 「この男が、怯えるそのお嬢さんを無理矢理抱えて行こうとしてたんだ!」


 すごい雲行きだ。


 エミナは、キッとなってトクロンを睨む。


 「あなたがこれを仕組んだんですか? 私たちを騙したんですね? あの馬車で待ってる母親は、なんなんです?」


 「は?」


 わざとらしく首をひねって、とぼけるトクロン。


 「騙す? いったい何のことでしょう? あなた方は昨夜、私を素敵な料亭(レストラン)でご馳走してくださいましたね。それは本当に本当に、感謝しております。その時は、本当に素晴らしい方々だと思ったのですが。なんと、人攫いでしたか。私も驚いております。人は見かけによりませんな。母親? はて、何のことでしょう? そんな人、おるんですか?」


 ああっ、となるユリオたち。


 なるほど。あの母親というのもこいつの一味。演技してただけなんだ。


 だんだん詐欺(ペテン)の全貌がわかってきた。


 シーリン救出のために踏み込んだユリオ一行は人攫い。シーリンがそう証言しているんだ。反論できない。文字通り袋のネズミ。


 唇を噛むユリオ。


 クソッ、シーリン。


 可愛い顔して、こいつも悪の一味ってことか。それにしても、安っぽい手に引っかかっちまったなあ。


 エミナは、怒りに我を忘れ、杖を握りしめる。正義真っ直ぐ一筋娘。こんな卑劣な詐欺(ペテン)は、絶対に許せない。


 「おっと、お嬢ちゃん、何するかなあ?」


 男たちの間から出てきたガタイの良い男、スラリと抜剣する。周囲の男たちも皆、抜剣した。


 裏長屋の住民が、普段帯剣なんてしてるわけない。こいつらみんな向こうの一味で、剣を持って息を殺して長屋(ここ)の部屋に隠れてたんだ。


 剣を抜いた男。よく見ると顔に見覚えがあるような。


 「おや、これは。昨日のお客さんじゃありませんか? お忘れですか? 支配人のグイシュです」


 そうだ。


 昨夜の料亭(レストラン)の支配人だ。料亭(レストラン)じゃバリっとした身装(みなり)で完璧なまでに慇懃な態度でいかにも高級料亭(レストラン)の支配人の体だったけど、今じゃどう見ても、荒くれ盗賊のリーダーだ。昨夜の詐欺(ペテン)、やはり料亭(レストラン)の人間が絡んでたのか。それが支配人だったとは。


 グイシュは剣をかかげ、


 「おいおい、妙なこと考えちゃいけないぜ。俺は長屋(ここ)(おさ)だ。ちゃんと話をしようじゃないか。要するに、そこの兄ちゃんが、妙な気を起こして長屋(うち)のシーリンを拐おうとした、そういうことだな? で、この落とし前、どうつけるかってことだ」


 高級料亭(レストラン)の支配人が最底辺裏長屋の(おさ)? また嘘丸出しの話だ。ユリオがシーリンに妙な気を起こした、それは間違いないのだが。


 「その男、私をものすごくいやらしい目で()てたのよ!」


 叫ぶシーリン。


 「あんないやらしい目、初めて見たんだから。本当に本物の変態クズよ! おお、嫌だ。思い出しただけでも身震いする……こんな畜生、さっさと始末しちゃって!」


 「嘘おっしゃい!」


 叫んだのはエミナ。顔を真っ赤にしている。


 「私の御主君がそんなことするなんて有り得ません! 私の御主君は、誰よりも誰よりも女性への礼節を重んじる方なのです! それはもう絶対の真実なのです! エミナは知ってるんです! そんな嘘っぱち許しません。何があろうと私の御主君様は、王国一の高潔で気高い正義の士なのです!」


 エミナは今、自分が旅商エスト=デュレイの妹であるとの設定も、すっかり忘れてしまっている。


 おい、おい、と焦るユリオ。そんなにベラベラしゃべったら、正体がバレちまうぞ。


 「あんた、莫迦(バカ)なの?」


 シーリンは、エミナを軽蔑するように、


 「私、間違いなく見たんだから。こいつは本当に本当のクズなのよ。変態。あんないやらしい目をできる男なんて、そうはいないよ。あんたこいつの仲間なんでしょ? そんなことも気づかないの? どんだけおめでたい頭してるの? あはは、あー、おかしいったらありゃしない」


 「まだ言いますか! そんな嘘八百を! もう、エミナが絶対に絶対に許しませんよ!」


 「まあ、まあ」


 ニヤニヤするグイシュ。


 「そこの兄ちゃんは高潔で気高い正義の士。それならそれで、よしとしよう。でも、どんな高潔で正義な士だって、出来心を起こすことはあるからな。特に可愛い子なんか見ちゃった日には」


 このグイシュ、なかなかわかってるな、とユリオ。


 「そこで相談だ」


 グイシュは不敵な笑みを浮かべ、


 「本来ならあんたら、踏ん縛って代官所にしょっ引いて行って訴え出なきゃいけないんだけどな。俺たちは、どうも代官所ってのが苦手だ。あそこは庶民にゃ冷たいからな。こっちをナメて、いい加減な対応しやがるんだ。あんたらも代官所へ行くのは嫌だろ? 無罪放免になったって、たっぷりと袖の下、要求されるぜ。そういうところなんだ。(かね)のあるところから毟る。お(かみ)ってのは、お互いに関わらねえほうがいい。で、きっちりここで決着(ケリ)をつけよう。長屋(うち)のお嬢さんにちゃんと詫びを入れて、出すもの出すんだ。そうしたら、それ以上はとやかく言わねえぜ。どこへでも行ってもらうさ」


 シーリンは、向こうを向いているが、薄笑いを浮かべているようだ。

 

 なるほど。


 詐欺(ペテン)仕掛け(カラクリ)、これで全部終了と言うわけか。


 強請り、脅しが狙い。


 こいつら、剣は抜いているが殺し(コロシ)はしないのだろう。強盗殺人をする連中なら、とっくにユリオたちに襲いかかっている筈だ。あくまでも騙して嵌めて(かね)を巻き上げる。詐欺(ペテン)師に恐喝屋の一味だ。


 (かね)を出せば穏便にいきそうだ。


 「こんな奴等の言うこと聞いちゃいけません! あんな嘘っ八の女に詫びを入れるなんて、絶対にしちゃいけません! 正義の名にかけて! こいつらはエミナが許しません!」


 叫ぶエミナ。


 しかしながら、この状況。どう考えても脱出不可能だ。こっちの負け。いやらしい目でシーリンを()たのは、確かだし。


 ルルめ、お前はどう考えてるんだ?


 ユリオは、チラっと横の美少女を見る。


 ルルは動かない。思案しているようだ。



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