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第53話 ドルジェの饗宴 (6) 〜正義ヒーローが悪党のおこぼれ頂戴していいですか?



 早朝。


 宿を出たユリオたち、トクロンと落ち合い、裏路地へ向かう。


 トクロンは、昨夜の華麗で優雅な貴族の上衣ではなく、普通の庶民の服だ。こうしてみると、ただの普通の太ったおっさんだ。


 「それにしてもトクロン、お前、貴族の姿似合ってたな。本当に正真正銘の男爵様に見えたぜ」


 「ハハ、お恥ずかしい話ですが」


 いささか照れるトクロン。


 「ゴーク様……いや、ゴークめにも、お前は貴族の風体がよく似合う。絶対に貴族だと言って人を信用させることができる。貴族詐欺のために生まれてきたような男だ、そう言われました。それで実際、多くの人を騙すことができました」


 貴族詐欺。貴族というのも、別にいつも身分証を持ち歩いてみんなに見せているわけではない。貴族だと名乗って貴族らしく振る舞えれば、それなりに貴族として通用するのだ。


 貴族など、所詮は虚構虚栄(みてくれ)の世界。


 ルーベイ大公爵ユリオも、商人の格好をしてればピエのエスト=デュレイになれる。うまくなれているだろうか?



 裏路地へ向かう。


 ゴチャゴチャした狭い路地に入る前の通りに、一台の馬車が停めてあった。トクロンが手配したものだ。


 「皆様、娘を、娘を、どうか、どうかよろしくお助け願います」


 中から現れた婦人、手を合わせ涙を流しながら、ユリオたちを拝む。


 シーリンの母親だ。だいぶ窶れている。当然だ。たまたまこの都を通りかかった時、トクロンの詐欺に引っ掛かり、娘を取り上げられてしまったのだ。


 今はユリオ一行が、一縷の希望。


 「安心してここで待っていて下さい。娘さんは必ず助け出します」


 にっこりとするルル。女神の約束。勇者の役割。


 ヤレヤレ、また安請け合いしちゃって、と首を振るユリオに、さらに女神は、


 「ねえ、少しトクロンさんたちを助けてあげることはできないかな? これからゴークに追われて逃げなきゃいけないんだし。何かと物入りなはずよ。お願い」


 「は? ……助けるって……その……何を?」


 「うーん……だからその、金貨(おかね)を少し出してほしいの。ね、いいでしょ?」


 追撃の一発(ワンパン)来たあっ!


 おい、ルル!


 莫迦(バカ)なの!?


 タダ働きで危険すぎる仕事を請け負って、その上、金貨(かね)を出せ? だと?


 なんだそりゃー! ありえねえー! もう絶対莫迦(バカ)の極みーっ!


 しかも自分の(かね)じゃなくて、俺の金貨(かね)を出せと。


 おい。


 お前の脳はどういう構造してるんだ? これが勇者モード、女神モードってやつ? 正義の采配は私がやります、私は絶対です、おまいら従いなさい……


 そりゃ、俺は確かに【財布担当】だけどさ。人の財布を勝手にとか……あんまりじゃね?


 頭の沸騰するユリオだった……が、この場は。


 とりあえず、金入れからデュエル金貨5枚取り出して、トクロンに渡す。


 「道中大変だろうから、これ、使ってくれ。無事に逃げてくれよな」


 気のない声でいう。もう乗っちゃった船なのだ。勝手に降りることはできない。船長の命令には従わなきゃ。


 「おお、なんという……ありがとうございます! お礼の言いようもございません!」


 トクロンと、泣いて感謝するシーリンの母親。


 顔をピンク色に輝かせたエミナ、どうだ、とばかりに、


 「そんな! 気になさらないでください! 私の御主君様……いえ、お兄様にとっては、こんなの何でもないことなのです! これが普通なのです! あたり前なのです! 本当に本当に高潔で、これ以上なく無私で立派な方なのです!」


 ヤメロ。いい加減にしろ。


 頭痛の痛くなりすぎたユリオ。金入れをしまう。ユリオたちも救出作戦が終わったらトクロンたちと別れ、すぐ馬車に乗ってこの都を離れるので、旅装に荷物一式、もう身に付けているのだ。


 シーリン救出作戦、始める前から、不吉だ。


 実に不吉すぎる。



 ◇



 トクロンの案内で、狭い裏路地を進んでいく。曲がりくねった道。


 「結構あるんだな」


 作戦の役割分担は決めてあった。ユリオは、(アジト)からシーリンを抱えて走る役。体格が1番よく、体力腕力脚力だってあるのだ。ルルとエミナは、「不測の事態」に備え、警戒する。


 馬車の待つ通りまで、この曲がりくねった狭い道を、少女を抱えて走らなきゃいけないんだ。


 「大丈夫かな」


 やはり心配になる。狭い裏路地の道でゴークの手下に囲まれたら、逃げられるのか? それ以前に、こんなところを女の子抱えて走るのを人に見られたら、絶対にこっちが誘拐犯だと思われる。当然だ。で、「おーい誰か、女の子が拐われてるぞ!」と、大声を出されたら?


 まずい。ひたすらヤバい。


 ともあれ、何があろうと、シーリンを抱えて全力疾走するしかない。


 

 「あそこです」


 トクロンが指差す。(アジト)に着いたのだ。裏長屋のようなボロボロの建物だ。狭い入り口から、奥へと通路が続いている。暗い。前世でいう、ウナギの寝床といったところだ。


 「あの1番奥の部屋です。シーリンは、縛られたまま、あそこにいます。部屋の扉の鍵は、開けてあります」


 頷くユリオ。


 「この建物、奥に行くまで両側に部屋がいくつもあるけど、あそこに人はいるのか?」


 「いません。ここは住民のいないゴークの隠れ処の一つです。今、誰もいない事は私が確認しています。ご安心ください」


 「よし」


 要するに、裏長屋に入って、一番奥の部屋から女の子を抱えて、また馬車に戻ればいいんだ。それだけ。それだけのことだ。


 「トクロン、俺たちだけで行く。お前はこのまま、馬車に戻って待ってろ」


 肥満体のトクロンが一緒じゃ、逃げるのに明らかに足手まといになる。


 トクロンもそれは心得ている。


 「はい。わりました。どうか、ご無事で」


 一礼すると、来た道を、ふうふう言って巨体を揺すりながら走っていく。



 しばし、待つ。


 もうそろそろ、トクロンは馬車に着いたかな、という頃。


 「行くか」


 と、ユリオ。


 ルルとエミナも頷く。今、この裏長屋にいるのは囚われのシーリンだけ。担いで逃げ出す。それだけだ。途中で人に見られたら結構まずいけど。とにかく走るんだ。


 シンプルな作戦。


 ユリオを先頭に、オンボロ長屋の中に入る。狭い通路。両側の部屋の扉、全てピッタリ閉まっている。冷たい剥き出しの土の壁に、ガタのきた木の扉。いかにも最底辺な裏長屋。


 そのウナギの寝床の、どん詰まりの奥。ユリオは用心しながら、そっと扉を少し開けて、中の様子を伺う。ギイイー、と音がした。


 「いた」


 シーリンだ。なるほど。手首足首を縛られて、土の床に転がされている。扉の開く音に、なんだろうと、こちらを見つめている。


 

 ぐおっ!



 シーリンと目線の会ったユリオ。



 可愛い!


可愛いじゃないか!



 いや、悪党に目をつけられて闇で売られようとする少女なんだから、それなりに美少女だろうとは想像していたけど。


 これは想像以上!


 つぶらな黒い瞳。おとなしくまとめた黒髪。16歳だっけ。シーリンちゃん、実に可憐だ。こんな子を見たら男どもが邪なことを考えるのも無理は無い。いや、実にけしからん!


 そして、身体(ボディ)


 ワンピースを着ているが、裾は太ももまでめくり上がっている。胸は大きく開き、(バスト)が今にも零れそうで……


 

 グッヒョーン!



 完全にグヘヘ、なスイッチが入ったユリオ。


 「いい……実にいい肉体(からだ)してるなあ……胸はルルほどじゃないけど……十分! けしからん発育しやがって! ゴークめ、あの子を蹂躙しようなんて考えたのか。とんでもない奴だ。女の子を蹂躙していいのは、この魔王ユリオ様だけだ。シーリンちゃんに手を出すなんて、絶対に許さん、あの子は俺のもの……」


 縛られて抵抗できない美少女を前に、今にも飛びかかって蹂躙したいユリオだったが、さすがにそれは。後ろにルルとエミナが控えているのである。


 「まずかった……俺1人でここに来るべきだったんだ。そうすりゃ……ここでちょっとあの子を味見させてもらって、そのまま担いで全力で馬車に連れ込んで、そんまま、はい、さよなら。出発進行。お別れ。それでうまくいったんだ。シーリンちゃんだって、救出されるんだ。なんだかんだ感謝してくれるだろう。ちょっと味見くらい……いいじゃないか。そもそも俺は完全なタダ働きをしてるんだ。いや、金貨5枚も出して、完全な出血大サービスなんだ。何の対価も無しなんて絶対ありえないだろ! 払えるモノがあるなら、ちゃんと払いなさい! チクショウ!」


 しかしながら、今更ルルとエミナに、


 「君たち、今すぐ馬車に戻りなさい。俺はシーリンちゃんとするコトがあるから」


 などと言うわけにはいかない。


 実に残念であるが。


 作戦通りにするか。それしかない。


 いや、待てよ。


 まだ欲望に未練タラタラのユリオ。


 「あの子を俺が抱えて走るんだ。その間、モギュ、ムギュ、しまくろう。そのくらい、いいよね。問題ないよね。女の子を抱えて走る……狭い路地だし、しっかり抱いてあげなきゃ……落っことさないように……グヘッ……あちこち触れる? いい感じの胸とか、太腿とか、もっと大事な場所とか……フホッ……決死の脱出作戦なんだから、シーリンちゃんだって何も言わないだろう。言うわけない。対価がモギュ、ムギュ、だけじゃちょっと割に合わないけど……何もないよりマシだ。頂けるものは頂こうじゃないか。いいぞ、女の子の体、思う存分モギュ、ムギュ、とか、俺は初めてだし。いや、ロシアナの件はあったけど、あれはまだ10歳だ。女の子のうちには入らない。よし」


 ユリオは囚われの少女を救うヒーローの役割なのである。それが、モギュ、ムギュ、とは。まるっきり、悪党の餌食のおこぼれにヒーローが与るというありえない構図だが、前世と今世で精神年齢合計32歳のエ◯ゲー脳少年は、そんなことは気にしない。


 欲望のままに。


 扉を開けたユリオ、中へ入る。


 こちらを見つめるシーリン。やや顔を引き攣らせている。うん? そうか。なるほど、俺のことも悪党の一味だと思っているんだ。当然だ。


 「助けに来たよ」


 ユリオはそう言って、床に横たわるシーリンを抱きかかえる。普通にお姫様抱っこ。いきなり胸だ大事な部分だをワシ掴みにするわけにはいかない。


 うん。女の子の柔らかい体。やっぱりいいな。


 その瞬間ーー



 「キャアアアアアアッ! 誰か助けてーっ!」



 シーリンが、絶叫した。


 「お、おい」


 焦るユリオ。


 「誤解するな。俺たちは助けに来たんだ」


 だが。


 シーリンの悲鳴と共に。


 「なんだ、なんだ」


 誰もいないはずの裏長屋の部屋から、男たちが飛び出してきた。みんないかつく、人相が悪い。


 え?


 これ、なに?


 突然、背後から現れた男たち。ルルとエミナもポカンとしている。


 シーリンは、なおも絶叫。


 「助けて! この人たちが勝手に入ってきて、私を拐おうとしたの!」



 えええっ!



 気がつくと。


 ユリオの手をすり抜けたシーリン。普通に立って、ユリオを指差し、キッと睨んでいる。


 あれ?


 手首足首をがっちりと鉄の拘束具で束縛(ロック)されてたんじゃ……


 床を見ると。黒いリボンが2本落ちている。


 え?


 あれで縛られたフリをして、床に転がっていただけ?


 なんで?


 なんでそんなことを?


 「ホッホッホ」


 背後から、聞いたことのある声がした。


 ユリオたち3人。その後ろの通路は、飛び出してきたいかつい男たちが固めてている。その間から現れたのは、



 トクロン!



 いかにも人の良い笑顔をしている。おかしくてたまらない、といった様子で腹を揺すっている。


 「おやおや、あなたがた、昨日のお客様ですね。聞きましたよ、今度は人拐いですか。いけませんなあ。こんな朝っぱらから。いったい何をやっておいでです?」



 「えええええっ!」



 愕然となるユリオ、ルル、エミナ。


 嵌められた!



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