第52話 ドルジェの饗宴 (5) 〜解決ヒーローになれますか?
見ず知らずの他人である、可憐な美少女らしいシーリンを救出するための作戦。
「シーリンは、ゴークの巣の一つに監禁されています」
男爵改め郷士崩れのトクロンが説明する。
その巣とは、この裏路地の奥にあるんだそうだ。当然、シーリンはゴークの手下が見張っている。シーリンは、明日の夜にも闇市場に売られてしまうだろう。救出は急がねばならない。
「助け出すのは、明日の早朝が良いと思います」
シーリンの見張りは、ゴークの手下が交代で行っている。明日の早朝の時間帯を担当するのは、トクロンだ。この時間なら、他の手下はいない。裏稼業の悪党というのは、だいたい夜活動して、明け方には寝てしまう。そして午過ぎやっと起き出すのが基本だ。巣からこっそりシーリンを連れ出すには、ここしかない。
見張りはトクロンがしている。1人だけである。その機会に囚われの少女を救い出す。
えらく簡単な話だ。
「そういうことなら、トクロン、お前1人でも大丈夫じゃないのか? 見張りはお前しかいないんだろう? そのまま自分で連れ出して逃がしてやれば?」
ユリオの問いに、首うなだれるトクロン。
「私もそれは考えたのですが……シーリンは、きっちり手首足首を鉄の拘束具で、縛られているのです。鍵が無いと外せず、シーリンは歩くこともできないのです。鍵は、救出してから錠前屋に頼まねばなりません。巣から連れ出すには、シーリンをずっと抱えて行かねばなりません。私はどうも、力に自信がなくて……」
トクロン、でっぷりとして恰幅は良いが、ブヨブヨの脂肪と贅肉の塊だ。女の子1人抱えて走ることも難しいだろう。
「それにゴークの手の者が急に来ることもあり得ます……万一の時、たった1人では……と思うと、やっぱり一緒に協力してくれる仲間がどうしても必要なのです」
なるほど。悪党一味を裏切って女の子を救い出すのだ。詐欺が本業のこの男1人じゃ、心もとないだろう。でも、だからって見ず知らずの旅人に協力を頼むかね。ユリオは思うが。
「そういう話なら、任せてください! 悪党が出てきても、このエミナの杖で、ブチのめしてやります! 女の子に悪さする奴は、このエミナが許しません!」
顔をピンク色に輝かせるエミナ。相変わらず元気いっぱいだ。ルルが訊く。
「シーリンを首尾よく巣から連れ出したとして、それからどうするの?」
「私は馬車を手配しておきます」
と、トクロン。
「そこにシーリンの母親も乗せておきます。シーリンを馬車に乗せたら、私も一緒に乗って逃げます。ゴークを裏切る以上、これ以上、この都にいることはできませんから」
なるほど。早朝の脱出作戦。悪党どもが、やっと午に起きだした頃には、トクロン一行はもうドルジェの都を遠く離れているんだ。
決行は明日の早朝である。ユリオたち3人は、一旦トクロンと別れ、宿をとった。
◇
「うまくいきそうですね」
「うん。トクロンさんは、馬車で待っている。私たち3人でシーリンを巣から連れ出す。大丈夫、だね」
ルルとエミナは、楽観している。悪党の餌食となった女の子を助けるというこの上ない正義に、心が高揚させている。
どうだか、とユリオ。
ルルとエミナにおやすみと言って、自分の寝室に引っ込み、考える。
なるほど。トクロンの計画通りに行くなら、何の問題もないだろう。シーリン母娘とトクロンを逃し、ユリオ一行も何食わぬ顔をしてこの都を離れれば、それで良いのだ。
でも、そう上手くいくか?
トクロンも、「万一のことが起きたとき」を心配していた。
不測の事態。そんなのいくらでもあり得る。
ゴークの奴が急に、「どうれ、シーリンを売る前に、一つ味見してやるか」とか言って、救出現場に現れるとか。確かに早朝。悪党どもの活動する時間ではない。そこは盲点。でも。蹂躙欲望に朝も夜も関係あるものか。俺だって1日中、朝昼晩関係なく蹂躙妄想しまくってるんだし。
作戦中、ゴークが手下を連れて現れたらどうなる? シーリンを救出するために、悪党と大立ち回りのチャンバラをしなくちゃいけない? 連中はトクロンの裏切りに当然気づいていない。こっちが警戒していれば、先手は取れるはずだ。エミナの杖術で悪党どもをブチのめして逃げられる?
でも、相手は。
寝台で寝返りを打つユリオ。
表で綺麗な商売をしながら、この都の裏稼業も支配している悪の親玉だ。
手下だって相当な腕利きを揃えているだろう。
流れ者の用心棒剣士だとか……幾度も死線を潜って来たぜっていう猛者な奴。だいたいそういうのの登場が定番だよね、前世のドラマだアニメじゃ。顔に疵があったりする用心棒……
ゴーク。裏路地の巣に来るなら、用心警戒して用心棒護衛をいっぱい引き連れてくるだろう。腕利き多勢を相手にしたら、さすがのエミナの杖術でも、厳しくはないか? 本人は余裕で悪党なんてブチのめせるとか考えているみたいだけど。無邪気なもんだ。
ヤレヤレ……
それに、ルル。何考えてんだ?
出逢いだとか想いだとか。いざ大立ち回りの戦闘になったら、そんなの通用しないぞ。
ルルこそ、ヤバくなったら、どうするつもりなんだろう?
この大きな都で、魔法ズドンはできない。
エミナを助けるときに使った魔法体術。あれを使えばいいと思ってるのかな。魔法だとバレずに魔法を使う技術。あれさえあれば、悪党一味なんてわけなく倒せる?
でも、そういつもいつも、うまくいくかな?
相手方に、魔術師がいたらどうなるんだろう? 王国の統制に服さず闇堕ちして悪の手先となっている魔術師というのも存在する。そいつらも王国の魔力探知を怖れてそんなに大っぴらに強い魔法は使えないけど、コッソリ魔法を使って悪さをしているという話しだ。
ゴークの手下に闇堕ち魔術師がいたって不思議じゃない。相手に魔術師がいたら、ルルの魔法体術、見抜かれちまうんじゃないのか?
ルルは、魔法が使えなきゃ、ただの17歳の女の子、女子高生なのだ。悪党1人倒せない。誰も救えない。
まったく……本人はそのことをわかってるんだろうか。
自分は宿命に選ばれし勇者だから何でもうまくいく、まさかそんなふうに考えてるんじゃないだろうな。
よくない予感ばかりするが。
「ま、なるようにしかならんさ」
ユリオは眠ることにした。そうするしかないのである。




