第51話 ドルジェの饗宴 (4) 〜正義突撃は勇者の勤めですか?
出会ったばかりの郷士トクロンに、泣きつかれ頼まれた。
悪徳大商人ゴークに騙され、売られようという16歳の可憐な少女シーリン。
その子を、助けてくれ、と。
聞いた限りでは酷い話だ。本物の悪党の悪事悪行。
ルルとエミナ、俄然やる気になっている。本気でこの話に乗るつもりなのだ。
2人の美少女とは裏腹に。
ユリオが率直に感じたのは、
羨ましい!
だった。
羨ましい、というのは勿論悪の大商人ゴークを羨ましい、というのである。
何の罪もない可憐な少女を騙してモノにして、売る。
さっそく、いつもの妄想。
うーん……俺のやりたかった事だ。女の子を売る。闇市場に。悪徳商人が高く売って金になると踏んだんだ。きっと超可愛い子なんだろう。売る前に商品の検分はちゃんとやるんだよね、勿論。シーリンという少女を素っ裸に剥いて。ついでに味見とかしちゃうのかしらん。クソッ、けしからんぞ! ゴークめ! くう! 俺も……ルルを買った時、つべこべ言わずそうしてればよかったんだ……女の子を手に入れたら、まずは蹂躙……だよね……で、何の話だっけ。助けてくれ? シーリンを?
はあ?
なんでそうなるの?
「あの……トクロン……その……確かに大変な話だと思うけどさ……助けろって、なんで俺たちになの? 俺たち、この都に来たばかりの旅人だぜ」
「他に頼める人がいないのです!」
トクロンは、ユリオたちを拝まんばかり。
「この都ではゴークは強い勢力を持っています。表の稼業は綺麗にやっておりますので、あの男の正体を知るものは、あまりおりません。しかし裏の世界では、大物親分なのです。悪党どもを震え上がらせています。誰も手が出せないのです。それで、この都の者でなく、旅のお方にお縋りしようと思ったのです」
「ふーむ……その、裏事情内情をそこまでよく知ってるなら、トクロン、お前が代官所に訴えるか何かすればいいんじゃないのか?」
「ダメです。代官所はトクロンとベッタリです。そんなことをしたら、私の告発をゴークに知らされ、この身が無事では済みません。それに私も、これまで恥ずかしながらゴークの一味として悪事に加わってきました。表沙汰にはできないのです」
「なるほど……しかし、もう一度聞くけど、なんでこの都1番の悪党と戦うのに、会ったばかりの俺たちがふさわしいと思ったんだ?」
トクロンは真剣な表情で、
「私は、人を見る目があります。エスト=デュレイ様。あなた様の気高い、高貴な心情、しっかりと見て取ったのです。あなた様ならきっとこんな無法をお見逃しにならない。そう信じております」
「当然です!」
エミナがピンク色に顔を輝かせ、胸を張る、
「それは間違いありません! 御主君……いえ、私の兄は、誰よりも誰よりも、気高い人なのです。正義の英雄なのです。そんな無法を見逃すなんて、絶対にあり得ません。そのかわいそうな女の子、きっと助け出します!」
設定上、エミナは今、ユリオの妹なのだ。
「エスト」
ルルも、ユリオをかりそめの名で呼び、
「やりましょう。助けましょう。この人と出会って話を聞いたのは、決して偶然じゃない。きっと私たちの宿命よ。宿命に呼ばれたのよ。ここは行くしかない。出逢った人との想いを繋ぐ。それが、私たちの旅なの。あなたなら、それを誰よりもわかってるくれるよね」
ユリオは、わかってなどいなかった。
ヤレヤレ、と。
あぐう……
まずい。いや、まずすぎる展開だなあ……なんだこりゃ。なんでこんなことに首を突っ込んで、寄り道せにゃならないの。この話、俺たちに何か関係あるの?
全然関係ない!
そうでしょ!?
ここは無視して、話を聞かなかったことにして、先に行くべきだ。当たり前である。
無駄なトラブル、それは絶対にまずい。
ルルもエミナも。一体何を考えてやがる。
お前たちの御主人様御主君様がどういう状況だか分かってるのか? 都で一番の悪党と対決して大立ち回りなんてして、もし、俺の正体がバレたらどうなると思ってるんだ。
すぐ、殺されるぞ。
なんせこの首、10万パナード(約10億円)なのだ。しかも生死を問わず! みんなが目の色変えて俺を狙ってるっていうのに。わざと目立つことをする、トラブルなんて、絶対にしちゃいけない。
だいたい、助けたからってどうなるというんだ? そのシーリンとかいう美少女を俺がモノにできるのか?
どうせ。
絶対にモノになんてできない。ひたすら感謝されて、それで終わり。こっちが命がけで危ない橋を渡って助けても、それだけ。単なる感謝で終わり。そういうものだ。
おかしいよね。美少女ってのは、危なくなっても誰かに救出されるのが当然だと思ってやがる。対価も支払わずにだ。美少女が支払える対価といえば、肉体しかないんだから、つべこべ言わず肉体を寄越しなさい……でも、絶対にそうはならない。そういう決まりなんだ。
なんだったっけな。前世の超有名人気番組……そうだ、水戸◯門とかじゃ、この展開、定番だよな。悪党の餌食になりかかった娘を助ける。俺は別にそんなのしたくない。むしろ、美少女を餌食にしたいんだ。
それに、どうやって助けるんだ?
大商人ゴーク。貴族の身分も手に入れたとかいう奴。そいつが本当に表だけでなく、裏の世界でも大物なら、危険な手下がいっぱいいるだろう。
そこに乗り込んで、「お前らの悪事もここまでだ!」ってやるの? 水戸◯門そのまんまで? いや、水戸◯門て、確か偉い人、天下の副将軍だかで、身分を隠して旅をしてるんだよね。で、「控えおろう、このお方を誰と心得る!」てな具合で身分を明かすと、なんだかあれこれ解決しちゃう。でも、俺はお尋ね者だから、絶対に身分を明かしてはいけない。ルーベイ大公爵といや、この王国じゃ大した身分、王国副将軍といってもいいけどさ。今はお尋ね者。「控えおろう、余はルーベイ大公爵なるぞ」なんてできるわけない。何しろ、この首に懸けられた賞金10万パナードだし……
こんな頼まれ事、絶対に受けてはならない。
俺知らね、で済ませるべきだ。
しかしながら。
もう、状況は手に負えなくなくなっている。
ルルとエミナ、完全に燃え上がっている。正義の光に包まれている。
ここで止めても絶対にダメだろう。もうそれは、はっきりとわかる。
ユリオが嫌だといっても、
「そう、じゃ、あなたは宿で待ってて。私たちだけで救い出してくるから」
とか言って、女の子2人で正義の突撃かましちまうんだ。
いつでも俺をほっぽって上等なのだ、こいつらは。御主人様御主君様の俺より、自分の信じる宿命正義ロードの方が、大事なのだ。
全く!
なんていう奴隷と家臣だ!
立場と言うものを、まるでわかっていない。
でも。
女の子2人の正義突撃、知らぬ顔はできない。大事な奴隷、自分が見ていないところで何かあったら……ルルが悪徳商人ゴークの術中に嵌ってモノにされちゃうとか……俺でもまだ何もできてないのに……それは絶対嫌だ!
「よし、やろう」
ユリオは言った。
ルルは、その美貌を輝かせて、くすりと笑う。
「うん。さすがだね。絶対にあなたは立ち上がると思った。そう、あなたにはわかってるんだよね。旅で繋ぐ出会いと想い、それが私たちの力になるってこと。トクロンさんだって一旦は悪の道に踏み込んだけど、こうして勇気を振り絞って戦おうとしているんだもの。私たちが見捨てるなんて、ありえないよね。」
出逢いか、あれこれ思い出すユリオ。
ポルぺのイカれた魔獣大好き魔術師とか、この前のタイムマシン爺とか、あんまりいい出逢いじゃなかったような気がするけど。
「ありがとうございます!」
相好を崩し、ふう、と息をつくトクロン。
「やはり、あなた様方は、私が見込んだ通りの方々でした。では、シーリンを救出します。私の計画を聴いてください」
ヤレヤレ。相変わらず頭痛の痛すぎるユリオ。しかし、もう乗り掛かった船なのだ。




