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第49話 ドルジェの饗宴 (2) 〜タダで御馳走にありつけますか?




 次々と大皿で運ばれてくる料理。


 どれもこれも凝った豪奢(ゴージャス)なものばかりだ。王都での別れの宴でアスティオが用意してくれた料理も素晴らしかったが、それに負けていない。いや、王宮の最高の饗応にも、引けを取らない。


 「スゲー。さすが観光名所になる料亭(レストラン)だ」


 感心するユリオ。


 「まだまだ、どんどん来ますぞ」


 ご馳走を前にすっかりご満悦なトクロン男爵。


 「なかなかのものでしょう。この店は、王宮に仕えていた料理人を多数雇っておりますからな。それだけじゃない。使っている食材は、どれも選び抜かれたものばかりですぞ。仔牛、馴鹿(トナカイ)鷓鴣(しゃこ)、山ウズラ、特別に肥らせた羊、鰻、八つ目鰻、この八つ目鰻はこの辺にはおらぬものですが、わざわざ水を張った樽に入れて、活きたまま10日かけて運ばせたものでしてな。なに、美味のためなら、(かね)に糸目はつけんのです。最高の食材を、最高の料理人が腕によりをかけて作っております。さ、ドンドン食べてください」


 いいながら、自分も貪婪な食欲を発揮する。トクロン男爵、すごい食べっぷりだ。


 ユリオたちも、気取らず料理にがっつく男爵の姿に、遠慮してはかえって失礼と、旺盛な食欲を発揮する。


 「うほ、これはすごい」


 「美味しいね!」


 「もう、夢みたいでーす!」


 料理は、王宮の最高の晩餐の饗応も知っているユリオも舌を巻く出来栄えだった。高価で珍しい香料が、惜しげもなく使われている。


 ルルとエミナは、初めて食べる料理ばかりである。食べる手が止まらない。


 「ハッハッハ、旅のお方、よい食べっぷりですなあ。私も負けておりませんぞ」


 顔を真っ赤にして、さらにがっつく男爵。なんだか食べっぷりの競争になってきた。


 みんなでせっせと、がっつき頬張りして。


 とうとう大量のご馳走も、あらかた食べ尽くした。


 「いやー、よく食べましたな、いかがです? お気に召されましたか?」


 男爵は、苦しそうに腹をさすりながら言う。


 「はーい、最高でしたー」


 こちらも、すっかり満腹なユリオたち。身動きできないくらい食べた。


 「では、これから食後のお茶ですな。私はその前に、ちょっと小用に」


 席を外す、トクロン男爵。


 運ばれてきたお茶を飲みながら、駄弁るユリオたち。


 「いい人って、いるもんなんだな。ま、これだけのご馳走、1人で食べるってのも、つまんなかったりするものかも」


 「お金持ち貴族も、きっぷの良い人なら、大歓迎ね」


 「エミナは、もう動けませーん! 食べ過ぎですーっ!」


 顔をピンク色に輝かせ、苦しそうに息をするエミナ。


 のんびりと食後の駄弁りを続ける3人だが。


 席を外したトクロン男爵は、待てど暮らせど、一向に戻ってこなかった。


 どうしたんだろう?


 さすがに心配になったユリオは、給仕をつかまえて訊いてみる。


 「あの、俺たちと一緒に食事した男爵は、どこにいる?」


 「男爵は、もうお帰りになりました」


 澄まして応える給仕。


 「え?」


 先に帰った? そっか。支払いをするところを見せるのは野暮、そういう考えだったんだな。さすが大物だ。最後まで違うな。


 ユリオがそう感心した時、支配人が現れた。


 「お客様、これが本日のお勘定でございます」


 請求書。見ると、金貨32デュエル(約320万円)である。


 おお、スゲー額だな、とユリオは、


 「なるほど。これをもう男爵が、すっかり払ってくれたんですね」


 「は?」


 怪訝な顔をする支配人。


 「あの、男爵は、今日の支払いは連れがする、最初からそういう約束だ、とおっしゃってお帰りになりました」


 「はあ!?」


 目を丸くするユリオたち3人。


 

 やられた!



 ◇


 

 最高の饗宴の請求、金貨32デュエル(約320万円)。


 ユリオは支払った。


 4人で1回の食事でのこの額は、さすがのルーベイ大公爵も、初めてである。


 料亭(レストラン)を出る3人。


 支配人が慇懃に、今日はありがとうございました。またおいで下さいませ。お待ちしております、と頭を下げた。


 「ま、まあ、最初から、(かね)がタップリあることだし、思い切って贅沢しようって考えだったから、一応は良かったかな……あの男爵の分は、店への紹介料ってことで」


 「すごく美味しい料理だったのは、間違いありません。エミナは感激しました。でも、ちょっと高過ぎでしたね」


 と、エミナ。まだお腹をさすっている。


 「一応、普段なら注文しないようなものを頼めたからな。騙されたのは確かだけど……結果は悪くない」


 「でも変ね」


 ルルは思案顔。 


 「あの男爵は、観光名所になっている一流料亭(レストラン)でちゃんと歓迎されていたよね。て、ことは、単なる詐欺師じゃなくて、この都の、ちゃんとした身分の名士ってことだよね。まさか、毎回料亭(レストラン)でこんなことしてるわけじゃないだろうし。どういうことなんだろ?」


 「うーん、普段は普通に自分で(かね)を払って、料亭(レストラン)で飲み食いしている。でも、たまに、(かね)を持っていそうなおのぼりさんを見つけて引っ掛けて、カモにして、喜んでいる。そういう趣味だったりとか。貴族ってのは、変わった趣味の持ち主がいるからな。男爵も、変人貴族の1人なんだろう」


 「変人貴族の趣味……そうかしら。やってること、一応犯罪だけど。でも、これ、訴えるの難しいよね。訴えられても平気。それで本人は、悪ふざけ、面白半分でやってるのかな」


 「エミナには、貴族の変な趣味のことなんて、理解できませーん!」


 自身、エリューシオ子爵令嬢であるエミナ、頭を抱えている。エミナは真っ直ぐな子だ。貴族といってもいろいろなのだ。


 大物貴族の悪ふざけに、巻き込まれた。(かね)はあったから大事にはならなかったけど、気をつけなきゃ、とユリオ。



 ふと、気づいた。


 ユリオたちは、表通りを歩いている。


 その横の狭い路地に。


 いた。


 さっきの男。トクロン男爵だ。こっちを見ている。ユリオたちに向けて、おいでおいでと手招きをしている。


 「おい!」


 カッとなったユリオ。猛然と駆け寄る。なんだ? あいつは。まだふざける気か? 男爵のやった事は、悪趣味というか、完全な騙し、詐欺ではある。きっちり話をつけなきゃ。


 男爵は、身を翻して逃げる。さらに狭い路地へと走りこむ。


 「待てーっ!」


 追うユリオ。ルルとエミナも走る。


 でっぷりとし、優雅な貴族の上衣をヒラヒラさせて逃げる男爵、速くは走れない。重い体でドタドタと走る。


 狭い路地の奥で、たちまち追いついた。


 「申し訳ありませんでした!」


 3人に囲まれた男爵は、ドタッと両手を地に着いた。


 「おい、どういうことだ」


 見下ろし睨みつけるユリオ。


 「あんた、ここの名士、大物なんだろ? なんであんなことをしたんだ? 店に紹介して入れてくれたのは、助かったけどさ。(かね)を出したくないなら最初からそう言ってくれれば、俺たちが奢ったぜ。紹介料代わりにね。立派な立場の人間が、人を騙してタダ飯? いけないよな。それになんだ、あの法外な支払いは。俺たちが(かね)を持ってたからよかったけど、普通じゃあんなに支払えないぜ。(かね)が無かったら、大事になるところだった。わかってるのか? 悪ふざけじゃ、済まねーんだぜ」


 「それが違うんです」


 トクロン男爵は、両手を地に着いたまま。


 「違うって何が?」


 「実はのところ、私は男爵じゃありません。この都の名士でも、貴族でも金持ちでもありません。全部、嘘なんです」


 「はあ?」


 口あんぐりのユリオたち3人。


 またまた。今度は一体何を言い出すんだ?



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