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第43話 白銀の騎士(6) 〜ヒーローに報酬は必要ですか?



 あれこれの決着(ケリ)がついて。

 

 4人は、1階へ降りる。グウェインはさすがにもう白銀甲冑を着ている必要は無いので、脱いで自分の部屋に置いていく。この年代物の重厚な甲冑というのは脱ぐのも一苦労なので、みんなで手伝った。家宝の重み、なかなかであった。


 1階の食堂に降りると。


 「よう、英雄(ヒーロー)の旦那、待ってたぜ!」


 借金取りのあらくれ冒険者リーダーが、高々とジョッキを上げる。食堂では、先ほど表に出ていたみんなが集まって、大宴会が始まっていた。


 「旦那もさあ、一緒に飲もうぜ!」


 「町の救世主だ。今日の主役だぜ!」


 「いよ、弓取り世界一!」


 「俺たちの命の恩人!」


 方々から声がかかる。


 「ロウゼンはどうしたの?」


 一応訊くユリオ。相手は王国の一級魔術師。あんまり手荒なことをしすぎるのはまずい。


 「あいつなら、そこに居るぜ」


 見ると。人目につかぬ隅っこに、ロウゼンはしょんぼりと座っていた。顔は青痣だらけ。王国官制の魔導士ローブは、ボロボロである。


 みんなに凹られたのだ。当然だけど。


 本来なら、一般庶民が王国一級魔術師を凹ったりするのは問題になるのだが。


 「こ、このことは、どうか内密に……」


 みんなに伏し拝んでで頼んだのは、ロウゼンであった。


 これも当たり前である。


 超一級の魔獣の境界突破を確認しながら、王国に報告もせず、勝手に捕獲して王国の内部まで連れて帰り逃がしてしまい、町や村のいくつかを壊滅させるところだった。


 この件が王国魔法協会に知られたら、ただでは済まない。


 ロウゼンは、死罪は免れたにしても、一生辺境流刑レベルの重罪となる。


 必死に口止めを頼まざるを得なかったのである。


 「どうすっかな、テメーの出方次第じゃ、考えてやらんでもないぞ」


 こういう交渉には慣れた荒くれ冒険者に凄まれて、


 結局、ロウゼンは長年の辺境勤務で貯めた有り金全部吐き出さされたのである。その額は、金貨250デュエル(約2500万円)になった。


 大金をもぎ取ったみんな、荒くれに宿客、町の人、宿のスタッフまで、さっきまでの死の恐怖はどこへやら、早速の大勝利祝賀大宴会となったのである。


 「さあ、旦那、これは旦那のものだぜ」


 冒険者リーダーが、ユリオにロウゼンから巻き上げた金貨の入った袋を渡す。


 ユリオは何しろ金持ちである。ここは鷹揚に、自分の分に金貨100枚だけとり、


 「後はみんなで分けてくれ。みんなも怖い思いしたからな。慰謝料、必要だろ」


 おおっ、とどよめきが起こる。


 「さっすが、太っ腹な旦那だ!」


 「救世主、いや、もう俺たちの神様だ!」


 「今日はガンガン飲もうぜ!」


 宴会に巻き込まれるユリオ一行。空腹でもあったし、さんざん飲んで食べることにする。



 ロウゼンの差し出した大金のおかげで、宴が盛り上がりに盛り上がっているところ、ユリオはそっとルルに囁く。


 「そろそろ行こうか。俺、お尋ね者だし。なんだかんだ、ここで目立ってちゃまずい」


 「そうだね。私もそう思っていた。行こう」


 町を救った英雄。王国一の弓取り。魔獣殺し。その正体はーー


 王国史上最高額の賞金首ユリオ。詮索されると、まずいのである。


 3人は酩酊しているみんなの目を盗んで、そっと宿を出る。


 グウェインには、しっかりと別れを告げた。グウェインは借金取りの荒くれ冒険者たちと話をし、スフィリアの財宝を見つけて支払いを完済させる約束をした。その先は領地の買い戻しである。


 荒くれ冒険者たちは有頂天になっていた。1万パナードの借金残高。こんなのが全額取り立て回収できるなんてことは、まずありえないのである。借金主からの成功報酬も、かなりの額に上る。ロウゼンから分捕った金貨と合わせてホクホクであった。冒険者稼業、基本的には世知辛い底辺職であるが、たまにこういうドンとおいしい思いができるので、やめられないのだそうだ。



 町から出る夜行の乗合馬車に急ぎ駆け込む3人。ポルぺの町を後にする。他に乗客はいない。ガタゴト、のんびり揺られながら。


 ユリオは、自分が魔獣ヒトクイオオコウモリを倒せたのは、実は神弓の魔符の威力だったと、2人の少女に説明する。王国一の弓の名手だなどと旅の仲間に思われたままでは、この先トラブルになるかもしれないと思ったのだ。正直に言っておいたほうがよい。


 「そうなんだ。いい判断だったね。魔符を()れたアスティオも喜んでいると思うよ」


 「魔符の力でも何でも、ユリオ様が救世主なのは間違いありません! ホント、かっこよかったです!」


 微笑むルルに、顔をピンク色に輝かせるエミナ。


 ユリオは、気になっていたことをルルに訊く。


 「スフィリアが遺した財宝の話、本当なの?」


 「うん。私が見たわけじゃないけど、養親(ママ)が嘘をつくわけないし。養親(ママ)は、とっても工芸魔法が得意だったのよ」


 「魔法で財宝が作れるんだ。じゃあ、魔法で金持ちになれるってこと?」


 「全く無から財宝を生み出せるわけじゃないよ。養親(ママ)の作った珊瑚の樹だって、特殊な材料がいるの。それに高度な工芸魔法は、誰でもできるわけじゃないし、時間もかかる。失敗もある。そんなに財宝をザクザクは作れないよ」


 「ルルは、工芸魔法はまだ未習得なんだよね。なんで? 金持ちになれる魔法があるなら、真っ先に教えてもらえばよかったのに」


 「魔法には適性があるのよ。養親(ママ)は、私には工芸魔法は向いてないと判断したのよ。超高価な財宝をつくる素質を持った工芸魔術師なんて、ごくごく一握りだからね」


 「そっか」


 魔法の世界、なかなかややこしいんだ。魔法で5万パナード(約5億円)の財宝を取り出せるなんて、夢みたいな話だと思うけど。


 もう一つ、どうしても訊きたいことが。


 「ルルは、スフィリアの財宝の在処をただグウェインに伝えただけなの?」


 「そうよ」


 「……自分の取り分とかは、取らなかったの?」


 「え? 養親(ママ)はグウェインに渡してって言って匿し場所を教えてくれたのよ。私の取り分なんてないよ」


 「……」


 ガタゴト揺れる馬車の中で、ユリオは、あらら、と。


 5万パナード(約5億円)を誰かに渡すのを頼まれて、自分の取り分は一切なしで、渡しちゃうんだ。手数料とか取ってもよかったんじゃない? 1万パナードくらい抜いても。いや、2万パナード抜いてもよかったような……グウェイン、スフィリア、ルル、善意正義の輪って、何故かうまく繋がっちゃうんだな。その輪には、遠くで父クロードも繋がっている……


 でも。


 と、思う。 


 (かね)は必要だぞ。どこの世界であれ。無一文のルルが冒険の旅を問題なくできているのは、【財布担当】のユリオのいるおかげである。わかっているのかしらん。そういえば、伝説の勇者にはなぜか必ず都合のよい支援者が現れてだいたい何とかなるものだけど。俺は、ずっとルルの都合のよい【財布担当】なのか? それはちょっと……


 ヒトクイオオコウモリ討伐で金貨100枚増えた懐。【財布担当】のユリオ、ますます堅調である。心境は複雑であるが。


 そうだ、ロウゼン、あいつはどうするんだろうな? 厄介迷惑な一級魔術師のことを思い出す。魔獣を1人で捕獲するくらいだから、腕は確かなのだろう。でも。あのタイプは。自分の研究熱だのせいで、他人にとんでもない迷惑をかける奴た。今回のことだって、絶対に反省していない。するわけない。今回は失敗した。次はもっとうまくやってやろう、できる筈だ。そう考えているに違いない。今度はどんな騒動を起こすことやら。次の騒動には、願わくば巻き込まれたくないものだ……


 ガトゴト揺れる夜行馬車の中で、3人はトロトロと眠りに落ちる。



 ( 白銀の騎士 了 )



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