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第38話 白銀の騎士(1) 〜重すぎな甲冑をみせびらかすのは何のためですか?



 王都を出発した3人。乗合馬車での一日の旅程が終わり、宿場町に着くと。


 宿をとり食事をし、おやすみ、と言って寝る。


 ルルとエミナの少女2人は相部屋、ユリオは1人部屋である。殺風景な部屋の中で、ユリオはひたすら欲望妄想して悶々とする。


 そうして朝になるとまた出発。乗合馬車を乗り継ぎ、幾宿を経て。



 「着きました。ポルぺの町ですね」


 エミナの声に促され、みんな馬車を降りる。


 もう王都からだいぶ離れている。ポルぺ。砂埃の舞う、典型的な田舎の宿場町だ。一行は街で1番大きな宿に。何しろ(かね)はタップリあるのだ。


 宿に入る。一階は食堂になっている。2階が宿泊の部屋である。だいたいどこも同じ構造だ。食堂のよく目立つところに、ユリオ追捕の布告状手配書人相書きが貼り出されている。これも、どこも同じ。

 

 ユリオは受付で、


 「宿を頼む。3人で2部屋。あと、これから飯にするから」


 そう言って食堂の(テーブル)に3人で座る。もう夕暮れ刻。広い食堂は、かなり賑わっていた。酒を飲んでいる連中も多い。


 庶民の宿、食堂である。陽気で猥雑な空間だがーー


 「なんだ?」


 ユリオは目を見張る。


 いや、注目せざるを得ない。


 宿の食堂のカウンターに騎士がいた。


 紛れもない騎士。それもかなり場違いな。


 白銀に輝く甲冑姿なのである。胸甲、肘当て、篭手、脛当て、靴。ガッチリ着込んでいる。兜はさすがに被らず、カウンターの台の上に置いてあった。これも白銀にきらめいている。見事な全身甲冑一式だ。立派な凝った装飾が彫ってある。麗麗しい家紋も見える。甲冑ではあるが、戦闘用というより貴族の身分と地位を誇示するための威信財といえた。


 「何なんだ? あいつは。なんでこんなところで、あんな装備をしてるんだ」


 思わず呟くユリオ。


 「あんた、ここが初めてかね?」


 隣の(テーブル)の男が言った。


 「この店であの騎士は、いつも甲冑姿でカウンターにいるんだよ」


 「へえ、いつもああなんだ」


 白銀の騎士は注目を集めている。が、気にせず飲んで騒いでいる者も多い。初めて見た者は驚いているが、いつもここに来ている者は、もう見慣れているのだろう。


 「何をしているんだろうな」


 ユリオにはわからない。


 貴族や騎士が全身甲冑姿になる……それは普通、出征や討伐の時だ。しかし今は、そんなのはない。それに防具というのは、高位の貴族ほど軽くて動きやすく強力な魔防装備を身に付けるものである。ユリオたちが今回の冒険のためにアスティオを頼って手に入れた魔法強化の皮鎧布鎧がまさにそうだ。白銀に輝く全身甲冑。ああした見栄えはするが重量がありすぎ動きにくく非機能的なものは、実用的じゃない。伝来の家宝かなにかだろう。もう美術品、装飾品のレベルだ。


 そういうのをしっかり着用するとしたら、普通は晴れの儀式(セレモニー)か何かの時だけである。


 それを、こんな宿場町の食堂でいつも見せびらかしているの?


 なんだ?


 いったい、何?


 誰もが疑問に思うだろう。ただ自分の持っているとっておきの家宝を、みんなに見てほしくてしかたがない、てこと? 庶民連中相手に? だいぶ変わってるな。しかし騎士だ貴族には変わり者も多い。あの騎士も、一風変わった自分の趣味を楽しんでいるだけなのかもしれない。


 白銀の騎士。兜は被ってないので、顔ははっきりと見える。まだ若い。青年だ。いかにも生まれの良さを感じさせる整った顔立ち。グレーの髪を長く伸ばした、なかなかのイケメン美形である。周囲からの視線は、まるで気にしてない様子。どこか物憂げなまなざし。


 「僕の家宝すごいでしょ。みんな見て頂戴。ね、ね、こんな甲冑見たことないでしょ!」


 としているようには……とても見えない。


 しかし、変人奇人というのは、こちらの想像を超えるものだ。


 ま、よくわからんけど。


 ユリオは結論づけた。


 触らないでおこう。そうするべきなのだ。誰が立派で高価な甲冑を自慢しようが、見せびらかそうが、それでいいではないか。


 「さ、飯だ」


 冒険の旅の途中なのである。乗合馬車でひたすら進む。宿で飯を食って、明日の道中の食料を買って、寝る。そして、翌朝にまた馬車。旅とはそんなものだ。余計なことが起きてはいけない。何か見ても首を突っ込んではいけない。


 「ルル、晩飯は何にする?」


 連れを見ると。


 ルルは、例の白銀騎士を、じっと見つめている。フード付マントは脱いでいるが、面紗(ヴェール)は被っている。ルルは指名手配されたお尋ね者ではないが、その美貌、目立ちすぎるのだ。あれこれトラブルが起きないよう、なるでく面紗(ヴェール)を被るようにしている。


 白銀騎士に真っ直ぐ向けられる、ルルの視線。


 なんだ、ルルは、とユリオ。


 やっぱりあの妙ちきりんな甲冑男が珍しいのか。気になるのか。ま、気になるよな、普通。でも、貴族のぶっ飛んだ所行ってのは、あんなもんじゃないんだぜ。もっとみんなの脳がひっくり返るようなことをするような奴だって……ルルはこっちに来てまだ3ヶ月ちょっとだから、よくわからないだろうけど。


 変人の奇行なんか、いちいち気にしてちゃいけない。触らず通り過ぎる。それも重要。そうじゃなきゃ旅は進まないぜ。ちゃんとそういうのを覚えてくれよな、俺たちのクラス委員長……


 すっと。 


 ルルが立ち上がった。


 えっ、となるユリオ。


 ルルは、真っ直ぐ白銀騎士に歩いていく。


 そして、白銀騎士の前に来ると、面紗(ヴェール)を持ち上げた。その美貌を現す。


 白銀騎士に驚きの表情が浮かんだ。


 あっ、と何か言葉を洩らしたようだった。


 しばし見つめ合う2人ーー


 やが、騎士は、その重量のある甲冑をガシャッと鳴らし立ち上がる。


 「さあ、行きましょう」


 騎士が手を差し伸べる。ルルも一つ頷くと、その手をとる。


 ルルが振り返った。


 「ユリオ、少し待っててね。私、この人と話があるから」


 騎士もにっこりと笑みを見せる。本当に美形の青年だ。笑うと花が咲いたようになる。


 ルルと騎士の2人は、一緒に宿の広い階段を上る。そして2階の部屋の1つに消えた。


 食堂の(テーブル)で。愕然となるユリオ。


 椅子から立ち上がることもできない。あまりにもありえないことが起きたので、ぽかーんとなるばかりだった。


 ルルが白銀騎士を見つめた。歩いていった。顔を見せた。そして2人で、2階の部屋に消えた。


 「なんですかー、これ!?」


 やっと頭が動き出した。


 「ルルさん、どうしたんでしょう?」


 隣のエミナも、キョトンとしている。


 何が起きたのか、さっぱりわからない。


 でも、ルルが男につれられて、宿の部屋に消えた。宿の部屋だからーーもちろん寝台(ベッド)もあって。



 ダメーっ!


 それは絶対、ダメーっ!


 そうだ! こういうことがあるから、俺はついてきたんじゃないか。


 さっそく頭に血の上るユリオ。


 「やっぱりそうだ! 女の子なんて、旅先でちょっとイケメンに出会ったら、コロっといっちまうんだ! で、女子との出会い待ち、女の子ゲット期待の野郎ってのが、これまたゴロゴロいるんだよなあ、冒険の旅ってやつには。もう、あちこちで網を張っていやがる。うまいこと言って、やって、何とか女の子を引っ掛けて釣り上げて……それしか考えてやがらねえ。ルル……琴見咲良(ことみさくら)も所詮はまだ17歳の女子高生だ。海千山千の男の手管には、あっさり落ちちゃう……あまり恋愛経験がないから、かえって危ないんだ……海千山千の男の手管……あの白銀野郎が使ったようには見えないけど。ひょっとして、あの無駄に見せびらかしていた鎧、あれが女子のハートに刺さる何かなのか? まさか!」

 

 内心に沸る思い。


 何はともあれ。


 「自分の奴隷が勝手に男について行くのは許さん。他人の奴隷を勝手に連れて行くのも論外だ。そもそも俺の奴隷が勝手に男とくっついたりなんだりするのを監視するために、わざわざ冒険の旅なんぞに俺はついてきたんだ」


 ユリオは立ち上がった。いささか遅きに失する行動だが。あまりにも想定外の事態なので、しばらく動けなかったのだ。


 ルルを取り戻さなきゃ。当然だ。


 ユリオは2階への階段へ。


 「おっと、待ったあ」


 ドスの利いた声とともに、バラバラと男たちが現れ、ユリオの前に立ち塞がった。屈強な男たち。身なりは悪い。いかにも荒くれって感じ。食堂の大(テーブル)で、飲んで騒いでいた連中だ。階段の前で通せんぼする。


 「どいてくれないか? 俺の連れの女を、呼び戻しに行くんだ。道を開けてくれ」


 ユリオは言った。なんなんだ、こいつらは。白銀野郎と何か関係あるのか?


 イッヒッヒ、と笑う荒くれの一団。


 「そうはいかねえな」


 頭にバンダナを巻いたリーダーらしい男が言った。


 「2階(うえ)じゃ、男と女の大事なことがあるんだ。邪魔するのは野暮ってもんだぜ。通すわけにはいかねえ」


 イッヒッヒ、とまた笑う荒くれの男たち。


 ーー男と女の大事なこと。


 ユリオはカーっとなった。


 邪魔をするのは野暮。荒くれらしからぬ正論である。でも。


 「俺の奴隷が男女のことを? 御主人様の目の前で? それがダメなんだって!」


 内心の絶叫。沸騰する頭。


 しかし。


 階段の前を固めて動かない荒くれ。全部で8人いる。ここで暴れて突破することはできない。


 「ルル! 早まるなよ」

 

 2階(うえ)を見上げるばかりである。



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