第37話 【財布担当】の俺がついに念願叶ってリーダーの美少女勇者を蹂躙できました、そんなハッピーエンドストーリーはありえますか?
ガタゴト、ガタゴト、馬車は進む。
乗合馬車の相客たち。なんだかんだ、おしゃべりをしている。
ユリオ、ルル、エミナの3人組は、お尋ね者であるからして、無言。そっと囁き交わし合う程度。ボロを出さないためには他人とあれこれ喋らないことが1番なのだ。
ユリオは独り思いに沈む。
とうとう始まっちゃった。
勇者の冒険……何だかの使命宿命を背負って……前世で大好きだったファンタジーアニメだなんだでは定番だった。
どんなのだったかな? いろいろ思い出す。
俺の旅は。まずは王道路線だ。別世界から召喚された少女が、わけもわからず宿命の勇者に仕立てられ、とりあえずの目的地を教えてもらって……主役はルルだけど……
ファンタジー冒険モノにしては、なかなかまずまずの出だしだな。
ユリオが考えたのは、装備と金の問題である。アスティオの気前の良い援助贈り物と、送別の宴があった。これは幸先よい。装備はほぼ無料でバッチリ整った。最初から強力な武器防具アイテムがある。これは絶対に必要である。薄っぺらな装備で冒険なんて、現実にはクレイジーだ。
そして当然、ユリオは自分の金をタップリと持ってきた。
旅立ち前に確認したユリオの全現金資産は、合計1万4350パナード(約1億4350円)である。これで十分、大富豪の資産といってよかった。
全部持ってきたわけではない。
特に問題なのが、1万パナード(約1億円)の価値の白色水晶だった。これは、普通の支払いや取引で使うことができない。高額すぎるのだ。本来、王都で金貨や銀貨に両替できればよかったのだが、それが難しい。まともな店でしか両替はできないのだ。で、そういう店で素性のわからぬ者が白色水晶なんぞを取り出したら、絶対に疑われる。盗品か何かだと思われるだろう。通報される危険があった。
アスティオに頼むのは? それも考えたのだが、さすがのアスティオも、偶々追捕から逃れたはずのユリオが、城の金庫にしかないはずの高額貨幣をなぜ持っているのか、疑念を抱くだろう。今もこれからも、アスティオの協力は絶対に必要なのだ。妙に思われてはならない。
結局、白色水晶は、両替できぬまま蜂蜜館の隠し戸棚にしまっておいた。これから行くのは辺境だ。旅先で両替できるとも思えないし、持って行って失くしたら一大事だ。
持っていく現金は、金貨100デュエルと銀貨500ドラメ。合計で1500パナード(約1500万円)である。これだけあれば、十分な筈だ。これがユリオの旅の所持金。それ以外は、白色水晶と一緒に置いてきた。ちなみに、現金資産を館に隠してきた事は、2人の美少女にも秘密である。
ルルとエミナには所持金として、それぞれ銀貨50ドラメ(約50万円)ずつ渡した。ユリオは、鷹揚なところを見せたのである。2人の美少女は、例によって感謝恐縮していた。
「全く……あいつらときたら……毎度毎度、感謝します……か。それだけじゃなくて、肉体で対価を払うとか、考えないものなのか。困った娘たちだな」
ぼやくユリオ。
潜伏生活から旅立ちまでのユリオの役割、それは【財布】であった。ルルもエミナも無一文だったから、当然である。なんでもかんでもユリオが支払いをしていた。たぶん、これからもそうなる。
「冒険の勇者パーティーで、【財布担当】ってジョブとかクラスってあったっけ? 【財布担当】の俺がついにリーダーの美少女勇者を蹂躙できました、そういうハッピーエンドにしなくちゃいけないんだけど」
前世じゃ、女の子に引っ張り回され使われる【財布担当】の男というと……あまりいいイメージではないな……
「ま、これは投資だ。俺が魔王になるためのな」
そう思うことにした。そうでも考えないと。
なんであれ、金があるのはよいことだ。
異世界では、その辺から湧いて出てくる魔物を倒せばなぜか金が落ちてくるとかのわけではない。当たり前である。
もちろん、この世界でも通常の鳥獣を狩る本職の狩人猟師は存在している。けれど通常の旅の行程に倒せば金になる敵なんて、まず出てこない。で、移動宿泊に、常に金はかかるのだ。生きていく以上、金は必要。前世でも異世界でも、それは変わらない。
前世で大好きだった冒険ファンタジーアニメだゲームだじゃ必ず登場する冒険者。どういう奴等だったっけ? 大抵、金は無く、日々の糧のために、危険なクエストを受けまくる。
ああいうのは、実際にはやりたくないな。いや、考えただけで身震いする。絶対に御免蒙るだ。危険なクエスト受けまくってたら、命がいくらあっても足りやしない。金があって本当によかった、とユリオ。
ファンタジーで永遠の定番、冒険者。それに相当する職業の者は、この世界にもいる。ユリオの父クロードの戦死した大戦役以来、魔族魔物の勢力は、人間世界との境界ラインから大幅に後退している。でも、たまにハグレ魔物魔獣の類が、こちら側に迷い込んでくる。たいしたことのない相手の場合、王国軍が出動することはなく、冒険者が召集される。最近では、こうしたクエストもあまりない。
で、【冒険者】は普段何をして稼いでいるのかというと。腕っ節に自信のある者なら、まず、どこかの用心棒である。貴族の私兵護衛隊に入れれば、かなりな栄誉である。まともな職にありつけないものは、その日暮らしの日雇い仕事、それにユリオのようなお尋ね者を狙う賞金稼ぎなどである。
冒険者。単純に言って、この世界ではあまり良いイメージではない。特にヴァルレシア王国のように、きちんとシステムが整った国では。荒くれの渡世人稼業といった位置づけか。キラキラ感ゼロの職業。治安の悪い無法地帯では、冒険者が幅を利かせているところもあるという。
「うん。俺はいわゆる冒険者などとは違うぞ。金も装備もバッチリあるからな。無駄なクエストは受けない。日雇い仕事もしない。これでも一応大貴族。大貴族様の冒険だからな。優雅にやっていけばよい。冒険……そうだ、冒険の旅に必要なのって、金と装備、それに……」
女の子。
そう、女の子である。
前世でアニメやゲームに熱中したのは、もちろん美少女キャラクター目当てであった。
「俺には美少女がいる。2人も。そうだ、冒険に必要なのは美少女だ。美少女のいない冒険なんて、冒険と呼ぶには値しない。金に装備、美少女。俺は一応全てを持っている……のかな?」
男1人が女の子に囲まれる冒険パーティーを、前世じゃ、ハーレム展開、ハーレムプレイ、ハーレムモノ、と称していた。
「しかし、今のこれが、ハーレムパーティーと言えるか?」
美少女2人と一緒でも、指1本触れることができないのだ。顔を見るだけ。
「くう……ハーレム……ハーレムというからには、最後の最後までできねばならない。ただ女の子が側にいるだけで何もできない……こんなの拷問だよ……ありえねえ。これは断じてハーレムではない! ただ男1人に女の子たちがまとわりついているからって……偽ハーレムだ! 似非ハーレムだ! クソッ、こんなんじゃねえ、俺は必ず真のハーレムを掴んでやるからな!」
しかも、と前世のゲームやアニメを思い返すユリオ。
冒険ファンタジーモノでは、登場する女の子は矢鱈とえっちな衣裳をしていたものである。もう限界露出な。気前よく惜しげもなくパンツを見せたりして。それに比べ、ルルとエミナは。フード付きマントの下は、肌露出を極力抑えたブラウスにスカート、ワンピースといった有様である。胸の谷間も見えない。パンツも見せない。パンツ見せるなんて論外だ! という態度である。バカヤロウめ! お前ら全然わかってない! 勇者の冒険をなんだと思ってるんだ! もっともルルの破壊的な胸のユサユサは、その存在感を隠し切ることなど到底できないのだが……
「何かがおかしい。何もかもがおかしい。これでファンタジー冒険ストーリーと言えるのだろうか。いや、もし、あの2人が限界露出な超えっち衣裳で、それで指1本触れることもできないとしたら、余計、俺の悶々は酷くなるかもしれないけど……」
ドス黒い欲望は、空回りしっぱなし。おかしい。実におかしいのである。
ま、なんであれ。
ガタゴト揺れる乗合馬車の中で。
「道中何もなく、サクっと行って使命だを果たし、またサクっと帰ってこよう。変なクエストなんて絶対受けないぞ。当たり前だ。別に冒険物語の主人公になりたいわけじゃないんだ。現実の冒険なんて、愉快なものであるわけがない。莫迦のすることだ。勇者の冒険なんて俺の本筋じゃない、脇道だ。とっとと終わらせて、また欲望ロードを始めなきゃ」
これからの旅。何も起きないことを、ひたすら祈るユリオであった。
金、装備、美少女。とりあえず一通りは揃っているけど。




