第35話 女子風呂を覗こうの作戦 後編 〜火遁水遁魔法は誰を救いますか?
女子風呂を覗く。ルルとエミナ、美少女2人の御尊体を拝む。火遁水遁の2枚の魔符を使って。
所詮、欲望の炎の道に生きるエ◯ゲー脳なのである。
決断するや、ユリオは素早かった。コトは迅速に行わなければならない。
そっと辺りを伺いながら、半地下にある大浴場に向かう。途中で煙突を確かめる。煙は出ていない。よし。エミナはまだ風呂の釜焚きを始めていない。
大浴場に入る。誰もいない。2人の少女はまだ来ていない。大理石の豪奢な風呂。もう広い浴槽いっぱいに水が張ってある。上水道の栓を開けるだけ。これは簡単なのだ。風呂釜には。まだ、薪も入っていない。エミナの奴、これから薪を運んでくるんだ。
順調だ。計画通り。ニヤリとした、いや、グヘヘ、とヨダレを垂れ流しっぱなしのユリオ。脱衣所で服を脱ぎ、素っ裸になる。脱いだ服は、丸めて、脱衣所の目立たないところに押し込む。手にしてるのは2枚の魔符、火遁水遁の魔法発動装置だ。
「いいぞ、いいぞ、やはり運命は俺に味方している。勝利するのは、この俺なのだ。魔符の効力で、俺は風呂の中に隠匿潜伏する。女子どもは絶対に俺に気づかない。ありのままの自分を晒け出しちゃうんだ。何から何まで、全部……見えちゃう……うおっ、グヒッ……ルル、お前は宿命に呼ばれた勇者だか何だか知らんが、所詮、俺の奴隷なのだ。きっちり〝わからせ〟てやるぞ。この御主人様がな。あはは。いつも露出を抑えやがって、全然肌も見せやしないんだけど、クソッ、今日こそは、全部バッチリ見てやるからな。肝心なところを……ボヘッ……このアスティオの2枚の魔符が、お前を刺すのだ。究極兵器。御主人様は奴隷を刺すのだ。蹂躙だ。これが正義だ。正義なのだ。さあ、行くぞ!」
まずは、水遁の魔符をペタッと体に貼り付ける。水遁魔法発動だ。火遁の魔符を使うのは、エミナが風呂焚きを始めてからでいいだろう。大浴場の大浴槽。これから素っ裸の2人の美少女がそこでキャッキャする姿を思い浮かべる。
「いよいよだ。俺は男だ。男として立つ。やるぞ。やってやる。さあ! グッへへーン!」
ユリオは跳んだ。跳んだのである。大浴槽めがけて、跳んだ。ダイブである。それはまさに獲物に飛び掛からんとする捕食獣の姿であった。前世のエ◯ゲー少年忌木信太朗は、遂に女子風呂を覗こうという大胆不敵な行動をするまでに成長したのである。跳んだ姿は美しかっただろうか。
バッシャーン!
「ギャアアアアア!」
風呂に飛び込んだユリオ。そのまま飛び出した。一旦風呂の中で潜伏隠匿の水遁魔法は発動したが、飛び出したことで、効力は切れてしまった。
「ギャアア! アツい! アツい! なんだ、この風呂は! アチー! 熱いぞ! 煮えたぎっているじゃないか!」
大浴場の床を、転げ回るユリオ。大浴槽に張られた水、というのは煮えたぎる湯であった。とっくに沸騰していたのである。そういえば、湯気が立っていたような気がしたが、頭に血が上ったユリオは、気づかなかったのだ。熱湯風呂にドボンしちゃったのだ。全身火傷だ。
蜂蜜館につんざくユリオの悲鳴に、ルルとエミナが何事かと、大浴場に飛び込んできた。
床を全裸でのたうち回るユリオの姿に、びっくり仰天する2人。
青ざめるルル。
「ユリオ……ひょっとして、先に水風呂に入ろうと思ったの? ごめん、私、旅立ちの日にエミナに重労働させるの悪いと思って、魔法でお風呂沸かしちゃったの……ちゃんと言っておけばよかったね」
ともあれ。
2人の少女は、急ぎユリオをタオルでくるむと寝室へ運ぶ。
ルルは、ユリオに手をかざし、治癒魔法を唱える。
「なおれ! なおれ! 治癒!」
ルルの掌から、白い光が差す。
「ユリオ、大丈夫だよ、絶対助けるからね。でも、一気に治癒するための魔力放出をすると、王国の魔力探知に引っ掛かっちゃうから、ちょっと時間かかるよ。がんばって耐えてね」
「……あう……あう……痛……痛い……ルル……たす……けて……」
ルルは小出しにしか魔力を使えないが、必死に治癒する。徐々に回復するユリオだが、苦痛の時間は長く続いた。エミナも心配そうにユリオを見つめている。
やっと治癒が終わった。
「うん、これで大丈夫かな? ユリオ、どう? まだどこが痛む?」
「う……ん……もう、なんともない……助かった。ありがとう」
しばらく続いた地獄の時間だったが、ルルの治癒魔法の効果、抜群だった。痛みが嘘のように消えた。もう体はなんともない。危なかった。全身火傷、命に関わるところだった。
ルルは笑顔。
「よかった。もう、ユリオ、心配したよ。これからはお風呂に入る時は、まず湯加減を確かめてからにしてね」
うん、そうするよ。
返事をする気力もないユリオ。魔法で火傷は治っても、痛みの衝撃は残っている。風呂を沸かしたり火傷を治したり。やっぱりルルの魔法は凄いんだな。
ユリオがすっかり回復したので。
「私たち、お風呂に入ってくるね」
「ユリオ様、お大事に」
ルルとエミナは、大浴場へ。せっかく沸かしたのである。入らないわけにはいかない。
どうぞ、とユリオ。
「俺は風呂はいいや……出発まで、ここで寝てるから」
完全回復したとはいえ、当分風呂を見るのも嫌だ。
ベッドでゴロっとしながら。2人の美少女が大浴場でキャッキャする姿を想像し欲望妄想するユリオ。結局これしかできないのだ。
「見てろよ……いつか……俺は全てを手に入れる男……」
大浴場では。
キャッキャする2人の美少女。ユリオが妄想したようなことは、おっぱじまらなかった。
「ルルさん、本当にすごいです。魔法で何でもできるんですね」
尊敬のまなざしのエミナ。そこには深い友情と信頼の絆があった。
自分の沸かした湯の中で、髪をまとめ頬を紅潮させるルル。お風呂にゆっくり入ったのは、本当に久しぶりだ。とてもいい湯。
「そうね、魔法には確かに強い力がある。だから気をつけないと。使い方を間違えれば、それは必ず自分に返ってくる。私たち魔法使いは、いつもそう教えられているの」
確かに、それは真実だった。
魔符を女子風呂の覗きに使ったユリオの顛末を見れば。いかにも魔法の悪用は、自らに跳ね返ってくるのである。
風呂掃除の時、エミナが火遁の魔符を見つけた。ユリオが熱湯風呂から飛び出した時、放り出したものだ。結局、これは使わなかったのである。
どうしたんだろうね、と言い合うみんな。
「おかしいな。しっかり包んだはずだったんだけど。うっかりしまい忘れて、風で飛んだのかな」
とぼけて言いながら、ユリオは、クソッと。
次こそはーー火遁の魔符でもなんでも、どんな手段を使ってでも、しっかり見てやるからな、全部隈なく隅々まで!
まるで反省していないのであった。エ◯ゲー脳などというのは、全くもって進歩しないのである。




