第32話 旅の支度 〜戦闘は女の子任せにしていいですか?
禁断の森へ行くことになった。
行ってどうなるのか。大昔の帝王の強い力を承けることができるらしい。承けてどうするのか。それから先の事は……よくわからない……らしい。
「宿命の勇者ロードって、実にいい加減なものだな」
ユリオは、ため息。
怪しげで危ない話にしか見えないが、2人の美少女はひたすら燃え上がっている。
ルルは。太古から続く魔法団の、最後の生き残りである。まだ加入3ヶ月の新入りだけど。で、伝説の白月王カリ=ミルサの植えた樹を護る……それってそんなに重要なのかな? 魔法団があっけなく滅んでも世界は何も変わらないところを見ると、やっぱり所詮、伝説は伝説だったんじゃないの?
しかし、当人は選ばれし者の使命感でいっぱいである。ユリオが何を言っても聞き入れないだろう。
いったい、どうしたいんだろうな? 仲間の無念を晴らすとかも言ってたけど。無念を晴らすって? 敵は国王? でも、国王を倒すとか無謀だ。王が横暴していると言っても、貴族たちは、せいぜい王権を抑え込めればいい、自分の身が危うくならなければそれでいい、そう考えている。ユリオにしても、早く国王と和解して爵位領地資産を取り戻せばそれでいいや、との立場である。それ以上どうこうは無い。無駄な対決は避けるべきなのだ。
大魔術官ベリルは、どうか。奴は王国の掟を超えた専横をしている。貴族たちの反感を買っている。しかし。ベリルも上級貴族の出だ。政争に負けたところで、殺されはしない。せいぜい国外追放だろう。
要するに、これから起きるかもしれない王と貴族の紛争で、貴族陣営が勝利したとして、国王を屈服させ王国の政道を元に戻し、ユリオは地位回復、ヴァイシュは釈放、ベリルは国外追放、それが無難な決着なのだ。それが貴族の感覚である。
しかしルルは。
どうするんだろう? 仲間の魔法団処刑の首謀者であるベリルを、どこまでも追い詰めるのだろうか。
ヤレヤレ。自分の奴隷が、王国の掟を超えた騒動を起こすのは、マズイ。御主人様として止めなきゃいけないんだけど、今の俺には……できそうにない。
そうだ。やっぱり俺こそ力が必要なんだ。ルルに余計なことをさせず、完全にモノにして好き放題するための、強い力……ルルの宿命勇者ロードを、完全奴隷ロードへと正すための力……そんなの手に入るのかな? 白月王ってのが正義の帝王なら、ルルを完全奴隷ロードに戻す、それをやってくれてもいいと思うんだけど……
エミナは。本気で王宮の牢をブチ破って父親を救出するとか、考えてるのかしらん。いやはや。昔からよく知ってる娘だけど、そんな過激なことを考えるだなんて、思ってもなかった。女の子は成長して変わるもんなんだな。それも急に。胸も突然、ぷっくらとしてきたし……
ともあれ禁断の森、か。そこに何があるんだろう。
ユリオの立場は。美少女2人の認識では、〝純粋な正義心〟〝他人を放っておけない義侠心〟からくっついてくる、そういうことになっているようだ。
また、ヤレヤレだ。
◇
冒険の旅に行くと決まったら、早速準備である。
旅立ちの決定をした会議の朝から、もう慌ただしくなる。
「ルル、その禁断の森ってのは、鍵の指輪で入れたとして、中はどうなんだ? 危険なとこなのか?」
ユリオの問いに、ルルは、頬に指を当てて思案する。実に美しい仕草。
「そうね。目指すのは白月王の樹だけど、そこに辿り着くまでに、いろいろ試練があるって古書じゃ伝えられている。用心は必要ね」
試練か。宿命勇者ロードって、そういうの好きだよねほんとに。なにか呉れるから、いらっしゃいおいでなさいと誘って、酷い目に合わせるんだ。呉めるものがあるならあるで、意地悪しないで、さっさと寄越せばいいのに。
選ばれし勇者が本物かどうか験したい、とかの話なら。最初の入り口で合格不合格をさっくり判定してくれればそれでいいのに。あなたは合格。どうぞお入り下さい。素敵な贈り物用意してございます。あなたは不合格。さようなら。そうすれば、お互い時間の節約にもなるし……そうじゃありませんか?
「うーんとつまり……何があるか分からないから……戦闘の準備も必要ってことだよね」
「それは、そうよ」
ルルが、事もなげに言う。戦闘上等なのか、このお嬢様は。我らが正義のクラス委員長、ひょっとして、もしかして、戦闘バカ? いや、宿命に選ばれし勇者って、だいたい戦闘バカだよね。フツーに考えれば戦闘、命のやり取りなんて、なるべく避けようとするじゃない? でも、勇者様御一行ってのは何を考えてるのか、矢鱈とデッカイ敵に突撃するのが好きなんだ。バカはバカなのだ。
「戦闘……旅に持っていける範囲で、最大限の威力効果のあるもの……そうすると、やっぱり魔法具だな」
腕組みして考えるユリオ。エミナも、うん、うん、と。
ユリオは、なんだかんだ小さい頃から、武人としての教育を受けている。王国最高の武人であった英傑、父クロードの薫陶である。武人としての教育、それは武芸武術だけでなく、貴族として軍役召集されて出征して還ってくるのに必要な、全てを学ぶことであった。
武器防具から行軍に必要なものの一切の選定調達について、叩き込まれた。
大貴族ともなれば、本来、出征準備なんぞ自分でやらずに家臣に任せ、いざとなったら、「御主君、剣をどうぞ」と差し出されたものを鷹揚に受け取っていれば、それで良いのである。自分で細かいことを知っている必要は無い。実際、そうやってる連中の方が多い。
しかし、父クロードは、
「真の武人、真に戦場に立とうとする者は、何より己を知らねばならぬ。己に1番ふさわしい武器防具、戦場で入用なもの、それらを一切自らで揃え、自在に駆使してこそ武人である。戦場や敵によって、装備も慎重に変える必要がある。臨機応変の才もなければならぬ。軍装を整える。戦いは、そこから始まっているのだ。よいか、ユリオ、これを人任せにしてはならぬ。戦場で最後に頼みとなるのは、己自身なのである」
この結構な教育方針は、今回の場合、ヒジョーに役に立った。
エミナも、女の子で出征の義務は無いのだが、父ヴァイシュから、武人教育を受けている。
危険な戦闘が発生するかもしれない冒険の旅。
準備は、主にユリオとエミナの相談となった。
「うちには、いっぱいいいモノがあったんだけどな」
ため息のユリオ。
ルーベイ大公爵家には、当然ながら、最高級の武器防具装備がいっぱいストックされていた。しかし、今は全部没収である。ユリオとエミナは帯剣していたが、これは実用品と言うより、貴族の儀礼として必要なものだ。
つまり、丸裸の状態。ここから準備をしなくちゃいけないのである。
手に入る最高の装備。
それはもちろん、魔法具だった。
魔法具とは、上級魔術師が魔力を込めて製作した、武器防具に各種の道具である。
魔法で造りしもの。鎧は、金属製の重いタイプでなく、皮鎧や布鎧に護符呪符をいっぱい縫い付け、魔力を籠めたものである。これなら軽い上に、金属製鎧より物理攻撃に強く、そればかりか、炎、冷気、雷撃、毒、麻痺、精神錯乱攻撃などへの耐性もあった。魔族魔物相手の戦いとなると、通常の物理攻撃、打撃刺撃だけでない、いろんな攻撃を敵は使ってくるのである。魔法攻撃に対抗するのも、魔法防具があれば、ある程度可能であった。
武器も。基本、剣などは鋼で出てきているが、やはり、魔術師が魔法強化したものは違う。通常の武器でも、魔法器となると威力が数段上なのだ。
その他、戦場で絶対に必要な回復薬なども、魔術師特製だ。
上級魔術師がせっせと製造する魔法具以外にも、太古から伝わる、または最近発見された神具魔具聖具といったものもあった。これらは、現代の魔術師が生み出すことのできないもので、それだけ凄まじい威力がある。非常に貴重なもので、王侯貴族の所持品である。王国筆頭貴族ルーベイ大公爵家にも、いくつも伝来されていた。もちろん今は全部没収である。ユリオのものであった最高の武器防具装備。使えないのである。
入手可能なのは、一般に出回っている魔法装備になるが、これも上級魔術師の手作り職人仕事によって製造されるもの。生産量は限られているし、武器防具の魔法効果は永遠ではない。要するに回復薬と同じく消耗品なのである。そのため、おそろしく高価であった。普通の人間には、とても手が出せない。
そればかりではない。
魔法具は、戦役に絶対に必要なものであった。いつも、なるべく大量に備えてあった方がよいのである。備蓄した魔法具の物量が、戦役の決め手となるのだ。魔法具の製造管理は、王国が厳しく統制していた。これは当然といえた。強力な武力の確保支配、何よりも重要である。
と、いうわけで。
武器屋に行って、
「金出すから、1番いい武器防具装備売ってください」
と言って、気軽に買えるものではないのだ。しかし、魔法具でない一般の装備では、心もとない。
「ルル、魔法使いなんだよね。必要な魔法具、今から作れないの?」
訊いてみるユリオ。装備、事前の準備こそ命なのだ。戦役であっても冒険の旅であっても。父に叩き込まれた教え、体に沁み付いている。
ルルは、うーん、とまた思案顔。
「私、まだ工芸の魔法魔力操作は、まだ学んでないの。もし工芸魔法ができたとしても、魔法具を作るのって、すっごく時間がかかるし特殊な素材も必要だよ」
「そうなんだ。で、どういう魔法が得意なの?」
「攻撃魔法かな」
「……」
「あ、治癒もできるよ」
「それは……頼りになるね」
攻撃に治癒。それだけできれば十分だ。戦闘はこの勇者様に任せよう。なにしろ、選ばれし勇者様だからな。
ルルの魔法団にも、各種自家製魔法具に太古より伝わる重要貴重な神具魔具聖具があったそうなのだが、一斉捕縛の時、当然ながら全部没収された。ルルといえば、紐ビキニ1枚の姿で売られたわけだから、何も持ってない。
魔法具の調達、ルルに頼むことができない。でも、一般の武器防具装備で冒険に発つのは論外だ。
で、結局、
「アスティオに頼もう」
となった。
頼れる正義の貴族。ユリオの〝大親友〟




