第31話 禁断の森へ 〜女の子が冒険の旅するとか貞操は大丈夫ですか?
「私、禁断の森へ行く」
アスティオ邸での邂逅の翌朝、ルルが宣言した。
みんなで居間の卓を囲んでの朝のひと時。いきなりのことに、ユリオは、ブーッ、と薬湯を噴く。
なにを言い出すんだ、この娘は。
禁断の森。それは、ユリオも知っていた。王国の人間なら、誰もがその恐ろしい噂を聞いたことがある。
「あ、あの……なんだ、いきなり……ねえ、ルル、どうしたの? そんなこと言い出して。自分が何を言ってるかわかってる?」
「わかっている。でも、これは私の宿命なの。絶対に果たさなきゃいけない。異端魔法団の想い、受け取ったんだもん。星見の姫に告げられて」
そう言ってルルが取り出したのは、
ゴルゴネの指輪。
あ、そうだ。ユリオはやっと思い出した。
昨夜アスティオが、処刑された異端魔法団の伝言を伝えたんだっけ。そうだ、ルルにこの指輪を持って、禁断の森へ行け、そういう話だった。
ルルは、じっと指輪を見つめている。固い決意が見て取れる。正義が燃え熾るクラス委員長の顔。
あちゃー、こりゃヤバイかも。
ユリオは慎重に、
「ルル、仲間からの伝言、確かにそうだったね。でもさ、禁断の森だよね。市民の憩いの森に行くとかじゃなくて。その……それってかなりな大事だと思うんだけど。別にすぐ行くわけじゃないよね。行くにしても、いろいろ調べて準備して、あれこれ手配して。それからだよね? 準備、何年もかかるんじゃないかな? いろいろ調べたら、やっぱり無理そうっていう結論になるかもよ……」
「私は、すぐ行くの。行かなきゃいけないの」
「はあ?」
頭痛の痛くなるユリオ。
「……禁断の森って、そもそも、人が入ったり、いや、近づいたりしてもいけないから禁断なんだよね。俺たち貴族でも、王家でも、踏み込んだりしないよ。相当危険でヤバイところらしい。面白半分で近づいたり、腕試しのつもりで乗り込んだ冒険者で、帰ってきたものは誰もいないって話だ。みんな森に消えちまうんだって。ルル、知らないの?」
「知っている。でも、大丈夫よ。私は、この指輪を託された。禁断の森へ行く者に選ばれたのよ。このゴルゴネの指輪は、禁断の森を開く鍵。間違いない。宿命の道は、開けている」
「……みんなが近づけもしない秘境に、どうして指輪1つで入れるの? そんなに簡単な話なら、もうとっくに誰かがやってるんじゃないかな?」
「私たちは、〝白月王の樹魔法団〟白月王カリ=ミルサの力を受け継いでいるの」
ルルは、きっぱりと言った。
白月王カリ=ミルサ。その名前は、ユリオも知っている。太古に活躍した超有名人だ。なんでも、この世界の大半を支配したとかいう英傑である。終生、自分の広大な王国の方々を巡り歩いていたので、流浪王とも呼ばれる。
半ば伝説の存在といっていい。
世界の各地に、白月王の遺跡に遺物、その業績や奇跡の跡が残されている。強大な魔力を誇った王。その力を受け継いだと称する魔法のグループが、世界の各地に存在する。
ルルの魔法団も、その一ついうわけだ。
「白月王カリ=ミルサ……ね。それは俺も知ってるけど、禁断の森とどういう関係があるの?」
「白月王の樹よ」
「樹?」
「そう。白月王カリ=ミルサが自らこの地に植えた、聖なる樹。神秘の力のある樹よ。禁断の森の奥には、その樹があるの。私たちの〝白月王の樹魔法団〟は、元来、その樹を護るために、太古の昔から存在してきたの。王国よりも歴史が古いのよ。王国ができても、私たちの存在は、ずっと認められてきた。白月王の樹を護ってきたの。急に弾圧されるまでね」
ううむ、とユリオ。
それで〝白月王の樹魔法団〟っていうんだ。でも、その話ちょっとおかしくない? 聖なる樹を護る筈の魔法団があっさり王国なんぞに滅ぼされて。禁断の森は、未だ人が手を出せないところなのに。
ユリオの頭はこんがらがるが、ルルは、静かに言う。
「私たちの魔法団では、ずっと伝えられてきたの。私たちに大きな危機が降りかかった時に、白月王の秘蹟の鍵、このゴルゴネの指輪を使って禁断の森を開く。そして、白月王の聖なる樹の力を承ける。それが今なのね。私の宿命よ」
なんだか、すごい話になってきた。すると、ルルは伝説の帝王白月王カリ=ミルサの力だかを貰いに行くために選ばれたヒロイン? 初めて誰も近寄れない禁断の森を開ける者となる?……うおお……まだ異世界に来て3ヶ月ちょっとなんだよね。そんなことしちゃって大丈夫なのかな? 大役すぎない? 新入りにはキツいと思うけど。いきなりのセンター抜擢とか……アイドルの世界じゃないんだし!
ユリオの頭では、この急展開についていけない。
「うーん、伝承ってのが本当だとして……うまいこと禁断の森に入って、白月王の樹ってのを見つけて、その力を承ける……そうなったとしよう。それでどうなるの? その力を使って、どうするの?」
「それは、わからない。伝えられているのは、力を承ける、そこまでよ」
あっさりという、ルル。
なんだ、とがっくりするユリオ。
いい加減だなあ。だいたい昔の伝承だ予言だは、肝心なところをぼかしやがっているのである。なんでそんな意地悪するかな? 白月王とかいう奴……世界の大半を支配して、ヒマになったものだから、面白半分で、いい加減なあれこれを残したとか、そういうんじゃないだろうな。そんなのに振り回される俺たちの身としちゃ、たまったもんじゃねーぜ。やれ、宿命だなんちゃら。人がそういうのに一旦取り憑かれると、手に負えなくなる。現に、ルルは。
「何が待っているのか、わからない。何が起きるのかわからない。でも、道は示されている。私がこの世界に召喚され魔法団に入ったのも、このためだったのかも。自分で選んだ道じゃないのは確かだけど、宿命、それはわかる。私は、この宿命を承ける。白月王の力を承ける。仲間の無念を晴らす。宿命に従って、この世界のために戦う。困難があっても、立ち向かう。どんな時空でも、そこに生きる意味、必ずあるんだもん。そう信じている」
う、ひゃー!
ちょっと待ってくださーい!
ユリオは内心叫ぶ。
なに? な、なにこれ? ルルは、すっかりその気になっている。宿命のヒロインに。いや、選ばれしヒーローだ、こりゃ。勇者だ。世界を救うために召喚されたヒーロー? だからチートで、まだ異世界で3ヶ月の新入りなのに、いきなり凄いアイテム貰って他人には行けない場所に行けたりとかして、無双大冒険とかできちゃうってこと? 胸をたっぷんたっぷんとかさせながら……みんなにヨダレ垂らして拝まれながら……前世の深夜アニメでよくあるやつ?
なんだそりゃー!
なんですかーこれ。いきなり……急に……ひょっとして、もしかして……超王道ヒーローファンタジー冒険ストーリーとか始まっちゃう? 選ばれし勇者見参。伝説の力を受け継ぎます。どんな困難にも負けません。世界のために戦います。それが私の宿命、私の生きる意味……うわ、王道すぎる!
王道ヒーローファンタジー冒険ストーリー開演?
俺、そんなの絶対やりたくないし、巻き込まれたくないんだけど!
ヤダ!
絶対に。御免蒙る。
俺の当面の目標。とにかく、大公爵に復帰する。領地資産も取り返す。そして、欲望全開グッへへーン! な人生の続きを……尊敬するラーグ公爵猊下大師匠に、早く追いつけ、追い越せ!
そうだ、それが俺のささやかな願いだ。無駄なこと、余計な事は一切したくない。
それをルル、なんでお前は……
だいたい……
ルル、ルルーシア、琴見咲良よ。お前は俺の奴隷じゃないか!
お前の宿命は、その恵まれすぎた肉体で、唯一無二の美貌と肢体で、御主人様である俺の欲望に御奉仕することだ。勝手に勇者ロードとか、始めちゃいけない。俺はそんなの許可しない。勇者の宿命がお前を選んだんじゃない。俺が欲望のために、お前を買ったのだ。売買証書もちゃんとある。奴隷の宿命から、絶対逃したりはしないぞ。解放なんてしない。お前は永久に俺の奴隷だ。この世に正義がある限り、奴隷が御主人様の意向を無視して勝手することなど、絶対に許されん……
ルルは、しっかりとユリオを見つめ、
「私、行ってくるよ。大丈夫だよ。絶対にうまくいく。私、力を手に入れる。そして、その先の宿命も、しっかり見てくるからね。これ、ユリオのためにも絶対になるから。あなたのために、あなたを助けるためにも、力が必要。私のことを信じて」
にっこりとする。まばゆい美貌が、さらに輝く。
うう、なんという強いオーラだ。圧されるユリオ。クラス委員長の正義のご威光。圧巻すぎる。これを食らったら、クラスの連中も、あっさり従っちゃったわけだ。
それでも……
なんとか無駄な抵抗を試みようとするユリオに、さらにトドメの一撃が。
ずっと黙って話を聞いていたエミナが、飛び上がったのだ。
顔をピンク色に輝かせている。もう最高潮。
「ルルさん、私も行きます!」
「ええっ」
驚くルル。ユリオはもう言葉も出せない。口の中がカラカラ。
エミナはしっかりと胸を張り、
「ルルさん、その禁断の森、開く鍵があれば、魔法団の人以外でも入れるのですか?」
「う……ん。入れると思う。過去に入れたという話もあるよ」
「それで、魔法団以外の人も、中に入って、白月王の力を手に入れることができるのですか?」
「私たちに伝わる伝承では、それも可能だと思う」
エミナは、ぶるぶると震えている。気持ちが抑えられないのだ。
「よかった! じゃあ、ルルさん、私も一緒にお供させてください! ルルさん1人じゃ心配です。仲間がいた方が、絶対にいいと思います。私、何でもします。役に立ちます。何でもお申し付け下さい! 私も強い力が欲しいのです。父を救い出したいのです!」
エミナの声、悲痛な色が混じっている。
とりあえずは身の安全が保障されているとはいえ、王宮の地下牢に囚われの身である父ヴァイシュが、心配でならないのだ。一刻も早く、地下牢から出したい、それが切実な願いなのだ。
家臣の娘の決意に、ユリオは口あんぐり。
父親が心配……それはそうだろう。ユリオだって、それなりに心配してるけど。何しろ、自分に巻き込まれて捕まったんだ。責任はそれなりに感じている。
でも。父を救うために、何かしたい……それはいいとして、それで禁断の森へ行く? 強い力を手に入れるために?
もし本当に何かの力を手に入れて、パワーアップしたとして。それで、どうなる?
まさか王宮の地下牢をブチ破って救出する、脱獄させる、とか考えている? そんなことできるわけない。
強くなったといっても、所詮、武力魔力じゃ。1人2人で暴れてどうなるものではない。王宮は、大勢の武人に腕利きの魔術師が警護しているのだ。戦いを挑むのは無謀である
ヴァイシュの釈放。それを目指すなら、まず〝政治〟である。
一度謀反罪となった者を、判決をひっくり返して無罪にすることは、まず無理だ。でも、いろいろやり方はある。貴族たちが頑張って、根回して請願して、堂々国王恩赦を勝ち取る。これが1番。正式に恩赦を勝ち取れなくても、脱獄を見逃してくれるよう、裏で話をつける決着もある。国王の体面を保つためだ。国王がヴァイシュの解放に同意しなくても、王宮内部の者を買収するなり何なり手を回して、こっそり脱獄させる、それが最後の手段だ。
王宮内部の協力もなく、力ずくで牢破り。絶対に無理。選択肢として、そもそもありえない。
エミナも王国貴族の末端、エリューシオ子爵令嬢。その辺のことは、本来わかってる筈なんだけど。
最愛の父を救出できなくて、やきもきしてるところに、ルルの話を聞いた。ルルが宿命に選ばれた勇者として伝説の帝王の力を承けにいく、その話を素直に信じ、飛びついちゃったんだ。ルルーシア=琴見咲良が別世界から召喚されたことは話してないけど。
なんてこった。だが、もう止めることができない。
正義一筋生一本な元気娘エミナ。スイッチが入りまくっている。
ルルとエミナ。
しっかりと向き合い、見つめ合っている。
そして、お互いの手を、両手で握りあった。
2人の美少女に深い信頼が刻まれていく。
「わかった、エミナ、一緒に行こう。本当に嬉しい。あなたも一緒に行ってくれるなんて」
微笑むルル。エミナもしっかりと頷いて、
「ルルさん、ありがとうございます! ルルさんは、私を助けてくれました! そして今度も。このご恩、絶対に返します!」
「そんな。あなたに助けられたのは、私よ。あの日、あなたが必死に急を告げに来てくれなかったら、私もユリオも捕まってたし。あなたのお父さん、きっと助けようね」
「はい! そう言っていただいて、本当に、本当に、嬉しいです。ルルさんが、助けてくれるなら、きっとうまくいきます! 父のことでずっと悩んでいたのですが、今は明るい未来しか見えません!」
正気か、とユリオ。だが、そんなユリオの意中を知る由もない2人の美少女は、しっかりと手を握りあっている。
何が待ち受けるかわからぬ禁断の森へ、冒険に行こうという2人の少女。魔法団の宿命を継ぐため、囚われの父を助けるため、明るい未来を信じて。こうして女の子同士手を取り合っているのを見ると、別の禁断も始まりそうな雰囲気なんだけど……
ルルが、ユリオを振り向く。
「じゃあ、私たち、禁断の森へ行ってくるね。大丈夫、本当に無事に帰ってくるから。あなたのことは必ず守る。それは決して忘れないよ。安心して待っててね」
エミナも自信満々で、
「そうです! ユリオ様! このエミナ、もっと強くなって、ユリオ様の元に帰ってきます。また父とともに、ユリオ様をしっかり支えてお仕えします。そのために、しばらくお暇を頂きます。私がいない間のここでの暮らし、不自由ないよう、できることはしていきます。決してご迷惑はかけません。どうかエミナを信じて、お待ち下さい」
おいおい、お前ら。
ユリオは、ガクーン、と。
なに? なに? 2人で俺をほっぽって、大冒険に行くってこと? 俺を誘いもしないのか。もちろん俺は、そんな冒険なんか行きたくないけど。当たり前だ! 絶対ロクな事は無いぞ。なにせ禁断……
でも、こいつらは……完全にやる気になっている。なんでそう思えるんだ? たかが大昔の伝承なんぞに飛びついて。危ない話だとかは、思わないのか? すごい力が眠っているだとか……ひょっとして、これ、フラグ? 冒険ストーリーの始まりのフラグ?
歴史が始まる瞬間なの? 俺が立ち会っているのが? 女の子2人で世界を変える? で、俺の立ち位置は……
お前は要らないと言われて、さっさと退場。ここでお留守番してろって?
あのさ。
君たち、自分の立場をどうわきまえてるの? 俺の奴隷と家臣だよね。主人主君をほっぽって、2人で手に手を取り合って冒険だなんて、ありえる?
なんでそんなことできるの? 法だ正義だを、どう考えてるんだ? お前らのしてる事は、完全な犯罪、掟違反だぞ。
けしからん。
だいたい、なんだ、俺のため、俺のため、俺を守る、俺を守る、と散々言っていやがってたじゃないか。それなのに結局は、ルルは魔法団の宿命とやらが1番大事、完全に勇者ロードモードだ。それにエミナ。当然というか、主君の俺より父親の方が大事なんだ。自分の1番大事なもののためなら、どんな危険にでも飛び込む、命でも投げ出す、もう、そう決めてるんだ。
頭がぐるぐるするユリオ。これは何とかして、やめさせたい。だが。固い決意で結ばれた2人の美少女を止める手段、思い浮かばない。
こいつらは、絶対に行くだろう。俺をあっさりとほっぽって。
冒険の旅。無事に帰ってこれるのか? 女の子2人で歴史をつくっちゃったりして……
俺はどうすればいい? ずっとここで待ってる? 一旦舞台から退場して……
いや。
それはマズイ。
ルル。お前は俺のモノなんだぞ。俺から逃げようったって、逃さない。許さない。
ルルは冒険から無事に帰ってくるかもしれない。でも、ずっと目を離すとなると、心配が山ほど……奴隷を放し飼いにするとなると……
旅に出たら、いろいろある……いろんな人と接触する……そのうち出会いとか……出会い……それはマズイ! 美少女2人で冒険の旅。絶対にお節介なイケメン野郎がすり寄ってくるに違いない。その展開、鉄板じゃないか。ないわけがない。
で、ひょっとして、もしかして……
ルルに恋が芽生えちゃったりしちゃう?
恋!
自由恋愛!
本来、勝手な恋愛など許されぬ奴隷の身であるが、ルルは勝手に奴隷解放されたと信じきっていて、それを他人に吹聴までしやがっている。御主人様のユリオからしたら、とんでもないことだが。
昨夜のアスティオの件以来、ユリオは、〝ルルが恋しちゃったらどうしよう〟問題に取り憑かれていた。
ルルが、琴見咲良が恋をする。女の子2人旅。何かと心細い。そこに世慣れたイケメン野郎が現れて。
逝っちゃう? 落ちちゃう?
時空を越えて召喚された勇者だろうが宿命のヒーローだろうが、まだ17歳の女の子なのだ。乙女だ。いつ火がついても、おかしくは無い。燃え上がったら、そのまんま……
冒険の旅。恐ろしいのは魔物とかでは無い。野郎だ。美少女狙いの同じ勇者冒険者仲間。前世でユリオ=忌木信太朗が大好きだったアニメで、ぼっちの男が彼女が欲しくて冒険者になって、見事女の子ゲットするとかのストーリーがあった。1人じゃなくて、美少女をいっぱい……あんなのが放送されたら、勇者冒険者いらっしゃいませの森だダンジョンだは、女の子目当ての野郎どもで溢れかえっちゃうだろう、もう魔物討伐とかそっちのけで! (異世界では当然、アニメ放送などしていないが、ユリオはそれほど錯乱していたのである) お嬢さん、こっちに来ませんか? 大丈夫、ここなら誰も見ていません……とか言っちゃって……
これだ。これがいかんのだ。
ルルがどれほど強くても、何の意味もない。魔物に勝てても、男には? 魔法少女ルル=琴見咲良はまだ、彼氏がいたことは無い。恋愛初心者。うまいこと男にまとわりつかれ口説かれたら、コロっと……魔法の鎧を脱がされちゃう。鎧だけじゃなくて、服も、その下のものも……全部……森だダンジョンだの隠れた場所で……最後の一線を越えちゃう……男の虜になったルルは、満面の笑顔で……
うわー!
ダメー!
ルル! 男なんて口先で何を言おうが、お前の肉体、たっぷんたっぷんプルルンプルルンしたこの世にに2つとない果実、いや2つあった果実、それしか見えてないんだぞ! それは俺が1番よく知っている、ヘッ! 大義も正義も平和も魔王討伐も、そんなの全部嘘っ八だ! お前の美貌と肢体だけが真実なんだ! お前のたわわんな胸だけが正義だ! 平和だ! チクショウ! 本当にお前はすごいものをぶら下げてるな! 俺はまだ指一本触れていないのに!
それをこれからみんなに見せびらかしに行く? 宿で、街道で、飯屋で、森で、ダンジョンで?
王都の夜の蝶大作戦でも、お前は男を釣り上げまくってたじゃないか。ヤバイよ。わかってるのか? お前の行く先々で、入れ食い状態になっちゃう。釣ってるつもりが釣られちゃう。お前は俺以外の誰にも見られてはいけない。お前を見ていいのは俺だけなんだ。女の子2人旅なんて、絶対に認めちゃダメなんだ。そうだ、ダメ、何があろうとも。泣いても喚いても、それだけはダメ、俺はお前の御主人様だ。御主人様には、奴隷を監督する責務がある。お前が間違いをしないか、ちゃんと見張ってなきゃいけないんだ。この世界のどこにいても。奴隷ってのは、御主人様の目を盗んですぐ悪さをするからな……もし勝手な行動を許せば……
無事、冒険を終えて、白月王のなんちゃらを手に入れて、ルルが帰ってくる。
そしてーー
「ユリオ、お待たせ。帰ってきたよ。心配した? なんでもなかったから。 あ、そうそう、お知らせしなきゃいけないことがあるの。私、彼氏ができたの。紹介するわ。とっても素敵な人なの! この人のおかげで、私、ずっと冒険の間、天国だった!」
バカヤロウ!
なにが、なんでもなかった、だ。
最悪のことが起きちまったじゃないか。
ずっと天国? その……何をしたんだ? いったいどこまで……森の中なら誰も見ていないと思って? 禁断の森なのに? 禁断の森で禁断しちゃう?
ふざけるなあああっ!
お前は俺の奴隷なんだよ! 勇者に選ばれたからって、それがなんだ! 宿命なんか、くそくらえ! ヒーローだから、誰かを踏みつけにしてもいいのか! それが正義のクラス委員長のすることか! お前にはがっかりだぞ!
チクショウ! チクショウ! チクショウ! チクショウ!
ダメだ! ダメだ! ダメだ! ダメだ!
俺を莫迦にするな! 俺を莫迦にするな! 俺を莫迦にするな! 俺を莫迦にするな!
……………
……………
暗澹たる未来しか見えないユリオ。
どうすればいい……俺は?
目の前の2人の美少女。ルルとエミナ。完全に冒険に行きますモード。説得して引き止めるのは、不可能。
ならば。
もう、選ぶ道は1つ。
「俺も行くよ」
ユリオは言った。
「ええっ!」
驚くルルとエミナ。
「ユリオ、無理しなくていいのよ。これ、私の問題。これ以上巻き込んじゃったら、申し訳ないわ。本当に」
「そうです。ユリオ様、エミナはきっと強くなって帰ってきて、また、お守りします。だからここでお待ち下さい」
「なにをいってるんだい?」
静かに、力強くユリオは。
「不当な目に遭わされてるのは、この俺なんだ。立ち上がらなくてどうする? 力が必要なのは、この俺だ。それに、女の子2人旅をただ見送るだけなんて、絶対にありえないよ」
そっと微笑む。
ユリオの言う〝不当な目に遭わされた〟は女の子2人がユリオをほっぽって冒険の旅に出ようとしたことを指すのだが、ルルとエミナはそれを知る由もなく。
「ユリオ様! 誰よりも気高い私の御主君様! 私たちに頼らず、自らの手で正義を果たそうとされるのですね! わかってました! では、ご一緒に! このエミナが、お供いたします!」
ピンク色に輝かせたほっぺをぷるぷるさせるエミナ。ルルも、女神の満面の笑顔で、
「やっぱりユリオ。あなたってそういう人ね。私たちが危険な目に遭うと思って、放っておけないよね? 目の前の誰かを助けずにはいられない、それがあなたなのね。あなたに、ダメ、ついて来ないでっていってもムダ。それはわかってるから。行こう。行きましょう! みんなで。この冒険、絶対にうまくいくから!」
危険な目か。危険……それは魔物だ罠だじゃなくて、男だぞ。彼女欲しいの欲望でいっぱいの男ども。
相変わらずそう思うユリオだが、ともあれ話は決まった。
いざ、禁断の森へ!




