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第23話 竜殺しの国では王と貴族のどちらが強いですか?



 王都の情勢。自分の奴隷が情報収集活動の為とはいえ、酔客相手の〝夜の蝶〟をしちゃっているのに気もそぞろのユリオだったが、ルルに御主人様の内心など気づく由もなく。美しい眉を寄せて考え込んでいる。


 「それでユリオ、なぜ、国王とベリルにあなたが狙われているのか、心当たりは全くないの?」


 「うん、全く。心当たりなんて、あるわけないよ。ベリルには会ったことあるけど、ほとんど話もしてないし。魔法協会にも、俺は関わったりしていない。魔術師に恨まれる理由もない。大魔術官が国王をせっついてルーベイ大公爵を取り潰した? 本当に、あるわけないことが起きたんだよ。もうチンプンカンプン。それについて、王都で新しい話はあった?」


 「ない。上層部も、今回の事の理由についてはわからず、みんなで探りあっている。誰にも納得のいく説明はできない。国王は、ただ、謀反の告発があり、証拠があった。だから、処断を下した、とだけ王宮で言ったそうよ。貴族たちは、混乱している。王権強化のための大貴族潰しじゃないか、他の大貴族も狙われていくんじゃないか、そういう噂が広まっている」


 「うーん……結局……ただ、大貴族を潰したかっただけ? なんだそりゃ……ルルの方こそどうなの? 突然の異端殲滅、何かわかった?」


 「それが、全然わからない。魔法の世界は、普段から一般とは距離を置いてるってこともあって、王都じゃ大して話も拾えないの。ベリルがこれまで何をしていたか、それもわからない。本当に秘密のベールに包まれているのね。今は、ルーベイ大公爵家のことで大騒動。異端迫害のことなんて、みんな忘れているわ」


 「ルルの魔法団の仲間はどうなの? 本当に全員処刑されたの?」


 「うん。私も必死に心当たりを探ってみたけど、私の他に生き残りがいるって言う話は、ない。捕まって、王宮の地下牢に連れていかれて、取り調べを受けて、すぐに処刑が決まって、みんな殺された。そのまま、王宮の地下水道に放り込まれたって言うの」


 「なんて酷いことを」


 エミナが青ざめる。


 異端殲滅のことは、一応公式に布告されていたが、魔法団の急襲捕縛処刑は、秘密裏に行われたのだ。詳細は秘密にされていた。一般の人は、知る由もなかったのである。


 エミナは、震えている。凄惨な迫害の実態について、当事者ルルの話で初めて知ったのだ。


 「本当に許せません……この王国で、そんな事が。正義は必ず取り戻します! ここは法と正義が治める土地なのです!」


 心優しく、真っ直ぐで、正義感の強い少女である。それに、エミナの父ヴァイシュも、謀反の濡れ衣で王宮の地下牢に囚われているのだ。不当な迫害を受けている者同士として、エミナは、ルルに心を寄せていた。


 「王宮の地下牢で、秘密の処刑……私の父も、そうならなければ良いのですが……酷い扱いを受けてないか、心配です」


 「それは、大丈夫みたい。今のところだけど」


 ルルによると、今回の処断への貴族たちの反発は強い。謀反など、誰も信じていない。でっち上げの口実……その見方は確定している。潜伏しているユリオと囚われのヴァイシュへの同情は高まっている。謀反罪は、公開処刑が原則である。しかし、国王も、簡単にヴァイシュを処刑するわけにはいかないのだ。ユリオの捕縛を優先しているという。


 「ルーベイ大公爵家と関係の深い貴族たちが、ヴァイシュさんのことを何かと気にして手を差し伸べているようよ。地下牢に囚われてるけど、そこまで扱いは酷くないみたい。まだ、しばらくは、安心だと思う。少なくとも、王都ではそういう話ね」


 「そうですか。それなら良いのですが。きっと父は救い出します」


 悩めるエミナだが、前向きに考えている。正義を信じているのだ。


 風向きは悪くないのか、ユリオも考える。


 国王の処断。謀反人宣告、爵位剥奪、家名断絶、全領地資産没収、これは、もう完全に最悪なんだけど。


 囚われているのは、執事頭のヴァイシュだけ。追及されているのは、ユリオだけ。衝撃の決定から日が経つにつれ、貴族社会には同情論が高まり、国王の不当な独断に警戒する声も強まり、巻き返しが始まっている。


 「俺も意外と助かるのかな?」


 ユリオはヴァルレシア王国の貴族の(ルール)について振り返ってみる。


 政争で謀反人宣告、つまり、死刑宣告を食らっても、必ず捕まって、処刑されるとは限らない。大貴族の場合、なんだかんだ、国王特赦恩赦で助命されることが多い。領地もある程度返却されて家名復興がなるか、ある程度資産を貰っての国外追放。そうなる可能性もある。


 だが。


 異端魔法団への容赦のない凄惨な弾圧。


 これを考えると、ノコノコ出頭し、国王の慈悲に縋るつもりにはなれない。捕まったら、そのまま処刑台行き。その可能性は否定できないのだ。異端魔法団と違って、ユリオやヴァイシュは、そう簡単には処刑できないだろうが。


 「国王が、王権強化のために、筆頭貴族を潰し、貴族の勢力を削ごうとした。本当にそういう話ならーー」


 もはや、ユリオ個人がどうこうという話ではない。王権と貴族の大激突となる。この40年のグラハド国王の治世で、今までなかったことだ。国王はずっと貴族たちとうまくやってきた。しかし、ヴァルレシア王国の歴史を紐解くと。


 王権と貴族との血腥い抗争があったことも、事実だ。



 ◇

 


 竜殺しの国。ヴァルレシア王国は、そう呼ばれる。


 この国では、何度も王朝、王家が交代してしている。


 暗愚な王が続いたり、王権と貴族の抗争、貴族同士の抗争、対外戦争や天災での疲弊が続くと、最後の大災厄として、巨大な竜が現れる。1つの時代の終わりと、新しい時代の始まりを告げる竜である。


 この竜の炎の吐息(ブレス)は、一息で王都を壊滅させる力がある。竜は、神聖さと恐怖の代名詞である。そこで勇者が現れるのである。


 勇者が、竜を倒す。殺した竜の血を浴びる。


 竜殺しの英雄。


 竜の血を浴びた勇者。


 新しい国王となり、新たな王朝を開くのである。それが繰り返されてきた、歴史であった。



 現グラハド国王の王家も、およそ200年前の竜殺しの英雄の末裔である。代々、竜の血を浴びた勇者の血統を、誇りとしてきた。


 竜殺しの勇者を新国王に推戴するのは、王国の貴族たちである。だからこの王国では、貴族の力が強いのだ。家柄で言えば、大貴族での方が、王家より古い。


 王権と貴族の抗争。それは度々繰り返されてきた。もともと王国に基盤を持たない勇者の出である王家は、有能な王が立つと、王権強化のため、貴族の力を抑制しようとした。〝大貴族狩り〟が行われ、没収した貴族の領地を王領とし、王の権威を高めていった。貴族の方が反撃し、王権を押さえ込むこともあった。王権と大貴族の微妙な均衡の上に、王国は成立していた。均衡が崩れた時、血腥い紛争となるのだ。大貴族の処刑や、国外追放が行われた例もある。国王の廃位や暗殺もあった。


 「とうとう、その時が来たのか。王国で必ず繰り返される、王権と貴族の衝突の宿命」


 ユリオにとって、いや、誰にとっても、青天の霹靂である。


 まさか、こんなことが起きるなんて。それも、ずっと英明で温厚だったグラハド国王の治世に。思いもよらなかったことだ。


 王権の現状は。

 

 数代前の王の失政で王権は貴族に押さえ込まれ、王領も縮小している。貴族の力は強勢である。ユリオの父クロードは、筆頭大貴族にしては珍しく、門閥貴族を糾合して自身の権力の強化を図るより、王権への忠誠を優先し、武人として対外戦争対魔族戦役で活躍することを選んだ。当然ながら、クロードと国王の仲は良好だった。しかし……


 筆頭大貴族のクロードが戦死し、その子ユリオは幼少。これを国王は、好機(チャンス)と見たのだろうか。自らの手で、大貴族を抑制し、王権の威光を高めた王として、歴史に名を残す。ひょっとすると、それが悲願だったりしたのだろうか。英明で温厚な王の仮面の下、ずっと貴族抑制策を、練っていたのか。


 それで、ユリオが正式に当主としてお披露目し、力を持つ前に。


 一気にルーベイ大公爵家の取り潰しを行った。


 この筋書き(ストーリー)だと。


 もはや、ユリオ個人への国王の感情がどうこうという問題ではない。筆頭大貴族を、当主が幼年なのを幸い、血祭りに上げる。自分を可愛がってくれた国王だがーー王権強化の方が、遥かに重大事なのだろう。


 考え込むユリオ。


 「なんてこった。ずっと王国は安定して平和で繁栄していたのに……俺の代で、突然血みどろ政争? やめてほしいよな………こっちはただ平和に大貴族として思うがままに振る舞いたい、ただ、それだけだっていうのに……いや、俺が幼年のうちに親父が死んだことで、国王は決意しちゃったのかな。ルーベイ大公爵家潰しを。あーあ、やっぱり名誉の戦死なんて下らないんだ。大迷惑だぜ。それにしても、グラハド国王。決して暗愚ではない。それは間違いない。俺もよく知っている。親父が死んだときに見せた涙は、本物だったはずだ……あれはひょっとして、王と大貴族の協調時代が終わった、それを悟っての涙だったのだろうか」


 国王というのは、あまり公然と喜怒哀楽の表情を見せないものである。しかし、グラハド国王は、クロードの死の報に、人目も憚らず号泣したのである。その時は、忠臣である父への深い愛情からだと思ったものだがーー


 「それにベリル。あいつが何か、王に吹き込んだのか」


 ユリオは、大魔術官の青白い顔を思い出す。


 大魔術官ベリルが王を誑かしている。それが専らの世論世評だが。しかし、英明な王が、一介の魔術師ごときに操られるとは、とても思えない。そもそも、魔術師1人でできることなど、たかが知れている。


 「ベリル……諸国放浪修行して、何か強力な切り札を手に入れてきたのか……」

 

 国王を対貴族強硬策に踏み切らせるような切り札。そんなものがあるとは、なかなか想像できないのだが。それに。異端弾圧の件も、よくわからない。ベリルの計画に異端が邪魔な理由が何かあった。そういうことなのか。


 魔法世界のことは、相変わらず謎である。


 でも、もはや疑いない事実はーー



 竜殺しの英雄の国に、嵐が巻き起ころうとしている。


 ユリオとルル、それにエミナは、真っ先に巻き込まれてしまった。


 運命の歯車が回るその先に何があるのか、それはまだわからないが。


 否応なく、切り抜けるため、戦っていかねばならぬのだ。



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