第21話 腹黒な運命の女神は蹂躙できますか?
チュンチュンと、小鳥の囀りが聞こえる。
まぶしい光が寝室にも差し込んでいる。
「もう朝か」
ユリオは寝ぼけまなこ……いや、もう日はすっかり昇っている。昼前だ。
だいぶ寝たな……昨日1日でいろいろありすぎたのだ。まだ、体の疲れは残っている。
昨日は……朝、王都に着いた。すぐ奴隷市場に飛んでいった。ルルを見つけた。即決買いをした。蜂蜜館に連れ込んだ。ルルが琴見咲良だと分かった。あれこれ話して、買い物に出た。エミナに出会った。で、謀反人宣告だと……
慌てて蜂蜜館に戻って、そのまま。
「あー、俺、何やってるんだろ?」
ユリオでなくても、〝もうわけが分からない、運命の神様、何が起きているのか教えて〟状態である。
「クソッ」
ベッドを殴る。
そうだ、このベッド。広くて頑丈。清潔な白いシーツ。ここに、昨日、ルルがちょこんと座ってたんだ。限界露出紐ビキニ姿で。思い出すユリオ。ゾクリ、とする。美少女奴隷と欲望のままに肉弾戦をするはずだった、ベッド。
「ルル……本当にいい肉体してたな……特に……胸……あの胸は何だ?……間違いなく天然モノ。自然の生んだ奇跡だ……あれ、俺のものなんだよな……絶対……ああ……昨日、俺はなんでコトに及ばなかったんだ? あの至高の美貌と肉体を恣に……あとちょっとだったんだ。ルルを、琴見咲良をこの手に抱く……なんだかいろいろ余計なことを考えちまって……俺は莫迦だ。後のことなんて、考える必要全くなかったんだ。そうだ。まず、欲望を満たす。思う存分に。その後の事は、それから考えればそれでよかったんだ。そうすりゃよかったんだ。するべきだったんだ。う、う……最高の美少女、特別の美少女を俺は蹂躙できたのだ……」
今では。〝奴隷解放〟してもらったと勝手に結論づけたルルは、さらに魔法封印解除、魔力解放し、恐るべき力を発揮することとなった。迂闊に手は出せない。ユリオも命は惜しい……極上肢体……手に入ったと思ったら、あっという間に手からすり抜け、零れ落ちてしまった。
「い、いや……まだだぞ。俺は諦めない。絶対に。何とか機会は、あるはずだ……じっくり考えるんだ。ルルは絶対にモノにする。当然だ。俺の奴隷だ。俺はルルを奴隷解放するとか、そんなこと一言も言ってない。絶対言わないぞ。当たり前だ……きっと手段はあるはずだ。俺は戦う。何が何でも。負けるもんか……でも、今は……ルルを信用させておこう。あの魔力は……俺の役に立つはずだ。何しろ、今の俺は……」
身に覚えのない濡れ衣の謀反人宣告。爵位剥奪。家名断絶。全領地資産没収。これはもう、確実な死刑宣告である。富と権力、根こそぎ奪われた。命も奪われようとしているのだ。
突然、足元の床が抜けた。大地が崩れたというべきか。ユリオが助かったのは、幸運だった。行き先を告げず、1人でこっそり買っておいた蜂蜜館に行った。そして偶々、間一髪で逃げてきたエミナに出会った。ルルの魔法体術で、こっちの正体を気づかれずに、追っ手を倒すことができた。
「なんなんだ、これは。ついている、と言うのか? いや、濡れ衣で処刑台とか、ありえない災難だ。不運、というか、大災厄……一体、運命ってのは何なんだろう。前世でパっとしなかった俺を異世界の大貴族に転生させてくれた。ものすごい贈り物だと思った。そうしたら今度は、突き落とすのか。地の底まで。せっかく買った究極の美少女奴隷……まだ何もできてないのに……おかしい、これは……運命……俺を弄んでいやがるのか? 美味しい御馳走を目の前に並べて、食いつこうとしたら途端に、引っ込める。そんなやり方だ。クソッ、ふざけるな! 弄ばれている? この俺が? 運命の奴に? 運命の女神が?……そういや、俺の知ってるアニメやゲームの世界じゃ、運命の女神ってのは、転生させてやるとか、よくぞ異世界に来られましたとか、いかにも親切そうに調子のいいこと言いながら、主人公を酷い目に合わせるんだ。いろいろ悪巧みして、意地悪な仕掛けをして……俺も嵌められたのか? 運命の女神の奴は、俺を持ち上げたり突き落としたりして、陰でこっそりと笑っていやがるのが? チクショウ! ええい! 俺が弄ばれるんじゃない、俺が弄ぶんだ。そうだ、俺は魔王ユリオだ。運命の女神? 上等だ。そいつが可愛い子なら、蹂躙してやる! 弄んでやる! 徹底的にだ。見てろ! 俺は誰だろうが容赦なく蹂躙してやるからな! それが俺だ! あっはっは。魔王の怒り、ナメるなよ!」
◇
ユリオは、やっと寝室を這い出し、居間へ。
「えい、えい、どりゃー! ユリオ様の敵は許さない! 成敗してやる! 我が剣を受けてみよ! ユリオ様は、この私が必ず守る!」
中庭から、元気な声が聞こえる。エミナである。杖術剣術の鍛錬をしているだ。
「あ、ユリオ様」
居間のソファーにどっかと腰を下ろしたユリオに気づいたエミナ、杖を手にしたまま、駆け込んでくる。
「お目覚めですか? 今、薬湯とお食事を用意いたします」
汗ばむエミナ、幼さの残る顔を、ピンク色に上気させている。剣術鍛錬のせいだけではない。今回の突然のルーベイ大公爵家の悲運逆境運命転変はそれはそれとして、主君ユリオの世話を独り占めできるのに、大得意なのだ。ルーベイ邸には当然ながら、大勢のユリオ付きの家臣召使い侍女がいた。今は、エミナ1人。すっかり舞い上がり、張り切りまくっている。
「この館の仕事も、ユリオ様の身の回りのお世話も、ユリオ様をお守りするのも、すべてこのエミナにお任せください! 必ずやり遂げてみせます!」
昨日のうちに、顔を真っ赤にして、そう宣言していた。どうせなら、肉体が欲しいんだけど、と思うユリオであったが、エミナもまた、鉄のパンツを穿いているのだ。主君が家臣の娘に対して歪んだ欲望を滾らせているなどとは、露ほども疑っていない。ユリオを信じきっている。
ルンルンで甲斐甲斐しく働くエミナ。手早く、飲み物食べ物を用意する。
「ありがとう」
ユリオは熱い薬湯を啜り、訊く。
「ルルは?」
「今日も情報収集に、お出かけになりました。私たち2人には、絶対に外には出ないでと言っていました」
エミナは、ルルのことを〝ユリオの友人〟と認識していた。ユリオは特に訂正しなかった。〝絶対に手放すことのできない欲望を満たすための奴隷〟だなどとは、とても言えない。言えるわけがない。
明るい日差しの中。ひっそりとしたお洒落な館。忠実で、愛らしく尽くしてくれる少女。
ソファーでグダー、となりながら、ま、生きててよかったな、とユリオは薬湯を啜る。でも……みんなを蹂躙はしたいな……
◇
宵闇深くなる頃、ルルは戻ってきた。
「お帰りなさいませ、ルルさん、さあ、お食事です」
エミナは、卓に自慢の料理を並べる。早速、食事に取り掛かる3人。
「わあ、美味しい」
ルルの顔がほころぶ。
「うん、最高だ。昨日も美味しかったけど、今日はまた一段と。エミナ、料理もできるんだな」
ユリオも。
エミナは胸を張る。
「ユリオ様のためにと思って、頑張りました!」
エミナは料理人ではない。ルーベイ邸には当然、本職の料理人がいたので、ユリオもエミナの料理はここへきて初めてである。ユリオに褒められたエミナ、嬉しくて仕方がない。
「明日は、もっと、もっと、美味しいものつくりますからねっ! 期待していてください! 私は、ユリオ様の為なら何でもいたします!」
顔をピンク色に輝かせ、ほっぺをぷくっとさせる。
食事をしながら、
「ルル、何か新しいことはわかった?」
「うん。まだ昨日の今日だから、それほど新しいことはないけど……」
ルルは説明する。今日も相変わらず大動員してのユリオ捜索は、続いている。街はユリオの話題でもちきりだ。何しろ、1万パナード(約1億円)の賞金首なのだ。どこそこでユリオを見た、どこそこに潜伏しているに違いない、と、いった噂話が飛び交っている。そのたびに衛兵捕吏警吏が走り回る。王都の密偵も、活発に嗅ぎまわっている。
「いろいろ街の噂を聞いたけど、どれもこれも見当違いね。やっぱり蜂蜜館はバレてない。ここでひっそりとしていれば、当分は大丈夫よ」
追捕隊は、当然ルーベイ領にも差し向けられたという。エミナの顔が曇った。ルーベイ城にいる父親の執事頭ヴァイシュを案じているのだ。今は、無事を祈るしかない。
ユリオも、家臣たちのことは、それなりに心配だったが、一応、安堵する。なんだかんだ、大事なのは〝我が身〟である。
〝我が身〟が安全となれば、次に考えることといえば。
卓を囲む2人の美少女。
エミナ。昨日は式典の晴れ着の胸開きドレスで逃げ出してきたので、発育し始めた胸の谷間をしっかりと見せていたが、今はもう、肌露出を抑えたブラウスにロングスカート。基本はいつもこうである。
……可憐ながら、なかなかいい胸してたのになあ……俺の為なら何でもする、か……なら、まずその肉体を……などと内心、ため息のユリオ。
ルルは、ロングのドレス。こちらも露出度は、抑えている。
しかし。胸の存在感は、しっかりとわかる。隠しようがない。異世界には、ワイヤーで固定するようなブラジャーはない。ルルが動くと、服の下でも、胸が揺れるのがわかる。かなりな破壊力だ。その度に、おおっ、となるユリオ。
「く、くう……あれは、絶対に俺のものだ……」
ルルは、ロングだけでなく、膝丈のスカートも買い込んでいた。向こうの世界のセーラー服は、膝丈スカートだった。だからルルも膝丈で平気である。
セーラー服。そうだ、とユリオ。異世界でセーラー服を作って、制服プレイしようとか考えてたんだ。それも当分は、おあずけだな。ニコニコしながらユリオを見つめるルル。
「うむ。今は……できない。しかしきっと、どんなプレイだって、必ずしてやるからな。やってやる。俺は全てを手に入れる。この尊すぎる女神だって、きっと蹂躙してやるんだ……間違いなくな……」




