表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/75

第20話 長い1日の終わりに見る夢はなんですか?



 王都に宵の(とばり)が下りる頃。


 賑わう繁華街。と、ある酒場で。


 「あーあ、今日は大騒動だったな」


 カウンターの椅子に、どっかと座る1人の衛兵。赤い羽飾りの帽子に、赤い服。衛兵の制服そのままで来たのだ。


 「おい、酒だ、酒を持ってこい。今日は持ち合わせが結構あるぜ。いいの持って来いよ」


 大声を出す。へーい、と店主(マスター)


 運ばれてきた酒をぐいっと呷り、ふう、と息をつく。やっと一心地だ。こんなに王都を走りまわったのは、初めてだ。本来、衛兵とは王宮や重要施設を護るため、堂々(いかめ)しく佇立したり巡察したりして、王都に睨みをきかすのが仕事である。


 しかし、この謀反人騒動。王都がひっくり返る騒ぎだ。こんなの初めてだ。衛兵たちも本来の持ち場を離れ、捕吏警吏と一緒になって駆けずり回らねばならなかった。結局、今日、目指す標的(ターゲット)は捕まらなかった。明日もまた、走り回されるのだろうか。 


 「やれやれ、こんなの捕吏警吏どもの仕事だろう。あいつらにやらせとけば、いいんだ。それに密偵(イヌ)どもも。クソッ、使えねえ奴等だな。俺たちゃ誰よりも鼻が利くんだ、とか普段、自慢してやがるくせに……あーあ、夜のうちに捕まってくれないかな。さっさと終わって欲しい。密偵(イヌ)ども、お願いだから、ちゃんと仕事してくれよ」


 衛兵、捕吏警吏、密偵(イヌ)、王都の治安を司る面々は、総動員されていた。


 ぼやきながら、酒を呷る衛兵。今回の大捕物。特別手当が出ていた。妙に気前が良い。だから、いい酒が飲める。奮発してくれるのは、嬉しいが……


 「お隣り、よろしいですか」


 振り返る衛兵。女だ。面紗(ヴェール)で顔を隠している。裾の長いドレス。この世界では、女性が外出する時、面紗(ヴェール)で顔を隠すのは、珍しいことではない。


 「どうぞ」


 衛兵は言った。すごく綺麗な声だったな。若い女だ。女は隣に座った。


 「私、この王都、初めてなんです。いろいろ、よくわからなくて。今日はなんだか、どこも凄い騒ぎになってますね。何があったんでしょう?」


 ちょっと面紗(ヴェール)を持ち上げる女。顔をはっきりと見せた。


 「うご……」


 衛兵は、(グラス)を落としそうになった。時間が止まった。感覚が全て消えた。すべて、女の顔に引き込まれた。


 これまで見たこともない、美貌。黒い瞳。豊かに垂れる艶やかな漆黒の髪。形のよい朱い唇。白い(はだ)。とても現実のものとは、思えない。


 衛兵は、フラフラとなる。


 「なんだ? これは。幻覚か? 酒が生んだ幻覚? まだ、そんなに飲んでないはずなんだけど……」



 「ただいま」


 ルルが、蜂蜜館(ハニーハニーハウス)に戻ってきた。


 「あ、お帰り」


 「ルルさん、エミナ特製のシチュー、用意しときましたよっ!」


 ユリオとエミナが出迎える。



 ◇



 衛兵から逃げ、蜂蜜館(ハニーハニーハウス)に逃げ込んだ3人。


 落ち着いたところで、ルルは、買い物にでた。


 潜伏するにも、食料だなんだ、いろいろ必要なものがあるのだ。もともと、ユリオとルルで買い物に行こうとしたところで、謀反人宣告の知らせを聞いたのだ。


 改めての買い物。ルルは1人で行く。


 実際のところ、3人の中で1番安全なのが、ルルだった。ユリオは謀反人宣告されて、追捕追及されている身である。エミナは、その家臣。王都ルーベイ邸から間一髪で逃げ出したのを、見られている。外には、衛兵捕吏警吏密偵(イヌ)がうようよしている。迂闊に出歩くことはできない。


 一方、ルルは。


 異端狩りで、一旦王国に捕縛されたが、危険なしと判断されて、奴隷として売られた。それを商人エスト=デュレイが買った。売買証書も作成された。ルルは今、王国法の観点からすれば、エスト=デュレイの所有する奴隷である。それ以上、王国が関知することはない。ユリオとの関係が、王国当局に知られるはずはない。ルルなら、王都で顔を見られても、素性が知られても、無問題だ。この蜂蜜館(ハニーハニーハウス)の購入にしてもそうだが、ユリオの〝悪徳はこっそりと〟作戦が、ありえないくらい役に立ったのだ。


 ルルには、周辺の商店やなにやらの地図を書いて渡した。早速出かけていったルル。食料や、服やら、必要な日用品をいっぱい買ってきた。


 「もう御主君を、これ以上働かせません! この(うち)の仕事は、私がやります!」


 エミナは元気に働きだした。蜂蜜館(ハニーハニーハウス)の勝手をユリオに聞いて覚える。2階の、ルルの隣の緑を基調とした部屋を、エミナの私室にした。


 「こんな素敵なお部屋、いただいていいんですか?」


 ピンク色に顔を輝かせるエミナ。この(うち)のことは自分の仕事だと、あちこち扉を開けて見て回る。


 「ああっ!」 


 固まるエミナ。やべ、とユリオ。


 エミナが開けたのは……拷問道具がずらりと並ぶ、例の小部屋だった。


 「これ、なんですか?……」


 わなわなと震えるエミナ。ユリオは慌てて、


 「あはは、この(うち)買った時、家具から何から全部置いていってもらったんだ。すぐ住めるようにしようと思って。そうしたら、こんなのがあったんだ。見つけた時、僕もびっくりしたよ。なんだろうね。不気味だよね。でも、本当に使うんじゃなくて、観賞用かもしれないよ。こういうのを見てキャッキャするのが好きな人だっているから……早いとこ道具屋を呼んで、片付けさせるから」


 「そうなんですか……見てるだけで……怖い……ですね……これとか、何に使うんだろう?」


 エミナが手にしたのは……浣腸器具だ!



 ◇



 買い物が終わって、一息つくと。


 面紗(ヴェール)で顔を隠したルルは、今度は情報収集に出掛ける。


 「動けるのは、私だけだから。ユリオ、エミナ、ここから出ないでね。私に任せて。いろいろ調べてくる。こんな大捕物があったんだもん。そろそろ、王都中に、情報が流れてくるわよ」


 「あんまり無理するなよ」


 「ルルさん、ユリオ様は、このエミナがしっかりお守りしています!」


 ルルは、王都のあちこちを回る。酒場で衛兵を見つけたので、いろいろ話を聞き出すことができた。かなりな収穫。その間、エミナは、掃除だ、片付けだ、料理だと忙しく働く。よく気が利き、よく働く娘なのだ。明るく溌剌とした、元気な少女だ。



 そして、夜になって、戻ってきたルル。


 (テーブル)の上のエミナ特製シチューを、みなで囲む。


 

 ◇



 「どうだった?」


 何しろ、異世界(こっち)にはテレビもスマホも何もないのだ。王都の情勢、実際に歩いて聞いて回るしかない。でも、自分はお尋ね者。外へは、出られない。気がせくユリオ。


 「うーん、一応の事はわかったよ」


 と、ルルが話す。


 もう、王都のそこら中に、布告状が貼り出されている。ユリオに謀反人宣告。ルーベイ大公爵家の家名断絶、領地資産の全没収。エミナの話と同じだ。


 「それでユリオ、あなたに懸賞金が懸けられているの。ユリオを捕らえた者には、1万パナード(約1億円)、捕縛につながる情報を提供した者には、5000パナード(約5000万円)だって。あなたの人相書きも出回ってるからね」


 「なにそれーっ!」


 ガックンとなるユリオ。


 「ひょっとして俺、王国史上最高額の賞金首になっちゃったの?」


 「うーん……史上最高額かどうかはわからないけど、とにかく、王国は目の色変えて、あなたを探しているわ。何が何でも捕縛するつもりよ」


 なんだ、いったい何なんだ……謀反罪……それが意味するのは、間違いなく死刑だ。捕縛されたら処刑台。王国はなぜ、俺の命をそこまで狙うのか? ユリオには、どうしてもわからない。俺の首に、1万パナード(約1億円)……急に首が重くなった気がする。


 「大丈夫、安心して。あなたの行き先、全然掴めてないから。この(うち)のことだって、わかるはずない」


 ルルは、にっこりとする。


 「今日、私が衛兵を倒したことだって、魔法だとはバレてなかった。通りすがりの体術の達人にやられたんだろうって。相手が誰なのか、まるで正体がわからない、不思議だ。一体誰なんだろうって、衛兵が話してくれたわ」


 「それは……よかった。でも、衛兵から? どうやって聞いたんだ?」


 「酒場に衛兵がいたの。それで話を聞き出したの」


 酔った男に近づいて、話を聞きだしたのか。品行方正のクラス委員長らしからぬ話だ。


 ともあれ。


 王国はユリオの追捕に全力を挙げている。間違いない。しかしユリオ捕縛の手がかり、全く掴んでいない。一応、ほっとするユリオ。とりあえずは、蜂蜜館(ここ)にいれば、安心だ。よかった、というのか。


 「まずは安心ですね、さ、シチューどうぞ。冷めないうちに食べてください」


 エミナの声に、さっそく食べ始めるユリオとルル。ルルはなんだか生き生きとしているな、とユリオ。〝奴隷解放〟〝魔力解放〟の日だから、当然か。


 一方、俺は……お尋ね者だ。賞金首。朝のうちは……誰もが羨む身分だったのに……最高の日になるはずだったのに……突然、ドカンと落とされた。奈落の底に。誰からも追われる立場に。何が起きているんだろう……わからない。ねえ、なんで……


 鱈腹シチューを食べた3人。


 夜も更けている。今日は、とりあえず眠ることにした。


 おやすみなさい、と言って、それぞれの寝室に。少女2人は2階で。


 ユリオは1階の寝室で。


 ユリオの激動の1日、長い1日、運命の1日が終わった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ