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第19話 謀反人宣告ってなんですか?



 ユリオにルル、エミナの3人。首尾よく蜂蜜館(ハニーハニーハウス)に逃げ込む。幸い、ここまで誰にも見られていない。上出来だ。


 「ここは、いったい?」

 

 目を丸くするエミナ。ユリオは、


 「はは、1人で息抜きしたいときのためにと思ってね、自分でこっそり買っておいたんだ。そのうちエミナ、お前も招待しようと思っていたぞ」


 蜂蜜館(ハニーハニーハウス)。こっそり買っておいた悪徳の巣。今の窮地にぴったりの隠れ家だ。何せ、ピエの商人エスト=デュレイの名義で買ったのだ。この館の主が実はユリオだとは、誰にもわからない。使用人を雇ってないのも、正解だった。「ヘッヘッヘ、わかっておりやす、御主人様」と言うような奴は、ユリオの謀反人宣告のことを聞いたら、真っ先に裏切り通報するだろう。当然である。


 まずは、一安心。


 「さ、座って」


 ルルとエミナを居間(メインルーム)のソファーに座らせると、ユリオは、忙しく湯を沸かす。薬湯(ハーブティー)を淹れて、一心地つかなきゃ。


 「あ、ユリオ様、なにを! それは私の仕事です! 私がやります!」


 慌てて立ち上がるエミナ。


 「いいよ、この(うち)の勝手は、俺が1番よく知っている。座ってて。それに、さっき散々大活躍してくれたから、疲れただろう。俺のことを助けてくれようとして、感謝している。でも、あんまり無茶するなよ。さあ、これは主君としての命令だ。俺が薬湯(ハーブティー)を淹れる。エミナ、お前は座って待ってるんだ」


 「は、はい!」


 ほっぺをピンク色に染めて座るエミナ。ぷくっとした頬。可愛い。ユリオは、エミナを前にして、反射的に〝良い子〟モードになった。ずっとこうするように躾られてきたのだ。自然と体が動いてしまう。言うべきこともわかっていた。口をついて出る。


 フード付きマントを脱いで、露出の多い青いワンピース姿に戻ったルルも、感心したようにユリオを見つめている。心優しい正義の大公爵。世評のままだ。


 薬湯(ハーブティー)を淹れながら、ユリオは考えを巡らす。


 謀反人宣告である。それも突然の。


 今日の日まで、ユリオに、ルーベイ大公爵家に、謀反の嫌疑がかかっている、そんな噂はなかった。普通、これほどの大掛かりな追捕なら、事前に貴族社会で、いろいろ噂が流れるものである。ユリオの耳にも、入ってきたはずだ。


 それが何もなかった。突然、王都の本邸に、衛兵捕吏が踏み込んできて、布告状を読み上げて。


 「ありえねえ、ありえねえ、ありえねえ……」


 まさに疑問符がいっぱいの霧の中だ。


 一体俺が何をしたというんだ? 悪いことなんて何も……いや、確かに悪さをしようとしていた。魔王ユリオとか言っちゃって……でも、それは、ただ美少女奴隷を買って、悪徳の巣に連れ込んで、抵抗できなくした上で鬼畜の限りを尽くそうと……それだけだ! 謀反などでは、断じてない! 俺は間違っていない! 美少女と悦楽に耽るなんて、貴族の嗜みじゃありませんか。俺だけ禁止とか。それこそ悪ってものだ!


 湯が沸いた。


 薬湯(ハーブティー)を淹れて、2人の少女のところに持って行くユリオ。


 「さ、どうぞ」


 湯気の立つガラス瓶と、陶器のカップを3つ、(テーブル)に置き、自分もソファーにどっかと座る。


 熱い薬湯(ハーブティー)を啜る。ふう、生き返る。


 「いただきます。ユリオ様に淹れてもらうなんて、感激の感激の大感激です!」


 薬湯(ハーブティー)のカップを手に、顔をピンク色に輝かせるエミナ。


 ユリオ、ゴクン、と。


 エミナが着ているのは、胸開きドレス(デコルデ)だ。急にぷくっと膨らみ始めた14歳の胸の谷間、しっかりと見せている。そうだ、エミナもユリオのお披露目式に参加する。その晴れ着を試着しているときに衛兵捕吏がやってきて、そのまま逃げ出したんだ。


 ぷっくらと膨らむ胸の谷間。見るのは初めてだ。何しろ、このエミナも、徹底的に、鉄のパンツを穿かされていたのだ。


 「うーん、いいな、エミナ。14歳か。ちょうど花開きだした肉体(からだ)。17歳のルルの完成された究極肢体(ボディ)もいいけど、花の開き始め、これもまた、捨て難い。ちょうど大人と子供の両方の可憐さを持っているというべきか……」


 いつものドス黒い欲望妄想に浸るユリオ。すっかり平常モードである。たとえどんな窮地であっても、欲望の炎が消える事は無いのだ。それがこの2度目の人生を歩む精神年齢32歳の少年の、生きる証なのだ。



 ◇

 


 「ねえ、ルル、さっきはどうやったの? あの技は何?」


 薬湯(ハーブティー)をゆっくり飲みながら、ユリオは訊く。衛兵8人を、あっという間に倒した。ルルの鮮やかな手並み。これはどうあっても知っておきたい。


 ルルは、カップを(テーブル)に置くと、ユリオをしっかりと見据えて答える。


 「魔法よ」


 うん、やっぱりそうだ。魔力解放したんだし。


 「でも、魔法だとわからないように、使ったの」


 「え?」


 「知ってるでしょ。魔法は厳しく管理されている。勝手に使っちゃいけない。王都には、魔法協会の魔力探知の目が光っている。大きな魔法を使ったら、すぐバレて、追われる。魔法で衛兵を倒したなんてわかったら、王国魔法協会が目の色変えて、大捜索するわ。それは避けたかったの。私たちの魔法団では、もしもの時のために、魔力探知に引っかからないよう、僅かな魔力を効果的に使う術を、長年かけて編み出し、修練してきたの。それを使ったのよ」


 なるほど。魔法で衛兵を倒した。でも、魔法協会の魔力探知網に引っかからないように、僅かな魔力で。そんなことできるのか?


 「魔法と体術の組み合わせね。相手に素早く近づいて、ギリギリの距離で、麻痺魔法を撃ち込むの。これなら、ほんの少しの魔力で、相手を気絶させることができる。ここが重要なポイントなんだけど、相手も魔法をかけられたことに、気づかないわ」


 「魔法に気づかない?」


 「そう。一瞬で体術の当て身を食らわされた、そう思わせる動きをするの。倒された衛兵も、相手が魔法使いだとはわからない。体術の達人にやられた、そう思う。だから、魔法協会も動かない。そこがこの魔法体術の狙いね」


 ううむ、とユリオ。異端魔法団。妙な技を使うんだな。魔法体術。王国魔法協会に属さず、ひっそりと魔法の修練研究をしながら編み出した、知恵の結晶だろう。でも、あんなに鮮やかに倒せるなんて。ルルの華麗な身のこなしを思い出す。たった3ヶ月で、あそこまで習得。やっぱり、ルル=琴見咲良(ことみさくら)は抜群の才能があるんだ。何をやっても天才なんだ。


 感心したユリオは何気なく、


 「魔力を抑えて使う工夫をしてるんだ。で、大きな魔力解放もしようと思えば、できるの?」


 「うん。今なら衛兵8人くらい、一瞬で抹殺できる。でも、それをやると確実に魔法協会の探知網に引っかかるわね」


 うぐ……

 

 あの魔力封印の首輪を外したの、やっぱりまずかったかな。でも、そうしなきゃ、エミナも助からなかったし……


 エミナのぷっくりとした胸の膨らみとの谷間。見えるだけでも眼福。



 ◇

 


 「あ、あの、あなたは、いったい……」


 エミナが、ルルに。


 そうだ、エミナにルルのことを紹介しなけりゃ、とユリオが口を開くより先に、


 「私はルルーシアです。ルルって呼んでね。異端の〝白月王の樹魔法団〟の魔法使いよ」


 ルルがエミナに、にっこりと微笑む。エミナも慌てて、


 「私はユリオ様の家臣、ルーベイ大公爵家に仕えるエミナです」

 

 と、自己紹介する。そして、


 「あなたは、異端の魔法使い?」


 ルルの顔を、まじまじと見つめる。異端魔法団。そもそもそれは、別に世間から嫌悪をされたり、敵視されたりする集団ではない。ただ、王国魔法協会の統制から外れ、独自の道を歩んでいる魔法団である。世間から隠れ、ひっそりと活動しているため、一般の人との接触は少ないが。


 ルルは、しっかりとエミナの視線を受け止め、


 「そう。異端。最近急に、王国の敵宣告を受けたの。王国の捕り手にみんな捕まって、大勢処刑されたんだけど、私は命を助けられ、奴隷として売られることになったの。奴隷市場で、ユリオが私を見つけたの。私とユリオは、昔からの知り合いなの。それで、助けてくれたの。ユリオは私を買って、解放してくれた。自由の身にしてくれた。そして、ここに匿ってくれているの」


 ルルは、転生だ時空転移だを省いて説明した。ルルの買値が20万パナードだったことも。ユリオがルルのために20万パナードをブン投げたと知ったら、さすがのエミナも、泡を吹いて卒倒しただろう。


 話を聞いていたユリオ、オイオイ、と。


 クラス委員長、お嬢様、何をいってるんですか? 解放? 自由の身に? それはあなたの勘違いですよ。そんなことするわけないじゃないですか。一体なんで、せっかく買った奴隷を自由解放なんてしなくちゃいけないんですか? それも、1000年に一度以上の極上品のあなたを。俺は絶対、〝解放王〟なんかにはならない。当たり前だ。俺のどこをどう見たら〝解放王〟なんだ? 俺は魔王だ。魔王ユリオだ、絶対にお前を蹂躙してやる。お前の所有者は俺だ。お前の御主人様は、永久に俺だ。そう。間違いなく……


 しかし、そんなユリオの内心の思いが律儀な家臣、エミナに届くはずもなく。


 「ユリオ様!」


 エミナは飛び上がった。顔をピンク色に輝かせている。ぷっくらとしたほっぺと胸が、ふるふると揺れる。


 「なるほど! そういうことだったのですね? ユリオ様は、これから華々しく大公爵当主のお披露目式をする。その陰で、こっそりと善行を積もうとした、そういうことなのですね? 自分に善い事があったら、まず、誰かに施しをする、助ける。それがルーベイ大公爵家の家訓なのです! それで、人知れず奴隷市場に行った。奴隷を買って、解放する。この上ない善行を積もうと。で、たまたま、知り合いのルルさんを見つけた。何という巡り合わせでしょう。善行をしようという志が、さらなる運命の出会いを呼んだのですね。ああ、素晴らしい! 私の御主君。こんなにも立派な方だったなんて……このエミナ、これまで気づきませんでした。この身が恥ずかしい!……でも、ユリオ様、そういう善行は、隠れてする事はありません。大っぴらにやってください。堂々と。誇るべきことです! いえ、ユリオ様が、謙虚ですごく恥ずかしがり屋なお人柄なのは、承知しています! よくよく承知しています! 今回も、こっそりと徳を積もうとされたのですね? ユリオ様らしい……でも! でも! ユリオ様の善行が、徳が、世に知られないなんて、私は家臣として悔しいです! 残念です! ああ! もっと誇ってください! 自慢してください! 善行を見せびらかしてください! 私は、声を大にして叫びたいです! ユリオ様は誰よりも高潔です! 偉大なのです! 奴隷の解放者なのです! 私の御主君! これが私の御主君なのです!」

 

 ヤメロ、とユリオは、感極まるエミナの急激に発育し始めた、ふるふると揺れる胸を見ながら、


 ダメだ、こいつは……一体どうやったら、こんなヒン曲がった考えができるんだ? 解放するために奴隷を買う? なにそれ。バカバカしい……確かに父クロードからも、祖母ギオラからも、散々言われたな。お前は恵まれた身に生まれた。善いことがあっても、それは生来の運命からの贈り物だと思え。そして、その贈り物は、必ず誰かに返すのだ。返す相手は、身近な人でも、見知らぬ人でもいい。善いことがあったらその分、誰かに善行をなせ。そうした徳を積むことが、貴族たる者の責務だ……あちゃー、そういや、エミナの父の執事頭ヴァイシュにもよく言われたなあ……


 うげええええ、


 と、ユリオ。


 クレイジーな思想だ。貰ったものは、すぐ誰かに返さなきゃいけない? それじゃあ、何のために俺に呉れるんだい? 支離滅裂な話じゃないか。俺が手に入れたものは俺のものだ。誰にも渡さん。だいたい、幾ら出したと思ってるんだ。20万パナードしたんだぞ……


 チラっとルルを見ると、こちらも感極まっている様子。


 「そうなんだ……そういうことだったのね……大貴族って自分勝手な人が多いと思っていたけど、本当にルーベイ大公爵家は違うね。それにユリオ……立派なことをしても、本当に誇ったりしないのよ。なんでもないって顔をして……信じられない。この世界に、こんな人がいるなんて!」


 うるせーな、とユリオ。


 ルルのカンチガイがエミナを巻き込んで、さらにルルのカンチガイも酷くなってる……カンチガイ大増殖。なんだこりゃ。ムチャクチャ。そんなに絶賛感謝するなら、まずその肉体(からだ)を寄越しなさい。そういうもんじゃないの?


 2人の美少女から尊敬の眼差しで見られても、あまり嬉しくないユリオであった。



 ◇

 

 

 「で、エミナ、屋敷でどうだったのか、もうちょっと聞きたいんだけど。俺に謀反人宣告があった。それは間違いないんだよな。それ以外、何があった?」


 話題を変えるユリオ。徳だ善行だの話を聞いていると、頭痛が痛くなるだけだ。


 真剣な表情で、ピンと胸を張るエミナ。ぷっくらした(バスト)の谷間に、どうしても視線が。


 「はい。読み上げられた布告状。ユリオ様を謀反人宣告する。それだけではありませんでした」


 「それだけじゃない? ……他に何が?」


 「それが……」


 いい澱むエミナ。ユリオは、眉を寄せる。


 「なんだ? 他にもあるのか? 言ってくれ」


 「はい」


 エミナ、意を決したというように、


 「ユリオ様に謀反人宣告する。そして、ユリオ様の爵位は剥奪、ルーベイ大公爵家は、家名断絶。全領地と全資産の没収。それがすべてです」



 グヘッヒョーン!!


 ゲッフーン!!


 エエエエエエッ!


 

 なに? なに? なんだ、そりゃ。


 謀反人宣告されて、もうこれ以上の驚きはないと思ってたけど、もっとすごいのがあった!


 家名断絶! 領地没収! 全資産没収!


 「嘘だろ……」


 愕然となる。言葉が詰まる。


 謀反人宣告。それだって、確かに超弩級の衝撃だ。でも、これはさすがに。王国の常識を超えている。超えまくっている。王国の法や慣行、歴史はユリオも学んでいる。大貴族が重罪を犯したり、政争に負けたりして、処罰される事はある。爵位剥奪もある。しかし、大貴族の家名は、処罰された者と無関係な親族の者が継承するなりして、なんだかんだ存続させるのが基本だ。領地資産の没収というのもあるが、全部丸ごと召し上げ、というのは、まずない。一部だけ没収が普通。ヴァルレシア王国では、貴族の力が強いのである。大貴族の家が根こそぎ抹殺されるというのは、ほぼ、ない。しかもーー


 「ルーベイ大公爵家は、筆頭貴族。王家より古い由緒を誇るんだぞ……」


 それがいきなりの完全消滅である。抹殺。綺麗に王国から拭い去る。もはや、ユリオ個人がどうこうという問題ではない。王国の全貴族が騒然となる事態だ。絶対にこのままでは済まない。これで終わりにならない。なるはずがない。何かが起きるはずだ。


 今日の朝まで、平和だった王国。この世界に。急に暗雲が立ち込めてきた。いったいこの先に何があるのだろう。


 「こんなこと、あっちゃいけません!」


 エミナは、叫ぶ。


 「謀反人なんて、もちろん濡れ衣です! 冤罪です! みんな知っています! 私だけでなく、王国の人は誰だって。だって、ユリオ様ほど高潔で無私な方は、他におられないのですから。誰よりも立派なユリオ様が謀反だなんて! これはきっと、ユリオ様の高潔と名声を妬んだ誰かが、ユリオ様を陥れようと告発したに違いありません! 本当に卑劣です。ユリオ様、私がその悪者を見つけて、必ず退治します! 成敗します! 見ててください! ユリオ様は、大公爵に復帰されます! いえ、復帰ではなく、今回のことがそもそも間違いだったのですから。ええ、絶対に!」


 正義感いっぱいのエミナ。悲愴な声音ではない。むしろ、正義感で高揚している。主君への信頼と忠誠は、絶大なのだ。聞いているユリオ。頭の中を、自分のこと、大公爵家のこと、王国のことが、ぐるぐる回る。もう何が何やら。


 謀反人宣告、爵位剥奪、家名断絶、全領地資産没収……


 それが……自分のことなのだ。自分に起きたことなのだ。ヴァルレシア王国筆頭貴族ユリオ=アルゲネス=パロ=ルーベイに。


 今……どんな状況なんだ? まるで頭の働かないユリオだが、必死に考える。誰か悪者が、俺を嫉妬して告発して陥れた? いや、そんな単純な話じゃないだろう。この衝撃の事態。原因はまだよくわからないけど、ええと、とりあえずわかってること……王都の本邸が押さえられた。それで。ユリオの領地のルーベイ城にも、追捕隊が差し向けられている筈だ。城のみんなも捕まるのかな。で、全資産没収……


 あ。


 思い至った。そうだ、城の金庫の中身、ごっそり持ち出して来たんだ。だから現金資産の没収は、できない。うん。持ち出して来てよかった。もちろん、城には金庫の中の現金だけじゃなく、ルーベイ大公爵家伝来の家宝財宝がいっぱいある。それらは持っていかれるだろう。でも、金庫の中身は、無事だ。ザマーミロ! 無事……といっても、ほとんどルルを買うのに使っちゃったけど……


 ルル?


 そうだ。ルル。


 ルルは、どうなるんだ?


 あっ、となるユリオ。


 目の前でユリオを見つめる美少女。


 「この子は……間違いなく俺が買ったんだ。俺の奴隷だ。ちゃんと売買証書も作って。つまり、俺の財産。資産。ええっ? 俺の全財産没収。て、ことは。俺の奴隷、俺の資産であるルルも、王国に没収、そうなる? ルルは王国の異端狩りで捕まって、一旦は王国のものとなって、奴隷として売られて……俺が買って……それが没収されて……また王国に戻るの? ルルは、もう俺のものじゃないの? 俺はルルの御主人様じゃないの? 所有主じゃないの? いや!」


 断固として否定するユリオ。


 「ルルは、ピエの商人エスト=デュレイの名義で買ったのだ。ルーベイ大公爵ユリオの名義でなく。だから、ルーベイ大公爵の全資産没収となっても、決してルルは王国に没収はされていないのだ。そうだ。そういうことだ。俺はエスト=デュレイの身分証を買ったのだ。今も、ルルの所有主、御主人様は俺だ。間違いなく!」


 王国の法学者が聞いたら眉を顰めるような法理をこねくり回していた。ユリオとしては、何が何でもルルは自分の奴隷でなければならなかったのである。


 「ルルは、俺の奴隷……絶対……誰がなんと言おうとも……20万パナード、ブン投げたんだぞ。それでお前のものじゃないなんて、誰にも絶対言わせないぞ! そうだ。あはは。うまいことやったぜ。金庫没収の前に、ちゃんと奴隷を買ったんだから。俺の資産……」


 ルルを20万パナードで買ったのは、王国に没収されなくても、自分で金庫を空にするのと同じことであった。しかし、今のユリオは、うまいこと自分の資産を温存できたとの考えに、取り憑かれていた。なるほど。ルルがユリオの資産だったとしよう。だけど、もう絶対に20万パナードでは売れない。当たり前である。ユリオのように頭の血が上った買い手なんて、見つかるはずが無い。そもそも奴隷を買うのに20万パナード支払える人間など、まず、いないのである。


 突如窮地に陥ったユリオは、「自分はうまくやった。間違っていない」と、現状を脳内変換していた。追い込まれてわけのわからなくなっているときには、「これでいいのだ!」と、ついつい言いたくなるものである。


 しかしーー


 「ルルは俺の奴隷……うん……それは変わらない……俺はルルの御主人様……何をしたっていいんだ。何を命じても……何せ、奴隷だし……あれ、そういえば……」


 グヘヘ妄想に浸ろうとした時、重大なことに気づく。


 「……ルルの魔力封印……解除しちゃったんだっけ。うん。あの場じゃ、仕方なかったからな。凄かった。魔法体術、だっけ。ちょこっと魔法を使って、ああなんだ。あっさり8人倒した。それだけじゃなくて。さっき何か言ってたな……そうだ……やろうと思えば、衛兵8人くらい、一瞬で抹殺できると。スゲー。魔力を隠してたっていうの本当なんだな。封印が解けたら、もの凄い力を発揮できる……え?……ちょっと……待って……それって、つまり……」


 

 ドッヒーン!



 もし、ユリオが御主人の権利で欲望を満たそうと、ルルに「グッへへーン!」と、飛び掛かり、押し倒そうとしたら。


 ルルは。


 「キャー、何するの! このケダモノ! いくら恩義があるからって、こんなのは絶対に許さないんだからね! 滅びなさい!」


 と、全力攻撃魔法で、ユリオを〝抹殺〟する?


 清楚清純で正義感の強いルル=琴見咲良(ことみさくら)なら、絶対にそうする。


 「そんな……俺が〝抹殺〟? 〝抹殺〟されちゃう? 〝抹殺〟って、どうなるんだろう。丸焼けにされちゃうのかな。それとも……灰も残さず消されちゃうの? ……ただ御主人様の権利を主張しただけで? そんな、そんな、そんな……おかしい。こんなの絶対おかしいよ! ありえない! この世に正義はないのか! 正義って何なんだ! 俺が2度目の人生を歩む意味って、いったい何なんだ!」


 なんだかんだ。ユリオにとって、ルルは〝17歳の女の子〟であった。モノにしようと思えば、いつでもモノにできたのである。だからプレイだルートだ、あれこれ妄想三昧できたのであった。おいしい果実を、じっくり味わおうと。


 しかし。


 魔力封印を解かれた今のルルは。


 圧倒的な力を誇る超強力魔法使いである。


 ルルに手出しする。(ほしいまま)に蹂躙しようとする。


 それが意味するところは、死。強大な魔法の餌食。


 ユリオは、震えた。背に冷たいものが走る。おかしい……何か、おかしい……


 美少女奴隷を買って、悪徳の巣に連れ込んで、欲望を(ほしいまま)にする。


 確かに掴んだ筈の夢。絶対に譲れない夢。人生の全てを懸けた夢。


 今、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていった。



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