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第13話 この尊すぎる女神を蹂躙できますか?



 「あなたが……あなたが……ルーベイ公爵?」


 ルルーシア=琴見咲良(ことみさくら)が、まじまじと見つめてくる。


 ユリオは、しっかりとその目線を受け止める。堂々と。

 

 大公爵の立ち振る舞い。幼少から叩き込まれている。他人の視線を臆せずしっかりと受け止める。最も基本的な所作だ。


 じっと見つめる少女と、それを受け止める少年。


 しばしの沈黙。


 どうやら咲良さくらさんも、ルーベイ大公爵の名は知っているようだ、と、ユリオ。当然だ。この王国の人間で、ルーベイ大公爵家を知らぬ者などいるはずがない。王国の筆頭貴族。王家より歴史が古く富裕な家柄。子供でも知っている。でも。


 「本気にしなかったら、どうしよう。どうすれば証明できるんだろう……」


 ふと、ユリオは。自分が大公爵だとの証明? そんなの考えたこともなかった。いつも自分の城や邸宅で、家臣たちに囲まれていた。王宮でも顔は知られている。お忍びの時でも、お供が「このお方はルーベイ大公爵であるぞ」と言えば、みんなひれ伏した。自分が誰であるかの証明なんて、これまで全く必要なかった。


 今は。ピエの旅商エスト=デュレイの名前で買った館の主。1人きりだ。家臣も使用人もいない。


 俺が何者であるかの証明、それって結構面倒? ユリオは考える。ルーベイ大公爵邸に連れて行けば、すぐわかることだけど、それはできない。どうしよう? 前世ならちょっとスマホをいじれば大物有名人の顔画像がすぐ出てくる。ほら見て、これが僕だよと言える。だけど異世界(こっち)じゃーー


 「わかった。信じるよ。忌木(いまき)君は、変な嘘つく人じゃないし」


 咲良(さくら)はあっさりと言った。


 ほっとするユリオ。「自分が大公爵であることの証明問題」はすんなりと決着した。


 「僕は15歳になった。ここじゃ、15歳になると貴族の当主になれるんだ。あ、僕の父はもういないんだ。それで今じゃ、僕が大公爵。その正式なお披露目式のために、王都に来たんだ。大公爵の立場って、いろいろ大変でね。ここは息抜きのために買った秘密の隠れ家さ。ちょっと1人で休息したいときに使おうと思ってね」


 自分の立場と、蜂蜜館(ハニーハニーハウス)についてのさっきの説明を繰り返す。ルーベイ大公爵ユリオ。誇るべき肩書と名前である。


 ルルーシア=琴見咲良(ことみさくら)は、うんうんと話を聞き、ふうっと息を洩らす。


 「そうだったんだ。びっくりしたよ。だって、取引の時、あんな大金出すんだもん。なるほど、そっか、王国の筆頭貴族だったんだね」


 その通りである。20万パナード(約20億円)。ピエの商人エスト=デュレイなどに払える額では決してない。その辺のこと、咲良さんもわかってるんだ。


 「でもよかった。私、思わず口を出しそうになっちゃったの。ほんとにこんな大金取引していいのかと思っちゃって。知ってた? あの奴隷商が私を王国から買った値段は、ディエル金貨100枚(約1000万円)なのよ」


 「はああああっ!!」


 咲良(さくら)の口から出た衝撃の情報に、ユリオは飛び上がった。



 なんだそりゃー! 



 ディエル金貨100枚(約1000万円)を20万パナード(約20億円)で……つまり、元値の200倍で買っちゃったってこと? なんだと……さすがにそれは……完全にぼったくられた……グドルクの奴! いや、奴隷を買うなんて初めてだったから、適正価格なんてわかるはずもなく…… 貴族学院の図書室で調べても、今の奴隷の相場なんてわからなかったんだもん……なんてこった……やっちまった……大公爵家の金庫をほぼ空にして……いや、おかしかったよな、俺……いきなりの大金ブン投げ……完全にカモにされた……


 ガクン、とソファーに沈むユリオ。額に冷や汗。もう威儀も何もない。まったく今日はなんて日なんだ……いや、これはどう考えても自分の責任なんだけど。


 咲良(さくら)が、心配そうにユリオの顔を覗き込む。


 「やっぱり問題だった? 私、どうしようかと思ったけど、余計なことを言ったら取引がダメになっちゃうかと思って。私、忌木(いまき)君の姿を見て、どうしてもあなたに買ってもらいたかったの」


 「あ、いや……別に、あのくらいのお金、なんでもないよ……気にしないで」


 よくわからないまま口を動かすユリオ。


 「そうなんだ。よかった。本当に凄いお金持ちなんだね」


 と、咲良(さくら)も安心した模様。さすがに大公爵家の財政事情まではわからないのだ。20万パナード。王国筆頭貴族といえど、気軽にブン投げていい額ではない。みんなが長年苦心して貯めた(かね)だ。


 愕然となりながらも、ユリオは気づく。ピクンと反応する。


 ん? 今、咲良(さくら)さんはなんて言った? あなたに買って欲しかった? 買って欲しい……忌木信太朗(いまきしんたろう)に? 言った。確かにそう言ったよね。俺に買って欲しい……そうだ。ルルーシアは、俺に買って欲しかった。そして俺は買ったのだ。俺は、ルルーシアを、いや、琴見咲良(ことみさくら)を……


 学校一の美少女、まばゆく光り輝く憧れのクラス委員長の琴見咲良(ことみさくら)を……


 買った……俺は買った! 咲良(さくら)さんもそれを認めてるんだ。


 ルルーシアの正体が琴見咲良(ことみさくら)と知ってずっと〝同級生と奇跡の再会で感激モード〟だったのが、〝奴隷買い〟のワード登場で、一気に悪徳グヘヘモードになる。ドス黒い雲行に。



 ◇

 


 そうだ! そうだ! 肝心な事は!

 

 奴隷! 目の前にいる琴見咲良(ことみさくら)は俺の奴隷! きっちり売買証書もある。誰にも文句は言わせん! 頭のてっぺんからつま先まで、この少女は……かつてのクラス委員長の琴見咲良(ことみさくら)は、俺のもの! 俺が何したっていいんだ。何を命じたって……どんなことだって……ど、どんなことでも……なんてったって俺の奴隷なんだから……


 グホッ、ヘホホッ……


 喉から変な音が出る。買った奴隷が琴見咲良(ことみさくら)。つまり、琴見咲良(ことみさくら)が俺の奴隷ってことで……


 「忌木(いまき)君、大丈夫? お(かね)のこと、やっぱり問題だった?」


 異様な音でぜえぜえするユリオを心配そうに見るルルーシア=琴見咲良(ことみさくら)


 「あへ……ぐお……あ……そんなの……全然。本当に、全然気にしなくていいから……だって、ぼ、僕かあ……ルーベイ大公爵なもので……あは、あはははは……」


 口元が締まらない。全身がまた、カアアアアアッとアツくなる。いったい今日何度目だろう。


 またまたまたまた、ユリオの頭の中では妄想がぐるぐると。


 「とんでもないことになったな……初めて奴隷市場に飛び込んだら、究極の美少女がいた。しかも魔法少女。これだけでもありえないことなんだけど……それが、それが、なんと琴見咲良(ことみさくら)! 俺の昔の同級生。憧れのクラス委員長。みんなの憧れ。俺なんかまともに話すこともできなかった高嶺の花。圧倒的女神……それが異世界(こっち)で売りに出されてたんだ。それを買った……俺が買った! 奇跡だ! 運命からの最高の贈り物だ。俺の幸運は、大公爵に生まれ変わったことだけじゃなかったんだ。もっとすごい贈り物(プレゼント)があった! やっぱりこれは間違いなく1000年に1度の買い物だ。20万パナード? いや、そんなの全然高くない。ぼったくりでもない。正当な値段……むしろ安過ぎるくらいだ。カモられてなんかないさ、いや、俺がカモってやったんだ……咲良(さくら)さんに…値段なんかつけられるものか! 値の付けられない(プライスレス)の贈り物だ! 女神を買ったんだ! 今日は俺の人生で最高の日だ!」


 琴見咲良(ことみさくら)を思いのままにできる。それが漸く実感となってきたのだ。ユリオは自分の体がビリビリ、ゾワゾワしてくるのを抑えることができなかった。火柱が何度も体を突き抜ける。


 「咲良(さくら)さんは、俺に買われてよかった、と言っている。うん。そうだ。いいのかな。咲良(さくら)さん、すっかりその気ってことか。あはは。奴隷。その運命から、もう逃げようもないからな。俺がご主人様で、咲良(さくら)さんが奴隷……高校の時とは、真逆の立場だ……これは、つまり……スクールカースト大逆転……そういうことだ。これっていいの? ……あまりにも現実離れした……いや、何、俺だって異世界(こっち)で15年間頑張ってきたんだ。今じゃ立派な大公爵様だ。いいんだ、これで。よし、堂々と咲良(さくら)さんをいただいてやるぞ。高校じゃ、咲良(さくら)さんは俺みたいな人間にも優しくしてくれたな……だからとりあえずは優しく扱ってやろう……そのうちにいろんなプレイを試すけど。うん。まあ、焦らずに。時間をたっぷりあるんだ。じっくりいろいろ試せばいい。うふふ。今日は。薬湯(ハーブティー)も飲んでお菓子も食べて、一心地ついた……ちょうどいい頃合いだ。コトをするのに……そうだ、今日は俺のコト初めなんだ。俺のコト初めの相手が、咲良(さくら)さん……ああ……ここは異世界なんじゃなくて天国かもな……いや、天国そのものだ。じゃ、そろそろ……咲良(さくら)さんをベッドに連れて行くとするか。寝室に戻ろう。ハニー、おいで。いや、それとも」


 蜂蜜館(ハニーハニーハウス)居間(メインルーム)は、大きな窓からいっぱいに明るい陽差しが差し込んでいた。


 むしろここで、この絨毯の上でいいんじゃないか? まばゆく光り輝く我が女神の肉体(からだ)を隈なくしっかりはっきり拝みたいし……


 〝コト初め〟のシチュエーションに、また迷い始めるユリオ。


 ルルーシア=琴見咲良(ことみさくら)は、にっこりとして、


 「私、異世界(こっち)に来たばかりだけど、忌木(いまき)君のこと、いろいろ聞いているんだよ」


 うん、なんだ、とユリオ。忌木(いまき)君? あ、そうか。ルーベイ大公爵のことか。ならみんな知っている。当然だな。異端魔法団じゃ、俺のことをどんなふうに話しているんだろう。


 咲良(さくら)は瞳をキラキラさせて、


 「みんな言ってるの。貴族の中で、いえ、この国の中で1番立派なのがルーベイ大公爵だって。王国で1番のお金持ちで、王家より古い由緒の家柄なんでしょ? でも、気取らず飾らず、いつも下の者の立場を考えてるんだってね。忌木(いまき)君のお父さんの先代大公爵は、自分の領民を熱心に救済したんだよね? 自分の財産を投げうって。そして魔族との戦役の時は進んで危険な場所で戦って、名誉の戦死をした。こんな貴族、他にはいないってみんな絶賛してるよ。そして忌木(いまき)君、今はユリオだよね、あなたもお父さんの高潔な人柄を継ぐって固く誓ってるんでしょ? 王国中があなたに期待してるわ。今日も同級生の私が奴隷として売られているのを見て、助けてくれた。あんな大金、ポンと出して。まるで何でもない、といったふうに。人を助けることが何より大事。そういう家風をしっかり受け継いでいるのね。本当に嬉しかった。震えた。私、命は助かったけど奴隷として売られることになって、本当に絶望してたの。もう先の人生なんてないやって思ってた。そこにあなたが現れ、助けてくれた。私に光を与えてくれた。自由の身にしてくれた。何度も言うけど、本当にありがとう。感激だよ。私のクラスの子が、こんな立派なことをするなんて。同級生として誇りに思う。忌木(いまき)君、学校で優しい子だったよね。異世界へ行っても、全然変わらないんだ。大貴族の身でありながら自分を抑えて他人のために尽くすなんて、それこそなかなかできることじゃないよ。生まれながらにして上に立つものは、みんな自分勝手。大体そういう評判だしね。でも、忌木(いまき)君は違う。私の同級生だもんね。絶対に間違ったことなんてしない」


 ポカーンとして、ユリオはルルーシア=琴見咲良(ことみさくら)の話を聞いていた。


 最初の方のルーベイ大公爵についての世評は、まあ、いい。そういう世評になるのは当然だからだ。父クロードは実際にありえないくらい廉潔な貴族だったし、不本意ながら、ユリオも今はその路線を継ぐフリをしている。


 で、なに? その先。


 何て言ったんだ? この女神のお嬢さんは。


 助けた? 自由の身にしてくれた? そう言った? え? ええ? いったい何を言ってるんですか?


 「なんだ? なんだかおかしい。委員長……ひょっとしてもしかして、ありえないカンチガイをしてるんじゃ……助けて自由の身にするために、買った? この俺が? 自由の身ってことは、つまり、咲良(さくら)さんを奴隷身分から解放するってこと? はあ? そんなことしたら、咲良(さくら)が俺のものじゃなくなっちゃう……したい放題命令することはできない…… 俺の欲望はどうなる?……ご破算? そうなっちゃうよね……いやいや……なにを言ってるんですか、お嬢さん。冗談はやめてくださいよ。冗談だよね? え? まさか本気でそう思い込んでるの? ありえない……そんなの絶対ありえないよ!」


 琴見咲良(ことみさくら)は、ユリオが自分を買ったのは、かつての同級生を助け、自由の身にするためだと思い込んでいる!


 この事実に、ユリオの頭の血が逆流する。こうしてみると、この少年の頭の血管は、かなり強靭にできているものらしい。何度もの逆回転に、破裂せずに耐えている。


 「20万パナード(約20億円)だぞ! 奴隷の身に落とされた同級生を助けるために20万パナード(約20億円)ブン投げる? 絶対あるわけないじゃないか! 莫迦(バカ)莫迦(バカ)しい。咲良(さくら)さんには俺がとんでもない間抜けに見えているのか? それに、俺が優しいとか言ってたけど」


 忌木信太朗(いまきしんたろう)は、別に自分が〝優しい人間〟だなどとは思っていない。たしかに、他人に対して酷いことをした記憶は無い。しかしながらそれは単純に言って、自分が学校の最弱者であったからに過ぎない。他人に酷いことをしようがないのだ。幸い、いじめっ子の子分のポジションになることもなかった。他人に悪さはできなかった。その代わり脳内妄想ではひたすら美少女を蹂躙していた。大体は大好きなアニメやゲームのキャラクターだったけど、


 「そうだ。現実(リアル)の女の子じゃ、咲良(さくら)さん、お前を1番妄想蹂躙したんだぞ」


 現実(リアル)よりもアニメやゲームに逃避していた忌木信太朗(いまきしんたろう)現実(リアル)の女の子はあまり妄想の対象にもならなかったが、琴見咲良(ことみさくら)は別だった。前世じゃ、この同級生の美少女を激しく脳内妄想蹂躙したものである。


 「この女神は、まるでわかってないんだ。ルーベイ大公爵のことも、この世の中の仕組みのことも、この俺のことも。なるほど、いつもオドオドしてみんなから逃げていた俺のことを〝優しい〟か。そう見えたんだ。へえ。ま、前世でも異世界(こっち)でも、俺はひたすら本性を隠し、真の姿を気取られないようにしてきたからな、ずっと。咲良(さくら)さんは正義感の塊の女神だから……ついつい自分の尺度で他人を判断しちゃうんだ。クラスの隅にいた俺。確かに無害な奴だった。でもそれは、単に何もできず、他人の目線を怖がってたたからに過ぎない。優しい人、か。違うぞ。少なくとも今の俺は」


 欲望が煮えたぎる。ドス黒い炎が体を包む。


 「咲良(さくら)さん。あなたは結局、人間を信じてるんだね? そうだ、高校のクラスじゃ、みんなあなたのリーダーシップに従っていた。イジメなんかなかった。正義の女神であるあなたの威光でね。それですっかり気をよくして、人の善意を信じているんだろう。ふふ、甘いよ。わかってないね。高校のクラスじゃあなたは強者だった。スクールカーストの頂点。一点の非の打ち所がない優等生。みんな、あなたに従う。でも今はどうだ。奴隷じゃないか。買われた奴隷だ。解放して自由の身に? なんで? なんでそうなる? なんでそんなことしなきゃいけないんだ? とんでもない。しないよ。絶対にしないよ。心優しい同級生だから、助けてくれると思った? あはは。ありえない。あるわけない。いや、どんなに心優しくたって、一旦、あなたを奴隷にした男なら……絶対に手放したりなんてするわけない。俺だって……奴隷解放なんて、一瞬も考えたことないぞ」


 ユリオは中学だか高校だかの授業で、〝奴隷解放の父〟という言葉を聞いたことがあった。また、前世で大好きだったファンタジー小説で、苦労して国王になった少年が奴隷解放宣言し、〝解放王〟と称えられるというのがあったの思い出した。


 「じょーだんじゃないっ! 〝奴隷解放の父〟? 〝解放王〟? ヤダ! そんなのに絶対なるもんか! 俺はただ、この欲望を思いのまま全開にしたいだけなんだよ。一度きりの人生、いや2度目があった人生、欲望を何一つ叶えぬまま終わるなんて、絶対にしない! そうだ、俺は欲望を(ほしいまま)にする。魔王になるんだ。決めたんだ。女の子がいくら泣いたって知るもんか。おあいにくさま。俺はそういう人間なんだ。優しい? ふざけるな! 魔王だぞ! 強者だ。そうだ、いずれみんなに教えてやるんだ。今は……咲良(さくら)さんまで領民の救済だ、名誉の戦死だ言っている。とんでもない。そんなのが俺の何の得になる。いくらみんなに絶賛されたって、死んだら全てパアだ。ヤダヤダヤダヤダ! 魔王ユリオ! それが俺だ。もし〝解放王〟なんてのが現れたら、真っ先にブッ殺してやる。だって奴隷解放宣言なんてされたら、咲良(さくら)さんがもう俺のものじゃなくなっちゃうもん。俺の咲良(さくら)さんへの権利、主人が奴隷を所有する権利を否定する奴は、絶対に許さんっ! ぜええったいにっ!」


 目をギラギラとさせるユリオ。頭は不思議とスッキリしてきた。さすがにしっかりと方針を決めることができたのだ。自分とは何か、はっきり認識し直したのだ。


 「ふふ、琴見咲良(ことみさくら)よ。お前は魔王ユリオの最初の餌食となるのだ。うん。素晴らしい。ああ、なんていう獲物なんだ。あの極上の肢体(ボディ)……」


 紐ビキニ姿を思い出す。


 「胸……デカかったな、ほんとに。前世の高校の時も、咲良(さくら)さんの胸がデカいデカいと男子がみんな騒いでたけど、思った以上だ。高校の時はギチギチに胸を締め上げてたんだな。目立たないように。でも、どんなに頑張って締め上げても、存在感をアピールしまくりだった。その胸は。締め付けなきゃ、もっとすごいことになる……もう大爆発……奇跡の逸品だ。もちろん天然モノ、やばいぜ。あれはヤバ過ぎるぜ……あれが俺のものに……デヘッ……グオッ……それに(しり)も、太腿も…… セーラー服の時は、スレンダーなイメージだった、いや、今も腰はキュッと締まってる……それでいながら(しり)の丸みとか太腿……絶妙な曲線だ。脛は、すっきりと真っ直ぐで……グホッ、デヘッ、うぐ、まさに芸術作品……至高の……尊い……尊すぎる……よし、俺がどういう人間か、教えてやろう。いや、人間じゃなくて、魔王だ。魔王ユリオ様だ。この誰よりも純潔で正義の味方なクラス委員長を、みんなに優しく人間を信じる尊すぎる女神を、蹂躙してやろう。つべこべ言わずに、襲うんだ。襲う? そうじゃない。ご主人様が奴隷にご奉仕を求め、奴隷がご主人様にご奉仕を尽くす。これは当然のことなのだ。これこそが正義なのだ。それを〝わからせ〟てやらねばならない。咲良(さくら)さんは、まだ俺のことを前世の気弱で女の子に手出しなどできない忌木信太朗(いまきしんたろう)だと思い込んでるんだ。あはは。すぐに〝わからせ〟てやる。さっきはいろいろびっくりして、〝同級生が奇跡の再会を果たしてヨカッタヨカッタモード〟になっちまったけどな。もう迷いはない。琴見咲良(ことみさくら)よ。お前は俺のものだ。俺の奴隷だ。お前のことは絶対に手放さない。他所へも売らない。奴隷身分の解放もしない。一生、永遠に、お前は俺のものだ。奴隷だ。奴隷として、徹底蹂躙してやる。したい放題に。ご主人様の権利だ。誰よりも尊い咲良(さくら)さん。この尊とすぎる女神を蹂躙してこそ、俺は過去の忌木信太朗(いまきしんたろう)とすっぱり決別できるのだ。魔王ユリオとなることができるのだ。琴見咲良(ことみさくら)よ、お前は魔王誕生の(にえ)となるのだ。俺の欲望の炎で焼き尽くされるのだ。光栄に思うが良いぞ。グヘ、グヘヘ……さあ、行くぞ」


 ユリオは、ルルーシア=琴見咲良(ことみさくら)に飛び掛ろうとした。捻じ伏せて、絨毯に押し倒し、そして……


 ルルーシア=琴見咲良(ことみさくら)は17歳でユリオは15歳だったが、〝力ずくでものにする〟のに不安はなかった。上背はユリオの方があったし、がっちりとした体格で、筋力体力には自信があった。異世界(こっち)は便利な電気文明ガソリン文明の世界ではないので、何かと幼少時から、21世紀の日本に比べ鍛えられるのである。その上、ユリオは武人としての教育を受けてきた。ずっと鍛錬はしていたのである。そうだ。ルルーシアの首輪。魔力封印の首輪。あれをしてても、ちょこっとなら魔法を使えるんだっけ。でも、大丈夫だろう。危険な魔法を使えるなら、とっくにグドルクのところから逃げ出しているはずだ。俺の前世は()えても、抵抗はできまい。魔法を封じられた魔法少女。いいじゃないか。


 俺のものだ。


 今、まさに飛び掛ろうと舌なめずりするユリオ。


 「グッへへーン!」と、叫ぼうとした。その時ーー


 「まてよ。本気で蹂躙したら、咲良(さくら)さんは、どうするだろう」


 それが頭をかすめた。



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