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第113話 【ここまでの振り返りあらすじと、第3章 クローリディアと蝦蟇顔の騎士ユリオ編の解説】 おまけ 【ユリオの叫び】 蝦蟇大魔王なんてありえねえ!



 【第1章 異世界転生少年、美少女奴隷を買う】……現代日本から転生したユリオ=忌木信太朗(いまきしんたろう)が、異世界で大貴族ルーベイ大公爵となり、超絶爆乳美少女奴隷ルルーシア(愛称ルル)を購入。さっそくエ◯ゲーの世界を実現しようとするが……


 ルルーシアの正体は、ユリオのかつての高校の同級生、琴見咲良(ことみさくら)だった。ルルーシア=琴見咲良(ことみさくら)は、奴隷として売られた自分を、ユリオが助けてくれた、自分は奴隷身分から解放された、と勘違いする。


 【第2章 宿命の旅へ 〜美少女奴隷の旅に、ご主人様は心配でついていく】…… 運命の変転に翻弄されるユリオとルル。ルルは、壊滅した異端魔法団から受け継いだ宿命を果たすため、西方ルヴォニア大森林のさらに奥にある「禁断の森」を目指す。ユリオと、ユリオの家臣エミナもルルの旅に一緒に行く。3人での旅が始まった。


 【第3章 クローリディアと蝦蟇(ガマ)顔の騎士ユリオ】……第3章は、第107〜114話を先にお読みいただけると、理解しやすいです。


 ルヴォニア大森林の旅の途中、【第107話】で、一行は、クローリディアに出会う。クローリディアは、リュクセム公国の現君主の女公爵で、16歳の超絶美少女である。


 クローリディアは、6歳の時に呪いを受け、「呪われし公女」として離宮に監禁されて育ったが、兄の急逝によって、つい最近公国の当主として即位したのである。呪われし公女として、忌み嫌われながら育ったクローリディアの心は、すっかり歪み切り、性悪になっていた。


 諸般の事情からクローリディアは、従者シュレンを連れて自分のリュクセム公国を脱出し、大森林に逃げ込んできた。


 そしてユリオと出会う。偶然の事故からユリオとクローリディアは、キスをしてしまう。ユリオの頭部は、たちまち醜怪な蝦蟇(ガマ)の顔となる。クローリディアの受けた呪いとは、キスした相手の顔を醜い蝦蟇(ガマ)に変える呪いだったのである。


 クローリディアは、自分の呪いを解くため、大森林の南にある『(くら)き銀の城』に行くという。ユリオ一行も、蝦蟇(ガマ)となったユリオの顔を元に戻すため、やむを得ず、クローリディアの護衛をして、『(くら)き銀の城』を目指し、大森林の旅を続けることとなった。


 (以上、あらすじ解説終了。以下、蝦蟇(ガマ)の顔となったユリオの心境です)



 ◇



 【ユリオの叫び】


 なんだこりゃー!


 水溜まりに映る〝怪物〟

 

 目が合った瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。


 ……嘘だろ。これが、俺……?


 心臓の鼓動が、耳のすぐ後ろで爆音を立てている。ドクン、ドクンと打ち鳴らされるたびに、顔の皮膚がヌルリと蠢き、イボの一つ一つが脈打つのが分かる。


 触れたい。


 でも、触れるのが怖い。


 指先が自分の顔に触れようとするたび、その感触があまりにも生々しい「粘膜」であることに、全身の毛穴が逆立つのを感じる。


 夢だ。


 これは悪い夢だ。



 クソッ、



 起きろユリオ! 目を覚ませよ!


 だが、いくら強く瞼を閉じても、次に目を開けた時に映るのは、飛び出した金色の瞳と、耳まで裂けた巨大な口。そして、背後から響くクローリディアのあの、耳障りな高笑いだ。


 『その顔で一生、私の靴の裏を舐めながら生きなさいな!』


 あの女の言葉が、鋭いナイフのように俺の心臓を抉る。


 一生……? 一生、この姿でいろって言うのか?


 異世界(こっち)で15年かけて築き上げてきた俺。


 「ユリオ」という少年の形が。


 たった一度の事故、たった一瞬のキスのせいで、ドロドロに溶けて消えてしまった。


 前世の基準でも異世界(こっち)でも、間違いなく美少年だったユリオが。


 2度目のあった人生。最高の容姿(ルックス)だったのに……


 待て、落ち着け。


 ルルなら……魔法の天才であるらしいルルなら、なんとかしてくれるはずだ。


 縋るような思いでルルを見る。天才魔法使いなんだよな。冷静に呪文を唱えて、この悪夢を霧散させてくれる。そう信じていた。


 けれど、ルルのあの瞳。俺を見た瞬間の、あの隠しきれない戦慄と絶望の色。


 ルルの指先が、俺の頬に触れる直前で止まったのを見た時、俺の心は音を立てて砕け散った。


 あの人格者のルルですら、今の俺に触れるのを躊躇った。


 その事実が、どんな激痛よりも深く俺を打ちのめす。


 ルル……頼む、そんな目で俺を見ないでくれ。俺だ、ユリオなんだ! 中身は変わってないんだ!


 叫ぼうとした口からは「ゲコッ」という濁った、おぞましい音が漏れる。


 自分の声が、自分のものではなくなった。


 言葉すら奪われ、愛する人に拒絶される。


 このまま森の泥の中で、誰にも顧みられずに朽ちていくのか。


 暗い、底なしの不安が足元から這い上がってきて、俺の呼吸を塞いでいく。そこへ追い打ちをかけるように、シュレンが告げた。


 この呪いを解くには、大森林の奥深く、『昏き銀の城』にある聖石に辿り着くしかない。そして、あの傲慢な女公爵をそこまで護衛しきらなければ、俺の顔は永遠にこのままだと。


 ……ふざけるな。冗談じゃない!


 怒りが湧き上がるが、それ以上に、足元が崩れるような恐怖が俺を支配する。


 ここからあの城まで、どれだけの距離がある?


 その間に、もしクローリディアが死んだら? もし、追手に捕まったら?


 でも。


 確実な事実。


 俺の「顔」という人質を握っているのは、あの性格のねじ曲がった、いつ裏切るとも知れない性悪女なんだ。


 あいつの機嫌一つで、あいつの生死一つで、俺の人生は永久に真っ暗な沼に沈む。


 不安だ。


 怖くてたまらない……。もし城に辿り着けなかったら? もし聖石でも治せなかったら?


 考えれば考えるほど、視界が歪む。


 ルルと歩いた楽しい旅の記憶が、すべてセピア色に褪せていく。


 あれこれの妄想も、全部おじゃんだ。


 今まで当たり前だと思っていた「人間であること」が、これほどまでに脆く、奇跡的なバランスの上に成り立っていたなんて。


 明日から、俺はどんな顔をしてルルの隣を歩けばいい?


 エミナにどんな声をかければいい?


 仲間たちの同情に耐えられるのか? あのクローリディアの嘲笑に、いつまで正気でいられるのか?


 俺はハーレム大魔王になれるのか?


 この大きな、不格好な蝦蟇(ガマ)の頭の中に詰まっているのは、かつての希望や自信、欲望なんかじゃない。


 ただ、ドロドロとした黒い不安と、この姿を誰にも見られたくないという、惨めな逃避願望だけだ。


 助けてくれ。


 誰でもいい、助けてくれ……


 俺の心の叫びは、誰にも届かない悲鳴となって、湿った大森林の闇に吸い込まれていった。


 暗い。あまりにも暗い。


 城に辿り着くまでの道のりが、永遠に続く地獄の回廊のように思えて、俺はただ、震える手で泥を握りしめることしかできなかった。



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