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推定悪役令嬢の自閉スペクトラム症育児〜異世界で児童精神サロン開きます!〜  作者: こん


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62.我が子の幼児教育2



 ちなみに今日は、文字を書く前段階として運筆の練習をしていた。

 だいたい、3歳で丸、4歳で四角、5歳で三角が描けるのが標準的な発達だ。

 レオくんは丸は端と端を合わせて上手に描けるけど、四角はまだ上手に描けない。四角の四隅が潰れて、いびつな丸みたいな形の四角になってしまう。

 ──完璧主義のレオくん。

 自分が思い描く通りに描けないことに苛立ち、もう辞めたくなって、癇癪に繋がってしまったわけだ。


 ……しばらくレオくんの癇癪をスルーし続けると、レオくんはだんだん落ち着いて来て、くすんくすんとしゃくり上げるだけになって来た。

 

 どうかな、落ち着いたかな……今声かけたらまたヒートアップするかな……

 内心ドキドキしながらも、声を掛けてみることにする。


「──自分で落ち着けて、偉かったね!」

「ちがぁぁうのぉ!!!」


 声を荒あげるレオくん。

 ……判断を誤ってしまったらしい、まだ声を掛けるには早かったようだ。再度無視を続けることとする。

 私からの反応がまた無くなったことを察して、レオくんは私の腕を引っ張りながら主張する。


「…………」

「ちょっと、ちょっとでいいからぁ! レーくんのおはなしきいてよぉ!」

「…………」

「おへんじしてよぉ!!」

「……泣いてる子には、メーはお返事はしません。泣き止んだらまた教えてね」

「そんなのむずかしいぃ!!!」

「…………」


 目の前で子どもが泣いている状況は、正直かなり心を乱される。

 辛い。

 もういいよ、と抱きしめてあげたい。

 ──でもそれをしたら、この子のためにならない。


 しばらく耐えていると、語調を随分と落ち着かせて、レオくんが何か言い始めた。


「……あのね、レーくんね、ペンがしろいの、やだったの。あおがよかったの」


 そんなことさっきまで一言も言っていなかったけど。

 ……彼なりに、一生懸命考えた落とし所なんだろうな。全くもってよく分からない言い訳だけど。

 泣かずにしっかりと話せたので、私も無視をやめる。

 

「自分で落ち着けてお話できて偉かったね。レオくんがそうやってお話してくれると、メーも聞きやすいよ」

「……うん」

「青いペンがよかったのね。じゃあ青いペンでやろうか」

「うん、レーくんやりたいっておもってたの!」


 私が態度を軟化させたことに気付いて、レオくんは調子良いことを言う。

 あまりにもわかりやすい心の動きに、内心笑ってしまいそうになりながら、表情には出さないように真面目に頷く。


「じゃあ、このページが終わったら今日はおしまいにして遊ぼうか」

「……レーくん、しっこいく!」


 このまま勉強に向かう流れだったのに、突然そう言ってレオくんは勉強机の椅子から飛び降りた。

 子ども部屋から逃げるのかと思いきや、部屋から出る扉の前で立ち止まり、ドアノブをカチャカチャやって、扉をちょっと開けて、閉めて、を謎に繰り返してる。


 ……黙って見守ること3分。

 ずっと扉の開け閉めに夢中になっている。トイレに行こうとしたことは忘れちゃったのか、本当はそんなに行きたくなかったのか、どっちだろう。


「レオくん、行くなら早く行っておいで」

「…………」


 返事はない。

 集中している。


「レオくん!」


 さっきよりも大きな声を出してみるけど、返事はない。

 何かにこうして集中している時、レオくんは声をかけても全く反応しない。

 ──過集中ってやつだ。


 集中しすぎて他のものに全く意識が向いてない状態。

 外来では『無視とは違う、わざとではない。本当に聞こえてない状態』と伝えていたけど、こうやってレオくんが過集中しているのを目の当たりすると、実際は少し違うような気がする。


 そういう時、教科書的には大きな声で呼んだり、触ったりしてこっちに気づかせて、目を合わせてから再度指示を入れるように、と言われている。

 立ち上がって、ドアの開け閉めに集中しているレオくんの肩をそっと触る。すると教科書通りに、レオくんは私の存在に気づいて振り向いた。


「レオくん、メーなんて言った?」

「……トイレいってきてっていった」


 そう、レオくんは聞こえてはいるのだ。

 ただ意識の範囲外というか、なんというか……わざとじゃないけど反応できない、そんな感じだ。 

 

「じゃあ行っておいで」

「…………」

「レオくん、聞こえてる?」

「……はぁい」

「今度から、聞こえたらちゃんとお返事してね」


 不承不承頷いて、やっとレオくんは扉の向こうに消えていった。

 ……疲れてる時に、レオくんはこういうことが増える。

 さっきの癇癪、私も疲れたけど、レオくんも疲れたんだろう。そりゃあ泣き叫ぶのだって、体力を盛大に使うよね……


 やっぱり、いま勉強をさせようとするのは早いんじゃないか。でも、私がここで諦めることでレオくんの可能性を狭めてしまうんじゃないだろうか……

 また同じことで思考の中がグルグルしてしまう。 


 ──ダメだ、切り替えなきゃ!


 こういう時は、どうせ一人で考えたって結論が出ないんだから、問題を先延ばしにするに限る。先延ばしにして、信頼できる人を交えて、一緒に考えてもらう。

 よし、リヴィに相談しよう。

 と決めたら、もう考えない!


 ……と、考えないことを意識すると余計にそのことを考えてしまうと言うのはみんなそうだと思う。

 仕事で失敗した時、家に帰ってもぐるぐる考え込んでしまったり。

 それが病的に、強迫的になると、その症状には侵入思考なんて名前がつくけれど。


 シロクマ効果っていう有名な心理学の実験がある。

 シロクマについて考えてくださいって伝えた集団と、考えないでくださいって伝えた集団を比較すると、考えないでくださいと言われた集団の方がシロクマについて思い出す頻度が高かったという実験だ。意識すると余計に考えてしまうということが立証された実験だろう。

 例えば禁酒をした時に、飲まないように考えれば考えるほど意識してしまって余計に飲みたくなってしまう、というような心理のことを言う。


 じゃあそう言う時にどうしたらいいのか。


 いろんな対策方法があるけれど、簡単なのは『別のことに集中する』だろう。一番みんながよく使っている方法だと思う。音楽聴くとか、テレビ見るとか。

 事前に、そういう時にはどうするかを決めておくのが一番いいと思う。ぐるぐる落ち込んでる時は、考える余裕すらなくなるから。

 以前いた患者さんで、友達と遊びに行った後はいつも話した内容を反芻してしまって眠れないって子がいた。翌日友達に会って、普通だと安心するけど、それまでずっとグルグルしてしまうと。一緒に考えて、その子は英語が大好きだったので英語勉強のアプリをするようにしよう、と話した。考えたら勉強するようにしてたら、めっちゃアプリ学習が進んだって笑ってたっけ。


 ──なんて、別のことを考えるように意識して、レオくんが帰ってくるのを待った。 




貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました。

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続きも早めにUPできるように頑張ります……!

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