番外編:死にたがりの聖女7
「だけどごめん、俺はやっぱお前のこと、友達とは思えない」
捨てない、そう言った矢先にあっさりとアルフレッドはあたしを突き放す。
……あたしのズルい思惑なんて、もしかしてバレてた?
頭の中でドクンドクンと脈打つ音が響く。
布団の中でお互いに向かい合いながら、横向きに寝転がって。アルフレッドの顔を伺うと、彼は困ったみたいに笑って、トントンとあたしの背中を軽く叩いた。
「ただの友達で済ますには、あまりにも色々あり過ぎたろ、俺たち」
……拒絶されたかと思ったけれど、そういうわけではなかったらしい。
悶々とした表情で、アルフレッド自身もどう表現していいものか思いあぐねてるようだった。
顔が近い。
お互いの息さえかかりそうな距離。
あたしを優しく見つめる、空色の瞳。
──この人は、あたしを大切に思ってくれている。
充分すぎるほど伝わる視線だった。
「え、じゃあ……親友?」
「いや親友ではないかな」
……図々しくてごめん。
恥ずかしい、死にたい。
片手だけで、アルフレッドの服の裾を握る。
「じゃあ、あたしたちの関係は、なに?」
少しだけ期待を込めて、聞いてみる。
甘えてる子どもみたいだな、と自分でも思う。
──はっきりとわかりやすく名前をつけるなら、さっきアルフレッドがハンスさんに伝えたみたいに、元婚約者というのが正しいのだろう。
でもそんなの、あまりにも遠い。
あたしが彼に抱いている感情とは、まるで別物だ。
……あたしたちの関係に、名前なんてつけないほうがいいのかもしれない。カテゴライズせず、曖昧なままの方がいいのかも……
「……家族みたいなもんだろ、俺たち」
耳を赤くして、照れながらもごもごと口の中で転がすみたいに聞き取りにくい声で彼は言った。
かぞく。
なにそれ、どういうこと?
「え?」
「だから、──家族だよ、家族!」
予想だにしていなかった単語に、頭がついていかなかった。
家族なんて、あたしにとって、ロクでもない。
今世でも前世でも、家族には恵まれなかった。
でもそれはアルフレッドも同じじゃんか。
家族に捨てられたじゃんか。
アルフレッドの家族はアルフレッドのこと、ターコイズ家の役には立たないってわかったら、あっさり廃嫡して切り捨てたじゃん。
でも、アルフレッドが肯定的な意味で言っているのはわかる。
だからこそ頭が混乱した。
「家族……?」
「俺たち、家族になる約束して1年以上一緒に暮らしたろ? ……なり損なったけどな」
「それは……家族っていうか、夫婦じゃん。え……」
戸惑う。
家族はわかんないけど、夫婦ならわかる。
友達以上、夫婦未満の関係性ってことよね。それはすごくしっくり来るような、首を傾げたくなるような……
「アルフレッド、あたしのこと、奥さんみたいに思ってるってこと?」
足が動いて、彼の足に触れた。
ぴく、と彼が反応したのが分かった。
あたしごときを意識しているようだった。
……今更、足くらい。もっとすごいことまでした仲なのに。
「あたしのこと、好きなの?」
「……そんなこと聞くんじゃねぇよ。阿呆」
真っ赤になって、アルフレッドはプイとあたしから視線をそらした。
それは、肯定しているのとおんなじで。
……ええぇ、なにそれ。
こんな簡単でいいの?
あたしは、なんでもいいよ。
友達も家族もいないあたしのそばに居てくれる、唯一の人。アルフレッドを手に入れられるなら、友達でも、恋人でも、奥さんでも、なんだっていいよ。望む通りにするよ。
だけどどこか、少しだけ、がっかりしている自分もいる。
男なんて。所詮。
「じゃあ、──キスする?」
じっと顔を覗き込んで、誘う。アルフレッドが動揺したのが伝わってきた。
彼は何かに耐えるように一度目を閉じて、それから首を振った。
「……やめとく」
「え、なんで?」
「止まらなくなりそうだから。俺、今度こそお前を大事にしたい」
「……ふぅん、そう?」
表面上はいかにもどうでもいいみたいに返事をしながら、本当は嬉しすぎて、飛び上がりたいほどだった。
しなくていいんだ。
男があたしを好きだと言うときは、決まって身体目当てだった。
しなくても、あたし、ここにいていいんだ。
「ほら、もう寝ろ。お前、いま魔力も体力もギリギリだろ!」
「ん……」
照れたアルフレッドが、強引に会話を終わらせた。
あたしも泥のように疲れ切っていたので、素直に目を閉じる。
──窓の外からは、雨の音。
雨の音は、日本と変わらない。
あたしはいま、どこにいるんだろ。
ここはどこ?
本当はあの、カビ臭いホテルにいるんじゃないだろうか。
だってあたしなんかに、こんな幸せなこと、起こるはずない。
散々喘がされて、疲れ切って眠ってる間に見ている夢なんじゃないだろうか。
ゾッとして慌てて目を開けると、アルフレッドがあたしを見つめている視線と目が合った。
「眠れない?」
「……うん」
「しゃあねぇなぁ」
ぎゅう、と彼は私を抱き寄せて。
赤ちゃんにするみたいに、背中を、優しく叩く。
「──……ありがと」
雨の音は遠くに霞んで、アルフレッドの息遣いだけが耳に届く。
ああ、あたしはここにいる──
安心と同時に眠気が押し寄せてきて、あたしは意識を手放した。
──めちゃくちゃよく寝た。
起きたら、頭がスッキリしてた。
「おはよう」
「……おぅ」
あたしが目覚めると同時に、アルフレッドも身じろぎする。
アルフレッドのヒゲが少し伸びているのが見えるくらい、顔が近い。
なんだか気恥ずかしかったけど、あたし以上にアルフレッドが恥ずかしそうにしているので、冷静になれた。
窓からは陽の光が差し込んでいる。
昨日の雨は、微塵も面影がない。
先に布団から出ると、身体が軽い。
こんなに爽やかな朝はいつぶりだろう。
「あたし、教会に帰らなきゃ。アルフレッドは?」
「俺は今日は非番だけど……警備隊の詰め所に顔出すかな。昨日は先に帰らしてもらったし……」
彼も布団から起き上がって、首をゴキゴキ、と鳴らす。
あたしと一緒に寝て、身体が固まったようだった。
……さて、困った。
昨日着てきた服は、床に脱ぎっぱなし。いや、部がされっぱなしとでも言おうか。
要するに、聖女のローブ含め、全部びしょ濡れのままだ。
このままアルフレッドの服借りて帰ったら、いかにも朝帰りだなぁ?
……ま、いっか。
事実朝帰りだし。艶めいたことは一切無かったけれど。
軽く身支度をして、アルフレッドの部屋を一緒に出た。
まだ太陽は出たばかりで、少し肌寒い。
どちらからともなく、自然と、手を繋いだ。
途中、少しだけ朝市に寄って、ホットドッグを買った。
食べながら二人で歩いていると、平和で、普通の恋人同士みたいだった。
……恋人、でいいんだよね?
「で、この後どうする?」
「どうするって……あたしは教会に帰って仕事だけど」
「や、そうじゃなくて。──俺たち一緒に暮らすか?」
急展開な話だった。
今回はメイベルさんがお休みなので、本編ではお伝えできなかったのですが……
お酒は睡眠の質を悪くします。
寝付けないからと深酒するのは、あまりオススメしません。
眠れない時は無理に寝ようとせず布団から出て、スマホは触らず、部屋は暗いままに暖かいお茶でも飲んでみてはいかがでしょうか?
……という私が、眠れない夜はついなろうを読んでしまうんですけどね!
次で一旦、ミモザのお話は一区切りです。
貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました。
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