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推定悪役令嬢の自閉スペクトラム症育児〜異世界で児童精神サロン開きます!〜  作者: こん


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番外編:死にたがりの聖女4



「うん、一旦黙ろうか」


 ハンスさんが冷静に、男の口に布を押し込んで、その上からさらに別の布で縛る。男はもちろん抵抗するけど、あっという間にテキパキと縛られて、喋れなくさせられた。


「アルフレッドくん、次にこういう現場があったら、さっさと口を封じてね。被害者にこんな言葉、聞かせられないでしょ」

「……すいません」


 男はなおもモゴモゴと何か言おうとするけれど、猿ぐつわのおかげで何を言っているのか全く聞き取ることが出来なくなった。

 男の口が塞がったことにホッとして、だけど男の言葉が頭の中をぐるぐる回ってる。


「すみませんジェシカさん、ミモザさん、お耳汚しを。いま当直体制で人手が少なくて……応援が来次第、この男は警備隊の詰め所に連行しますので」


 穏やかなハンスさんの口調に、我に帰る、

 そうだ、あたしにできることをしなくちゃ。


 動揺を押し殺して、あたしは無理やり、意識をジェシカに戻す。

 日中一日治癒魔法を使っていつも通りの診療をして、まだ回復しきっていない中での治療だ。

 酸欠を起こしたみたいにめまいがして、頭がずきずきと痛む。 

 

 ──もっと強く、別れるように言ってれば。


 もっと踏み込んでいれば。

 暴力がエスカレートしていることは気付いていた。

 頻度が上がっていることも。


 ──あたしの、せいで。


 いつだって、空気を読んで生きてきた。

 ヘラヘラ笑って。

 ジェシカの気分を、空気を悪くするのが嫌で、踏み込むのを避けてた。


 ──あたしがいなければ、ジェシカはこんなに殴られることはなかった。


 心臓が軋む。

 あたしの生命力とか、魔力とか、そんな風に表現されるだろう何かが、もう限界だと悲鳴をあげてたけど、無視をしてあたしは最後の一滴まで力を絞り切ろうとして──


 ぷつ、と手応えが途切れる感覚がした。


 同時にジェシカを包んでいた光が急にフッと消え去って、治癒を完遂できたんだろうことが理解った。


 ジェシカは血とか涙とかその他体液だとか、諸々で全身は汚れてはいるけれど、四肢は元あるべき場所に戻り、青白かった肌も血色を取り戻して、穏やかな寝息を立てていた。


 ……あー、死ねなかった。

 

 その場にずるずると座り込む。

 もう身体に力が入らない。

 座ることさえ覚束なくて、身体がぐらりと傾く。

 頭打つかな。まぁいいか。もう無理。


「──ミモザ、頑張ったな」


 覚悟した衝撃は来ず、代わりに背中に温かい感触。

 倒れ込むあたしの後ろに立って、アルフレッドが受け止めてくれたらしかった。


 いつの間にか、あたしが治癒魔法に集中している間に、応援の警備隊員たちが到着したようだった。

 部屋の中はザワザワと男たちで騒がしくなっていて、簀巻きにされた男が運び出されるところだった。


「大丈夫か?」


 あたしの顔をのぞき込む、空色の瞳。

 心の底からあたしを心配してくれてるのがわかる。

 彼は本当は、優しい人なんだ。

 そんなところに惹かれたんだった。

 

 だいじょうぶ、へらりと笑って受け流そうとしたけど、声が出ない。

 もう指先すら動かせない。

 後から後から勝手に涙が溢れてきて、──あれ、おかしいな、止まらない。


「…………ッ、」


 だいじょうぶなわけない。

 ごめん、もう限界。


 同僚には嫌われてて。

 仲のいい友だちもいなくて。

 家族もいない、恋人もいない。

 お仕事だけが、誰かを救うことだけが、あたしを繋ぎ止めてた。


 だけど、もうだめ。

 あたしのせいで、ジェシカはこんな事になってしまった。

 

 ぽろぽろと涙がこぼれて、でも自分では拭うことすら出来なくて。

 泣きながらぼんやりしてるあたしを見て、アルフレッドは困ったように顔を顰めた。

 それから、はぁ、と一度だけ溜息をついて、頭をガシガシと掻いた。


「すいません、ハンスさん。──俺、今日はコイツ連れて帰ります」


 ひょい、とあたしの脇から手を入れて抱え上げて、背中に背負い直した。

 身体に力の入らないあたしは、されるがままに背負われる。


「相当参ってそうなんで」


 背負われたあたしからは、アルフレッドの顔は見えない。だけど、背中が温かい。

 なによそれ、この間まで路頭に迷ってたくせに偉そうに!

 だけどあたしはもう嗚咽をあげるのみで、何にも喋れない。


「あれ、アルフレッドくんとミモザさんってそういう関係?」

「……元、婚約者っス」

「元、かぁ……」


 ハンスさんはやや微妙そうに一瞬渋い顔をしたけど、あたしが彼の背中に暴れもせずに大人しく収まってるのを見て、うん、と頷いた。


「そっか、じゃあミモザさんのことはアルフレッドくんに任せようか。教会にはぼくの方から連絡を入れておくよ。明日の朝には教会まで送ってあげてね」


 今日の夕飯でも決めるかのような気軽さで、ハンスさんはアルフレッドを送り出した。

 泣いているあたしを慮っての判断だろう。


 アルフレッドの背中は、広くて、ゴツゴツしている。

 この背中に爪を立てたことは何度もあるけれど、こうやって背負われるのは初めてだ。

 

 雨がざぁざあと打ち付ける中、手足は氷のように悴んで。ただ、アルフレッドとくっついている場所だけが、温かかった。




もう少しだけ続きます…!


貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございました。

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