第2話 幕間 ある双子の会話
簡素な部屋で携帯端末に表示される表示を物憂げな顔で眺める銀色の髪をした若年の男がいた。簡素な椅子に座りながら日の光を頼りに静かにその端末を眺める姿は絵画のようでもあり、男女問わずため息をつきたくなるような姿であった。その目線の先にある携帯端末にはある情報記事が書かれている。
―そこには
大手五大企業である、『ホワイトヘザー』『ティタニアル』『アルトール』『アルタベーン』『J&B』社らが共同声明を発した。傭兵の急激な減少に伴い五大企業は独自勢力として『イミテーション』と呼ばれる戦略兵器を運用するとのこと。これによって五大企業による軍事的実行部隊が事実上強化されたことに。また、それにより他社のP,M,Cの事業に大きな影響が出る可能性が高い。しかしながら、共同声明によると本事業の運営に対して中央政府の承認を受けたとも発表しており、事実上の政府側の軍事力強化に使われると予想される。
先日二番街で発足した『カロリック』社がマスタープログラムの販売を開始したとのこと。これにより部外秘であった人型M,A(通称スカベンジャータイプ)の操縦方法が確立することとなり、今後は安価で人型M,Aの運用が可能になるとみられる。また、これによって五大企業をはじめとした企業も続々とマスタープログラムの販売を始め、価格競争が始まっている。なお、『カロリック』社は先日の緑化組合との癒着が噂されていたため、中央政府の調査が入ったが問題なしと判断された。品質に問題は無く、性能としてもごく一般的な人型M,Aを運用するに当たって使用するに十分な性能を保持しているという試験結果もあり、今後の成長が見込まれる。
ーとある。
一通り眺めた後、改めてため息をつく。ここはカロリック社の取締役用休憩室。休憩室と言ってもそこには一切の娯楽は無く、あるのは簡素な椅子と卓が置いてあるだけだ。
そして、周りから見れば奇異の目に晒されるだろうが中空を眺めながら一人で静かに誰かに向けて語り出した。
「姉さん、こちらは準備完了です。大丈夫ですか?」
しばらく黙っていると、男は優しい微笑みを浮かべた。
「よかった。元気そうで。色々と後処理も大変だったんじゃないですか?」
彼は手元に視線を向けて語り出す。
ここはそこからはるか遠くに離れた九番街の公使と呼ばれる女性にのみ与えられた部屋であり、多くの調度品が置かれた部屋であるがそれに触れられた形跡は無く、手元には使い古された端末がある。女性は静かにその時間を今か今かと待つ。まるで一日千秋の思いであるかのように待つその姿は整った容姿から神々しさすら感じさせる。
「えぇ!大丈夫よ!そちらは大丈夫?色々と情報が入ってきてはいるものの確証が無くて・・・。」
待ちに待った言葉を聞き明るい表情となり、その先にいない誰かに向けて心配そうな顔を向ける。
「それこそ問題ないわ。皆、色々と頑張っているもの。誰かのために戦うということは大きな力になるもの。」
ふふ、と微笑み手元に視線を向けて語り出す。
はるか距離を挟んで鏡合わせのような姿となった二人は会話を続ける。
「あれからそちらはどうですか?それにしてもあれだけの戦力を差し向けるとは、五大企業もやってくれましたよね。」
『そうね。うちとしても10人が全員帰ってこないのは手痛すぎる状況よ。けど、今回の敗北で企業側の介入があったからこその反発がうちでは更に起きているから実は助かっているわ。』
「まったく前向きですね・・・。ですが、うちとしてはPMCへの売り込みに失敗してしまったせいで理想通りにいきそうにないです。」
『大丈夫よ。むしろ、うちではあの10人でもダメだったと更に志願者が増えているもの。その分こちらで挽回できるわ。』
「ありがとう、姉さん。こちらもひとまず、政府の追及は十分に回避できました。それでも警戒はされるでしょうが、ね。しばらくは大人しく商売にいそしみます。」
『うちもよ。にしても少しも被害を与えられないなんて・・・。まったくほんの少しでも被害は与えられればもう少し切り崩せたものなのに。』
「まったくです。敗残兵が多少いいおもちゃを貰っても意味が無いんでしょうね。」
『ふふ、ありがとう。でも、そうでもないわよ?あれを手に入れられなければ足元にすら及ばないとわかった子たちは高い金を払ってこぞって注文しているわ。』
「どうしようもないですね。そもそも輸送車の奇襲でやっと戦えていたのに今更になって差を自覚するなんて・・・。」
『ふふ、自覚してくれただけ十分じゃない?これでもっとより良い武器をと今より頑張る姿が想像できるもの。長い目であれば必要な敗北よ。』
「それでもあれだけの兵器が一気に壊れたのは痛いんじゃないですか?」
『そうなのよ。しばらくは大人しくするわ。次は大物が相手だもの。今回の比じゃないくらい大変なことは明らかでしょ?』
「です、ね。たかが傭兵のM,Aやイミテーションに負けるようであれば計画の大幅な見直しが必要になりますからね。」
『えーと、イミテーションって?』
「あ!そうですね。企業のあの兵器という名前、イミテーションと名付けたそうですよ?」
『S,Aの模造品、ということね。プライドの高い企業にしては珍しい名づけね?』
「ふふ。ですね。・・・名前と言えば、あのプログラムの名前どうします?こちらでは直結システムと便宜上名づけていますが、そちらでいい案って出ました?」
『そうそう!決まったのよ!アサイラントシステム、という名前なの。素敵でしょ?』
「センチネルアーマーという番兵の鎧に対して、襲撃者の規格、ですか。おあつらえ向きですね。
残念なのはこちらでその名前を使えないことですが。」
『名前を聞いた頭のいい子たちは感づいてやる気をだしているわ。』
「しかし、思ったよりこちらでは売れていなのは失敗したことを抜きにしても不可解ですね。」
『老いることもない、痛みもない、感覚も鋭敏化する、そして、圧倒的な力を得られる、こんなに素晴らしい力はないのに・・・。』
「力ない傭兵ならもっと欲しがると思ったのですが、今のところ問合せだけ来て発注自体はありません。」
『向上心がないのでしょうね。しかたないわ。』
「そう、ですね。やはり商売というものは難しいですね。」
『期待しているわ。・・・そういえば最近・・・』
その後はたわいもない会話に終始し、部屋で一人行われる二人の会話は日が傾くまで行われるのであった。




