第2話 幕間 激闘
種類として数多あるM,Aのうち最高価格と言われてもおかしくない浮遊型戦車は、接地していないことから概ねどのような戦場にも対応可能であることが売りに出されているが、このM,Aの売りはその万能な走破性と機動力ではない。この機体の長所は通常M,Aとは比べ物にならないほどエネルギーが必要なスカベンジャータイプの動力となりうるプラズマリアクターを使用していることにある。それにより浮遊しているとはいえ、十二分にある動力で様々な兵器を運用することが可能なであり、加速力もスカベンジャータイプをはるかに超えている。
それらの長所によりこれまでの戦場において、例え相手がスカベンジャータイプといえど自分が圧倒的な不利となる戦場というものは経験が無かった。S,Aにでくわせば圧倒的不利になるだろうが、それはどのような機体であっても同じことであるし、そのような形で不穏分子と目をつけられるようなことはしない。
だからこそ、七番街における有数の傭兵企業である『フローティングシープ』の実行部隊の長であるゼインヴァルは焦りを隠すことはできなかった。
初めに見たときはまるで戦場に似つかわしくない上、演技がかった話をしていたため戦場に不慣れなものだろうと、迎撃に向かったものたちはどこか油断していたとも言える。その油断は恐らく自分たちだけではないだろう。
だが、まず、その身のこなしかたは異常の一言に尽きるものであった。その見た目からは予想できないほどの身軽さで躍りかかるようにこちらの頭上へ飛び上がったと思えば、後ろから屈みこむように姿勢を低くして体を動かして襲いかかってきたのである。
こちらも七番街で傭兵として起業している者としての自負がある。想像外の機動による攻撃だったが瞬間的に機体を後退させて距離を取り、1機の後ろからプラズマリアクターの恩恵により自機に備え付けられている電磁式高速砲で攻撃する。
純白の機体はまるで後ろに目がついているかの如く機体を反らせて弾丸を回避し、近くの機体に攻撃を始めた。
「くそっ!後ろに目があんのかっ!?」
本音を言えば並の腕程度の操縦者が乗るスカベンジャータイプから攻撃を受けても恐ろしいと感じることは無い。何故ならばスカベンジャーは人型を模しているが人と同じ動きができないが人と同じ制約があり、どうしても正面方向のみにしか注意をむけられない上、攻撃を避けるにしても関節が少ないため身を反らすような繊細な動きもできないからだ。さらに加えればその巨体ゆえに回避機動はどうしても大味になってしまう。
だが、目の前にいるスカベンジャータイプはその弱点を感じさせない。
位置取りや攻撃方法には荒があり、熟練の腕を持つ相手には見えない。しかし、その機体の身のこなしは一級品であり、まるで一流の腕であるかのような紙一重の回避と身のこなしを続けている。
―S,Aもこんな感じなのかよっ!?
今までの常識が通用しない相手に驚愕しつつも距離を維持しつつ射撃を行うが、どれも紙一重の動きで避けていく。
その回避精度は凄まじく、この10分近くの間、それこそ熟達した操縦者でも避けれないような攻撃を避けきっているのだ。数的な優位はこちらにあるはずなのだがその差は縮められるかのようにこちらは防戦に近い状態になっている。
だからといってこちら側も無条件にやられているわけではない。数少ない互角の機動を見せる『サジタリウス』は『ガイア』の支援を受けている上であるが2対1の状況でこう着状態を維持している。
「させるかぁっ!」
気合を乗せて電磁式高速砲で今まさに味方のスカベンジャータイプを落とそうとしていた未確認機体の1機に対して横から攻撃を加える。未確認機体は右手に持つライフルをわずかにずらして攻撃を回避する。まるで、全ての方向に視界があるかのような機体の動きを見て対応策を考える。
―十字放火、時間差、フェイント、と。どれも躱されたか!あとは、どうする・・・!
また、1機追い詰められて味方機が行動不能にされたのが横目に見える。狙い自体は粗いのだがこちらも一瞬の回避をそうそう何度も成功させ続けられるものではない。
―だからこそ、奴らの異常さが際立つんだが・・・。
また味方の1機が戦闘不能になったのが見える。
いくつかの機体が散弾を使って当てに行こうとしているが、そういう機体に対しては一斉に距離を取っており、数機の遠距離機体によって足止めをかけられており自由に攻撃が難しくなっている。
機体を強烈な速度で横に動かし、相手の機銃による攻撃を避けながら牽制として備え付けの火器である低反動バズーカで攻撃するが弾速が遅いため余裕をもって避けられる。
「・・・どうするっ!?」
また1機また1機と行動不能にされていき残る味方機は『真核』の対応をしている味方も含めてスカベンジャータイプが15機、通常M,Aが19機となっている。機体を前後左右に振りつつ、孤立しないよう機体を動かしながら少しでも勝機を探すために攻撃を重ねる。
「どうするっ!?」
電力の充電が完了したことを見て電磁速射砲を放つが放った瞬間に未確認機体が体を左に動かし始めているのが見える。外れることを直感し、顔を歪めたくなる、が、その回避機動に合せて味方の誰かが放った投擲武器である炸裂ダガーが電磁速射砲の弾丸に当たった。
投擲ダガーにある炸薬により至近距離から爆風を受けて未確認機体が避けた左の方向に勢いを殺せずに傾ぐのが見えた。
その瞬間を見逃さなかった味方が集中砲火を重ねるが左手一本で受け身を取り、すんでのところで回避される。
だが、回避した機体は無理な受け身を取ってしまったせいでその左手から火花が上がっており、明らかに動きがぎこちなくなっている。
「いけるっ!無敵じゃねぇんだ!」
追い討ちをかけるように他の携行武器で攻撃するが敵部隊による援護を受けて態勢を持ちなおされてしまう。
「全員。敵味方識別及び射線誘導線を切れ。」
静かだが尊大さを感じさせる声が無線から響く。
味方による誤射等を防ぐため銃口から放たれている安全装置の全てを切れ、とのことを言っているのであった。乱戦の真っただ中でやるには正気の沙汰とは言えないものだったが、ゼインヴァルは躊躇せずに安全装置である機能をすぐさま非作動に切り替えて攻撃すると、避けられたが明らかに反応が遅くなっているのが見える。
戦場の勢いがこちらに傾くのが感じる。ここまでくれば味方に当てることを恐れる危険より当てられない現状の方が問題になるならば、と綱渡りをするような危うさの中であったが反転攻勢をかけていく。
ふと遠目に『サジタリウス』と『ガイア』が孤立した1機を追い詰めているのが見える。だが、音に聞く『ガイア』や『サジタリウス』の技巧をもってしても追い詰めるにはあと一押しが足りていないようにも見える。
だったら、とゼインヴァルは戦場から少し距離を取りつつ電磁速射砲を構えて、間合いを測る。噂では『サジタリウス』は自分の戦場を荒らされることを好まないらしいが、それとは逆に戦場では使えるものは何でも使うと聞いている。
構えて呼吸を整える。後は好機を待つのみだが・・・。
「かまわん、やれ!」
乱戦の最中、誰に向けられたかわからない『サジタリウス』の言葉を自分だと捉えて、ゼインヴァルは高速で動く3機の合間を抜くように電磁速射砲を放つ。
紫電が走り、未確認機体に音速を超える1撃が襲う。
だが、未確認機体は明らかに死角から放たれた上意識外から放たれたその1撃に対して腕を持ち上げ、半身をずらして潜り抜けようとする。弾丸は機体の胴体部分を削りとりながらも攻撃が通り抜ける。
「それでも!あれを回避して見せるかっ!」
だが、避けた機体はある程度動いていたが、突如その動きの勢いのまま倒れていった。
機体の削り取られた場所をみるとある違和感に襲われる。
その鉄の人型には操縦席がなかったのである。だが、遠隔操縦をするにしても近くにそれらしき送信波を放てるような何かは見えない。
―だが、そもそもこいつらの動きからすれば・・・。
「てめぇら・・・。人をやめた、ってのか?」
ゼインヴァルにとってはただ、直感にしたがって何気なく口から出した言葉だったが、それを聞いたのか敵部隊が一斉に動きを止めて距離をとった。
「・・・ほう?この短い時間で分かったのか?貴様らのような愚劣な犬でも分かるものがいるか?この崇高さが!」
両手を広げ、高く掲げて語りだした。普通に考えれば両手を掲げる動作など機体に無駄な動きは登録しない。それは、つまり―
「ああ!ああ!すばらしい!人ではたどり着けない頂きに私たちはいるのだ!みよ、この人の体から解き放たれた美しき肉体を!」
―彼らは人として機械に直接自分の脳をつないでいることを示していた。
それならばすべてに説明がつく。人ではあり得ないような反応速度もありとあらゆる火器管制情報から本当に危険なものだけを見分けられる情報の取捨選択ができることも。
「分かったのならば、お前たちでは勝てないことも分かるだろう!すばらしいぞ!お前たちの体では永劫にたどり着けない場所にいる!敗北を見えたのならば大人しく退くがいい。求める物はホームからの脱却。そのために揺籃は巣立ちのためにも壊さなければならない。」
演説を聞く道理はないと味方部隊から銃撃が繰り出されるが反応は凄まじく残る9機のうち1機にも当たらない。
「だからさせねぇつってんだ!俺たちは七番街の傭兵だ!」
「私たちも退けぬのだよ!私たちに残されたものは最早何一つない!この使命こそが私たちの生きる意味!貴様らもただ与えられた特権に生きているだけではないか!」
―てめぇらの勝手な理屈なんぞ知るものか!
ゼインヴァルはまたも機体を高速で動かしながら戦場を駆ける。戦闘機動をしばらくたつと、フローティングシープは3機からなる部隊なのだが1機が落とされたのが機体のモニターに表示される。
「クウェルトっ!よくもっ!」
ゼインヴァルは憎悪の炎をその身に焦がしながら攻撃を重ねる。
「アステリズモ達が『真核』を撃退した。そちらに応援が来るぞ!なんとか頑張ってくれ!」
ゼインヴァルの後方支援部隊から情報が入る。ゼインヴァルは歯ぎしりをしながら戦場を見る。こちらが少なくない犠牲を払って仕留めたのが1機、と半壊が1機、まるで割に合わない。少なくとももう1機だけでも直撃弾を当てねば気持ちの収まりすらつかない。
「ゼインヴァルからアルモリー!6号作戦を俺が仕掛ける!皆も手伝ってくれ!策がある!」
残る同門の1機に声をかけ、乱戦の中、中距離兵装をした敵部隊の1機を他の味方機体の協力の元で引き離していく。向こうとしても先ほどより敵味方の識別に1拍かかるようであれば個別撃破は望むとことのようで上手く釣れた。
「てめぇも大層なお題目で戦ってんのかよ!」
「あなたもわかるでしょう?この世界は歪よ!」
ゼインヴァルは正面の未確認機体から少しでも狙いを逸らすために声をかけると女性の操縦者が言葉を返してきた。
―のってきたか。なら、もうちょいだ!
「ふざけろよ!何が歪だ!」
「っ!たかが通常M,Aのくせにすばしっこい!あなたたちには分からないでしょう!戦う理由だって緊急依頼だから!傭兵だから!金になるから!でしょう!?」
機体の限界ぎりぎりを攻める動きで狙いを絞らせないように動く。未確認機体が近距離型であれば距離を詰められてこちらがやられてしまう、そして遠距離型であれば距離を取られてこちらの望む通りにならないため、中距離型を孤立させたがどうやら読み通り、近く素早く動く奴は中距離型にとって苦手らしい。それでもこちらに対して応援をよこさないのはたかが通常M,Aと侮っているからだろう。
「それの何が悪い!」
「そんな奴らに負けるわけにはいかない!あなただって今、この世界全体がホームで賄えていない現実が見えているんでしょう!」
ゼインヴァルは機体を左右に振って砲撃しつつ、直角的な機動をする際に発生する砂煙に紛らせて作業用の格納箱を外に放出する。僚機のアルモリーも同じように砲撃をしながら近くに放出していく。
「知るかよ!言ってんだろ!俺たちは傭兵だ!依頼で戦って何が悪い!」
「それが戦う理由として低俗すぎると言ってるのよ!あなたは本当の意味で戦う理由を持っていない!」
―仕込みは・・・!?まだか!
気付かれないように、死線の際を攻めて回避と攻撃を繰り返す。
「戦う理由に低俗も高尚もねぇだろうが!世直しなら余所でやれ!」
「少なくとも短絡的思考の戦う理由なんて世界にとっても迷惑よ!」
―まだか!・・・いけるか!?あとは博打だ!
「大きく出てんじゃねぇよ!・・・ぐおっ!
・・・てめぇらたかが数人が望んだ世直しなんぞを望まねぇ奴らの方が大勢いるかもしれねぇだろうが!だが、な!何より!お前は俺の仲間を傷つけた!」
「怨恨に駆られて戦って!あなたたちみたいなのがいるから!あなたたちのせいで!」
「怨恨上等だ!てめぇみたいなやつは!」
「道連れ!?させない!」
突如としてゼインヴァルの機体が直線的に動き、まるで組みつくように突撃してきたの受けて若干焦りを帯びた声で回避と攻撃を行う。
「はっ!てめぇやっぱり弾丸はある程度処理できてもこういう戦闘は苦手か?」
「甘く見るな!そんなもの!この体なら!」
敵機体は射撃を繰り出しつつ宙返りし、ゼインヴァルの機体の上を飛び上がり上から正確な射撃で操縦席部分へ銃撃を加えて飛び降りた。ゼインヴァルの愛機はバランスを崩して勢い余ってつんのめるように転がっていく。
「・・・ふぅ。守るものを持つ方が強いのは当たり前でしょう。捨て身なんて。」
―捨て身なんてしていねぇよ、ボケが。
余裕をくれている敵機体の足元の砂塵の中、見上げる形でゼインヴァルは毒づき、手元の無照準型ロケットで股関節を下から打ち抜いた。
「・・・え?」
発せた言葉は一文字。特注で調合された対スカベンジャータイプ用の火薬により大きく吹きとび沈黙する。
「ふっ、そうだろうよ。捨て身はバカらしいだろ?だが、それをお前らが言うか?」
降り注ぐ破片から少しでも身を守れるように体を小さくしながらヘルメットの中にあるマイクで皮肉気に語る。
ゼインヴァルは戦闘中に携行火器を外に放り出し、この機を伺っていたのである。本来は地上部隊の掩護用に用意されたものであるが、携行火器を射出して候補地を作った後、砂塵に紛れてゼインヴァルは機体から脱出して地上に降りた。ゼインヴァル機は近くの僚機を通して拠点から遠距離操縦にして、ゼインヴァルは機体に追い込まれるであろう近くに待機。そして好機を見つけて直撃させたのである。
脱出装置を取り付けられている公的機関向けのM,Aならではの戦い方であった。ゼインヴァルとしては相手の意識をよそに向け続けるために喋りつづけて戦うのは骨が折れた。途中、喋りながら高速機動したため、衝撃で何度か口の中を大きく噛んでしまった。そのせいで口の中が血まみれになってしまっている。
ヘルメットを脱ぎ、先ほどまで猛威を振るっていた未確認機体を後ろにしつつ息をつく。
「あ、あ、あ、ああなあななあなた、ただだだけけだけは。」
ゆらりと、吹き飛んだ未確認機体が立ち上がろうともがき始めた。ゼインヴァルは冷めた目で立ち上がろうとしている機体を見た。
「ゆ、ゆるるさ、ゆるさななないぃぃ!」
未確認機体は緩慢な動作で立ち上がり銃口を向けようと動き始めるが、他の味方機の砲撃で完全に沈黙する。
「わりぃ、アルモリー助かった。あとで余裕を見て拾ってくれ。
・・・ったく、戦う理由なんぞ目の前にいる家族と仲間を守るためで十分だろうが。嫁と子と仲間の生活がかかってんだ。傭兵が戦う理由なんぞ、それで十二分すぎるだろう。俺たちの生活を脅かすなら、緊急依頼だろうが、金だろうがそんなもん戦う理由にゃ小せぇだろうが。・・・くそっ、だから酔っぱらいはたちがわりぃんだ。」
無線で味方に拾ってもらうように依頼した後、血が混じった唾を吐きながら誰に語るわけでもなく呟いたその言葉は砂煙の中に立ち消えていくのであった。




