第2話 戦闘 甲矢
横殴りしてくるようなGが体を襲う。急激な加速と方向転換により体のいたるところが悲鳴を上げる。機体の装甲を頼りに荒れ狂う弾幕の中を駆け抜けるように機体を走らせる。弾丸が機体の装甲にあたるたびに機体が大きく揺れる。そんな荒れ狂う戦場の中、ファルフリードは顔をしかめつつ現状を確認する。
戦況はまさに乱戦と呼ぶにふさわしい状況となっていた。『オラシオン』を駆るティメスは思想はどうあれ腕は優れており、防衛戦力のM,Aを着々と戦闘不能に陥れていく。『オラシオン』は中距離型の射撃戦に特化した装備となっており、機動性を確保しつつバランスのとれた構成で自分に有利な位置を確保しつつ速射性を重視した堅実な攻めを続けていた。
「私は伝道者!緑化組合の一員!ならばその使命を帯びている限り、死にはしない!自らの大義を持たない輩に私は捉えられないぃ!」
ティメスはどこか狂気じみたように叫び声を上げながら戦場を走る。
数刻前、味方のスカベンジャータイプは当初は戦場を離れようとしていた『真核』に対して関せずに『アウトノミア』を相手にするため迎撃に向かおうとしていた。『真核』のスカベンジャータイプ3機は積極的に戦闘行為をせずに自分たちへ銃口を向けたM,Aを迎撃していたが、
「私の使命は偽なる指導者に刃を向ける誇り高き者たちへ協力すること!」
と叫ぶと一転、苛烈に後ろから攻撃を仕掛けてきたのであった。これを受け、防衛M,A部隊の戦力は2分することを余儀なくされてしまった。襲撃部隊の10機がどれだけの脅威か分からないためスカベンジャータイプを駆る者である『サジタリウス』及び『ガイア』を中心として『アウトノミア』へ迎撃に向かうものと、通常M,A26機に加えファルフリードともう1機のスカベンジャータイプによる反逆組への迎撃行動に移る者に戦場は分かれた。
分かれたというものの戦場自体は近い場所であるため、双方の場所で放たれた射撃はお互いに影響しあうため乱戦の様相を呈しているのであった。
「ぐぅっ!」
体がGに耐えかねて喉から苦悶の声が意図せず漏れる。だが、補助ブースターによる急ブレーキを行ったことで機体の行く道の先を榴弾が抜けていく。殺しきれなかった慣性を活かして今度は後ろに向かってブースターを吹かし、正面に向かって再加速する。
乱戦を生き延びる術はとにかく動くことである。その中で自分にとって危険な存在が見えれば動きを躊躇しない、ただそれだけだがアイーシャたちの的確な補助を受けても機体のダメージが積みあがっていく。
―アルガスには後で感謝が必要だな!
思考の片隅でアルガスに感謝する。ウォーターストライダープランによる大げさなまでの追加装甲が無ければ機体はいつ行動不能に陥ってもおかしくないようなダメージを受けている。だからといって損傷を受けないように消極的な戦闘を繰り返せば積極的に攻撃してくる『真核』の集団によって味方が撃墜されてしまう。自分の装甲を頼りに積極的に囮になることによって数的優位を活かしながら敵部隊のM,Aを落としていく。
「なぜっ!なぜだっ!戦うべき理由もない!ただ流されるままに暴力を振るうお前たちに大義をもつ我らが負けるわけがないのにっ!」
ファルフリードはティメスの悲鳴をよそに機体を強引に振り向かせ、装着されている火器による弾丸の雨を降らせて囮として回避しながらもM,Aに着々と被害を与えていく。
だが、敵もさる者、傭兵として戦場に立つものとしては優秀だからこそ、味方の被害も同様に着々と増えている。ファルフリードとしては不本意だが、現時点で戦場における役割はファルフリードとティメスは全く同じ形となっていた。
多数のM,Aをスカベンジャータイプ1機が足止めしつつ、残りの味方で各個撃破を目指そうとしているのだが、同じ戦法をとっているのであれば数が優位な防衛勢力側が有利となる。
『真核』の集団は数的不利を果敢な攻めで堪えていたが、長くは続かずに少しずつその数を減らしていった。
「やはり!あなたか!魔王!」
「そのあだ名はやめろっつってんだ!」
ティメスの絞り出したかのような怨嗟を込めた呻きに対して反射的に叫び返す。高機動を繰り返す機体で声を上げるのは舌を噛む可能性があるためやりたくないのだが、こらえきれずに反射的に叫んでしまった。
ティメスの『オラシオン』が向き直ると、一斉に反逆部隊は散開し、『オラシオン』とファルフリードの疑似的な1対1の形が作られる。
「あなたは!なぜそれだけの力を持ちながら流されるままにその力をふるうのですか!」
ティメスは回避機動をとりながらこちらが得意としている近距離に入らないように、それでいて牽制射撃を挟みつつも要所で補助脚に向かって効果的な銃撃を繰り出してくる。
「大義もないあなたが!なぜ!この世界が明らかに歪められた方向に成長しているのが見えるでしょう!競争、闘争の名目で人が人を騙すことを良しとし、傷つけることを良しとし、自分さえ良ければ良いと相手を貶めることを厭わない!安定を求める者が増えれば政府は恣意的に闘争を行わせる!」
それがどうしたとばかりにファルフリードは機体を加速させて少しでも距離を詰めようとするが、相手は腕も一流な上、装備も充実しているため距離が詰められない。少しでも直線的な動きをすれば直撃弾を的確に放ってくる『オラシオン』に対してファルフリードも苛立ちを隠せない。着々と銃撃が装甲に損傷を与えてくるため操縦席の画面には赤色の警告を示す言葉が埋め尽くされている。
「これが歪でなくてなんですか!平穏を望むものを、安寧を望むものを虐げる政府が正しいものであるはずがない!だから私は!」
「それはお前が誰かに対して迷惑をかけていい理由になるものかっ!」
これだけは言いたかったとばかりにファルフリードは叫び返す。わざと銃撃を正面に受けるように機動したファルフリードはここまで損傷を受けてしまえばただの重りとしか意味をなくしていた追加装甲を機体から取り外すボタンを勢いよく押し込む。
直後、煙を噴き上げながら機体の装甲が勢いよくはじけ飛んだ。
「変わることに痛みを伴わないなどあり得ないっ!」
―お前なら見切ってくると思っていた!
煙幕をものともせずに即座にして正確にこちらが動くであろう位置に射撃を放ったティメスであったが、ファルフリードは相手がかく乱されずに冷静にこちらの動きを予想して速射すると読み、目くらましからわざと1拍を置いて弾丸が通り抜けた後に横側から肉薄する。
「っ!理想を食らう化け物め!」
ティメスの怨嗟が耳朶を撃つ。ファルフリードは正確に横から機体の高振動ソード(ホワイトヘザー社製:キッチンナイフ)で相手の腰にある関節に向かって刃を差し込む。
本来、M,A同士の戦闘において白兵戦は想定されていないのだが、近距離における高速戦闘では得てして点となってしまう銃撃より線で捉えられる白兵戦装備が有利になることがある。
腰の関節という機動力の要を大きく傷つけられた『オラシオン』は最早ファルフリードを苦戦させることは無い。相手の死角を突くように起動しながら冷静に銃撃を加え相手を沈黙させる。
「やはり、あなたは魔王だ。暴力の世界で秩序のためでなく力を振るい、無慈悲にその場へ君臨するものなど魔王以外に呼び名はないでしょう。」
発せられる末期の言葉はただの嫌がらせだ。相手の嫌がる言葉を重ね、笑みを浮かべているティメスの姿が脳裏に見える。回り込まれた背面側から至近距離で散弾銃の直撃を食らい、『オラシオン』は正面に向かって吹き飛んだ。操縦者がこの世にいなくなった『オラシオン』はうつぶせに倒れたままとなる。
「最後まで人の神経逆撫でしやがって、ちくしょうめ。」
ファルフリードは吐き捨てるように言い捨て、向きなおる。数の力で押された反逆者たちはこちらがティメスとやりあっているうちに全て撃墜されたらしく、周辺は先ほどのけたたましさから比べれば静かに感じる。
だが、まだ終わらない。
後ろでは爆発音が鳴り響いており、まだ、戦いは続いている。
彼らの命を懸ける時間はまだ、終わらない。




