第2話 戦闘 繰り込み
襲撃拠点付近に傭兵たちは集合し、各々が機体の簡易的なチェックを行っていく。スカベンジャータイプとしては武装、構成や操縦者の技量は平凡であったが、システム周りが優秀な敵集団だったため当初の想定よりこちらの被害は大きくなっていると言える。
「残存戦力はスカベンジャータイプが30機、M,Aが46機。当初の予想に対して思ったより被害が多いのね。・・・さて、本命は、来るのかしら。」
ケイティが通信機越しに情報を入れてくれる。この情報からするとこれまでの襲撃によって約半数以上が戦闘不能になってしまったということになる。正直、戦場に立っている自分としては思ったより相手側の戦力が多さや練度を考えれば状況的に厳しいものになると見えたが半数程度の被害で済んでいるのであれば僥倖だと思う。
同じスカベンジャータイプを駆るものとしては粗製のスカベンジャー乗りとして負けられない矜持もあるのだろうが、その矜持に恥じずどうやら七番街の傭兵は十分な腕を持っていたようであった。
「やつの言う通りなら、あくまでM,Aということになるだろうか。ケイティ、レーダーを注視してくれ。」
「どういう意味?・・・レーダーに反応!新手よ!」
注意を促す声が通信機越しに聞こえる。味方も気づいたのだろう、息をのむ様子がわかる。
「燃料反応はスカベンジャータイプみたいだけど、・・・なに、あれ?」
息をのんだのはその兵器の形状や武装に違和感を覚えたからではない。現れた10機のスカベンジャータイプと思しきその姿が凡そ戦場に似つかわしくないほどに派手に白と銀に装飾を施されていたからであった。だが、油断はしない方が良いと七番街の面々は迎撃態勢を取るためにそれぞれ陣形を整えていく。
「兵装はこれまでの汎用機とは違うみたいね・・・。スキャンする限り、前衛型とみられる機体が5機、中距離兵装が3機、遠距離兵装が2機いるわ。構成及び武装は・・・、M,A大手5社のうちホワイトヘザーの製品は無いわね。」
傭兵たちも公的機関もM,Aを手に入れるのであれば概ね大手5社ホワイトヘザー、ティタニアル、J&B、アルトールそしてアルタベーンの製品を使っている。世界はこの5大企業で成り立っていると言えるほどこの5社の力は強く、それぞれ多くの事業に進出しているがM,Aのパーツについてはこの5社しか市場に売り出されていない。
ケイティが相手の武装について解析してくれているが、つまりは普通の傭兵と変わりない兵装をしているということであり、特殊な製品を使用していないということでもある。
ホワイトヘザー社製が使われていないのは製品の価格が質込であるものの割高である上、身元が確かなものにしかあまり売り出さないことがあるからだろう。
改めて見ると、購入元や機体の形は兵器として運用されるもの前提であるものだが、それであるならば戦場に合わせたカラーリングにするものの、装飾過多といえるような色をしているため違和感を覚える。
「色がきれいすぎる。新品か?」
普通ならば慣らし運転をして、安全性を確かめるだろうがそういった様子が全く見られない。自分が言えることではないが整備によほどの自信があるのだろう上、試運転無しで戦場に出るなど正気の沙汰ではない。
「何か全周波帯で言っている?そちらにも流すわ。」
アイーシャから通信が入る。
「・・・愚劣・・て・・・・蒙昧なる政府の犬ども!われらが10年余にわたり整えた戦力をよくもやってくれたな!」
―・・・ただの自己紹介か。
恐らく同じことを考えたのだろう、名乗り上げにつきあう道理はないと味方機から狙撃がされた。
「まさか、名乗りにすら付き合わないとは!よほどっ!人語すら解さぬらしい!」
避けて語気を強めるその姿にファルフリードは驚愕のあまり息をのんだ。
狙撃を受けた1機は音速で飛来する弾丸を足の位置をそのままに半身をずらすのみで避けて見せたのだった。
それは、まるでS,Aによる動きに似た、まるで人体を操るように回避する姿であった。たったほんの少しの動きであるがそれがどれだけ異常なことか、熟練のスカベンジャー乗りならば分かるだろうがそれが分かったのは果たしてどれだけいるだろうか。
スカベンジャーはあくまでシリンダーと関節で疑似的に人体を模しているにすぎないため人体に比べて極端に可動域が狭い。その中で様々な工夫を凝らすことで自分の思い通りに動かしているのだが、これまでの敵機体を見ればあのような動きができるはずがないことは明白であった。つまり、あの10機はこれまでの常識が通用しないということを示しているのだ。
「我らは緑化組合にして『アウトノミア』!人の理想の御使い。人に試練をもたらすものだ。」
両手を広げてまるで人体のように機体を動かす姿は金属であることを思わせ無いように動くため不気味に見える。
「ティメス!相手も緑化組合を名乗ったぞ!どういうことだ!」
全周波帯で緑化組合に積極的に勧誘してきた男の名前が怒鳴りつけられている。
「ふふふ、あっはっは。・・・そういうことですか、そういうことですか。・・・皆さんももっと考えるべきですよ。緑化組合はホームからの脱却をするためにまずはホームへの依存を断ち切ろうとしているんです。そして、あなたたちは今、大いなる実験と向き合っているのです。立ち向かうかどうかはあなたたち次第です。」
「相手が緑化組合ならお前はどうするんだ?」
苛立つ話し方をする男に対してため息をつきつつファルフリードは通信に割り込んで話しかけた。
「私は降りますよ。私に与えられた役割は警告と啓蒙活動ですから。つまり、話通りであれば私たちは『あれ』には勝てない。」
当初の防衛に対する出撃から考えれば、もほやちぐはぐな言動となっているティメスに対して顔をしかめながらファルフリードは思考を巡らせる。
―敵対しないだけマシと考えるか?禍根をたつためここで奴を落とした方がいいか?・・・いや、ここまで生きている以上腕前はあるのだろう、この未知数の敵勢力がいる中で敵が増える方が問題か?
思考は一瞬だったが、血の気の多い味方がティメスに向かって銃口を構えるのが見える。
「生かして帰すと思ってんのか!」
その短慮にファルフリードを含む傭兵が焦りを見せるがもはや動き出した状況は変わらない。
「私と戦っても私は負けませんよ。私達には使命があるのですから!!」
『オラシオン』を駆るティメスと真核の残存兵力を含む数機が身を守るように迎撃態勢を取り、機体を動かす。
「あなた達も!緑化組合に正しさがあると思うのならばここで身を引きなさい!ここであの機体を相手に勝てると思わないことです!」
血の気の多い味方を止めることができなかった後悔が身を襲う。自分が襲撃者ならばこの好機を逃すはずがない。
「ふっ!やはり義を持たぬ者は野蛮だな。同士討ちを始めるとは・・・。好機だ!偽なる指導者を盲信する愚か者に鉄槌を!次の世代のために!」
この局面にて戦場は大きく混迷を深めていく。
七番街防衛部隊であるスカベンジャータイプ27機、M,A36機。緑化組合になびき『真核』を中心とした離脱と反撃を試みるスカベンジャータイプ3機、M,A10機。そして『アウトノミア』という自立を謳う正体不明の10機。その3勢力が七番街食糧生産施設の前にて激突するのであった。




