第2話 戦闘 迎撃
断続的に敵機体から続けられる砲撃着弾による衝撃が機体を振るわせる。日差しが照りつける砂漠地帯に砂柱が巻き起こる中、ファルフリードは機体を走らせる。ファルフリードたち右翼側で迎撃を引き受けたのは合せて7機に対して、右翼敵部隊のスカベンジャーは合計で22機であった。
22機のスカベンジャーの砲撃に対してファルフリードは携行火器であるアサルトライフルの距離へと近づこうとするが、22機は大げさな距離を保ちつつ精度の荒い砲撃を続けてくる。
現状は後衛の砲撃が有効だからこそ回避に余裕ができているのだが、後衛の砲撃から距離を離せないためあまり積極的に突撃することができないことが歯がゆい。
「っ!!」
視界の端に捉えられた砲撃の光に嫌な予感がしたため機体を翻すと、一拍置いてその場に砲弾が着弾する。
―今のは危なかった・・・!
「ちくしょう!たった1機に対してなんで当てれねぇんだ!!撃て!撃て!」
「わかってんだよ!当てれねぇんだよ!くそがっ!俺が行ってやるよ!!距離を詰めればポンコツでも当てられんだろ!」
無線の傍受信号から怒号が響いているのが聞こえると、1機がこの砲弾飛び交う中を突撃してきた。
―助かるっ!こちらの機体の適正距離と合わなさすぎだったんでな。
敵機体は右手の大型ライフルを断続的に打ちながら接近してくるのが見えるが、1機の接近により若干ではあるが敵部隊の砲撃が減ったために突撃してきた馬鹿に対してさらに感謝したくなる。
確かに相手機体の大型ライフルは威力が高く、携行性も高い上、それでいてどのような状況でも使用しやすいという特徴があるが1発1発を撃つ間隔が空いてしまうため距離が近くなければ相手の銃口の動きを見て危険をある程度察知できる。
アサルトライフルを両手で持ち、回避機動を続けながら有効な距離まで近づいてくるのを待つ。できるだけ油断してもらうためにこちらからの射撃は最低限に回避に精いっぱいであるように思わせたい。
―今だ!
同じ形状のアサルトライフルにしては他社に比べて炸薬量が異常な程に多く威力は高いが非常に重く反動の強いアサルトライフル、アルトール社製「GAT-55」で迎撃射撃する。
「ちくしょう!」
―近づけば何とかなるかと思ったかよ!
多くのフェイントを織り交ぜて近づき、さらに背面ブースターを使用して相手の死角に回り込むように移動して相手に的を絞らせないようにしながらアサルトライフルを当て続ける。どうやら敵はスカベンジャータイプ同士で戦闘することに慣れていない様子で回り込まれる戦闘に戸惑っている。
「くそがっ・・・!」
アサルトライフルが股関節付近に命中した後、付近に味方機体の砲弾が着弾した影響でバランスを崩したのが見えたため、その隙を見逃さずに急ぎ近づく。
至近距離で操縦席と思われる場所―背面の装甲が厚めの場所に集中して射撃を行い、速やかに沈黙させる。
特殊な状況とはいえ1対1ならば戦闘技術も機体性能もここまで差があるのであれば苦戦することなく倒すことができることが分かったことは幸いだ。
―だが、ここまでの性能とは・・・!
敵はM,Aに比べて乗り慣れていないスカベンジャーを使用しているのだからもう少し圧倒できるだろうと思ったのだが、この左右に高速で動きながら砲弾飛び交う乱戦の中、バランスを取りながらこちらを捉えようとし続けていた。さらに加えて言えば結局最後まで機体の操作を誤ることは無かった。操縦方法を訓練する期間が相応になければこうはならないだろうが、機体のシステムもついてこなければ到底できない動きだ。
残り21機、左翼や中央に陣取っている部隊でも続々と戦闘報告が上がっているが、良い報告ばかりだけではないところを見ると他の場所は苦戦しているらしい。
「ファルフリード、後5分もしたら応援部隊が来るらしいわ!もう少し耐えて!」
こちらの情報を敵部隊も掴んだらしく、突如、砲撃が止み突撃が始まった。
「やべぇぞ!ここだけ戦果無しはまずい!」
21機が状況を変えようと攻撃をお互いに危険性が上がる近距離射撃に切り替えて進んできた。さすがにこの数を一人で一度に相手することはできないので機体を後退させる。
襲撃部隊はこちらの後衛によっておこなわれている降り注ぐ砲弾の中、大型シールドを掲げて突撃してくる。何機かに命中したものの直撃となり戦闘不能となったのはそのうち1機のみで他は当たり所が良いまたはシールドで直撃を免れたようだ。
ファルフリードは注目されていることを考えて後衛からずれた場所に後退し、できるだけ敵部隊を分断するように動く。するとこちらに向かってくるのはそのうち5機となったのが見えた。
―わかっていたが、1対5は多いな・・。
相手はこれ以上多くても1機に対してあまりに多い数になってしまえばお互いに足を引っ張り合うと相手も判断したのだろうが、その中では1機に対して5機とはかなりの数だと感じる。
残り5分として5分避け続けるよりは積極的に迎撃したほうが被る損傷は少ないと考え思考を切り替える。
目を瞑り深呼吸して見開き、敵を見据える。
「ケイティ、アイーシャ!相手機体の方向と位置を随時入れてくれ!」
「わかってるわ。任せて。マップに表示するから後は射撃タイミングを伝えるわ、いいわね。」
「頼む!」
ケイティから頼もしい通信が入る。
覚悟を決めれば不慣れな相手に1対5ならばちょうどいいハンデだ。性能差がある中、これで負けてはM,A乗りのキャリアと七番街でスカベンジャーを駆るものとしての誇りが廃る。奥歯を噛みしめて画面を見据える。
5機はこちらに対して扇となるように配置しながら向かってくるのが見えたので、ある程度近づいてきた段階でファルフリードはこちらから見て右手に向かって機体を走らせる。周囲を見渡しても小高い丘のみで遮蔽物となるようなものは存在せず、多少の高低差はあっても平原となっている以上、セオリー通りに牽制から入っても被弾の可能性は非常に高い。
―遮蔽物が無いんだったら・・・!
背面ブースターを使用して急加速し、機体を強引に加速させて5機が一列に見えるようにまずは移動する。ここまでの戦闘で射撃精度に難があるのが分かっているので、つかず離れずの距離を維持して射撃しようとしてくるが、有効打になることは無い。多少無理な機動ではあるが不意をつくような加速で回避主体に移動しながらこちらに有利な位置取りをしていく。
「速いっ!!・・・くそっ、できるだけ距離とってうまく左右散れっ!」
ファルフリードはアサルトライフルで弾幕を張りつつ近づいて、他の相手機体を盾にするようにして走らせるが、敵部隊もこちらの狙いに気付いたのかできるだけ左右に散開して距離をとろうとしてくる。ある程度駆け引きをしながら高速移動を繰り返してうち1機に対して遮蔽物として活用できるほどの距離に近づくことができてきた。
「右45度射撃体勢!」
アイーシャの注意を聞いた瞬間に機体のペダルを踏み込み左前方に機体を走らせる。今しがた自分が居た場所に向けて死角であったその方向からライフルの弾が通り過ぎる。ファルフリードは今の回避機動による機体の勢いを殺さずに回り込むように移動しながら機体を旋回させる。直近にいる機体の構えている盾側に回り込んで射撃を封じ、直近機体に背を向けつつ次に近い機体に向かって射撃を行うが、盾に阻まれダメージを与えるには至らない。しかし、牽制として十分でありこちらの動きに多少の余裕が生まれる。
画面端でブースターが50パーセントまでチャージされたという状況が色で表示されるのを横目に、直近の敵機体が距離をとるために機体を後ろに傾けて後進させようとしているのが見える。
ファルフリードはその動きを受けて片足を浮かし、逆側の車輪を稼働させる。見る物からすれば正気の沙汰では無いバランス感覚により機体を向かい合うように回転させた。
相手が動揺したことが手に取るように分かる。
その後、向かい合った状態から機体を右手側に傾け相手のシールド側に移動するように見せる。
一瞬が引き伸ばされるように感じる。砂埃の砂粒が感じられるような全能感を思わせるような極限の集中の中、相手がこちらの動きに対応しようとシールドを持ち上げ、体をねじらせて対応しようと動き出したのを感じた瞬間、機体の背面ブースターを右側に噴射させ、機体が傾けていた逆方向の左側に機体を滑らせる。
「ぐうっ!」
機体の突然の逆制動により体の内臓が軋みを上げ、噛みしめた歯の隙間からうめき声がでてしまう。それでも、その甲斐あって無防備な相手の脇腹を正面に捉えることができた。
「ひぃぃっ!」
悲鳴を垂れ流している相手機体のの装甲がもろい脇腹に向かってアサルトライフルをフルオートで射撃する。いかに装甲が厚めの機体でも脇腹側はどうしても腕や腰の可動域の関係や被弾確率の関係で装甲が薄くなりがちになる。どうやら予想に違わず至近距離で放たれた銃弾の一部が機体中枢にダメージを与えたところで機体が大きく傾く。そのままの勢いでとどめを刺そうと背面のコクピットに向けて射撃しようと回り込ませようと動かすが、
「左側2機から射撃!」
またも響くアイーシャの声に機体を後方に弾けさせる。
―とどめはさせなかったが、まずは1機!
若干距離が開けてしまった4機に対して乱数機動を織り交ぜて回避主体でもう一度先ほど同じように慎重かつ大胆に近づいていく。それでもすべてを避けるにはなかなか難しく、機体装甲の表面上に少しずつ弾痕が刻まれていく。銃弾の角度に対してできるだけ機体を垂直にしないことで攻撃をやり過ごすように受けていく。
機体構成の違いによりファルフリード機の方が機動性に優れているため少しずつ距離を詰め、今度は散弾銃を使用して相手の頭部カメラに向けて射撃する。機体のカメラ部に向かって射撃したところでサブカメラがあることやコクピットから遠い場所に位置しているため本来スカベンジャー同士の戦闘ではあまり狙うことも狙われることもない場所だが、
―弾が自分に向かってくる感覚は思いのほか怖いだろう!
カメラに向かって来る射撃を受けて恐怖心から回避方向が分かりやすくなったのを受けて距離を一気に詰めていく。
「右90度!・・・続いて左45度!」
アイーシャの通信に全幅の信頼を寄せて視覚外からの射撃を回避しつつ正面の1機へ距離を詰めていく。距離を詰めていく中で撃っていた散弾銃の1撃がとうとう相手のカメラに向かって直撃すると、恐らくほんの一瞬だけ機体のカメラがブラックアウトしたためだろうが、恐怖に負けてペダルを前に踏み込んでしまったせいでこちらに向かって一瞬だけ直線的にに加速してしまう。
ペダルを踏み込んだのは一瞬だろうが、ファルフリードはその隙を見逃さずに機体を更に加速させてすれ違うように移動して即座に振り向き、すれ違いざまに背面から至近距離で散弾銃を2発当てると、操縦席に貫通したのだろう機体はそのまま前につんのめり転がる。
―2機!
「ちくしょう!ちくしょう!」
残りの2機が近づいてきてシールドを掲げながら突貫してくるのが見える。一番初めに突っ込んできた相手に対しての時と同じように相手機体の視界から外れるように移動し、1機に集中して狙いを定め、散弾銃で胴体に向かっていずれかの関節に影響が出るように攻撃を重ねる。
「なんであたんねぇんだよぉ!」
最後は涙声になっているように聞こえたが、散弾の一部が運悪く操縦席に影響を及ぼしたらしくがなり立てる声が唐突に消え、機体が転がる。
「後ろ!近づいてくる!銃を構えていない!」
アイーシャの通信を聞き、わざと一拍置いた後にブースターを使って機体を動かした。その一拍を隙と勘違いした相手機体はシールドを横なぎしてくるが、空振りとなってしまう。
―やけになっての近接格闘は一番やっちゃいけねぇんだよ!
ブースターを細かく噴射させて姿勢を直しつつ横に動かし、勢いを殺さずに機体を回り込ませて背中に向かって散弾銃を至近距離で当てる。
4機やられたのを確認した最後の1機が背中を向けて一目散に逃げようとしているが、かなりの恐慌をきたしているのだろう、まったく後ろからの攻撃を警戒できていない。
―逃げるのが直線的すぎんだよっ!
肩部のロケットランチャーを展開し照準を合わせて狙撃する。直撃を受けた榴弾が背面に直撃し爆発炎上する。
「敵部隊沈黙。照準している機体無し。・・・さすがね、ファルフリード。1対5でも何とかなってしまうのね。」
「もう二度とやりたくねぇよ・・・。」
ケイティの呆れを含んだ声が無線で届いてくるが、正直に返す。無茶な機動を続けたためそのGによって体の節々が痛みを訴えてきている。特に体を固定しているベルト近くの肩腰脇腹にあってはパイロットスーツで分厚く保護されているとはいえ赤を通り越して真っ青になっているだろう。
「応援が中央部で文字通り暴れているから恐らく敵勢力は撤退するわ。お疲れ様。状況からすると応援に入らなくても大丈夫そうよ。」
「了解。」
アイーシャから労いの通信が入ってくる。レーダーを眺めるとどうやら敵勢力は撤退を始めたところのようだ。一息ついて体から力を抜く。後で心配もかけてしまったし、いなかったら切り抜けることもできなかったのだからアイーシャたちにお礼を言っておこうと思う。
「お疲れ、ファルフリード。ちょうど今、第一出動部隊に対して撤収許可が下りたわ。・・・今度はちゃんと記憶デバイスに焼いときなさいよ?」
からかうようなケイティの声に何も言い返すことはできずにため息だけをマイクに向かって入れて、ファルフリードは機体を操って帰路に就くのであった。
―襲撃予告まであと3日ということは、これは本命ではない、ということか・・・?
日はまだ高いはずだが砂埃が舞っているため、明るいはずの外が暗く感じるのであった。




