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第2話 閑話 新入社員と主任整備士

「クルガン!ニコ!カルディナ!ハンガーに胴体の装甲パーツをセットしておけ!1時間後には万全に整備できるような体制をとるぞ・・・!」


 襲撃機体の数を聞いたアルガス主任の緊迫した声による指示を受け、カルディナはいつもと違うアルガスの固い声に自分の身も固くさせながらクルガン先輩やニコ先輩と共にハンガーの中で走り出した。アステリズモに割り当てられたハンガーを操作してトレーラーに積載していたパーツを取り付けていく中で、横目に他のハンガーから機体が発進していくのが見える。形から色まで様々な機体がハンガーから発進していく姿は不謹慎にも胸が躍るものがある。


「あれだけの戦力差で出撃するんだったら装甲にダメージを食らってくる。これからもう一度出撃する可能性があるんだったら操縦席から近いところをやるのが定石。」


 作業中にニコ先輩は手早く交換用の装甲をハンガーのパーツラックに取り付けていく中で教えてくれる。アルガス主任とクルガン先輩はモニターを見ながらパーツのリストアップをしている。


「カルディナ!恐らく今回の戦闘で背面ブースターの接続部が摩耗しちまう。余裕のあるうちに取り換えるぞ!」


 モニターを見ながらアルガス主任の大音声がハンガーに響く。トレーラーからパーツリストを探し、そのパーツをハンガーの指定された場所に取り付けていく。ハンガーに取り付けているとアステリズモが使用しているハンガー以外でも同じように焦りが混じった声が聞こえてきた。格納庫全体の張りつめた声を聞いていると第一陣の戦況は非常に芳しくないらしい。周りの怒声が一段と強くなっているように感じる中、いつもと違う端末を触っているせいかミス入力をしてしまい、入力したデータを削除するため強めに端末を叩く。


「ニコ!カルディナ!クルガンはこれから別件で手が離せなくなる!お前らの負担が大きくなるが頼むぞ!・・・いいか、カルディナ、大丈夫だ。いつも通りにやれ。周りの空気に飲まれるな。」


 アルガス主任が無線機に向かって苦々しい声で教通信入れてきたが、その声やハンガーに響く怒声と緊張溢れる雰囲気にこちらが萎縮しているのがわかったのか、突如としていつも出さないような穏やかな声で諭された。


「アルガス、そんな声も出せるならこれからはそうしてほしい。」

「ニコうるせぇ!・・・いいかカルディナ、俺たちの戦いは機体が帰ってきてから始まるんだ。まずは周りを見て必要そうなものを探すことが必要だ。そういう時は特に緊張も大事なんだが過度な緊張は視野が狭まるからよくねぇんだ。やれるな?」


 ニコ先輩の茶化しをいつも通りの大声で黙らせてアルガス主任の声が響く。気のせいかアルガス主任の声を聞いたおかげか先ほどより入力の仕損じは減ったような気がする。



・・・-・・・

 機体がハンガーに戻ってきた後はまさに目の回るような忙しさだった。パーツの損傷状況から優先順位を付けて順次入替えを行っていく。いつもはクルガン先輩が足りなさそうなものを先回りして用意してくれていたので自分が動きやすかったのだと否が応にも感じさせられる。

 アルガス主任とファルフリード先輩の話し合いの結果、どうやら損傷及び摩耗度合が3割を超えている場合は念のため取替ということになってしまったので、ほとんどのパーツに対して入替えが必要になってしまったということが忙しさの理由としては大きいのだが、それでも明日また出動できるようにするために全員が懸命に体を動かすことになるのであった。

 機体がハンガーに設置されたのが14時半ごろだったのだが、それらの修理が全て達成したのは日付が変わるころになるのであった。

 他のハンガーではまだまだ懸命に人が働いているのが見える。アステリズモの機体は概ねほとんどの装甲が入れ替わっているので、こちらに来た時より綺麗になっているようにも見える。ともに整備に携わっていた皆は休憩に入っているが、カルディナは一人ハンガーで入力されているデータを眺めていた。ファルフリード先輩とアルガス主任とニコ先輩がなにやら色々と数値をいじっていたようで、眺めているとどうやら機動性を確保するために遊びの部分を減らして少しでも反応をよくしているようだ。

 日付が変わるような時刻とはいえ、他のハンガーではまだまだ整備が続いているため格納庫の中は非常に明るい。


「疲れただろう?もう休め。ほれ。」


 アルガス主任が湯気が立ち上るカップを二つ持ってきて一つを手渡してくれた。マグカップを両手で受け取るとその湯気の通りの温度であった。


「あっつい。」


 アルガス主任のコップは香りからするとコーヒーの類なのだろうと思わせるが、こちらに渡してくれたのはココアで口に入れようとするとその熱さに思わず舌を出した。


「クルガンの野郎は飲物入れるのは・・・というか調理全般がかなりうまいからの、おすすめじゃよ。仕事終わりに厨房にあいつがいたらねだるといい。」


 主任の後ろからニコ先輩がほくほく顔でマグカップを抱えている。


「ニコのやつぁホットワインつってな、寒い時期に飲むと格別じゃよ。今度作ってもらいな。」

「・・・一口飲む?」


 ニコ先輩の手元をじっと見ていると、一口勧めてくれた。感謝してカップを受け取ると透明な液体に干し果実がいくつか沈んだ飲物だった。


「・・・あまあったかい。」


 一口飲むとアルコールの感覚はないものの、蜂蜜や生姜を感じさせつつ様々な香辛料が入っているのがわかる優しい味の飲物だった。


「クルガンのやつぁとにかく口に入るものを自分で作るときはものすごくこだわるのさ。色々とねだってみるといい。奴は口では嫌々言いながらも喜んで作るだろうよ。」

「ホットワインもお茶もなんでもおいしい。クルガンのくせに。」


 褒められているのかけなされているかよく分からない会話にあははと愛想笑いしつつニコに器を返すと、ニコは手近なボックスの上に座って飲物をちびちびと飲み始めて手元の端末を眺め始めた。


「だが、気を付けた方が良いぞ。あまり褒めると語り出して止まらなくなるから気をつけろ。」


 がっはっはと豪快に笑いながら忠告してくれつつ、アルガス主任は地べたにどっかと座ってコーヒーを飲み始めた。

 貰ったココアを息で冷ましながらちびりちびりと舐めていると、アルガス主任が語りかけてきた。


「カルディナ、この格納庫見てどう思った。」

「ええと、たくさんの機体がありますよね。」


 言ってからその感想は余りに雑な感想だろうと思うが、その言葉を正直な感想と捉えたアルガス主任の声は優しい。


「そうだろうとも。ある程度腕の立つスカベンジャー乗りは全員機体を自分の得意な距離、得意な戦法ができるようにさせたうえで、作戦によって少しずつ機体構成を変えていく。お前が扱っているものはそういうものだ。整備の勉強にもなるから、遠目にでもいろんな機体を見ておくといい。」


 アルガス主任は格納庫全体を見回して言葉をつなぐ。他の格納庫もあるようだがこの格納庫だけでも10機以上機体が並んでいる。


「そうじゃな、ファルフリードの奴は機体の素体は安心と信頼感を重視するものを選んでいるおかげでそれなりに整備しやすいが、2個奥の機体はアルトール製の装甲重視の機体だ。鈍重だがその分追加装甲を取り付けることなく耐える戦闘ができる、じゃが、当然関節部の負担も大きい上に整備も難しい。あそこの整備の奴らは徹夜じゃろうな・・・。」


 同情するような声で解説しているが、聞き逃せない一言があった。


「・・・これで整備がしやすいんですか?」

「そう。それがスカベンジャーという機体じゃよ。抜群の走破性、拡張性、戦闘力に加えて見た目。そういったもののために他のあらゆる全てのものに対して犠牲を強いる。・・・それでも、みなスカベンジャーに乗りたがるんじゃがの・・・。」


 ため息をつきつつアルガス主任は語り続ける。


「ま、儂らのスカベンジャーは正直、素体は整備しやすいんじゃが武装のせいで関節の摩耗が激しい上に、後付け装甲やら背面ブースターを付けているせいで他の機体に負けず劣らずなかなか大変じゃよ?」


 最後の方は笑いながら機体を見上げて語った。その声を聞いて安堵に似た感情を抱く。


「・・・安心しました。」

「はっはっは。整備しやすい機体なんぞ要するに特色のない機体ということじゃ。整備し甲斐もないもんじゃよ。そして、それでは往々にして戦場を生き延びることはできないものじゃよ。」


 それはつまり、整備しやすい機体なんて存在しないと言っているようなものでもある。思わず、ため息が口から出る。


「そういえば、アルガスさん。質問があるんですが、うちの機体と同じような武装を使っている企業はあるんですけど背面ブースターを使っているとこって少ないんですね。」


 ふと、疑問に思ったことを問いかけたのだが、問いかけた瞬間自分の失敗に気付いた。


「じゃろ!J&B社が作っているブースターなんじゃが、あの加速力は非常に魅力的で戦闘中に逆方向に急加速できるという能力は長所となるんじゃが、色々と欠点が多いもんであまり使っている奴はいないんじゃよ。うちが使えるのはそこはそれ儂の腕・・・と、まあ、操縦士の腕のおかげじゃな。」


 語り始めた瞬間、目をキラキラさせながら年を感じさせない生き生きとした声になって語り始めた。


「あのブースターの欠点?」

「背面ブースターは向きを変えるには戦闘機動の操縦中に動かせなきゃいかん。奴は親指で向きを動かしつつ操縦桿裏に取り付けられたスイッチで点火しとるが、戦闘中に精密操作ができなきゃいかん。」


 疑問もあったのでひとまず聞いてみるとアルガスは手振りを混じらせながら説明してくれた。機体の腕を動作させるには機体に取り付けられた操縦桿を上下左右に動かして腕の向きを調整しているのだが、さらに親指も別の動きをさせてブースターを動かしているということだ。


「・・・途方もないですね。」

「しかも、その瞬発力のためにかなり機体重量が増えて結果的に同じ重量の機体に比べてスピードは遅くなるときておる。奴は平時の鈍さは腕でカバーしつつ、ブースターで通常ありえない動きをして加速して不意を突くことで優位性を確保しておるからの。技量のある奴が使えばトータルで考えれば機動力が高いことになる。なかなかあそこまで使いこなす奴はおらんよ。ま、そもそもそこまで操縦できるように整備できる奴なんぞ七番街の中じゃそうおらんからの。操縦士に腕があったうえで整備に最高峰の腕がなければ使用することなんぞ夢のまた夢じゃよ。・・・なんじゃが、ま、他で使われていないのは最大の欠点がでかすぎてよほど頭のおかしい奴じゃなきゃ使わんというのもあるんじゃがの。」

「最大の欠点?」


 時折、自慢を交えるアルガス主任に苦笑しつつ問いかける。


「おう、しくじって壁にぶつかったり、転んだらその衝撃で操縦者は間違いなく死ぬからの。」


 カルディナは使う方も整備する方もおかしいが、そもそも作った方も頭のおかしい装備にため息をついて自分が乗る時があるならば絶対に装備しないことを誓って機体を見上げるのであった。後ろではアルガス主任がブースターの可動域にどんな工夫をしているかを熱烈に語っている。それをしり目にココアを一口飲むと、先ほど飲む際に舌を火傷させられて味があまりわからなかったココアは飲み頃を少し通り過ぎた程よい暖かさになっており、甘みが濃いがミルクやカカオを程よく感じられる素晴らしくおいしいものであることに気付かされるのであった。


「ほんとにおいしい・・・。」


 たぶん、いつも通りアルガスの話は長くなるだろう。ココアをお供にアルガスの話につきあうことに心の中で決めるのであった。



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