第2話 戦闘 襲撃
―――襲撃予告日まで あと3日 13:00 待機詰所にて―――
3交代制は昼番、夜番、非番を順に繰り返すため、体力的にかなり余裕をもったスケジュールにしてもらえている、と思う。襲撃状況によってはその限りではないが気を抜いて良い時間を作らせてもらえるというのは非常に助かる。過去の待遇では終日警戒待機とさせられることもあるのでなかなか余裕を持ったシフトというのはありがたい、が、
「襲撃者は威力偵察のためにここまで32機のM,Aを無駄にしたということは、つまりやつらにとってM,Aのその程度はものの数ではないということでもある。皆こころするべきだ、この戦場は楽ではない!」
こういうのを大音声で言う輩のせいで妙に気が抜けないのが非常に気に食わない。同じ待機室の中で同じメンバーがいる状況が1週間以上過ぎると自分の指定席みたいなものができるうえ、近くの同業者と話す機会もあるが、こいつらが大声で定期的に演説するので会話が中断されるのも腹立たしい。
「ああいうのが嫌いなのか?」
待機室は単純に情報が一番最初に届けられる場所に全員いるようにという精神で作られた機体格納庫脇のスペースだが、パイプ椅子や折り畳み机が無造作に置かれている空間で、ファルフリードはそれらを使わずに自分で持ってきた大きめの座布団を部屋の端において体を縮めて寝っころがりつつ、部屋を騒がしくしている男をにらんでいた。話しかけてきたのは隣の床にぞんざいに座った『フローティングシープ』という会社の戦闘員であるゼインヴァルという気さくな男であった。
「嫌いだな。うるさいのは特に。少なくとも寝れないだろ。」
ゼインヴァルは苦笑しながらうなずいた。
「まったくだ。ビラでも配ってくれればあとで燃料にするのにな。・・・にしても相手にされていないのが分かっているのに何であいつらはあんなことやってんだ?話聞こうとすると緑化組合に勧誘されっからみんなうんざりしてるってのに。」
「戦う理由は自分で決めるもんだ。戦場に来てから逃げるべきなんていうのは侮辱だと思うんだがな。」
ため息をつきながらファルフリードはうんざりしていることに同意の意を示す。
「っつーかだ。今回の襲撃最初は緑化組合からの襲撃だって噂が立ってたじゃねぇか。火の無いところに煙はたたないってもんだ。・・・だが、そんな組織に今も新しく入るやつらが多いらしいな。」
最後の方は声を潜めてゼインヴァルは語った。こんな襲撃が続くなかでも緑化組合は勧誘を忘れていない。これが中から防衛隊を崩すための策なのかと思うが、普通に考えてここまでお粗末なことをやるとも思えない。技術力から思想まで外聞が本当に一貫性の無い組織ということを考えるとかなり不気味だと思う。
「どうにもこうにも入る方も入らせる方も分からん組織だな。」
ファルフリードは鼻息を飛ばしながらいまだ雄弁に語り続ける男を冷ややかに見つめる。
「それにしても襲撃予告まで残り3日、だ。そろそろ本格的な攻撃があってもおかしくないだろう。ま、噂だが九番街当たりのごろつき傭兵どもが軒並み今回の侵攻に加わっているという話を聞いているからな、なかなか数としては恐ろしいものがあるんじゃないか?」
「こちらも色々と有名な奴らが来てるんだろ?大丈夫だろ。」
ゼインヴァルが表情を引き締めながら危惧しているがファルフリードは軽く答えることにした。悩んでも仕方ないことを悩んでもどうしようもない。
「そうか。たしかにあんたらアステリズモや『アルケー』のような大手だけでも無く『サジタリウス』みたいな個人の凄腕が今回の依頼を受けてくれたらしいぞ?スカベンジャータイプだけでも七番街の大小72社で63機が参加しているらしいじゃないか。なかなか格納庫は面白いぞ。今回の報酬でお前らに追いついて見せるさ。」
「へぇ。心強いな。」
ぞんざいに返事をしつつ名前の挙がった『サジタリウス』という名に引っ掛かりを感じる。思い起こすのは六番街の事件だが、あの時はなかなか肝が冷えさせられた。同じ機体スペック相手で死ぬかと思ったのは久しぶりだった。
―前回あいつらは緑化組合から依頼を受けていたんじゃなかったのか?傭兵組合はどこまでわかってるんだろうか・・・。
そもそもここまで散発的に威力偵察を行う理由は分からないにしても少なくともそろそろ本気の襲撃があってもおかしくないだろうと思う。いったいどれだけの戦力がくるかどうか分からないというのがもどかしい。
「もっと考えるべきなんだ!どうすればよいか!どうやったら守れるか!」
中央で恥も外聞もなく語る男はクライマックスに入ったらしく身振り手振りが大きくなっている。周りから浴びせられる冷笑も意に付すこと無く語る姿はいっそ清々しい。思考を阻害されてなかなかいらだちもピークを迎えていたところ、
部屋にけたたましい警報の音が流れた。どうやら敵襲のようだが、この苛立ちは奴らにぶつけてやろうかと暗い考えを頭によぎらせつつ、待機室から全員がばたばたと出ていく姿に続きながら状況放送に耳を澄ます。
「敵襲!本格的な侵攻と思われる!数は大量につき不明!プラズマリアクター反応多数あり!スカベンジャータイプがいる模様、注意されたい!」
・・・どうやらなかなかハードな戦場となるらしく、怒りをぶつけるどころかピンチになりそうな予感に顔をしかめるしかできなかった。
・・・-・・・
戦場に我先にと飛び出すかのごとくゲートから七番街の傭兵たちが出撃していく姿はなかなか見ることはできないだろうが、一緒に出撃する側からするとかなり冷や汗ものの風景だ。ぶつかれば当然バランスを崩す奴もいるだろうし、操縦が苦手な奴が転んで周りに被害を与えてもおかしくないのだ。とにかく細心の注意を払いながら戦場に向かって格納庫から防衛拠点を後ろにひた走る。
食糧生産施設を斜め後ろに砂と岩の見える戦場の先を見据えると異様な風景が目の前に飛び込んできた。
「スカベンジャータイプが50機以上・・・?そんな・・・!?」
機体の無線にケイティの驚愕の声が届く。M,Aのスカベンジャータイプは動力やパーツが高額で、さらには操縦システムを手に入れるのに四苦八苦するという確かに強力であるが非常に手に入れづらく使いこなしにくいということが特色な兵器だ。にもかかわらず眼前にはスカベンジャータイプが50機以上が横一列に並びこちらに向かって走ってきているのが見える。
味方部隊の驚愕と戦慄が伝わってくるように感じる。戦力差は歴然の中でこのまま耐えるか逃げるかを考えているだろうが、このまま彼らの食糧精査施設への襲撃を黙って見ていても結局自分の身の回りにいる人たちが大きく被害を受けることが想像できるため退くに退けない心境になっているのだろう。
「ファルフリード!組合から連絡!夜番、非番に応援要請したみたい!とにかく今は耐えてほしいって!」
そもそもこちらが保有している機体がすべて合わせてスカベンジャーが63機であることを考えるとこの物量差は背筋に冷や汗をかかせてくれる。
「こちらは右翼側から回り込む!他は任せた!」
迎撃するにしてもこのままでは囲まれてじり貧になると考えて、ファルフリードは無線で呼びかけたのち急ぎ右翼に向けて機体を走らせた。この場では正面にいる方が貧乏くじとなりかねない。
「アステリズモ!ついて行く!」
近くにいたフローティングシープのM,A3機と3機のスカベンジャータイプを含む機体が合計で6機がアステリズモについて走り出した。どうやら対応しようと思ったのはこちらだけでなく他にもいるようで左翼側を迎撃する部隊と中央で戦線を持ちこたえる部隊の3部隊に分かれるように、事前に打ち合わせをしたわけではないのだが全員が流れるように統制がとれた動きをする危機的状況は大なり小なり経験している連中はこういう時の判断はスムーズだ。
機体を走らせ数十秒たち、肉眼で機体構成が見えるような状況に近づくと機体は全て色はまばらであったが同じ機体であるようだ。全て量産性を目的に作られたかのような直角が多いデザインには個性や特性が見当たらず、装備も大型ライフルとシールド、肩部には恐らくロケット砲というスカベンジャー乗りを目指すのであれば誰もが一度は必ず行うような特化したものが無い装備となっている。機体の装甲もそれなりに厚くしたうえで、武装を少なくすることで機動性を確保しているような構成をしており、機体の頭部は四角い頭部にバイザー型のカメラを付けている。
―使いやすさと量産性を極端に高めたような機体か?
「はっはー!パワーもスピードもM,Aに比べて圧倒的じゃねぇか!!これなら七番街の奴らも目じゃねぇ!!」
右翼側に回り込んで相手の状況を眺めると一列のように見えた敵部隊は統制がとれておらず、先を争うように機体を動かしているため不揃いとなっていることが分かる。ある程度こちらに引き付けるため肩部のロケットランチャーを狙いは粗いままで砲撃すると敵部隊の眼前に土煙の柱が立ち上ると、いくつかの機体がこちらに向き直っているのが見える。
「ふん、数が違いすぎるのにお宮仕えは健気なことだ。・・・身の程を知れよ!」
迎撃態勢に入った機体が雄たけびを上げているのが無線を通して聞こえる。数にして約20機がこちらに向き直り、肩部のロケット砲で応射してくる。こちら1機の射撃に対して約20機の応射はなかなか割に合わない反撃だが、距離もあることに加えてお互いに動いているため砲撃はかすりもしない。
―全体的に移動方向側に着弾地点がずれているな、そんなに良い射撃プログラムではないな。
移動中の慣性などによるブレに対する照準補正は一応自らの手でも行っているが、機械に頼っている部分が大きいため遠距離射撃は機体プログラムの差がよく分かる。
こちらの射撃を合図に後ろから足を止めた機体が放物線を描くような軌道で砲撃を加えると、いよいよ目の前に広がる景色は乱戦めいてきた。着弾の衝撃や上がる土煙に機体が揺らされる中、ファルフリードは機体足裏のローラーを巧みに操って右に左に機体を走らせつつ近づいていく。そこかしこに土柱が上がっているが相手機体のロケット砲の射角調整システムは荒があるらしく、こちらを向いた機体さえ把握していれば見た目ほど危険な状況ではない。絶え間なく続く着弾の衝撃からすると、炸薬量は少ないが総弾数の多い武装にしているらしく、当らないこともあいまって後さきかえりみず遠慮のない射撃が襲ってくる。
―下手な鉄砲数撃てば当たるというが、こんな無駄撃ちやったあかつきにはケイティやアルガスにぶっ殺されるな。
戦場ではファルフリードが単機で前線の砲撃を引き付けつつ、後衛からは5機のスカベンジャータイプやM,Aが足元を固定して狙いを定めた遠距離攻撃で数の多い相手の前進を防ぐという形が組みあがっていた。
相手はファルフリードに狙いを定めたいが、後衛からの砲撃が繰り返されることによって回避機動をとるために動き続けざるを得なくなってしまい、ファルフリードに狙いを定められない。かといって、後衛に向かって進もうにもファルフリードが前進をしようとする兆候を見つけるとそちらに向かって機体を走らせるため、敵味方の砲撃が入り乱れる中進むには恐怖心があるらしく、結果として戦線の硬直に成功した形となった。
何も言わなくとも味方がこの形を作ってくれた上、積極的に援護射撃を加えてくれることに感謝しかない。M,A含む5機で粗製とはいえスカベンジャータイプ20機近くの足止めに成功しているのは彼らがいてくれるからに他ならない。
粗製ならば移動を続けていけば相手の操縦ミスによるボロを出してくれるかとこう着状態を維持していたが、その希望は裏切られ、敵部隊はこちらの攻撃によってバランスを崩すようなことは無く断続的に射撃が行い続けるのであった。最低限の訓練をしていると言っても操縦にかなりの熟練を要するスカベンジャーをここまで動かせるようにしていることにファルフリードは驚愕しかない。
―このこう着状態も奴らが肩部ロケットを撃ち尽くすまでか・・・。マスタープログラム、眉唾物は無いということか!
この状態は長くは続かないだろうことは明白だ。ファルフリードは額から汗が流れるのを感じつつ、気を引き締めて操縦桿を握り直すのであった。




