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第1話 戦闘 VS未確認機体

「未確認機体が襲撃!高威力のライフルを抱えた機体がそちらに向かっているわ!逃げて!」


 アイーシャが通信室からホワイトヘザーだけでなく近くにいる『ガイア』にも聞こえるように通信を入れているのが聞こえる。

 赤い月が照らす夜闇を大きなエネルギーの塊が定期的に走り、岩場にあたっていく。その威力にさらされた岩場は当たった瞬間に爆音をとどろかせ、大きく振動しながらその形を変えていく。崩れた岩場の隙間からファルフリードが搭乗するアステリズモのスカベンジャーが飛び出ていく。

 この世界に存在するS,Aは12機しかいない。それ以上は必ず存在することは無かったと聞いている。しかし、目の前にいる機体はまるでS,Aとそん色ないスピードで動き、S,Aの保持する武装の威力に近い武器を持っている。

 かするだけでも無事では済まないとわかる威力が近くを通る。どうやら、こちらに積極的に命中させるという意識は少ないようで、パルサーの影響下もあるだろうが、相手機体の射撃はどこか大味でまるで武装の威力を試しているかのごとく、射撃を続けている。


「アステリズモ、何が起きた?」

「未確認機体から襲撃!こちらは戦力差が大きすぎるため、撤退中!」


 別の位置で戦っているシャーザーから無線が入り、アイーシャは叫ぶような声で答える。


「了解。手を貸せそうか?」


 通信の間にアイーシャの逡巡を感じる。ファルフリードはここは自分が話したほうがよいだろうと思い、無線に割り込む。


「かなり、危険な相手だ。安全が全く保障できない。今はパルサーの影響でそこまで射撃精度が高くないが、状況はかなり危険だ。」

「了解、こちらの機体を遠隔起動に切り替えて現場に向かわせる。囮にでもなんでも使え。無事を祈る!」

「助かる!」

「ありがとうございます。シャーザーさん。トレーラーへ接続をお願いします。こちらで動作させます。そちらも無事の帰還を祈っています!」


 シャーザーからかなり助かる申し出があり、アイーシャが具体的な対応に入る。


「アステリズモ!『サジタリウス』は!?」


 突如、女性の声が通信に割り込んできた。どうやら『ガイア』らしく、操縦者が女性であったことに驚きながらもファルフリードは答えた。


「『ガイア』か!?『サジタリウス』は奴にやられた!」

「勝手にやられたことにしてもらっては困る。こちらは右手側がやられたことを除けばまだ生きているし、動ける。」

「『サジタリウス』生きていたのか!?」


 驚きの連続だったが、これにはかなり驚いた。直撃を受けていたと思っていたが、しぶとく生き延びて見せるとは・・・。


「さっきまで気絶していたよ、なかなか水を差されて苛立っている、ともに奴を撃退するのはどうだ?『ガイア』、お前の望みは私が叶えるから協力しろ。」

「・・・了解。」


 どうやら『サジタリウス』と『ガイア』の協力を得られるらしい、これにホワイトヘザーの無人機がいれば、少しは勝ち筋が見えるかもしれない。


「こちらにさっきの機甲部隊を無人機で預かっている。『サジタリウス』のことを考えるとできれば、足止めとは言わず、多少無力化の必要性があるな・・・。」

「そうしてもらえると、助かるな。」


 『サジタリウス』のことを気遣ったが、生き延びることに対してどこか他人事のように答えてくるため若干苛立ちを感じる。しかしそろそろパルサーの効果が切れて本格的に襲ってくるはずだと思われる。急いで態勢を整えなければいけない・・・。


・・・-・・・

 ケイティからの通信を基に最適な戦場の位置を選び、アステリズモ、『サジタリウス』、『ガイア』の3機が並び立つ。

 どうやら未確認機体はこちらに逃げる意識が無いと見るや、ゆっくりと近づいてくるようであった。遠目にゆったりと歩いてきた未確認機体が銃口をこちらに向けるのが見えたため、3機は散開して機体をできるだけ的を絞られないように回り込むように攻めていく。

 アステリズモと『ガイア』ができるだけ盾にできそうな岩場の陰に隠れながら近づくように移動していき、『サジタリウス』は距離を取りながら狙撃銃で相手をけん制する。未確認機体は狙撃を素早い機動ででよけながらこちらや『ガイア』に向けてエネルギーライフルを撃ってくる。

 ファルフリードが遠目に散弾銃を放つと未確認機体は機体を動かし、『遠目に撃たれた散弾銃を避けるように動いた』。


―フィールドは、無いのか?


 確認のため、数度散弾銃を撃っていると、『サジタリウス』と『ガイア』が察してくれたのか、未確認機体がよける先をできるだけ命中範囲の広い散弾銃の射線を残すのみとするような形で追い込んでいく。ファルフリードと『ガイア』は若干の距離を保ちながら射撃を加えていくと、数発目にしてやっと散弾銃が未確認機体に命中した。

 当然、距離が離れているため散弾銃の威力は少なくなってしまっているが、機体表面にまばらに焦げたような跡がつく。

 どうやらS,Aに必ず装備されている電磁フィールドは存在しないらしい。エネルギー量が少ないと先ほどケイティが分析してきたことを考えると、さすがに電磁フィールドを維持するだけのエネルギー量が足りないのだろう。


「フィールドが無いなら!」


 『ガイア』の掛け声に合わせて強引に射撃を加えるが、未確認機体は散弾が命中して崩したバランスを、まるでS,Aのように生身でバランスをとるように()()()()()()()()()()()瞬時に体勢を立て直して二機のいる場所に向かって左手の手甲を振りぬく。

 S,Aの使用するリアクティブフィールドのような猛威が二機を襲う。その威力は50t近くある機体を浮かせるほどでアステリズモと『ガイア』はバランスを崩してしまう。ファルフリードは何とか機体を倒れさせないようにバランスを取って戦場に立たせようとするが、未確認機体の銃口がファルフリード機をとらえる。


「っっ!がっ!」


 とっさに横にジャンプブースターを起動させて回避したが右腕のひじから先がエネルギーの塊に巻き込まれ消失する。どうやら、『ガイア』が転倒しかけている様子を見ると足止めにこちらを撃たれたのだろう。


「まだっ!」


 『ガイア』がバランスを戻し、突撃をかけるが、1対1ではスピードは未確認機体が上のため、弄ばれている。


―やつのエネルギーライフルもリアクティブフィールド発生装置も連発が効かないのが救いか!?


 このまま『ガイア』だけではいずれ押し切られてしまうと考え、『サジタリウス』とファルフリードも近接戦に移行して攻め立てる。かなり強引な攻めであるが二機が戦闘に支障あるダメージを負ってしまっている以上致し方ない。

 多少のダメージを覚悟して3機は入れ替わり立ち代わり、追いすがるように射撃していくことで、未確認機体にダメージが増えていく。未確認機体はライフルとリアクティブフィールド発生装置の2種類しか武器が無いようで、今はライフルのみで反撃をしてくるが、巧みに3機が避け、攻撃を続けていくことで、少しずつであるが追い詰めていくことができている。

 もう一度リアクティブフィールドが使われる前に仕留めたかったのだが、またもや未確認機体かを左手を振りかぶるのが見える。3機はできるだけ距離を取ろうと後ろに跳び退るがダメージは無視できず、片腕の無いアステリズモと『サジタリウス』は転倒してしまう。

 片手が無い機体が転倒するということは立ち上がる機動が出来ないことから戦闘不能になったということであるため、未確認機体は『ガイア』に銃撃を加える。『ガイア』は懸命によけるが、同様にバランスを崩して機体を後ろに転倒させてしまう。

未確認機体がゆっくりと銃口を『ガイア』に向けて今まさにそのライフルを撃とうとした瞬間、


―ここだ!


 ファルフリードはニコに組んでもらった腕の無い時の起き上がりである、ジャックナイフ機動を取って突如起き上がり、左手の炸裂ナイフを未確認機体の背中に向かって直接打ち込む。ファルフリード自らも吹き飛び、左手にかなりの被害を受けるが気にせずにもう一本を取り出し、投げつける。


「アイーシャ!」


 投げつけた炸裂ナイフをすんでのところで避けた未確認機体は何とか体勢を立て直そうとしている。ここまで隠していたホワイトヘザーの機甲部隊をアイーシャの遠隔操縦によって動かして、ファルフリードの合図によって射撃を行い、未確認機体に向かって攻撃を浴びせる。未確認機体は撃たれるまま機体の各所を大きく損傷させて後ずさっていったが、どうやら不利と判断して機体のブースターを噴かし、反転し離脱していくのであった。


「・・・切り抜けた、か。」


 ファルフリードは大きくため息をついた。

 なかなか今回の依頼は本当に非常にピンチの連続であった。何度も撃破される可能性があったが、何とか無事に勝利を収めることができた。


「お前らは、どうするんだ。まだ、戦うのか?」


 ファルフリードは『サジタリウス』と『ガイア』に声をかけた。


「いや、そもそも、だからこそ機甲部隊を残していたのだろう。手負いの2機ではそちらが残している機甲部隊には勝てんよ。『ガイア』、約束通り私が負担する。ここは、退くぞ。」


 『サジタリウス』は『ガイア』が引き連れて撤退していくのを見て今度こそ完全に肩の力を抜いた。


「本当に、よく無事で・・・。全然機甲部隊使わなかったから忘れているかと不安になっちゃったじゃない!」


 アイーシャから声がかかる。ホワイトヘザーから借りていた機甲部隊は盾にすることもできたが、生き延びた後に『サジタリウス』と『ガイア』が敵対した時のために残しておきたかったのだ。


「まぁ、疲れたよ。早く帰ろう・・・。」


 ファルフリードは機体を回頭させて帰路に就く。



 彼らの地獄はひとまず、終わりを迎えたのであった。




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