第1話 戦闘 再度激突
まるで闘技場のようにすり鉢状に広い戦場は恐らく『サジタリウス』の趣味だろうと思う。わざわざこんなリスクの高い戦場を選ぶなど戦闘狂でなければありえないだろう。戦場にはまばらに切り立つ岩場があるが、遮蔽物として使えるものは少ない。
デザートカラーに青の単眼カメラアイである『サジタリウス』の機体と同色の赤のツインアイカメラである『ガイア』の2機はこちらを悠然と眺めている。
「待っていたぞ、アステリズモ。さて、もう一度始めよう。」
サジタリウスの宣言から一拍置いて、『サジタリウス』と『ガイア』が回り込むようにスピードを上げるのが見えた。わざわざ相手の決めた戦場で戦ういわれはないと機体を戦場から離れるように後退する。
―狙撃ポイントは2箇所という話じゃなかったのか!?2機まとまっているとは思わなかったが・・・!
「悪いな、お前を追い込むために色々と仕込ませてもらった。」
全く悪びれずにこちらを『サジタリウス』が用意した戦場に追い込んでくるように銃撃が飛んでくる。
「アステリズモ!」
ホワイトヘザーの機甲部隊2機が後ろから応援に来るが、『ガイア』が機体を急速反転させて対応に向かう。
―乱戦になればこちらの不利は確実、であれば短期決戦で『サジタリウス』と戦場で勝負し、手前の遮蔽物多めの場袖機甲部隊には時間稼ぎをしてもらうか?
判断したのならば行動は迅速に、と機体を闘技場に見立てられた場所に向かわせる。
「足止めを頼めるか!?」
「わかった!」
ホワイトヘザーに最小限の言葉で意思を伝え、応答を受ける。
「アイーシャ、ケイティ!こっちはいいからホワイトヘザーを援護してやってくれ!どうせ近接戦になれば変わらん!それよりも後ろを気にしない時間がほしい!」
「了解、頼むわ!」
ファルフリードはトレーラーの二人に通信を入れて、機体を戦場の端に向かわせ、振り返る。まるで待ちわびた時を迎えて、その一瞬を楽しむかのようにゆっくりと『サジタリウス』がこちらに正対する。
「そうか、応えてくれるか・・・。嬉しいぞ、アステリズモ!」
「受けて立つさ・・・!」
互いに一言掛け合うと、『サジタリウス』は携行型の小型バズーカを、アステリズモは散弾銃をそれぞれ両手持ちにして打ち合いを始める。互いに付近の岩場を利用することで、一瞬だけ相手の照準をぶれさせて少しでも状況の優位性を確保しようとするが、ここにある岩場では確実に防御できないであろうため、確実によけるためには相手の銃身の向きを読んで、一瞬でも早く移動していくしかない。
ファルフリードは機体ほどの大きさの岩場に機体を隠すように移動した瞬間に逆制動をかけて距離を詰めるが、追うように動く『サジタリウス』は焦ることなく機体をこちらの右手の武器では狙いにくい右に回り込むように移動する。
『サジタリウス』のトリガーが引かれる瞬間を予測し、その寸前に機体を斜めに傾けて射線から身を外す。後ろで榴弾が炸裂するが、構わず近づき機体を肩からタックルでぶつける。互いのバランスが崩れるが、『サジタリウス』は両手でバズーカを保持していた状態を解除して両手を広げることで上手くバランスを取って弧を描くように機体を滑らせて体勢を持ち直す。ファルフリードはタックルの勢いを殺さず、そのまま一度距離を取って牽制のために散弾銃を放つ。
だが、『サジタリウス』は滑らせた機体の勢いを殺さずに散弾銃を回避してくる。ファルフリードは炸裂ダガーを投擲して隙を作ろうとするが、その攻撃も危なげなく避けてみせる。
―やりにくい・・・!こいつをやるには色々とギャンブルが必要か!?
ファルフリードは散弾銃の両手持ちをやめて、右手に散弾銃、左手に炸裂ナイフの装備構成に変更して、距離をつめる。炸薬量が多めのアルトール社製「GSK-38」は片手持ちにした場合は照準制度や反動による機体のぶれが大きくなるなどデメリットが多いため、あまり片手持ちはやりたくないのだが背に腹は代えられない。
『サジタリウス』はそのままバズーカを両手持ちの状態で向かってくる。
―あのバズーカは総弾数が少ない短期決戦型のはずだが・・・?お互いに仕掛けるなら、そろそろか。
互いに銃撃を加えつつ高速で位置を交差するように変えながら戦闘が続く。
先に仕掛けたのは『サジタリウス』であった。残弾の切れたバズーカを投げ捨て徒手空拳となり、正面切って向かってくる。焦らず散弾銃を正面に撃つが、瞬間、『サジタリウス』は驚異的なタイミングで機体を横に飛ばして散弾を回避して見せる。
「正面で散弾を避けるだとぉっ!!」
ファルフリードは驚愕のあまり、戦闘中にもかかわらず大声をだしてしまった。『サジタリウス』を見ると、回避した動きそのままの勢いでこちらの隙だらけとなっている右側面に位置取り、脇の下から隠し腕が伸びてもう一つのバズーカを取り出して銃口をこちらに向けて、今まさに引き金を引くところであった。
「だぁぁぁぁっ!」
ファルフリードは両肩に取り付けられている虎の子のジャンプブースターを点火させて斜め下前方に機体を加速させる。当然、機体は前に大きく傾くが構わず、ほんの一瞬の、逃せば死ぬであろう一瞬のタイミングを掴んで機体を前方にジャンプさせる。
「な、に!?」
レバーとペダルだけしかない操縦方法が限られた人型機動兵器がバク転するなど、いや、そもそもできるなど誰が予想できるだろうか。
アステリズモはバズーカを避けたのみならず、空中で一回転してその一回転の間に炸裂ダガーを放り、『サジタリウス』に大きなダメージを与えてみせるのであった。しかし、ここで頭から落下すれば隙だらけの姿をさらすことになるため、そのまま極限の集中を継続して残ったジャンプブースターを再度小さく噴射させてぎりぎりのバランスで着地して機体を振り向かせる。
そのまま、間断なく距離を詰めて散弾銃でとどめを刺そうとした―
その瞬間、
どこからか飛来した高威力のエネルギーの塊によって『サジタリウス』の右側が吹き飛ばされたのであっった。
「なに、あれ・・・?」
ファルフリードの状況をモニターしていたアイーシャの呟く声が聞こえる。見上げると1機の人型の機体がこちらを見下ろしていた。その機体はスカベンジャータイプのように関節が大きくなっていない、まるで、S,Aのような細さをしている外観であった。
「データチェック!リアクター反応はまるで、この前のS,Aだけど、それに比べればエネルギーは少ない!S,Aだけど・・・S,Aじゃ、ない?」
初めて聞くケイティの焦った声に反応を返すことができない。
赤い月に照らされているその機体は白く、細身の機体に不釣り合いなほどの長銃身のエネルギーライフルを右手に装備し、頭部はバイザーカメラとなっている。
―・・・なん、だ?あの機体は?
その銃口がこちらに向く瞬間に危機を察知して回避機動をとる。『サジタリウス』を貫いたエネルギーが今まさにいた場所を通り抜ける。
直後、アステリズモのトレーラーからパルサーが放たれる。アイーシャからの援護だろう。射撃精度が下がれば、退避するタイミングがあるだろうと機体をすり鉢状の場所から相手の対角線上の場所に逃げさせる。追いすがる射撃は幸運なことに逸れ、何とか射線上から逃れることができた。
―パルサーのタイミングに助けられたな・・・!
「ファルフリード11時の方角に機甲部隊と『ガイア』がいるわ。逃げるとしたらそっちかしら!」
アイーシャから現場近くの部隊の位置が知らされる。ファルフリードはしたたる汗をそのままに少しでもリスクを分散して逃げられる可能性を求めて機体を走らせるのであった。




