第1話 戦闘 二つの月の下で
コクピットに乗り込み、一度、深呼吸する。暗く狭いこの場所が自分の死に場所になるかもしれないと覚悟を決めてしっかりと操縦桿を握る。
出撃前に行う自分のルーティンだ。覚悟を決めて、必ず生き抜くという決意をあらたにして、スイッチを入れていく。
「おい!ファルフリード!お前の依頼通りの整備ができたが、右腕の関節部に補助装甲を追加している。直撃さえ避ければ右腕が使い物にならなくなることは無い!安心してやってこい!」
アルガスから怒鳴り声に似た檄が飛ばされる。
「左腕の取り換えは完璧です。問題ありませんので、思いっきりやってきちゃってください。私はあなたが勝つと信じてますからね。社長の期待を裏切らないようにお願いします。」
クルガンからもいつもの穏やかな声で檄が飛ぶ。
「いい?地形データ的には北に5から6km向かった場所で襲撃を受けると予想するわ。その場所は岩場による遮蔽物も多いし、奇襲を受ける可能性が高いの。思いっきりやってきなさい!」
「さっきのお願いの件だけど、何とかできたと思う。まだまだ、改良したいから必ず帰ってくること・・・!」
ケイティとニコからも通信が入る。
「恐らくこれがこの任務、最後の出撃よ。ここまで来たのだから、必ず・・・、必ず無事に帰ってきて。幸運を祈るわ。」
アイーシャから無事を祈られる。
この会社に来てよかったと、心の底からそう思う。一兵士にここまで全てをかける組織など普通あるものではない。そして、それを分かったうえでこちらの力を信じて送り出されるのだ。兵士としての冥利に尽きる。
「ああ!任された!ファルフリード、スカベンジャー!出撃する!」
機体をトレーラーから出撃させてファルフリードは自信に満ちた目で改めて前を見据えるのであった。
時刻はもはや夜半というにふさわしい。夜0時を超えると空に見えるのは青い月から赤い月に変わる。街灯がないため岩場を照らす光は強く赤く染まり、目に見える世界は静謐な空間とも言えた先ほどに比べてまるでこれから始まる激戦を予想させるようであった。
砂埃を巻き上げて乾燥したまばらに見える岩場を横目に不毛な大地を機体が走る。
機体をいくばくか走らせていると、隣をホワイトヘザーの機甲部隊が並走し始めた。部隊は先ほどの戦闘で若干程度の損傷を受けており、作戦開始時点とはかなり姿が変わっている。
「・・・いい、会社だな。」
「まったく、そう思うよ。」
ホワイトヘザーの機甲部隊隊長シャーザーから個別通信が入る。ホワイトヘザーと仕事する機会がもうないだろうため二度と会うことのない関係だろうが、先ほどの戦闘では本当に助けられた。実に心強い味方だと思う。
「先ほどは助かった。アステリズモのスカベンジャーの噂にたがわぬ見事な戦いだった。実に見事な戦いだったよ。」
「こちらこそ感謝している。こちらはそもそも救助部隊の護衛を完全に無視して戦えたからこそ何とかなったんだ。そちらはゲリラの攻撃を警戒しながらスカベンジャーと戦っていたのだからなかなかタフな戦場だったと思うがな。」
苦笑して答えた。実際に救助部隊の護衛をしながらスカベンジャーを相手にして戦い抜き、救助部隊に被害を与えずにスカベンジャーを撃破して見せたのだから、それをタフな戦場と言わない方がおかしい。
どうやらシャーザーにはアステリズモを気に入ってもらえたようで、少なからず愛社精神が刺激され嬉しいと思う。
「そう、だな。そういってもらえると、助かる。あいつらも浮かばれるだろうよ。さて、あと何機敵機体が残っているかわからないが、アステリズモよ、次もどうかよろしく頼む。」
どうやら、こちらの答えは謙遜ととらえられているようだ。
ホワイトヘザーの最新鋭M,A部隊である機甲部隊が7機、戦力としてはかなり期待できるが、果たしてスカベンジャーは何機残っているのかわからないため、不気味だ。
そろそろケイティから事前に教えられた情報で奇襲しやすい場所に近くなる。これだけ近づいた場合は狙撃もできないだろうから、近接戦主体となるのかもしれないと予想するのだが・・・。
ふと、首の後ろが逆毛立つような感覚が走った。
―これは・・・狙撃か!?こんな場所で?だが・・・!
「シャーザー!散開しよう!」
「・・・?了解!各機、散開!!」
一拍置いて、レーダー上にスカベンジャー特有のプラズマリアクター反応が表示され、長距離狙撃による襲撃を受けた。
「アステリズモ、射線が二つある!手分けしていくというのはどうだ!?こちらに機甲部隊5機とそちらにアステリズモと機甲部隊2機にするが異論は!?」
「ない!任せる!幸運を祈る!」
恐らく2機の狙撃は交互に襲いくるように続き、着弾の衝撃で土柱が上がるが、岩場があることで遮蔽物が無いわけではないため、乱数機動を続けて距離を詰めていくことができる。
―これだけの距離になれば、無いよりましか・・・!?
ティタニアル社製肩部ロケットランチャー『バトリング・ラム3』を目くらましに使う。弾薬量的に余裕があるわけではないが、このままやられるよりましだ。
「この煙幕の中ならば、恐らくこちらのリアクター反応に向かって撃ってくるだろう!囮になる!」
ファルフリードは帯同する2機に通信を入れた後、煙に機体を隠して突撃を再開する。
「ファルフリード、狙撃機のいる位置の割り出しが完了したわ!ただ、狙撃機のいる位置のあたりは遮蔽物の少ないすり鉢状の地形になるみたい。多対1は不利になる可能性が高いわ!」
アイーシャから情報が入る。弾速を速めた狙撃銃といえどM,Aの速さの前に当てられる腕を持つものなどそうそういないのだが、ここまで味方側に被害が無いということは・・・。
―誘導、か?・・・こういうことしてくるのは『サジタリウス』か?
第一次救助活動の際に少しだけ話したが、あれは生き残るためでもなく、稼ぐためでもなく、戦うために戦っていたような感覚を受けた。奴なら、こういう面倒な手段を使ってでもこちらと戦える戦場を組み立ててくるだろうと思う。
「アステリズモ!こちらでスカベンジャー1機と遭遇した。データによると『シャングリラ』だ!相手は1機だ!片付けて合流する!!」
シャーザーから新手の襲撃があったと通信が入る。狙撃予想ポイントの一つへあと1kmほどの距離となった段階でファルフリードは狙撃をやめさせるためにも肩に取り付けられているジャンプブースターを噴かして一気に距離を詰める。
大きな岩場を乗り越えて辿り着いた場所はすり鉢状の形状をした場所の縁であった。
「・・・だろうと思ったよ・・・!」
苦々しげにつぶやくファルフリードの眼前にはファルフリードと同じように縁に立つ『サジタリウス』と先ほどの狙撃機『ガイア』がそれぞれこちらを見据える姿があるのであった。




