第0話 戦闘中 幕間
夜闇の中、暗視ゴーグルをつけてただひたすら走る完全武装の小隊が施設の廊下を走っている。小隊は後ろを余裕なく走る1名を除いてきびきびと移動し、慣れた様子で安全を確保している。
後ろを走る彼は危険と引き換えに大金が手に入ると聞いていたため、PMCとして起業しているアルケーの門を叩いて半年がたつ。一通りの訓練を受けたが、小柄な育ちざかりの自分の体にはまだ小銃を重いと感じてしまう。
今回、とうとう作戦への帯同が許され初めての戦場に立ったのだが、上司や先輩の背中を目指して走るだけで精一杯であった。
「デービス!遅れてるぞ!とにかく走れ!訓練の時と同じだろうが!走って走って走りまくれ!止まれば止まるほど死ぬ確率が上がるぞ!!」
上司からの叱咤激励が響くが、肺は言うことを聞いてくれず、思うように息を吸うことすらできない。
自分たちは制圧部隊の一人として施設内に侵入して制圧を続けているところだが、自分はまだ引き金すら引けていない。自分が追いつくころにはクリアリングが済み、次の場所に向かって走り出している。いたるところから響く銃撃音と爆発音をバックに自分を奮い立たせてただひたすら走り続けようとするが自分の呼吸がなかなかうまくできず、自分の心臓の音がものすごくうるさく感じる。
建物の外からは断続的に派手な爆音が響いている。陽動に来ている会社―確かアステリズモと事前の情報に書いてあったか?-の機体が戦っているようだが、建物に被害が無いように射線を建物に向けず戦っているようだが、砲塔が爆破されるたびに地響きが起こる。
「よし!目標の地点に到着した!ここに防衛線を張るぞ!我々は救助の奴らがゴキゲンに仕事ができるように足止めだ!いいか野郎ども、いつも通り取り掛かるぞ!」
了解とめいめいに部隊のみんなが持ち場につく。自分も訓練通りの位置に就こうとするが、隊長から呼び止められる。
「デービス!お前はまだ早い、ひとまず皆の弾倉の補給を頼むぞ!」
悔しさに口元を噛みしめるが自らのふがいなさはここにたどり着くまでに嫌というほど思い知らされているため、大声で了解を叫ぶ。
ふと、廊下の窓から遠目にアステリズモのスカベンジャーが見えた。どうやら、第一格納庫の制圧に成功したらしく、外にまた集まりつつある戦車やヘリを相手に立ち回りを続ける。
それはまさに圧倒的という言葉が似合う姿であった。
壁を足掛かりに飛び上がり、バランスを崩さずに着地して流れるように射撃を返す。絶え間ない砲撃の中、回避もままならず、反撃のタイミングすら見えない弾幕の中で着々と反撃を重ねる。機体は鈍重そうな外見に見えるが、重さを感じさせずに飛び回り武装戦力を翻弄していく。パルサーの影響下で武装勢力も浮足立っているとはいえ、圧倒的な姿は美しさすら感じさせる。
上下左右全ての方向に飛び回り、時には相手を盾にして攻撃を耐えてみたと見せれば、すり抜けるような動きでM,Aに肉薄して散弾銃を至近距離で撃ち行動不能にしていく。
月明かりの中で、アステリズモのスカベンジャーの姿勢制御のブースターが煌めき、人で言えば目にあたる場所に取り付けられている複眼カメラが怪しく光る。
その美しさすら感じさせる力は傭兵会社に運用される兵器としてスカベンジャーが『傭兵の王者』と称されるのも納得させられるというものであった。
「噂には聞いていたが、アステリズモのスカベンジャーは味方側にいるとここまで頼もしいものだとは思わなかったな・・・。」
隊長が呟く。どうやらその動きに圧倒されていたのは自分だけではないらしかった。
自分も記録映像などでアルケーの保有するスカベンジャーやその他の企業が持っているスカベンジャーが戦っている姿を見たことはあるが、あのような圧倒的なものを見たことは無い。恐らく、隊長も実物を見るのは初めてなのだろう。兵器としての強さだけでなくその操縦技術に畏怖を覚える。
「さて、どうやらあの状況じゃこっちにくる戦力も少なくなるだろう!楽な職場だが気を引き締めろ!全員無事で帰るぞ!」
隊長の檄を受けて皆は気を引き締める。圧倒的な味方の姿を見たからだろうか、ふと気づくと自分の手の震えが治まったように感じた。
今をひとまず無事に切り抜けるために自分のできることをとにもかくにもやろうと覚悟を決めて改めて前を向くのであった。




