第0話 戦闘 開始
全高20m近くの人型の機体―アステリズモのスカベンジャーが足部に取り付けられているローラーで湿地帯を疾走する。人型機動兵器は重心制御や関節の制御に難点を抱えているためその多くは足部をそのまま動かすよりそれぞれ別の形で機体を動かしているのだが、この機体もその例にもれず、ローラー駆動で夜を走る。
疾走する機体は人型であることが大まかに目にとれるが、関節部のあたりにそれぞれ装甲を着けられているためか見た目はまるで立ち上がった装甲車である。機体のカメラである目の部分にはバイザー型の複眼カメラが取り付けられており、時折、その複眼カメラが光っている。今回の戦闘用に機体は夜戦使用となっているため機体の色は全て濃い緑に統一されている。
時間としては午前2時近く、まだまだ朝焼けまで遠い。季節としてはそろそろ暑くなるころだが、計器によると外気は涼しいらしい。コクピットにいる自分にはその外気は感じられず、自分の熱気でじんわりと汗ばんでくる。できるだけ相手に捕捉されないように機体を前に傾け、整備された道は通らず、うっそうとした木々をすり抜けるように行軍する。
「ファルフリード、聞こえる?」
「感度良好です、社長。」
操縦者―ファルフリードは無線に対して答えた。
「了解。これから戦闘区域に入ると思うけど、ファルフリードの襲撃から1分後にパルサーを放つわ。申し訳ないけど最初の迎撃設備の攻撃は何とか耐えて。」
本当に申し訳なさそうにスピーカーから社長であるアイーシャの声が届く。最初からパルサーを放ってしまえば恐らく待機している人員が遠隔起動をせずに直接搭乗して稼働させてしまうため、放つタイミングが難しいことはこちらも承知している。申し訳ないと思うのは筋違いというものなのだが、どこまでもその声音は正直に謝意を表現する。
科学者の待機施設にここまでの防衛線力があることがおかしいのだが、そもそも今回の依頼にしても襲撃者がその施設に科学者がいることが分かったこと、その場所に襲撃して成功を収める武装組織がいることとおかしいことだらけだ。
「いつものことですよ、気にしないでください。腕の見せ所ってやつです。」
「最初と話が違うってことや集めた情報が間違っていることが多いのはよくあることだけどここまで食い違っているのも珍しいわ。何がくるかどうか正直わからないの、ごめんね、無事に帰ってきてね。」
正直、傭兵組織としてはここまで部下の命を大事にする社長も珍しいが、だからこそ、自分はアステリズモに所属しているともいえる。
「あぁ、任せておいてほしい、こちらは予定通り行軍中だ。そちらも無事を祈る。」
通信を終わらせ、改めて気合を入れて機体の制御に意識を戻す。現場まであと2km、到着まであと2分程度のため否が応にも体の緊張が高まる。いつ相手方に補足されてもおかしくない。だが、この距離で敵勢力が警戒態勢を取っていないということは設備の取り扱いに慣れていないということだろうか・・・。
―まあいい、戦闘開始だ・・・!
バリケードが見えたため、右肩に取り付けられているグレネードを数発打ち込みバリケードを破壊する。
バリケードを抜けると自動防衛装置が起動したのが見える。防衛装置である砲座から銃撃の応酬を始まる。機体を左右にふり、狙いを絞らせないように走らせながら右手に保持しているアサルトライフルで砲座に攻撃を加える。
「敵襲!」
施設に大きなサイレン音が響き敵対勢力が準備を始めたのが横目に見える。
―銃座が多すぎる!
歯を食いしばり、自機のGに耐えつつ攻撃を重ね、格納庫と思われる建物に向けて残弾のグレネードを打ち込み、身を軽くして攻撃に耐える。
たった1分が長く感じるほど絶え間ない銃撃の中、遮蔽物などを利用しつつ身を守り、それを足場に飛び上がることで左右だけでなく高さを使ってできるだけ回避する。
「パルサーを照射するわ!あとはお願い!」
待ちくたびれた通信が入る。その瞬間、目に見えない指向性の暴虐的な電磁攻撃が周囲一帯を襲う。
機体のレーダーなどの感知機器すべてがエラーを表示する。こちらの機体はパルサーを照射された状況の戦闘に向けて改造を行っているため先ほどと変わらない機動をできるが、対策をしていない機体は通信機能と感知機能を失う。目と口を失い、遠隔操作されていた機械は全て、何らかしらの誤作動を起こし始めたため相手の動揺が手に取るよう分かる。
―反撃開始だ・・・!
回避重視の遠距離戦闘をやめ、左足部に取り付けられている散弾銃を取り出して高速近距離戦闘に変更する。ひとまず、銃座を全て沈黙させることを目標に機体を走らせる。
どうやらパルサーを使われる事態は想定していなかったようで、慌てふためく姿が見える。
浮足立った状態でスカベンジャーの襲撃に耐えられるはずなく、攻撃を受されていく。今はレーダーが満足に使えないため、機体のカメラと己の感覚のみが頼りとなる。
「っ!!」
素早く機体をスライドさせて回避機動をとる。先ほどまで自分がいた場所にロケットランチャーが着弾したが、惑わず冷静に銃口を向け掃射する。恐らく歩兵が撃ってきたものだろうが冷や汗が頬を伝う。
装甲を増やしているため命中しても甚大なダメージとはならないだろうが、これからどんな相手が来るかわからない中で被弾は最小限に収めたい。とにかく自分の感覚を頼りに機体を動かす。そもそもパルサーの状況下ではロックオンしたとしても誘導兵器の類は使えないため、できるだけ肉薄して戦えば炸薬兵器などを使わせることをためらわせることができる。
多めに弾薬を持ってきたからか、残弾数はまだ7割近くあるが、ひとまずカメラには動くものは映らなくなった。
急ぎ、機体を振り向かせ人の集まる気配がする建物に襲撃をかける。
アサルトライフルを右足、散弾銃は左足のマウント部にそれぞれ武器をしまい、背部に取り付けられているバズーカに持ち替えて扉に砲撃を加える。機体がバズーカ射出の反動で跳ねるが構わず煙が立ち上る格納庫に突撃する。
中に入ると戦闘用のM,Aが準備しているのが見える。当初は遠隔起動を試みたのだろうか、現場はかなり混乱している様子が見える。
格納庫には正規軍式の高性能の物もあれば、恐らく襲撃した武装勢力のものだろうが改造を加えられた歪な戦車のような形のM,Aも見える。どうやら、武装勢力の物も同じ場所に格納していたためだろうか、所狭しと機体が並べられている。
まずは武装勢力のものと思われるM,Aに狙いを定めて砲撃を加えて、出撃を阻止する。機動準備中であった機体は為す術もなく劫火に包まれる。
苦し紛れによる歩兵からの小銃攻撃などが襲うが受けるを装甲に任せて制圧を優先し、目に映る機体に砲撃を重ねていく。
火炎がほとばしり、悲鳴と怒号が飛び交う中、アステリズモのスカベンジャーは目に追えない速さで狭い格納庫を駆け抜ける。
武装勢力にとって、まさに悪夢のような強さで制圧が続けられていくのであった。その姿はこの場にいる誰の目にも、この突如襲撃してきたスカベンジャーには恐らく一太刀も浴びせられぬだろうと予感させる圧倒的な力となって映っていた。そして、その予想は間違いではなく、間もなく鎮圧されるのであった。




