第37話
翌朝はキース特製の湿布薬を貼ってもらい充分に睡眠が取れたお陰で、背中の腫れも随分とひいていたみたいだった。
ーーう~ん。ま、これ位なら問題無いか。
それを手で確認してから寝起きのベッドでぐるぐると肩を回し、痛み具合もチェック。大丈夫だろうと判断してベッドから降り、その場で軽く全身の筋肉と関節を柔軟体操でほぐしてから下へと降りた。
「お、おは……「やあ、おはよう。湿布薬は効いたかい?」「おはようございます。」「ユージ、体調はどうだ?」「お疲れさんどしたなぁ。」」
朝食を食べに来たつもりが、4人の席へと着く前にいっぺんに話し掛けられ、挨拶を言うタイミングを逃した。
「お、おおぅ。湿布薬は効いたし、体調は問題無いし、疲れも残って無いよ。」
席に座り改めて4人に返事をしながらタイミング良くパンを運んで来てくれた給仕のお兄さんに、分厚めの肉を焼いてくれ!と頼む。
ーー昨日は魔法使い過ぎたせいか急激に腹が減ってたけど、すぐ寝たからなぁ。朝からしっかり食べとかないとな!
どうも最近気付いたのだが、肉体強化やら肉体改造。それに魔法を多用すると、やたらと腹が減るようになった。
ーーもしかして副作用的な何かかな?特に魔法は多用すると精神的に疲れると言うか、急に睡魔が襲ってくる事が増えたもんなぁ。
ーー……よし、今日はそのあたりの確認も兼ねて試合をするとしよう。
そう思いながら今日の試合の話と雑談を交えて食事をし、ニアには先鋒だからと一人で無理をし過ぎないよう、一言付け足しておく。
さて……
個人戦の選手ならこの後、二度寝やら鍛錬に励むんだろうけど、俺は団体戦があるしと皆と次の試合に備えて道具やら防具やら装備を整えに一旦部屋に戻った。
ーーっつても、特に俺はする事無いしなぁ。あ、そだ!アレやってみるか。
ふと思いついた下準備を素早く済ませ、玄関前のロビーで全員が集合するのを待ってから会場に向かう。
ーーさて…と、団体戦の初日だし心機一転、頑張るぞ〜!
会場は昨日にも増して超~満員っ!!ただ、基本的に試合形式は個人戦と同じらしく、クジで対戦相手を決めた後は、各チームごとに待機室へと案内され次々とクジを引き名前を呼ばれたチームとトーナメント表を思い出しながら、心の奥底で抑えていた怒りの蓋がグラグラと揺れるままにニヤリと笑う。
ーー2戦目とと準々決勝でなら当たりそうだったな。是非とも勝ち残って貰って、俺の手で制裁してやるぜ。
大会に赴く前、リズから告げられ仕打ちと元主人の名前をクジで聞いた時には怒りのあまり身悶えしかけたが、グッと奥歯を噛み締め目を閉じ気持ちを落ち着かせるのが精一杯だったが……。
ーーまずは2戦目の奴らだな。メイド隊に与えた仕打ちは倍返しにしてやる。
ーーなんか団体戦では悪役っぽくなりそうだな。
ーーいや、ちょい違うか。所謂ダークヒーローってやつ?普段は気弱で大人しい俺が、身内を傷つけられた事で強大な悪の力に目覚め、それに戸惑いつつも行使して悪党を制裁するのか?
……想像したら、ちょっと格好良くないか?俺?
「おい、ユージそろそろ行くぞ?」
いつの間にか1人でニヤニヤと妄想に耽っていたらしく、キースに背中を叩かれビクリと我に返った。
「どうかしたのか?」
「い、いや。なんでも無い。」
「本当に大丈夫なのか?急に眉間に皺を寄せて険しい顔になったり、ニヤニヤしだしたしてたけど?」
「え、いや……。ちょっと考え事をしてただけだから。」
「そうか?それならいいんだけど……。」
なおも気になるのかチラチラと、心配そうに俺の顔を見るキース。
ここは普通なら、ニアかリリアがチラ見で心配してくれたりするシーンじゃないのか?
キースには悪いが、男のチラ見はいらんっ!
いったい、分岐どこで間違えたっけ?
キースには満面の笑顔と親指を立てた拳を出し、大丈夫アピールしつつフラグに失敗した~と、内心ではちょっと凹んだ。
初戦の対戦相手は何処ぞの自警団っぽいお兄さん達で、個人戦の時とは違い東西の選手席に別れて移動した後、戦う選手だけが広場に出て行く形式らしい。
「それでは~、第一戦目~!
ナイメリ商会後援~、ビリンド警護騎士団か~らの精鋭~!守護の専門家~チームロ~ーリング~!!」
「対するはローワズ商会後援~!
無謀な個人~団体戦の挑戦者が率いる~奇跡の集団っ~!チームヒーローズ~!」
両チームの紹介の後、盛大な歓声が沸き上がり大剣を両肩に担いだニアが振り向きざまに僅かな笑みを残し中央へ。
向こうは両手に棍棒を握り締めた上半身にだけ金属鎧をつけたマッチョメンが歩い来た。
「それでは~、両者出揃ったところで、第一回戦~開始っ!」
開始の合図と同時にマッチョメンがニアめがけ突っ込んで来る。
対するニアは両足を前後に開き、やや腰を落として重心を下げた姿勢で相手の動きを見据え、真正面にやって来た相手目掛け大剣を振り落とすつもりなのか大きく振りかぶった。
「ふん!その程度の攻撃が通じるかよっ!」
マッチョメンも猪突猛進タイプだったみたいで、両手の棍棒を交差させニアの振り落とした後に出来るスキを狙うつもりなのか、大剣の射程範囲まであと一歩というところで突進をやめ防御に徹してきた。
「ふっ!」
だがニアはそんなものお構い無しに呼吸を短く吐いた瞬間に合わせ一歩踏み込み、僅かに空いていた間合いの隙間を確実に詰め、交差させた棍棒の真ん中に大剣を振り落とした。
「グッ、ガッ!?」
大剣を止めきれなかった棍棒の半ばまで剣が食い込み、腕だけで抑えきれなかった分、上半身の金属鎧の肩の部分も凹ませたが、マッチョメンは片膝をついただけで其れに耐え、もう一度大剣を振りかぶったニア目掛けお返しとばかりに今度は棍棒の横殴りが襲う。
それを難なく背後に下り躱し、ひざまずいたままだったマッチョメンに大剣を斜めに叩きつけると、三回転ほど転がっていって動かなくなった。
其処へ審判の背後に待機していた医療班が駆け寄って行き、素早くチェックを済ませ大きく両腕を頭の上で交差させ、ニアの勝利が言い渡されてる間にマッチョメンが搬送されて行った。
「流石、ニアですよね~。」
「あぁ、殆ど一撃目で勝負決まってたもんな。」
「あん人が弱すぎちゃいますか?」
その後も広場から戻って来なかったニアの一人勝ちで試合は進み…ってか、危険な場面も全く無い一方的な試合が終わった。
二人目はニアと同じ大剣使いが出て来たが、相手の切込みを見切り独楽の様に体を回転させ一撃を避けたかとおもったら、遠心力を利用した切り付けを相手に叩き込み、そのまま数m吹っ飛ばされた相手が気絶で終了。
三人目は槍で距離をとった攻撃を仕掛けるつもりみたいだったが、ニアが大剣を槍の様に持つ事で間合いのハンデを潰し、突き返しや薙ぎ払いの応酬を繰り返した後、降参してきて終了。
四人目はそれまでの倍ぐらいはありそうな全身金属鎧を身につけた重歩兵みたいな奴だったけど、やっぱりと言うか鎧が重過ぎたのか一つ一つの動きが遅く、ニアの連撃を全身に喰らって立ったまま失神、審判の判断で終了。
最後の1人も片手剣を巧みに使い、ニアに何度か切り付ける所までは善戦したが、途中で大剣の一撃をまともに受け止めてしまい、剣を切られてこれも降参で終了。
ニアが凄いのもあるが、対戦した相手が明らかに格と言うか……レベルが違いすぎてた。
「この調子なら、二戦目もニアの一人勝ちみたいね。」
「いや、次の試合は俺にやらせてくれ。ちょっとした借りがあるんでね。」
待機室へ戻るなりメイアがニアを賞賛しながら次の試合の事を口にしたのを遮ると、キースと2人で顔を合わせながら何の事だと頭に?を浮かばせ不思議そうな顔をした。
ただ、ニアとリリアは俺の言い方に何と無く女の勘でも働いたのか、悟った顔で「気が済むようにしてこい」だの「お人よしやわぁ」だのと言ってきた。
「ところで……次の試合前に何か食べないか?」
と、此処でさっきまで会話にすら入って来なかったキースが口を開いた。
ーーお、おまっ、お前はうっかり八兵衛かっ〜!?何で朝食を一緒に食べて来た筈なのに、試合の途中……しかもまだ一戦目で腹が空くんだ?
ーーしかもベンチでメイアに膝枕してもらいながら試合中、耳掃除してもらってたよな?う、羨ましくて見てた訳じゃ無いけど……もう少し緊張感持ってくれよ~。
ガックリとKYなキースの発言に脱力してると、メイアが「何か買ってきます」と走って行き、両手に果汁の入った瓶とパンの入った袋を持って待機室へ戻ってきた。
それを広げて食べ終わる頃には二回戦も済み、嬉しい事に元自宅護衛をしてた連中……メイド隊の敵が勝ち上がって来てくれたと神官に教えてもらった。
ーーさて、いよいよお仕置きの時間だぜ!
因みに団体戦では対戦方式をその都度決められるらしいので審判に話をつけに行き、次の試合は俺一人対相手五人での戦いを申し込み、今ちょうど対峙中。
元護衛の五人は手に斧やら長剣やらを握り締め、余裕の笑みを浮かべながら半円形に俺を取り囲んで、ジリジリと距離を詰めてくる。
「へへっ、元雇い主だからって手加減はしねえからな。」
「あぁ、気にすんな。俺も手加減するつもりはね〜から。」
獲物を狙うハイエナみたいな視線を真っ向から受け返し、流石に5人相手に1人という無謀な戦いに備え、用意しておいたトンファーを両手に構える。
一応、多人数戦(対人)は初めてなので肉体強化2と名付けた……前に黒騎士とやった時の感覚強化版もかけといた。
ーー確か、髭男爵の資料だとパーティー組んで長い連中だったよな。なら、このまま間合いを詰めて一斉攻撃を仕掛けて来るつもりなんだろうが…甘いっ!
相手の間合いに入った瞬間、一斉に踏み込む足をスローに見つつ相手の切り付けに合わせ、カウンター気味に関節やら鎧の隙間や繋ぎ目に、突きやら武器の軌道を変える為の打撃を叩き込む。
勿論、攻撃する前に砂煙を起こし視界を遮った上に足は創造魔法で地面に固定。
五人の丁度真ん中で独楽の様に回転しながら、打楽器を叩くみたいにリズミカルに全身を叩き痛め付けていく。
そのつど、「ガッ」やら「グッ」やら「ギッ」やら不調和音を出す元自宅護衛の奴等に、か行しか言えね~のかよっ?と口に出さずにツッコミながらも手は休めない。
ひたすら一方的な打撃を続け、最初に対峙した時とは別人じゃね?って思えるぐらい顔が変形するほどの連打を浴びせ、もう反撃する力も無くなったのか武器をだらりと下げたまま、うめき声も聞こえなくなったところで解放してやる。
「おお~と、チームキッシュの5人がユージを取り囲んだ直後、両選手の動きが止まり砂煙が舞い上がったと思ったら~、いつの間にか全員ダウ〜ン!これは、試合終了だ~!」
ーーあれ?あっそっか、そか、感覚も強化されてたから時間の感じ方が違ってたんだっけ?
審判の声に我に返り周りを見てみると、どうやら観客席からは何が何だか判らない内に試合が済んだ様に見えてたらしい。
ーーまぁ、気が済むまでフルボッコしたし……いっか。
次の試合はまたニアの出番だし、これはこれでウォーミングアップってとこだな。
一応は気分的にもスッキリしたので疎らな歓声に片腕を上げて応えると、会場近くの食堂にちゃんとした食事を食べに行く。
俺達の三戦目は昼からになるらしいので、キースことうっかり八兵衛にはちょうど良いだろう。
「なぁ、見たか?さっきの戦いは凄かったな。」
「あぁ、昨日の個人戦でも見た『紅いユージ』とか言う奴だろ?」
お?……俺の話か?人気者はつらいね~♪
「あぁ、さっきも砂煙のせいで運悪く同士討ちになったのを利用して、避けてただけで勝っちまってたしな~。」
「流石は幸運の使者って奴だよなっ。」
まだ昼には少し早いせいで空席の目立つ店内のカウンター席で、2人が笑いながら話している内容が偶然耳に入り側に行って文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、急に虚しくなって止めといた。
「だ、大丈夫ですよ。ユージさんが強いのは私達は充分、知ってますから。」
ーーいや、メイア。今そのフォローって、返って虚しさが増すだけだから……。




