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異界転生(修正版)  作者: 七変化
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第32話

翌日の早朝は部屋まで起こしに来てくれたニアが全裸で隣に寝てたリリアを見て激怒し、俺の無防備な腹部へ繰り出した強烈な一撃による激痛で目が覚めた。


まさに不意打ちな一撃に身体をくの字に折り息もまともに出来ず、涙目になりながら見上げた先にあったのは正に笑い般若を具現化した姿そのものなニアだった……。


咄嗟に小さく息を呑み込み蛇に睨まれた蛙みたいにダラダラと汗をかきながらも、それから身の潔白を弁解して三人で食堂に向かったのは起きてから半刻も過ぎた後だった。


朝食前には勿論、メイド隊と二人に改めてリリアを紹介しリズには嫁候補では無いと小声で念押し。


ニアは不承不承といった面持ちながら何とか理解はしてくれたみたいだが、冷たいジト目を向けてくるあたり納得はしてなさそうだった。


確かにハタから見れば事後現場だったが、ニアとは付き合っても無いのに何でだっ?

不条理過ぎるっ!!


とは、心の中で思いつつも怖くて言えない。


そんな中、KYなキースが適当に相槌を打ちながら朝食を済ませ、夜更かしが過ぎたみたいだからと欠伸をしながら先に出て行った。



「んじゃ、またちょっと行ってくるから留守番よろしく!後、お土産も楽しみに待ってなさい。」


「「「「「「「はい。行ってらっしゃいませご主人様。お客様。」」」」」」」


集まったメイド隊に玄関で見送ってもらうと、荷台に幌が付いた簡易馬車の中で先に乗り込んでいたキースが既にイビキをかいてるのを苦笑しながら見つつ、ニアの横に並んで御者台に乗る。


後から来たリリアもキースの姿を一瞥すると当選の様に俺の横に座ろうと御者台に乗りかけたところで何故か殺気混じりのニアの鋭い視線が俺を射抜き、リリアにはキースを端にどけて中に乗ってもらいなおしメイド隊には笑顔で手を振り家を後にした。



「ニア、ちょっと悪いんだけどハンソン商会に寄り道してくんない?」


「どうした、何か忘れ物か?」


「ちょっと…出張の間、家の事を頼みにな。」


そう言って手綱を握るニアに商会へ寄ってもらうと、前に頼んだ護衛達の名前の確認を済ませ、出張中の自宅の食料なんかもついでに頼んでおく。



ーーその後は大会のあるアブェリまでしっかりと石畳で舗装された街道を進んで行く事になるのだが、途中で寺院に向かった時よりも多くの行商人や貴族仕様な馬車と何度かすれ違い、ニアに何でこっち向きはこんなに人が多いのか聞いてみた。


んで、タシナ寺院に行くのは巡礼目的の人が殆どだがアブェリには大国や帝国にしかない調味料や香辛料を、逆にこっちからは魔獣の素材を互いに求め人々が行き交っていると教えてもらった。


ついでに到着する迄どのくらい掛かるのかも聞いとくと片道で3日は掛かると言われ、中に居たリリアに予定は無いのか確認してみる。



「問題あらへんぇ。途中でちくぅと中抜けはするかもしれまへんが、試合にはキチンとでるさかぃ。」


「あ、うん。それで充分だから。本当助かるよ。」


急ぎの用は無いとの返事に安心しながら顔を綻ばせ礼を言うと、何故かニアに太ももを抓られた。



「いつっ…何で怒ってんだよ?」


「フン!判らないならそれでいいっ!」


何故か不機嫌そうにぶっきらぼうな物言いでプイと前を向くニア。


その横顔を見ながら抓られた足をさすり文句の一つでも言おうとしかけ溜息を一つ、俺も前を向くとすぐに荷台から間の抜けた欠伸と変な悲鳴が聞こえ、中を覗くと寝起きのキースが何故か正座でリリアと対面していた。



「どしたん、キース?」


「あ、あぁユージ。この美しい方は……。」


何でキースが慌ててるのかは判らないが、とりあえずは改めてリリアを紹介し大会に出てくれる助っ人だと補足しておく。


途端に俺とリリアの顔を交互に見ながら何か言いかけたが、ゴニョゴニョと口の中で呟いただけで急に俯いたと思ったら俺にはメイアが…とかブツブツ言いだし深呼吸を始めた。


……なんだってんだ?


キースの不可解な行動に小首を傾げながらも話が無いならとスルーし、特に問題もないままリリア以外の三人が交代で馬車を走らせ、きっちり三日後にアブェリへついた。



「さて…と、後はメイアにどう連絡を取るかだけだな。」


この三日間の大半を馬車の上で過ごしていたので、すっかり固まってしまった腰を叩き辺りを見回してみると大会が近いせいか街中はかなり活気があり、都市と言われるだけあって街壁門周辺にもかかわらずかなり大人数が往来していた。



「メイアの件なら明日、私が早馬を借りて寺院に行ってくる。」


馬車から降りたニアが手綱を片手に馬を誘導しながらもう片方の手で腰をさすりつつそう提案してくれたので、メイアの事は任せ街壁を抜けたすぐの広場に馬車を停める。



「で、今日からは宿に泊まれるんだよな?場所は何処になるんだ?」


キースも荷台から顔を出し、物珍しそうにキョロキョロしながら聞いてくる。


「確か、出迎えが来てるはず…なんだけど……。」


まわりを見渡しながら答えるが何かデカデカと文字を書いたノボリを持った体育会系な人達や、紋章のついた真っ赤な旗を振ってる騎士の格好をした人やら、大声で○○御一行様とか叫んでる人とか、色々居すぎて判らない。



「あれでは無いのかぇ?」


リリアが指差す方を見てみると、文字らしきものが書かれたハンカチサイズの布を両手で広げ執事風の衣装を身にまとったロマンスグレーなオジ様とバッチリ目が合う。



「うん、確かにユージ様御一行と書かれてるな。」


ニアもそちらを見ながら呟くと、馬首の向きを変え進み出す。



「失礼ですが、ユージ様で御座いますか?」


「あぁ。」


「私めはロワーズ商会よりご予約頂きました。ホテル『マーチカ』の者で御座居ます。」


ピシリと型にハマったような会釈、仕草一つから如何にもって品格が伝わってくる気がする。


「あぁ、ご苦労さん。後、一人、二人増える予定なんだけど大丈夫かな?」


「はい。問題は何も御座居ません。」


く~初老なナイスガイ!仕事は完璧って奴ですか?


そのまま案内されたホテルはモダンな煉瓦造りの外装が重厚な歴史を感じさせるの五階建て!

しかも隣に並ぶ別棟には源泉を使った五種類のお風呂とスチームサウナも完備しているらしく、宿泊客なら何時でも自由に入れるらしい。


………どんだけセレブなんですかっ?


俺が昔泊まった事があると言えば、ユースホステルか民宿、幼少時代の家族旅行ですら旅館どまりな小市民だったって~のに。


そんな説明と外観の雰囲気に圧倒されたのはキースやニアも一緒だったみたいで三人でポカ~~ンと口を開けて呆けてたら、リリアだけごく自然に執事の後をついてスタスタと中に入って行った。


リリアさ~ん待って~。

小市民な俺達をこんな所にオイテカナイデ~~。


慌て二人を連れて追いかけていくがキースは右手と右足が一緒に出てるし、ニアは急に身嗜みを気にしだしてた。


いやいや、ニアさん。

あなた、いまさら気にするも何も…。

半裸に近い鎧ですよね…。



ーーとりあえず各自に個室が割り当てられていたので一旦荷物を置いたら市内見学でもしよう!という事になり、動きやすい格好に着替え入口に戻る。


と、俺が一番だったらしく近くの椅子に腰掛け暫く待ってるとニアは鎧を脱いで、白のワンピースにチェック柄の上着に着替え、キースも茶色のズボンに明るめのシャツ、サマージャケットみたいにゆったりした深緑色の上着を着てた。


リリアは相変わらずの漆黒なローブ姿のままだったので、着替えないのか聞いてみるといちいち着替えるのが面倒だったので中だけ全部脱いできたらしい。


………何処の痴女の発想だよ、それ?


固まった俺に悪戯っ子の様な笑みを浮かべウインク一つ、そっと腕掴むとそのまま抱きつくようにしながら外に出ようとするリリア。



「あの~生地越しに胸が当たってルンデスガ~。」


「本当だと言う証拠に当てておるのじゃ。」


いやいや、そんな証拠は要らないから……。


内容が内容なだけに小声で話しいると、それが気に入らないらしくわざとらしい咳払いをしながら後ろからジト目で凝視してくるニアが怖すぎる。


……何で俺が睨まれ無いといけないんだろう?


多少の理不尽さにモヤッとなりながらもそのままブラブラと人の流れに沿って歩いて行くと、武器や防具それに見た事も無いアイテム(多分、魔道具)の露店や出張所らしい仮店舗が所狭しと立ち並ぶ通りにでた。


すると、せっかくなので通りの向こう側を集合場所にして各自個別行動に移ろうとキースが言い出し、その提案に誰も異議を唱え無かったのでその場で散開するとニアとキースは眼を輝かせながら思い思いの店に小走りで向かっていった。


そんな二人の様子を見ながら俺も後に続こうとしたが、リリアが手を離してくれないので肘がずっと谷間に挟まれたまま身動きがとれずにいた。


で、何処か寄りたい店は無いのか?口に出して聞く直前にテンプルにカチンとくるような嫌な声が聞こえてきた。



「ひへへ、さぁさぁ今日も上玉をご用意して皆様のご来店をお待ちしてますです。」


聞き覚えのある独特の下卑た声に『ロジャース』の顔が脳裏に浮かび小さく頭を振る。


「今夜もまだまだ、戦闘用に家庭用、もちろん夜伽用と数も種類も豊富に取り揃えておりますです。」


相変わらずな口上にうんざりし、せめて声の聞こえない所まで遠ざかろうと身を翻そうとしたが、リリアが動かないのでその場で二人立ちすくむ。



「ちくっとだけあれに寄ってみたいんやけど、付き合ってはくれはらへん?」


横からだと目深に被ったフードで表情が判らないが、初めて聞くリリアの真面目な声色に少し驚きながらも誰か探しているのかと思い、無言で頷くと奴隷商の仮設小屋へと向かう。



「ひへへっ、これは、これは旦那さん。こんな所でお会い出来るとは、奇遇ですね~。」


二人してすぐ傍まで近付くとロジャースは俺の顔を見た途端、あのいやらしい笑顔と揉み手で擦り寄ってきた。



「今日は買うつもりは無いが、それでも商品を見せてもらえるのか?」


「ひへへっ、勿論ですます、はい。ささっ、どうぞどうぞ、こちらへ。」


そう言いながら案内されたのは黒い布で作った簡易の壁で区切られた先にある雛段で、普段はここで奴隷を見ながら競りが行われると説明された。



「気にいった奴隷が見つかりましたら、すぐにお声をかけて下さいませ、はい。」


8割がた埋め尽くされた雛段の裾に上り、最初に買わないと断っておいたのに下で笑いながら揉み手を続けるロジャースを無視して正面を見る。


その視界の先には左手側に檻に入りうずくまる数人と、右手側に首輪と鎖に繋がれ俯いたままの奴隷が並び、中央に立つ奴隷の横の男に向かって雛段から番号と金額が飛び交っていた。


そんな売買のやりとりに思わず顔を顰めすぐにでも出て行きたい気持ちから段を降りようとしたところで、リリアが微動だにせず奴隷達を見てる事に気付いた。



「ひへへっ、今はあれで全部ですが、明日には大会に合わせて戦闘用の新しい商品が入荷しますです。」


下卑た笑顔をより一層歪めながらそう補足するロジャースの言葉を聞き流し、適当に相槌を打ちながす。


そうこうしながら無意味な時間を過ごしていると不意にリリアが腕を引っ張り、何も告げずに動き出したので引かれるままに通りへ戻ると丁度辺りをウロウロしていた二人を見つけた。


その後は気もそぞろになりながら通りを四人で見て回りホテルに戻る頃には日も暮れはじめてたので、特に何かを買った訳でも無かったしそのまま夕飯を食べる事にした。



「く~~っ、旨い!!」


ホテルの二階にある大食堂で注文した料理の見た目と豪華さにキースとニアの二人は興奮し、特に味付けにはキースが感動していたが、俺はというとあまり食が進まなかった。



「ん?どうしたユージ?あんまり食べて無いみたいだが何かあったのか?」


「んむ、この貝など絶品だぞ、ユージ。」


それに気付いたらしい二人が心配そうに声を掛けてくれたが俺は「何でもない」と微笑しながら応え、結局出てきた料理には殆ど手をつけず先に部屋に行くと席をたった。




ーー部屋に入るなり何をするでも無くベッドに横になりゴロゴロ過ごしていると不意にノック音が室内に響き、リリアとニアがやって来た。


珍しい組み合わせにちょっとだけ驚き部屋に入ってきた二人に椅子を進め自分はベッドに腰掛けると、ニアがさっきの態度が気になって俺の様子を見に来たら部屋の前で偶然リリアと一緒になったと教えてくれた。



「ーーで、今日は一体何があったんだ?」


「何って言う程の事でも無いんだけど……リリアと一緒にロジャースの所に行っちまったんで、ちょっと、な。」


「ロジャース?」


「あぁ、俺があの子達を買った奴隷商だよ。」


「………。」


それだけ言うとニアは一瞬だけリリアの横顔を一瞥し深い溜息を吐いた。



「……ん、それならば私は居ない方がいいのだろ?二人して今夜はじっくりと話し合え。」


「あぁ。」


俺が軽く微笑を返すとニアはそれ以上何も言わず一人、部屋を出て行ってくれた。その後ろ姿を見送り残ったリリアに視線を向ける。



「さて…何を話せばいいのか判らないけど、今日は奴隷小屋で一体誰を探してたんだ?」


「別に誰…と特定の個人を探してた訳やおまへん。」


「じゃあ、一体……?」


「あの村は…、土地が痩せ細って貧しかったさかい、もしかしたら誰か奴隷になってやおへんかと考えただけじゃ。」

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