第24話
「ただいま~!」
商会を出た時間がちょっと微妙だった事もあり、帰路の途中にあった露店の料理を買い食いして夕飯を済ませ、意気揚々と扉を開け帰宅を告げると、メイド隊がワラワラとホールに集結してきた。
「「「お帰りなさいませ、ご主人様。」」」
全員が集まり一斉にお辞儀する姿を見ながら一人一人の頭を撫で、お土産を手渡して喜ぶ笑顔に満足しつつ留守中に何か問題等は無かったかをリズに聞く。
「はい、大きな問題はありませんでした。ですが、不在中に手紙を三通お預かりしています。後、ニア様とおっしゃる方が急用があるらしく、帰宅後に至急連絡して欲しいと言付かりました。」
「そか、んじゃ手紙はリズに読んでもらうとして、ニアの方は後でちょっと行ってみるか。」
「はい。」
ん?…………深々とお辞儀する時に見える衿元が黒い?
よく見てみると、全員最初の栄養失調児みたいな体つきからは脱出出来たみたいだけど……何か薄汚れてない?
ま、まさか…………。
「あの~、ちょっと確認しときたいんだけど、皆はキチンと毎日風呂に入ってる?」
「はい、毎日とは命令を受けていませんでしたので、汚れの目立つ者だけ入る様に指示していました。」
やっぱりか~。
「あ〜うん、そっか。じゃあ今から全員風呂に入ってくるように!後、風呂は身体が汚れて無くても毎日入る事!衣類は毎日洗濯と着替えをする事!」
「「「はい。」」」
返事だけは良いんだけど…軽く頭が痛くなりかけ、こめかみを揉みながら自室に入る。
ーー何だろね~。こっちから指示とか命令しなくても身の回りの事くらい自分で考えてしてくれたら良いのに。
ーーしない!って選択肢しか無いってどうなん?
これは風呂上がりに出来無い、出来ていない事を再確認して新しく指示しとかないと…そう思うだけで、ドッと疲れた気がする。
ーー奴隷って融通きかね~。
机に俯して深々と溜息を漏らしそんな考えが浮かぶ。
そのままいつの間にか机で眠りこけてたみたいで、起きたら背中に毛布がかけてあった。
コンコンッ
「失礼します。ご主人様、朝食をお持ちしました。」
ーーえっ?俺あのまんま爆睡してたの?
自分でも気付かないうちに慣れない長旅の疲れが溜まっていたらして、リズの声で慌てて涎の跡を手の甲で拭い、寝起きのタイミングばっちりで紅茶とサンドイッチを持って来たリズに礼を言う。
「ありがとう。じゃあついでに手紙も読んでくれる?」
「畏まりました。」
「あ、それと風呂は…ちゃんと入ったみたいだな。」
「はい、お言いつけ通りに。ですが、私は夜伽をする時しか体を清める事を許可されていませんでしたので、今夜はご所望ですか?」
「ブフッ!!」
飲みかけの紅茶を吹きそうになり、ほんのりと石鹸のいい香りが立ち込めるリズをマジマジと見つめてしまう。
「えっ?夜伽って…リズって今、何歳?」
「はい。三日前に数えで17になりました。」
ーーえぇ~っ、誕生日くらい知ってたらもう少し気のきいたお土産買えたのに…。ってか、前の奴はどんだけロリコンだったんだよっ?
「えと、誕生日は何かイリマスカ~?」
「ご主人様のお好きな物を。」
いやいや、それじゃあ誕生日プレゼントにならんでしょ?
「じゃ、じゃあ、話し戻して。とりあえずは手紙を読んでくれるかな?」
「畏まりました。」
う~ん、リズちゃんが欲しそうな物って何だろう?
いきなりカミングアウトされた話からそんな事を考えながらも読み上げられる手紙の内容を確認する。
一通目は、此処の王国騎士団への入団試験について(ギルドから話でも行ったかな?)
二通目は、ギルドからの名指しでの指名依頼(詳細はギルドにて…って、ワザワザ手紙にする事か?)
三通目はローワズ商会からの依頼(んー、聞いた事無い所だな~、後で髭男爵にでも聞くか。)
後はニアの急用か…。
サンドイッチを片手に手紙の中身を頭の中で整理していき、昼からは髭男爵と会うので昼食は要らない事をリズに伝える。
「畏まりました。」
「ああ、それと今夜は帰りが遅くなるかも知んないから先に夕飯を食べていいし、風呂も全員入るように。」
「畏まりました。では、帰宅後に夜伽を御所望と。」
「いやいや、夜伽は御所望じゃ無いから!」
何でリズが夜伽に固執してんだよと口には出さずにツッコミながら、他のメイド隊にも念押しておこうとメイド部屋を覗きに行くと、綺麗に布団が畳まれ何故か昨夜渡した菓子がその上に置かれていた。
ーー何だろう?
ーー土産は一日置いてから食べる風習とかあんのか?生もの貰ったらどうすんだろう?
不思議な光景に小首を傾げながら階段を降りホールに向かう途中に、食器を洗う音が微かに聞こえてきたので進路を変えてキッチンを覗いてみると、ちょうど四人が分担しながら朝食後の片付けをしている最中みたいだった。
「おはよう。」
「「「「おはようございます。ご主人様。」」」」
「あれ?後の二人は?」
「ターニャとリリィは風呂場の掃除をしてます。」
「そっか~。ところで聞きたいんだけど、なんで皆はお菓子食べないの?」
「え?あれは私達が食べてもよろしいんですか?」
いやいや…君達、昨日喜んでたじゃん。食べ物じゃん。
食べていいに決まってるじゃん。食べてよ~。
「食べて良いから、また後で味の感想とか聞かせて。」
「えっ?ご主人様はお召し上がりになってない物を私達は食べるんですか?」
「ん~、そういや、食べてないや。」
キッチンを片付けていた四人が手を止めヒソヒソ話し出すと、急に怯えた目で見てきた。
なんだ?
「私達が…勝手に食べても罰は受けないんでしょうか?」
ーー……………はい?
何処の世界に渡した土産を食べて怒る奴が居るね~んっ!と激しいツッコミが口から飛び出しそうになったが、溜息一つでそれを抑えつけ、もう何か全身から力が抜け「良いよそれと、今日の用事はリズに伝えといたから」とだけ告げて力無く外に出た………。
ーーうわわぁぁ~ん、髭男爵早く迎えにキテヨ~。
半ば呆けつつ街並みを眺めながら奴隷の扱いづらさに黄昏れてると、髭男爵の馬車が見えたので出迎えに行く。
「お待たせしたでしょうか?」
「いや、ちょっと外で考え事してたし丁度良かったけど。」
「何か…お悩みでも?」
色々あるよ~!
奴隷とか、クーデレちゃんとか…もうね、有り過ぎて言えないから話題変えようよ~。
「や、それは置いといて、昨日は書類とか言ってたけど手続きとかややこしいの?」
「いえ、簡単ですが…ユージ様お1人様分だけでよろしいのでしょうか?」
「はぃ?」
「いえ、銀行に個人で登録される場合は本人ともう御一方、決められた代理人しか手続きが認められていませんので、前回の様に長期不在の場合などは前日に引き出しておく等の手間が掛かってしまいますが、それで宜しのか確認をと思いまして。」
それ、昨日言ってよ髭男爵~!
そんな規約があるのならと、俺は急いで家の中へとリズを呼びに戻り、髭男爵の馬車に同乗させた。
銀行に向かう途中の馬車内で書類の説明を聞いておいたお陰で着いてからの手続きも簡単に済み、代理人にはリズを登録する。
ただこの世界の銀行は元の世界とはかなり違い、手続きが済むと同時にキャッシュカードみたいなのを手渡され、入出金に対して手数料が掛かるのに、利息も発生しないって事に少し驚いた。
理由としては国からの運営費以外を手数料で賄っているかららしい。それ故に貴族や豪商、一部の商人や高ランク冒険者など、口座を持つ事自体が一種のステータスとなっている感じだった。
で、専用の小切手も俺とリズの二人分を作ってもらいサクッと終了~!
「んじゃ、飯に行く?」
「はい。この先に最近出来た、珍しい料理の店があるんですよ。」
「珍しいって、どんな?」
「それは行ってからの楽しみに。」
髭を触りながら先導する髭男爵に続き、俺とリズは銀行を出ると大通りを広場に向かって歩いていく。
「ここです!つい最近出来たばかりの店なんですが、勿論味は保証致します。」
そう促され2階建てのこじんまりとした食堂みたいな外観をした店内に入ってみると、昼時だからか結構混んでた。
「予約しておきましたから、こちらに。」
流石、髭男爵!商人だけあってぬかりが無いぜっ!
俺達は案内された窓際の席に座り、俺はメニューが読めないので髭男爵に一任する。
で、然程も待たず目の前に出て来たのが……蕎麦?
ーーえ?
「この料理は大国で流行っていたものを店主が改良したそうなんですが、何と茹でた麺をコチラの器に入った‘‘つゆ”と呼ばれるスープにつけて食べるんですよ。」
「へ、へぇ〜。」
若干興奮気味に話す髭男爵が自慢げにつゆの入った器を持ち、フォークで麺を搦め捕りズルズルと啜る姿をやや引き気味に眺めながら、確かに意外すぎる料理に驚きつつ視線を落とす。
見た目で一番近いのはざる蕎麦だろう。だけどつゆの色がかなり薄く、行儀が悪いとは思いつつも液体に小指を突っ込んで味を確認してみる。
…………っ!これは、アレだな!ナンプラーだっけ?それに昆布?
口中に広がる味と記憶を擦り合わせながら魚から作った醤油によく似た味を懐かしく思うと同時に、昆布の出汁がしっかりと出ていない事にわずかに眉を顰める。
ーーう~ん、贅沢を言うなら後はもう少し味は濃い目で、鰹節の風味とワサビが欲しい所だよなぁ。
とはいえ、久しぶりに口にする懐かしい料理ーーなんちゃってざる蕎麦を三人でズルズルと食べ終わると、いつの間に追加注文したのか天麩羅ならぬ素揚げの鶏肉が出てきたので、ソレをつまみながらローワズ商会について髭男爵から話しを聞いてみる。
「ローワズと言えば王都に本店を置く、家庭用魔道具専門の商店だったと記憶してますが、それが何か?」
「んー、何か俺の留守中に依頼が来てたみたいなんだけど、知らない商会だったから気になってな。」
「なるほど、確か経営は順調で今は勢いのある商会ですので私共の様に何処からかユージ様に関して、情報を入手したのかもしれませんね。」
「情報ねぇ。ま、何にしてもハンソンさんも知ってるならそれなりに信用出来ると思うし、色々教えてくれてありがとうなっ。」
雑談も一旦キリがついた所で、「この後ギルドに用があるからリズを家まで送ってもらえないか?」と、お願いし笑顔で快諾してくれたので任せて店の前で別れた。
因みに、此処の代金は髭男爵の奢り。
流石!太っ腹だぜっ髭男爵!
そしてギルドにやって来た俺は、名指しの指名依頼についてとローワズ商会が他に何か依頼をしていないか聞いてみた。
「まず指名の件ですが。南にある自治区からの依頼で、集落の近くでバインドの目撃情報が出たらしく、それを追っ払って欲しいそうです。後、ローワズ商会の方は大会が近いんで高ランクの方を五人募集してますね。」
いつものおっさんは休みなのか、以前冷やかし三人組の受付をしてたおっさんが答えてもらい、指名依頼のバインドって魔獣について詳細をお願いする。
ーーフムフム…ザザ国に棲息する魔獣で稀に‘‘ハグレ”や‘‘ナガレ”と呼ばれる個体が南の森林に紛れ込む事があると。
ーー六足歩行の大型獣の一種で、主な餌は彩龍…だ…と……。
「ちょ~っと待て~!なん~~でそんな怪獣の相手を俺がしなきゃならんのだ?え?「彩龍を狩れるなら大丈夫だろう?」って…。いや、無理ムリ!いくら何でもそんなバケモンはむ゛りっ~~!!!!」
ここだけの話、彩龍の時ですら不意打ち、騙し討ちに近い状態で無かったらかなり苦戦したのに、それの捕食獣なんてどんな怪獣だよと全力で拒否する。
「他に彩龍倒した奴は居ないの?」
「そう言えば…お前さんが顔を出さない間に一人居たけど、一匹だけだったからお前さんにまわす事に俺が決めといた。」
どや顔で言い切ったオッサンを見てると、殴りたくなってくるがここは我慢っ。
ローワズ商会の件は手紙の事を説明すると依頼が個人宛に来てるなら直接話をして、交渉が難しい様ならギルドが仲介に入るって形になった。
「そういや、俺が居ない間。ニア見掛けなかった?」
「あ〜?そういや最近見てないななぁ。ま、アイツは大抵キース達と一緒だから、そっちに聞いた方が早いんじゃないのか?」
ま、それもそうか、宿に寄ってマスターに聞くのが一番だな!
「ん、わかった。ありがとう。」




