第25話
「あ、そうそう、言い忘れてたがバインドの依頼は今週中に頼むぞ!」
「あ~はいはい、わか…っ…て………いや……う゛えぇぇ~?うわわぁぁん馬鹿ぁ~~。」
おっさんの無茶ぶりに涙を流しながらギルドを飛び出し、やけ酒も兼ねて宿でキース達に愚痴でも聞いてもらおうと涙を拭きながら歩いていく。
「マスター。久しぶり~!」
「お?お~っ!誰かと思えばユージじゃね~か?」
「とりあえず、きっつい酒とキース達は2階に居る?」
「なんでぇ、なんでぇ、昼間っからやけ酒とは感心しね~な。それとキース達なら二日前から仕事で出掛けて戻って来てねぇぜ。」
厨房から顔を出したマスターはそう言いながらグラスにウイスキーを並々と注いでカウンターに置いた。
相変わらず宿の食堂は喧騒に満ちていて何処と無く気持ちが落ち着く。で、カウンターに座って置かれたウイスキーを飲みながら、キース達はどんな依頼で出かけたのか詳しく仕事内容を聞いてみる。
それによるとメイアと二人で森のとある場所まで稀少薬草を採取しに行ったらしく、まだ二、三日はかかるらしい。
ニアも同じ頃に別件で出掛けたらしいが、こっちは何も聞いて無かったそうだ。
んー、ニアの急用って何だったんだろう?
本人と連絡が取れないならどうしようも無いので、ニアには俺が帰って来てる事を見かけたら伝えてもらうように頼み、もう一口飲んでローワズ商会の場所も聞いてみる。
「なんでぇ、仕事が立て込んでるのか?それにしちゃあやけに飲んでるが何かあったのか?」
「仕事はまぁまぁだけど、色々問題あってね。」
「ガッハッハッハ~!しけた面でも酒を飲みにきてんなら大丈夫だっ!若いんだから、今のうちにバンバン稼いでこいよっ。」
マスターにバシバシと豪快に笑われながら肩を叩かれ半分以上残ったグラスと代金を置いて立ち上がると、「今日は奢りだ!」と代金を投げ返された。
その後は食堂の出入口の前でカカリィさんに捕まり、若いうちから酒に逃げる様な事してたら将来ろくでもないよと有難い説教を頂き、宿を出るとマスターに聞いた道を進んで行った。
「さぁさぁ~奥さん、この煮る、焼く、蒸すが出来る万能調理鍋が何と今なら、たったの5シリング!さらに、吸水性の強い海綿タオルまでお付けしてこの価格!」
道を進むにつれ、どっかで聞いた様な台詞が耳に入り声の聞こえる方へ行ってみる。
「もちろん、それだけじゃあ~ありませんっ!修理は当社が完全保障!今なら期間限定の特別サービス!何と今お使いの調理鍋を1シリングで下取りさせて頂きます。
この機会に、ぜひ御決断をっ!」
何だ?このどっかの通販番組みたいな売り文句?
近付くにつれ店先に山積みにした万能調理鍋とやらが入った木箱の前で、袖捲りした短髪体育会系な商人のお兄ちゃんが、さっきの宣伝文句と実演で群がるおばちゃん達に猛烈アピールしている最中だった。
確か…髭男爵が家庭用魔道具って言ってたし、もしかしてここの事か?
十重二十重に群がるおばちゃん達のまわりをウロウロしながら入口を探してみるが、おばちゃん達が邪魔して台の上に乗ってるらしい短髪のにーちゃんの笑顔しか見えない。
多分おばちゃん達の向こう側、最前列に行けば店内に入れるんだろうけど…こんな熱気ムンムンな集団を押し分けて入れるのか?
人だかりが減るのを待ってみようかとも考えたが、一向に気配は無いどころか、実演試食まで始まって、ますますヒートアップしてく…。
はぁ…しゃーねーな。
一向に引く気配の無いおばちゃん達に溜息を漏らし強行進軍を決行しようと最前列目指して、かきわけつつ進むが肉厚が半端ない。
それに予想以上のおばちゃん達の熱気と混み合う圧力に肉体強化を使ってない身体は早くも酸欠気味に陥っていく。
さ、酸素~!
…きっつい香水の香りに鼻が馬鹿になっていく気がしながらも突き進むが……最前列は遠い……。
それでも何とか突き進んだ結果。もみくちゃのボロボロになりながらも、何とか肉の壁を抜けて店内に入ると中は所狭しと商品が並べられていた。
「いらっしゃいませ!今日はどういった物をお探しで?」
いつ現れたのか、いきなり背後から声をかけられ慌てて振り返る。
……こいつ、まさか「転移使い」か?
「え、いや~買い物に来たんじゃ無くて、依頼を受けたユージですが…。」
「え?あっ、はい、ユージ様ですね?確認を取りますので少々お待ち下さい。」
一瞬警戒したがよくよく考えてみれば商会にザックみたいな奴が居るわけないやと納得し、笑顔を絶やさず腰の箱を弄ると後ろを向いて小声で話だす店員を見つめる。
ん?あれって、もしかして無線機みたいな魔道具なのか?
もしそうなら一組は欲しいと思い声ををかけようとした瞬間、笑顔で振り返り「こちらです!」とズンズン奥に案内された。
「ようこそこの度はローワズ商会にわざわざご足労頂き、誠にありがとうございます。」
ついて行った先の部屋の中にいた白髪の混じった人のよさ気なオッチャンが俺を見るなり両手で握手をしながら笑顔で出迎える。
「私がこの商会を代表しております、ローワズ・ヤンでさす。」
「早速、こちらで依頼の話を進めましょう!あ~パナン君、何か飲み物を用意して!」
パナンと呼ばれたさっきの「転移使い(仮)」は一礼してスグに出ていった。
「で、依頼内容はなんですか?」
「いや~、簡単なトーナメント戦に出てもらうだけです!もちろん、移動、食事、宿泊、必要と思われる全てはこちらでご用意させて頂きます。」
笑顔を絶やさず迫って来られるのって、意外と恐い…。
「で、依頼を受けた場合は……。」
「そうですか~!受けて下さるっ!いや、本当に良い商談が早く進むのは気持ち良いものですな~、ははははっ。」
依頼内容は来月開催されるとあるトーナメント戦に出るだけだったが、殆ど俺は喋らせて貰えずオッチャンの迫力に負けてうやむやの内に商談成立した訳だが、報酬は悪く無い。
「後、必要な武器等あればおっしゃって下さい。それと期間中の世話係に家政婦を二人、おつけしますね!」
この商会は何かしらオマケを付けないと気が済まないのだろうか?
「いや、世話はうちのメイド隊から連れて行くから問題無い。」
その一瞬、笑顔が消えるがスグに戻った。
「いえいえ、ユージ様!自宅の奴隷等使わずとも、我社が責任を持ってお気にめす家政婦をお付けします。」
いや、たまにはメイド隊に小旅行でもって考えただけなんだが…。
「いや、そこまで気を使ってもらわなくても、勝手知ってる者が居た方がこっちも気分が楽だし。」
「なるほど、ユージ様がそこまでおっしゃるのでしたら、我社としても高級奴隷の餌を用意して、奴隷小屋の在る宿を手配いたしましょう。」
………そっか、奴隷は者じゃ無く、『物』だったな。髭男爵が普段は普通に対応してくれてたから忘れてた。
連れて行けば彼女達に自分達が奴隷だって事を再認識させるたり、つらい思いをさせる事にもなるのか……。
「……いや、やっぱり家政婦を頼む。」
「はい!喜んでっ!」
オッチャンは満足げに笑顔を深め色々好みを聞いてきたが、俺は奴隷の立ち位置に改めて考えさせられ気持ちが沈み作り笑いで適当に返事をして話を流した。
仕事を受けたからには責任を、それと同等にメイド隊を大切にしたいと改めて思いながら……。
ーーその翌朝は早速決意を実行する為に久々だったがメイド隊と一緒に食卓を囲んだ。
初めて来た時に比べ随分とこの生活にも慣れてくれたようで、食事中の雑談や笑顔も増えた気がする。
やっぱ、賑やかな食卓って良いよな~。和むな~。
そんな事を思いながら先に食べ終わるとリズが食後の紅茶を用意してくれ、それを飲みながらメイド隊の顔を見てのんびり過ごす。
全員食べ終わると四人が後片付け、二人は玄関の掃除に行き、リリィがスグに戻って来た。
何かあったのか聞いてみると、外の掃除に出たら馬が物凄い速さでこっちに向かって来るのが見えたと言うので外に出てみる。
「はぁはぁ、早朝からスマン。どうしても頼みたい事があって早馬を借りて急いできた。」
馬で駆けて来たのはニアだったが、肩で息をしながら額の汗を手の甲で拭う姿をみて話は自室で聞くからと側にいたリリィに冷たい物を頼む。
で、急用と言うのは南の自治区には自分の故郷があり最近になって村の近くにバインドが現れる様になったらしい……って、俺がギルドから受けた強制依頼と内容が被ってたのでそれを教えると、是非頼む!と拝まれた。
まぁ、断る理由も無いので了承するとすぐにでも出発したいと急かされメ急遽イド隊に留守を頼み、ギルドに寄ってニアも同じ依頼を受ける旨を伝えとんぼ返りな出張に出掛ける事になった。
道中はかなり気が急いているのか、大剣を背負ったまま馬に気遣いもせず走らせるニアにバテない程度に速度を落とす様に声をかけ、俺も高速移動の速度を馬と並走出来る程度に調整しながら獣道に近い荒れた街道を一昼夜走りつづけ、二日目の夕方には何とかニアの故郷が見えてきた。
村と言うには建物が多く町と呼ぶには少な過ぎるログハウス調の家屋が建ち並ぶニアの故郷。
それは森の中にひっそりと隠匿された様な雰囲気を漂わせ急いで来た割には特に被害を受けた様子も無く、少し安心したのか馬を降りたニアは手綱を引きつつ砂利道を真っ直ぐ歩いて一軒の家屋へと向かって行く。
「メア、ヤダ、帰って来たぞ!」
扉を開けるとニアに丸い虎耳を付けて巨乳した様なお姉さんと、切れ長な瞳が印象的な焦げ茶色のロングなこれまた巨乳なお姉さんがニアを出迎えた。
ぬぅ、巨乳は遺伝か?
ニアを出迎えると左右から嬉しそうに抱き着き、腕を挟んで柔らかそうに形崩れする巨乳をガン見してた俺に気付いたニアがわざとらしく咳ばらいをして、簡単な自己紹介をお互いにする。
お互いに名前が判った所で丁度夕飯時だからと強引に台所に連れて行かれ、かなり味の濃い肉シチューをニアと一緒にいただいた。
「もうニアちゃんってば~、ユージ、ユージって手紙に毎回書いてくるから、一体どんな人なのかって色々想像したり~、いつ見せに来てくれるんだろ~って期待してたのよ~。」
「ほんとに、呆れるくらい格闘馬鹿なニアが惚れるんだから、きっと筋骨隆々の逞しい人とかじゃない?ってヤダと話しながら想像してたんだけど…意外と華奢なのね。」
「ね、姉様達っ!わ、私はそんなに連呼はしていないし、第一ユージが困惑しているでは無いかっ!」
ニアは二人の言葉に顔を赤らめつつ慌てた反論する…。
えぇと…前の恋愛フラグって、なくなったんじゃ無いの?




