第23話
何とか倒しはしたものの、その後どうするかなんて事は頭からスッポリと抜けていたので、とりあえずは転移する相手に有効なのか疑問に思いつつも手足を巨石から創った鎖で頑丈に縛り付け起こしてみる。
「う、うがっ…あ…っ。」
「あ、気付いた?」
「お゛めぇ、なしでおでのごど、ごろさね~?」
「ん?殺すつもりなんて最初から無かったし、一応手は抜け無かったけど急所は避けたし……ってか、何で殺されるって思ったんだ?」
意識を取り戻したと同時に自分を縛る鎖にも気付いたらしく、巨体を揺らし鎖を鳴らしながら変な事を口走る巨人騎士に、つい質問を返してこっちもいきなり襲ってきた理由を知りたかっただけだと説明する。
「まぁ、こっちも咄嗟の事だったし、余裕無かったから手荒くなった事は謝るよ。悪かった。」
「・・・なしで、あ゛ゃまる?」
「んー、普通に会話が出来るならそれが一番だと思ってはいるんだけど、実際はこうしてあんたを縛り付け話してるから、かな…。」
苦笑いを浮かべ頭を掻くと、巨人騎士はキョトンとした目で俺を見返してきた。
その後は先程の戦闘が何だったのかと言うほど態度も大人しくなったので、鎖を外し簡単な名前の交換から会話を始めたんだけど……この巨人の訛りがかなり酷くて途中何度も聞き返してしまった。
でもまぁ、その甲斐あってザックが山脈向こうにある教国から人目を避ける為に国境沿いの森を歩き、ここまで逃げてたって事は判った。
んで、偶々この辺りに身を潜めてた所へ寺院騎士を連れた俺達に気付き、先手必勝とばかりに襲ってきたというのが今回の事のあらましみたいだった。
因みにガルタス達を真っ先に攻撃した理由ってのが、寺院に雇われた傭兵だと勘違したからだと聞き、物騒な早とちりに言葉を失いながら溜息をついた。
ーーこりゃ〜ガルタス達には内緒にしといた方が良さそうだな。
ガシガシと頭を掻きながら幸いにも今回は死者が出なかった事で話を一旦打ち切り、そもそも何で逃げているのかとか、殺す殺さ無いとか口走った理由は何だったのかって話題に変えてみると何故かザックは急に身を縮こませ口を結んでしまった。
「……まぁ、言いたく無いなら無理には聞かないけど。理由によっては手助け出来るかも知れねーぜ?」
「……ほんどが?」
「但し、理由によってはだけどな。」
流石に重犯罪を犯してーーなんて言われたら助けるつもりも無いんだが、なんと無くコイツは違う気がした。……勘だけど。
そっからザックにも思う所があったのか、暫し沈黙した後に自分が教国のとある騎士団の一派に監禁されていた事を打ち明けてきた。
「騎士団の一派って、それと寺院騎士がどう繋がるんだ?」
「ぞれは……おでを追うのに騎士団と違っで、寺院騎士ならぜいやくが無いがらだど。」
ーーあぁ、成る程。つまりは外交官特権みたいなもんか。
となると、死体の持ち帰りなんかも命じられてる可能性もあるなと暫し考え、今身につけている鎧は捨てて行けないのか聞き返す。
「ぞれは、がまわねぇが……なじでだ?」
「まぁ、上手くいくかどうかは判んねえけどちょとした時間稼ぎにな。それと、一つ質問なんだけど逃げる先にアテはあるのか?」
「あ゛る。」
「こっから近いのか?」
「んだ。獣人族の自治区な゛ら、寺院もねぇじ教国も゛でだじ出来ねぇ筈なんだど。」
ーー自治区か……確かこっからも近いしイケそうだな。
アテがあるならと作戦を簡単に説明し、鎧を脱いでもらい
着替えにとやや地味で普通っぽい服を巨大猪の革を素材に創って着替えさせ、その辺の草木と余った皮を鎧に突っ込み、人型にしてから地面に置いて火炎魔法で一気に焼き尽くす。
その合間に気になっていたさっきの魔法について聞いてみると、あれは法術で『転移術』と呼ばれている事や、ザック自身は目視出来る場所までしか範囲が無い事なんかも教えてくれた。
ーー個人による法術の限界なのか、それが基本なのか。色々と疑問はあるけど、今は調べようが無いな。
ーーま、こんなもんかな?
そうこうするうちに火力が想定してたより高温になってしまったが、出来上がった焼死体跡を見ながら後ろでボケーっと突っ立っていたザックに、早く自治区へ向かうように促す。
「いい゛のが?」
「ああ、後は任せとけ!寺院騎士達には上手く言い訳をして返しておくからお前も逃げ延びろよっ!」
握手を交わし簡単な別れの挨拶を済ませ後ろ姿を見送ると、ザックは何度もこっちを振り返りながら頭を下げ、その姿を岩陰の向こうへと消していった。
ーーさてと。それじゃあもう少し、この辺りもそれっぽく見えるようにしとくか。
戦闘自体はハードだったが殆ど接近戦ばかりだったので、かなり激しい戦闘をやり合いましたよ〜と状況証拠を裏付け出来るようにひと暴れし、ザックが探知の範囲を出たのを知覚してから熱の冷めた鎧の一部を手に自分も大急ぎで馬車へと戻った。
すると比較的無事だった巡礼馬車の前に毛布が敷かれ、寺院騎士達とグスカが並べて寝かされてた。
その横でガルタスが焚火の番をしながらハイロンと周りを警戒し、サシャはなんか疲れきった顔のまま馬車に座りながらもたれかかり、薪拾いに出ていたらしいヤランだけが俺に気付き駆け寄って来た。
「無事だったスか。で、黒い騎士はどうしたんス?流石に逃げて帰ってきたんスか?」
「んー、今は黒い騎士の話より現状を先に教えてくれ!」
「了解ッス。まず俺とガルタス、ハイロン、司祭士様の四人は大した怪我も無かったんスけど、寺院騎士の二人は骨が何本やられてたみたいで、今司祭士様の治癒法術で治療が済んだ所ッス。ただ、グスカの方が…。」
そこまで言って俯くヤランの肩を軽く叩き、サシャの傍まで行って片膝をつく。
「すいません。せっかく司祭にまで昇格し法術の精度と練度まで上げたのに……私の力では痛みを和らげるのが精一杯で……腕がちぎれかけています。」
「そうか……。なら、俺が治すしかないよな?」
「で、出来るんですかっ!?」
「ああ、多分な。」
自分の力量不足を責めているらしく語尾も弱々しいサシャの頭を軽く撫で、呟いた言葉に驚いたのか急に叫び両手で慌てながら口を覆う姿に苦笑を返し、横目で3人が気を失ったままで居るのを確認してから小さくお願いしますと呟いた。
「あぁ。」
サシャには力強く頷き返し、寺院騎士の二人には背を向ける形でグスカのすぐ側に座り込むと、深く息を吐いて潰された腕に手をかざし治癒法術をつかう。
すると時間が逆戻りするみたいに腕が元通りになっていき
、辛そうに短く吐いていた息が眠るみたいに長く深くなっていくのを、後ろから覗き込んでいたヤランが目にし絶句してたが無視。流石に失敗は出来ないので意識を治癒に集中する。
「ふ〜。これで大丈夫だとは思うけど、念の為様子を見ててくれないか?」
「りょ、了解ッス!」
それも数分で事足り、いつの間にヤランと一緒に見ていたらしいサシャも横で固まっていたが、少し話があるからと離れた岩場に連れていく。
「治癒、ありがとなっ。」
「わ、私は司祭士なんだから当然の義務よっ。」
「そうだな。で、話は変わるが皆が言ってる黒い騎士の事なんだけど…。」
「えぇ、判ってる。これだけの事をしたんですもの、異端者として指名手配するわ。」
「いや、黒い騎士は倒した。」
「そぅ…必ずみん…な…の……えぇぇっ!!」
信じられない物でも見るような目つきで驚くサシャに、黒い騎士の鎧の一部をバッグから取り出し見せる。
「寺院騎士達にこれを持って帰らせてれば、とりあえず問題無いだろ?」
「確かに…そう…だけど……。」
「いやー、実を言うとさっ。ぶっちゃけ寺院内部のイザコザなんて興味無いし、ヤランは俺が治したんだから全員無事なら何も問題無いと思うんだよねー、だからさっ、グダグダしてねーでさっさと帰ろうぜっ。」
言葉を詰まらせながらも腑に落ちなさ気な表情を崩さないサシャに、ワザとおどけて話を終わらせると、寺院騎士達を叩き起こす。
「う、う…ん……や、ヤツは?」
「俺が倒した。証拠として鎧の一部は持って帰って来たから、それを寺院に持って帰って死亡報告しなっ。」
二人共大した怪我はして無かったし、目覚めたのを確認してから早口に捲し立て、さっきサシャにも見せた鎧の一部を目の前に突きつける。
だが二人共まだ完全に頭が起きて無かったのか、ぼんやりと鎧の一部を受け取り俺の顔を何度も往復し、しだいに愕然した表情になり目を剥き始めたが、これも無視。
ガルタス達にも黒い騎士を倒した事を軽く説明し、寺院騎士達に手渡した鎧の一部が証拠だと指差す。
すると最初はキョトンと呆けた顔で説明を聞いていたガルタスが、聴き終えた途端、笑みを浮かべながら酒盛りだーっ!とか叫びだし、酒樽を求めて馬車に向かう後に続き肉体強化を使って横倒しのままだった馬車を元に戻すと、その場に居た全員が絶句しながら固まってしまった。
ーーやり過ぎたかな?テヘッ♪
それでもガルタスはスグに我に返って酒樽を馬車から下ろすと焚火の近くに置き、それに合わせて干し肉をヤランが炙りはじめ、いつものノリで酒盛りが始まるあたり気持ちの切替の早さに感心した。
ーーこれで、明日にでも二人が寺院に帰ってくれれば良いんだけど…。
そんな事を一瞬考えながら酒盛りの輪に入った翌日ーー
陽がまだ登りきる前に寺院騎士の二人に起こされた俺は、眠い目をこすりつつ昨日戦った場所まで案内して欲しいと言われ、偽装工作の場を訪れた。
辺り一面砕けた岩石や所々が窪んだ地面…。
改めて見ると結構な激戦地帯を作ったもんだ。
「ヤツの遺体は何処に?」
周りを見ていた寺院騎士の一人が聞いて来たが「野獣の餌にでもなったんじゃ無い?」と、とぼける。
「そんなもんに興味は無いし、俺達はサッ、し、司祭士様の護衛が依頼なだけだしな。」
「…………。」
俺の言葉に二人は無言で頷きあい二手に分かれ辺りを探しはじめる姿を大欠伸をしながら眺めていると、藪の向こうで1人が人型に焼け焦げた後と鎧を見付けたらしく、もう1人が慌てて側に駆け寄り小声で何かを話し始めた。
「間違いないな。」
「ああ、鎧にヒリア騎士団の紋章もある。」
「だがどうやって?」
「余計な詮索は無用だ。我々の任は奴の抹消、鎧の回収のみ。」
「……うむ。」
ーー俺に聞こえ無いように会話してるつもりだろうけど、丸聞こえだっつーの。
抹消とか物騒な単語が出た後にチラッとこっちを確認するような視線を投げつけてきたが、お互い藪が邪魔をして視線が合うことも無く、俺も1人が腰に付けていた木札を外し鎧のパーツと同じ数だけ何かを呟きながら割っていく音に聞きいる。
「うむ!鎧に間違いは無かった。冒険者風情にしてはなかなかの技量を持っているらしいな。」
「もういいのか?」
「うむ。我らとしては幾ら罪人とはいえ、生け捕りにしたかったのだが。こうなっては仕方ない。」
ーーな〜にが残念だよ。殺る気満々だったくせに。
それなら皆の所へ戻ろうと、胸の内で呟いたツッコミはおくびにも見せず歩きだすとヤランが丁度、朝飯を作っている所に出会し、さっさと帰り支度を始めた二人を横目に簡単に説明すると大喜びで「残念ス~」とか、「朝飯くらい食べて行けば良いのに〜」と、型だけ惜しみがってる姿にふきだしかけた。
その後はサシャに何言か告げて馬に跨りサッサと駆けて行く後ろ姿を見送り、騎士が帰った祝いだー!と大喜びで朝飯を食べ始めたガルタスにサシャが呆れ顔で深い溜息をついたのを見てふきだした。
それからの帰りは順調だった!
夜中に巨大猪や巨大昆虫(ガルタス曰く魔虫って奴らしい)が何度か現れたが、馬車より離れた場所で1人で始末したので皆には気付かれず「こんな楽な仕事は久しぶりだ」とガルタスはずっと上機嫌で、手綱と酒の入った革袋を手放さずに街までたどり着いた。
そのままハンソン商会に到着するとサシャと別れ商会からは報酬を受け取り、解散になる筈だったが俺だけ髭男爵に引き止められた。
「お引き止めして、すいません。今回の報酬についての事なんですが…。」
「ん?別にいつでも良いよ!また何かと世話になるだろうし。」
「いえ、少しご相談がありまして…。」
「何か問題でもあるの?」
「いえ、問題では無く…これからの事も考えれば、ユージ様に口座を作ってはいただけないかと。」
ーー……なるほど!確かに普通ならニコニコ現金払いとはいえ、高額な時もあるから俺に問題無くても、髭男爵的には問題あるかも知れんわな。
「うん。別に構わないけど、今からでも作りに行く?」
「いえ、必要な書類を取り急ぎご用意致しますので、明日の昼飯を御一緒に如何でしょう?」
「ん~?こっちは特に予定も無かった筈だし…んじゃ、昼に迎えに来てくれる?」
「畏まりました。では、明日の昼にお伺い致します。」
って事で、後は管理費の残り(護衛の報酬を引いた分)で4シリングを受け取り「これお土産~」と、地域限定の菓子を手渡して久々の自宅へ足取りも軽やかに進んで行った。




