第16話
「皆様、大変お待たせ致しました。」
室内に入るとメイアが俺達の一歩前に出て集まった人達に笑顔向けながら挨拶したが、その声に反応して顔を上げる人は意外と少なかった。
ーーま、あんだけ並んでりゃあ病人や怪我人には待つだけで疲れてて当然か。
そう思いながら俺は辛気臭い雰囲気に仮面の中で溜息をつき、今更ながら何でこんな面倒な事を引き受けちまったんだろうと少し後悔しはじめていた。
だがそんな俺の心中なんて知るわけも無いメイアが何か手伝える事は無いのかと小声で聞いてきたので、部屋に居る人達に出来るだけ円形に集まって欲しいと指示を出し、サシャには魔法の途中で他の人が入って来ないように念を押して扉の鍵を閉めて来てもらった。
ーーさて…と。
集まった人達の準備が整うのを待ち、心の中で南無三と呟きながら俺はキースに使った治癒法術とやらの魔法陣を床いっぱいに広げ、全員が円の内側に居るのを確認した後、大袈裟にポーズをとりながらそれっぽい呪文みたいなのを適当に口にした。
勿論それだけじゃ面白みが無いので陣の色は蛍光ピンクに。魔法が終わると一番外側の円が眩く輝きながら天井まで伸び上がり、一瞬だけ強く発光すると消える様にエフェクトにもこだわってみました。
その結果ーー
「あ、足がいたくねぇ。」
「手の火傷痕が…き、消えてるーっ!」
「俺の指が、指が動くぞー!」
流石は適当魔法wこんなんでもちゃんと効果はあったみたいで、ザワザワと騒ぎ出した人達をメイアとサシャが呆然と眺めてた。
「み、皆さん落ち着いて!本日は特別にとある著名な高位治癒術師に来ていただいています。ですがこの方は事情があり姿を見せられないので今日の治療法についてもけっして口外しない様にして下さいね。」
先に我に返ったメイアが慌ててそう説明すると、サシャもワンテンポ遅れて扉を開け治療の済んだ人達を順番に帰していく。
でも人数が多いのに出口が狭いもんだから帰る順番を待ってた人達から涙ながらに握手されたり、何度も何度もお辞儀をされたり、終いには祈りだした人まで出てきてしまい、ちょっと気恥ずかしくなりながらも黙って何度も頷き返した。
「な、な、なんなんですか~今のは?」
最後の一人が深々と俺達にお辞儀をし、部屋を出ると直ぐ、背後で鍵を閉めながら小声で喚くといった器用な事をしつつサシャがジリジリと詰め寄って来る。
「え?何って見たまんま、治療しただけだけど?」
「それは判ってます!私が聞いてるのは、さっきお使いになった高位治療法術は何なのか?という疑問ですっ!」
急に取り乱したサシャの姿は珍しかったのか、メイアも若干驚いてから苦笑を浮かべた。
「まぁまぁ、説明が必要なら後でキチンとするし、それよりも今は訪問してきた患者さん達を早く治そうよ。」
「そうですよサシャ。それこそちゃっちゃと終わらせれば質問の時間など幾らでもとれるじゃないですか。」
「ゔぅ〜、た、確かに。」
メイアに宥めすかされ不承不承といった表情を隠そうともせず引き下がったサシャを見て、メイアが苦笑を深くしながら入口の扉を開け次の人達を室内に入れ、同じ事を五回も繰り返すとやっと来訪者は居なくなった。
「ふぅ…。」
「お疲れ様でした。着替えは此方の部屋をお使い下さい。」
一応残りの人数なら他の神官達でも対処出来る筈だからとサシャに言われ、最初とは違う部屋へと案内され着替えながらも、扉の前で待つ二人にどう言い訳しようか悩む。
ーーん〜、まぁ何とかなるか、な?
小難しい質問をされたら全部自国の魔法だからって事で誤魔化し通そうと決め、着替えが済んだ事を扉越しに二人へ告げと、メイアはお茶を用意してきますと言って小走りの様な足音が聞こえてきた。
これが二人で居なくなったのなら、無礼を承知で逃げ出そうとも一瞬考えたが、残念ながらカチャリと扉が開き、サシャが一人で室内に入って来るなり、いきなり深々と頭を下げてきた。
「先程は失礼な言葉遣いをしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。」
「や、別に気にして無いから。」
「そうですか。それではお約束通り、先程の質問に答えて下さい。」
ーー……やっぱ其処はスルーしてくれないんだ。
想定内だったサシャの言葉と切り替えの早さに内心苦笑しつつ、決めていた理由を口にすると何故か大層驚かれた。
「では、ユージ様はこの辺りの出身では無いというのですか?」
「うん。」
「では、もしかして……山脈の向こうある教国の方なの…ですか?」
「いや、それも違うから。」
「……そうですか。」
ーーん?なんで落ち込むの?
サシャの意味不明な態度に疑問を感じつつも、次に来た質問、何故寺院登録をしないのか?には率直にギルドで仕事してる方が性に合ってるからとだけ答えておいた。
だけど、そっからが大変だった。
なんせメイアもギルドと両立していますしとか、あれだけの法術を使えるのに勿体無いだとか、終いには人を救うつもりは無いんですか!とか、半ば泣き落としに近い恫喝まで織り交ぜどっかの宗教の勧誘かと思えるくらいのしつこさだった。
ーーあ、でも、宗教って言えば宗教か。
冷静に対応したせいで変な事に気付き内心苦笑しながら話し半分の気持ちで聞き流す。
ーーまぁね、優秀な人材確保って意味では必死になる気持ちも判らんではないが……。それにしてもしつこ過ぎじゃね?
コンコンッ
「お茶が入りました。」
そこにタイミングよくメイアが戻って来てくれたらしく、ノックの音にサシャは咳払いを一つ、さっきまでの押せ押せな威勢は何処へやら、すっかり落ち着いた神官らしい態度で扉を開ける姿にまた苦笑する。
「すいません。炊事場が混んでいて、少々お待たせしてしました。」
両手にバケットを持ったまま中に入って小さく頭を下げるメイアに気にしてないからと軽く返し、サシャがメイアが持って来たバケットからお菓子を取り出し人数分を机の上に並べていき。
メイアはメイアでもう一つのバケットから取り出したカップとソーサーを並べ、細長いヤカンみたいな容器からお茶を注ぎだした。
ーーう〜ん。確かにあんなの被ってたからお茶は有難いんだけど、こうも陽射しが強くて風が無いなら冷たいものの方が有り難かったな~。
香りからして紅茶らしきお茶を見ながらそんな事を思いつつ一口飲んでみると、かなり渋いさに思わず顔が歪む。
ーーうわっ!何だこれ?持ってくる間に蒸らし過ぎたのか茶葉の分量間違えてるのかは判らないけど、砂糖も入って無いのにこの濃さは俺、無理っ!
一口でそう判断した俺は堪らずカップの上で拳を握り締め、大気中の水分を素材に氷を創り同じ動作で3個を中に放り込んだ。
「あ、メイアも氷いる?」
「え?は、はい。では私も三個で。」
「サシャさんは?」
サシャは答えずあんぐりと口を開けながら何故か目が氷に釘付けだ。
「な、ななっ、なんで氷が?」
おや?氷が珍しいのか?声が若干震えてるけど。
「いや~、熱いのより冷たい方が良さそうだったし、このお茶ちょっと苦かったから。」
「えっ?す、すいません。」
「そんな事を聞いてる訳ではありません!なんで法術士が氷なんて作れてるんですか?」
ーーあぁ、そっちね?
「はっ!まさか……貴方は法術のみならず、魔法まで使えるんですか?」
「あ、それ私も聞きたいです。」
二人してにじり寄られると迫力があるなぁ…胸の。
「ん~悪いけどこの国の法術と魔法の違いってのがイマイチ判らないから俺にも上手く説明出来ないや。」
ただ呼び方の違いなんだろうと軽く流してたけど、どうやら二人の表情からして根本的に違うと何と無く察し下手に誤魔化すよりはと素直に答えておく。
「それも国が違うからと煙に巻くつもりなんでしょうが、今回だけは誤魔化されておきます。その代わり少し話を戻しますが貴方はやはり寺院登録すべきです!」
「へっ?」
「その能力を人の為に役立てようとは思わないのですか?一介の冒険者としてこのまま一生を無駄に人生を過ごすおつもりなのですか?」
ーー興奮気味だけど、サシャさん…最初は疑心暗鬼で睨んでましたよね?
ーー何ですかこの手の平の返しようは?
「悪いけど俺は俺の好きな様に生きるっ!」
キッパリと断言した後にこれ以上根掘り葉掘りの詮索されたり、また勧誘責めにあうのは勘弁して欲しいから紅茶を一気に嚥下し部屋を逃げる様に脱出。
「メイアッ、後は任せた!」
「あっ、は、はい!」
シュタっと片手を上げ、ものすごくいい笑顔でそれだけ言うと日が傾き始め頂上が赤く染まりだした寺院を後にする。
「「「お帰りなさいませ!ご主人様!」」」
家に着くとちょうど玄関を掃除してた年少の三人に出迎えてもらう形になり、やっぱりメイドは可愛いなぁ~、癒されるな~と思わず顔がほころぶ。
「はい、ただいま。何か変わった事は無かった?」
「はい、商会から使いの方がお見えになり手紙を預かったのと、黒ずくめの女性が一人いらっしゃいました。」
ーー商会からの手紙ねぇ?
ーー後で松葉杖ちゃんにでも読んでもらうとして、黒ずくめの女性ってのはちょっと心当たりが無いんだが誰だろう?
こっちに来てから数少ない知り合いの顔を思い浮かべてみようとしたけど帰る途中から腹の虫が空腹のあまり泣き叫んでたんで、今は頭が回らないや…。
「んー、じゃあ掃除はそれくらいにして夕飯にしよう!君達も一緒に中に入って。」
そう声をかけ促すとモジモジとしだす三人。
ーーん?何かまだあるのか?
「あ、あのご主人様が今朝言ってた、名前の事なんですが………。」
「ん?ああ、決まったの?」
「は、はいっ!私がノリスでこの子はリリィ、コッチがターニャに…しようと思うんですが、変じゃ無いですか?」
ーー茶色のツインテールに白い肌の子がリリィ、南国育ちの様に褐色で元気が良いのがターニャ、金髪に緑眼の物静かそうな子がノリスっと、よし覚えたぞ。
「うん!みんな可愛い名前だし、全然変じゃないよ。」
そう言って三人の頭を撫でるとターニャは猫みたいに目を細め喜んで、リリィは恥ずかしそうに少しだけ赤くなり、ノリスは嬉しそうに笑顔で見上げてきた。
その仕草を見て少しづつではあるが、打ち解けて来てくれた手応えを感じる。
ーーん〜、後の子はどうなったかなー?
三人の反応にニヤニヤしつつ扉を開けて一緒に中に入ると、松葉杖ちゃんがホールで待ち構えていたのか深々と頭を下げてきた。
「お帰りなさいませご主人様。」
「あ、うん。ところでさっき聞いたんだけど商会から手紙が来てるんだって?」
「はい。部屋の机の上に置いておきました。」
松葉杖ちゃんは何かまだ堅いよなぁ~。
もう少しフレンドリーに接して欲しい気もするけど、まだ馴染めてないのかな?
「ありがとう。ところで君は名前決まったの?」
「ご主人様のお好きな様にお呼びしていただければ。」
ーー堅い、堅スギダヨ~。
「んーと、じゃあ『リズ』なんてどうかな?よろしくリズちゃん♪なんちゃってー。」
「はい、ご主人様。」
足を治した直後はもうちょっと感情があった筈なのに、今は全く無い…これが、所謂クーデレって奴なのかな?
「じゃあ、リズちゃん早速なんだけど他の三人は何処に居るか知ってる?」
「はい、夕飯の支度に掛かっております。」
「んじゃあ、リリィとターニャとノリスは食堂に行って一緒に夕飯の手伝いをして来てくれるかな?それと出来たら誰か部屋まで呼びに来て。リズはちょっと部屋まで一緒に来てくれる?」
「「「「はい。」」」」
三人と二人に分かれ自室に戻ると、リズをベットに座らせもう一度、治癒法術を使った後に足の具合を確認。
「よしっ!これなら松葉杖も必要無いと思うけど…ちょっと歩いてみようか。」
そう呟きながらリズを立たせ、ゆっくりと足元を確かめながらで良いからと部屋の中を歩いて回らせる。
「……ご主人様。本当にありがとうございます。」
「いや、これくらいは主人として当然!それより商会からの手紙ってのを読んでくれるかな?」
「かしこまりました。」
多少は足を気にしてびっこを引いていたが問題無く歩く姿にホッと一息つくと深々と頭を下げてきたので、その頭を軽く撫でながら机の上の手紙を手渡し中身を声に出して読んでもらう。




