第15話
三人が作ったのは焼き肉、焼き魚、野菜炒めの三種類で味付けに関しては塩味のみとあまりにも単純な料理だった。
それらを一口ずつ味見してから髭男爵の商会から搬入した食材と調味料を一覧から読み上げてもらい、それならと納得する。
ーーこりゃ、調味料を早急に揃えないと、どうしようも無いな。
宿で食べた時は同じ焼肉料理でもタレが掛かってあったし、野菜炒めにしても味に深みがあった。となれば調味料自体は存在するんだろうけど、意外と高価なのかもしれないと思い直す。
後、生野菜を食べるという発想が無いのか、これまで新鮮な野菜を手にする機会が無かったのか……後者の方だとは思うけど、一応は育ち盛りな年齢の子達の為と簡単に一品増やす為にとお手軽なサラダの作り方を教え、それらを食卓に並べると全員で席に着く。
「それじゃあ、いただきます。」
俺が料理を前に両手を合わせ軽くお辞儀をするのを皆不思議そうに見ていたが、こっちにはこっちのやり方があるんだろうとスルー。
それよりも少女達が何故かあまり食べようとしないので、これから働くのだからしっかり食べる様にと、それらしい理由をつけて指示し、通夜の様に静まり返った食事を終えた後に自分で自分の名前を今日中に決めてもらう事を告げた。
これは単にコミュニケーションがとりずらいと言う理由以外にも、『物』では無く『個人』として接している事を彼女達自身にしっかり認識してもらう為にも必要だからだ。
で、期限はいつまでかって質問を年少の一人がしてきたので、今日の夕方迄に決めその間に屋敷の掃除なんかも頼んで俺は出掛けからと言っといた。
「こんにちは~!ザガン居る?」
「今日は何じゃ?ユージ殿。」
「いやー、昨日の御礼を言いに来たのと魔晶炉ってのがどんな物なのか詳しく聞きたくてねー。」
屋敷から一直線に向かった店の奥から昨日と変わらず何かの作業をしていた手を休め、出迎えてくれザガンに軽く頭を下げながら横から出してくれた丸椅子に座る。
「で、魔晶炉の何を聞きたいんじゃ?」
「えと、最初から全部説明してくれないかな。」
ザガンは俺の言葉にふむ…と小さく呟き、手前の引き出しを開けて親指大の紫水晶の様なものを取り出した。
「まず、これが魔晶じゃ。魔力が結晶化した物で主に魔道具の動力として使われておる。」
そう言いながらが手渡された魔晶を手のひらの上で軽く転がし机に戻す。
「そもそも魔晶自体は自然界で鉱石と同様に採掘されておったんじゃが、数十年前から人工的に結晶化する技術が出来てな、世にある一般的な魔道具が普及しだしたのもその頃からじゃ。」
「ほうほう。」
「その中でも『魔晶炉』の出現はそれ迄の生活を劇的に一変させたんじゃが、日常生活に必要な魔力をこれ一つで補えるというのが最大の理由じゃ。」
ーーんー、太陽電池とかプロパンガスみたいな物って感覚でいいのかな?
「んじゃ、魔晶が無くなると補充する?ってか交換するの?」
「魔晶は使い切ればただの魔力に戻るから、『補充する』が適切じゃの。」
「それって無害なの?」
「そもそも、魔力なんぞ大気にも水にも地面にもあるもんじゃろ?寧ろどんな害があるんじゃ?」
「え?いや、気になっただけ…」
ーーマズいっ質問を失敗した。魔力の原理をある程度想定しとくんだった。
「ふむ、そう言えばユージ殿の国の魔法はどんな原理のものを使っておるんじゃ?」
「えと、魔法陣て判るかな?」
「魔法人?」
「いやいや、人じゃなくて陣形とかの陣。」
「それは法術の話じゃろ?」
「え?」
「え?」
「いやまぁ、こっちの魔法と法術の違いがよく判らないけど魔力で陣を創って魔力を制御、効果するんだよ。」
「何じゃ言っとる意味がサッパリと判らん。メイアならもう少し理解出来るんじゃろうが、ワシは無理じゃな。」
そういって自分から聞いておいて大笑いするザガンにつられて笑い返す。
「あっ!それと、話は変わるけど俺。あの屋敷にこれからは出来るだけ住むようにするからたまには遊びに来てよ。」
「住むようにするとはまた変わった言い方じゃな。せっかく買った屋敷は居づらいのか?」
「ははっ、人を使うのが慣れてないのと、まだ相手が子供だからね。」
「しかし、それはユージ殿が決めた事じゃろ?責任はしっかりもたんとな。
まぁ、それを抜きにしても何ぞ手伝いくらいなら、たまに行くとするわぃ。」
「そうしてくれると助かるよ。いや本当に。」
二人して大笑いすると扶養が増えた分稼がなくていいのかと言われ、それもそうだとザガンに礼を言ってからギルドに行ってみた。
が、今日は今日で何か集団用の依頼でも来てたのかギルドの建物を取り囲む様にして人集りがごった返し、とてもじゃないが入口まで辿り着けそうにない。
ーーなんだこれ?
「あのー、すいません。この人集りは何ですか?」
「んっ?この時期って言ったら寺院からの緊急依頼に決まってんだろ。新人の奴らが朝からああして集まって説明を受けたり、登録しようか悩んでるせいで受付が埋まっちまってんだよ。」
ーー登録?それに緊急依頼っ何だ?
「あ、あの、その寺院って何処にあるんでしょう?」
「なんだお前?よそ者か?寺院なら噴水のある中央広場まで行って、そこから東通りを真っ直ぐ行けばすぐに判るぜ。」
「ありがとうございます。」
どうせ字が読めないから仮に登録するにしても直に説明受けなきゃだし、何の登録をするのかも興味が湧いたので直接寺院にいってみようと歩き出し、相変わらず人で一杯だった中央公園を横目に先へと急ぐと、寺院は寺院でギルドと同じ様な数の人達が列をなして並んでいた。
「こんなに一体、何処から湧いたんだよ……マジで。」
思わず眼前に広がる光景に絶句しながら、昔TVでみたインドの『タージ・マハル』みたいな白い建物を見上げ絶句する。
ーーふ〜ん。右手が寺院への入口になってんのか〜。確か、メイアが居るはずだよな…ちょっと捜して話を聞いてみるか。
寺院の正面を二分する様に並ぶ手入れの行き届いた木々を挟み右側は、三列に並んだ人々が停滞してるのをいい事に談笑している姿がちらほら見え。
反対の左側には疎らにしか人が居なかったので、ちょっとズルいが左側から僧兵らしい白装束に銀の簡易鎧を着込んだ二人組が並ぶ出口へと向かい、メイアが居るかを尋ねユージが話があると言伝を頼んでその場に座って待たせてもらった。
そのまま何気に入口の門をくぐる人達の姿を見ていると、中に入ってから左右中央と通路が分かれいるらしく、それぞれで行く場所が違うのか左側は混雑しているのに比べ、中央と右側へ行く人が少ない事に気付いた。
ーーなんで皆、左側ばっか行くんだ?
何かしら理由があるのだろうが、それを考える前に出口で座っている俺に気付き無言で凝視してくる人達からの視線にこっちも気付いたので慌てて顔を逸らし建物の奥を見ていると、さっきの僧兵の一人と何処の女優?って思わずガン見してしまう程の銀髪美人が白衣のドレスをひるがえし、ユサユサと胸を揺らしながら小走りでこっちに向かってくるのが見えた。
ーーなんだ?誰かの出迎えか?目のやり場に困るじゃ無いか。けしからん。
そんな裏山嫉妬に駆られながら銀髪美人さんの不謹慎な胸から視線を外さずガン見していると、俺の横に来るやいなやいきなり腕を掴んでさっき来た道をまた小走りで進んでく。
ーーうわっ!真横で見るとすげ~っ。
白衣を押し上げ沈む胸部の自由ダンス。
脇からチラ見出来る横乳のエロさっ。
いいね~クルものがアルネ~!
たわわな二つの果実に見とれながら閑散とした通路を奥へ歩いて行くと、突然正面からメイアの声が響いてきた。
「ユージさん~!サシャ~!」
「ん、ああメイア丁度良かっ…「ハァハァ、よかった~来てくれたんですね。ユージさんなら登録基準は問題無いし、スッゴく助かります。」……ん?」
メイアは一人喜び飛び上がらんばかりに大歓迎してくれるのだが、俺にはサッパリだ?
「ごめん、一体何の話?俺、字が読めないから何にも知らなくて来たんだけど?」
俺の言葉にメイアの笑顔が強張り、少し肩を落として深く深呼吸をする。
ーーえ?何?この空気?
「ユージさんは、高位神聖法術が使えましたよね。」
「神聖法術?」
「キースを治してくれた法術です。」
「あ、あぁ…使えるよ。」
今日はまだ試して無いから上手く出来るか知らないけど、と口には出さず胸の内で付け足しながらメイアに事実を説明してもらおうとしたのだが。
「時間が無いのでかいつまんで話すと、昨日からの一週間で五年に一度の新規の神官登録があるんです。で、それに大司祭様や司教様が出ておられるのに、患者さんや信者さんは豊穣祭と重なったせいでいつも以上の方々がお越しになられて……正直、人手が足りないんですよ。」
「うん、何と無く判った。つまりは俺にも治療を手伝えと…。」
「勿論、未登録のユージさんに無理は言えないので、登録も出来ればしていただきたいのですが?」
「へ?登録するとどうなるの?」
「まず治療を施す権利が与えられ、成果次第では正式な役職や寺院の認定を受けた個人の治療所を持つ事も許される様になります。」
要するに、医師免許みたいなものか…。
「で、登録無しで治療した場合は?」
「はい、罰則がある訳ではないですが、治療に際して金銭を受け取る事は寺院として許可していないので、不正が見つかった場合、かなり厳しい罰則げあります。」
ーーん~、この場合どうするかだな。
ーー治療するのは良いけど登録して何でも治してたら、記録残るだろうし色々と勘繰られそうだな………。
一通りの説明を受けたところで考えこんでると、メイアが不安そうに話かけてきた。
「あの……ユージさん?」
「ん?あぁゴメン。治療するのは全然問題ないんだけど、やっぱ登録は勘弁して…あまり人前に出るのは苦手なんで。」
「………そうですか。」
何かメイアは肩を落として凄くガッカリしてるけど、此処は諦めてもらうしかない。
「で、治療が必要な人ってのは後何人位居るの?」
「え〜、多分ですが。表に並ばれていた列の大体八割位だと思います。」
「えっ?じゃあ治療する神官さんってのは?」
「私とサシャを含めて10人程度かと…。」
ーーはぁ~、そりゃ終わらないから並ぶ訳だわ。
さっきまで見てた長蛇の列の理由が判り内心溜息をつく。
「んーと、じゃあ此処で一番広い場所は?」
「大聖堂ですが、今は審査の為に使えません。」
「んじゃ、人が出来るだけ一度に沢山入れる場所って他にある?」
「祈りの大広間でしたら…100人ちょっとなら収容出来ると思いますが?」
「んじゃ、場所はそこに90人ほど入ってもらうとして、その前に何か衣装と顔が隠せる物貸して。」
「???」
メイアとサシャは俺の言葉の意味が判らないらしく、キョトンとした表情で見てきたが無視。
ちょっと小部屋に案内してもらい借り物の寺院の衣装に着替え、祝事に使うという被り物みたいな面を借りそれを被ると髪が見えないかチェック。
ーーうん。大丈夫みたいだな。
急遽用意してもらった面は白い陶器製で赤と青の抽象的なデサインがなされ、それなりの重さがあったが正体を隠すにはうってつけだった。そのまま着替えが済むと扉の前で待ってたサシャに声をかけ、大広間まで案内してもらう。
「……メイアから高位治療法術を使えると聞きましたが、数人しか居ない使い手の中にユージ様の名は、無かったと記憶してるんですが?」
「うん、登録してないからね。」
「いえ、登録などなくとも過去に治療していれば人の口に戸は立てれないですよね?」
何かめっちゃ疑心暗鬼なジト目で突っかかってくんなー、この子。
そう思いつつサシャの疑問をのらりくらりと躱してるうちに、メイアの待つ大広間へと着いた。
「一応、言われた人数に入ってもらいました。」
「ありがとう。じゃ、二人とも部屋の外で待っててくれる?ちゃっちゃと終わらせて帰るつもりだから。」
「ち、ちゃっちゃとって…此れだけの人数を一体どうやって?」
「え?まぁ、ちゃっちゃとだけど。」
メイアとの受け答えにサシャはこいつ馬鹿か?って目で見てくるが無視。
「ユージさん、お邪魔でなければ後学の為にも是非ご一緒に居させて下さい!」
わざと軽口ではぐらかした何かもメイアには気付かれたらしく真剣な顔付きでにじり寄られ、サシャは部外者がミスをしたら寺院の威信に関わるから同席するのが当然とばかりに憮然とした顔で言い放った。
ーー参ったなぁ。あんまり人には見せたく無いんだけどなぁ。
サシャの言い分ももっともなので無下には断れず、メイアに念の為口が堅いのか小声で確認してみたら、彼女なら大丈夫と太鼓判を押してきたので見学させる事に…。
で、中ではメイアに俺の代弁をしてもらう様に段取りを済ませ三人で扉をくぐった。




