第14話
「さてと、…。」
髭男爵達を見送った後、屋敷の中へと運び込まれた荷物を納品リストと照らし合わせるべきなんだろうけど……俺じゃあ一覧に書かれている文字が読めないしと、読める子に丸投げし、食器の入っていた空の木箱に足の悪い子ちゃんを乗せ部屋へと戻り治療を再開した。
と言っても、専門知識がまるで無いので左右の足を交互に折り曲げ痛みや痺れは無いか聞いてみたり、明らかに歪んだ骨を正常な形に戻すぐらいの事しか出来ないんだけど、足の悪い子ちゃんが終始無表情過ぎて判断がしずらい。
ーーふ〜、こんなもん、かな?
重ね掛けを続け一応は歪みも修正し、鬱血して赤黒く壊疽を起こしかけていた部分も治し、見た目には異常無しと判断出来る程には回復したと思えるところで一旦治癒法術を止め、ゆっくりと足の悪い子ちゃんに肩を貸しながら一緒に立ち上がってみる。と、急に無表情のままでポロポロと涙を流しだした。
「ど、どうしたのかな〜?まだ痛かった?」
突然の事に慌ててしまい、狼狽え吃りながらも優しく声をかけたみたが足の悪い子ちゃんは小さく首を横に振るだけで何も答えてくれない。
「し、暫く歩く練習をしていけば元通りになると思うし、ゆっくり治せばいいからね。」
無表情過ぎて何が悪かったのかも判らないまま優しく声をかけ、治癒の合間に木箱から創っておいた松葉杖を手渡し、逃げるように部屋を出る。
ーーかー、いきなり泣き出すなんて……もしかして、無理させちゃったのかな〜?
ポリポリと頭を掻きながら溜息をつき、創造魔法の調子のいい内に屋敷のリフォームを済ませてしまうかと、先ずはキッチンに向かってみる。
途中、扉を開けっ放しにしていた部屋を覗きながら食堂に向かい、改めて厨房の使い勝手をチェック。
ーーうーん、とりあえずこの大きな水瓶をどけて調理台は対面式のシステムキッチン風に改造!排水溝は壁の中にパイプを創り外に流れるようにしておく。
ーー後で生活排水用に水路が要りそうだな………。
で、地下水流から風呂場と同じ要領で蛇口まで配管!水圧を付け蛇口も創ったら、横にあった食料庫らしい小部屋をそのまま冷蔵室に改良!
邪魔だった水瓶は四角い蓋付きの冷凍庫に造り変え、調理台の反対側に。
ここまで改良してから料理が出来る三人を呼んで、現代風にリフォームしたキッチンの使い方を簡単に説明。三人は色々驚いてたみたいだけど、スルー。
蛇口を捻ると水が出るのが不思議だったらしく、出したり止めたりを繰り返してた。
後、普段の食材は冷蔵室に。傷みの早いものは冷凍庫に入れる様に徹底させる。
自宅で食中毒はいやだしね。
で、傷みやすい食材についての説明ってのが一番苦労したけど、何とか理解してくれたようだった。
次は各部屋に運ばれた家具のチェックと服を見て、下見に来た時に目をつけていた大部屋に行ってみる。
ーーベッドでかっ!キングサイズかよ!
この部屋は執務室として使うつもり設計されていたらしく、防音にも優れていると説明を受けてたので自室にしたのだが、だだっ広い部屋の真ん中にベッドが一つ置かれただけで他の家具が何も無い。
ーーまぁ、自室は後でいいか。
殺風景な室内を一望しただけで昨夜に少女達が寝ていた客室へと向かい、連なった二部屋の壁を取り除き梁と柱を太くして強度を保持しつつ少女達の為のメイド部屋に。
ベットを改めて配置し直し、布団と同じく「浄化」
後、使って無い部屋は今は無視!
ここまでして一息つくと外からちょうど馬車の音が聞こえてきたので、少女達を新メイド部屋に召集させ玄関へと駆け出す。
「ユージ様お待たせいたしました。」
商会から折り返しで来てくれた髭男爵と大きな蝦蟇口鞄を持った三人の女性を出迎え、出来立てほやほやのメイド室へと案内し早速採寸を頼む。
その間、じっくりと少女達の裸体を見るわけにもいかないので、紳士らしく回れ右で布地の擦れる音に意識を集中。
「あの、少々お聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「いいよ~。」
「何故、馬小屋が在るのに奴隷にあのような部屋を?」
「…?ごめん、言葉の意味が判らないんだが?」
「本来、奴隷は馬小屋で生活する物、それを何故家政婦のまね事などと思いまして。」
髭男爵の言葉を理解すると心の中で深いため息をついた。
「………この女性達の口は堅い?」
「はい。我が商会の者がお客様に不利益を与える様な事は絶対にしない!と断言できます。」
俺は一呼吸置くと後で少女達に同じ説明をするのも面倒なので、聞こえる程度にはワザと少し大きめの声で話し出した。
「一応知ってるかも知れないけど改めて言っておく。俺は魔法の実験の失敗でこの国に飛ばされて来たんでね、この国じゃあ奴隷をどう扱ってんのか知らないし、俺の国じゃあ家事を奴隷がするのが当たり前だったんだよ。
研究中の魔法なんかを機密にする為ってのがそもそもの理由でね、奴隷なら隷属の契約で口外される心配が無いけど家政婦なら賄賂で寝返るかもしれないだろ?」
もちろん大嘘だけど少女達も納得させようと帰宅途中に必死で考えた言い訳を口にすると、髭男爵はなるほどと呟きながら大仰に頷いた。
「つまり、文化の違いが生活の違いにも現れる。と言う事ですね。一つ勉強になりました。」
ーーふ〜、どうやら髭男爵は上手く騙せたみたいだけど少女達は…?
流石に振り返って反応を見る訳にもいかないので聞き耳を立ててみたが、商会の三人がヒソヒソと話す言葉が耳に入ってくる程度で、肝心の少女達がどう受け取ったのかは全く判らなかった。
ーーは、ははっ。まぁ、気長に打ち解けてもらえるように頑張るしかないか。
表情には出さないが、反応が無い事に凹みながら採寸が済みましたと告げられ振り返ってみると、ベッドを挟んで左右に年少組とそれ以外に分けられた少女達が並び、様々なデザインのメイド服が中央のベッドに置かれていた。
「もう一つ、よろしいでしょうか?」
「いいよ。」
「屋敷の利便性は如何でしょうか?使い易さを提供させて頂くのに増改築等ありましたら、是非我が商店をご利用頂きたいのですが。」
あ~、利便性ねぇ?すっかり自己流に改造しちゃった後だよ。
「気持ちだけで良いよ。不便な所はもう直したし。」
「えっ?魔法で…ですか?」
「うん。」
あれ?何か今、誘導尋問に引っ掛かった気が…。
「よろしければ、今後の参考迄に見学させては頂け無いでしょうか?」
やっぱ、そう来るよね…。
でも、想定内です♪
「そりゃ構わないけど俺の魔法はこっちじゃ特殊みたいだから他言無用で、もし他から噂話でも聞いたらハンソン商会から漏れたと見なすけど良い?」
……要は髭男爵に隠し通すより、共犯にしちゃおう作戦だ!
髭男爵は考える時の癖なのか口髭を触りながら少し黙り込むと、それでしたら自分一人だけで良いので見せて欲しいと言ってきたので一番改造したキッチンへ。
対面カウンターにしたけど入口からは判らなかったらしく、調理台の方へ行くと髭男爵は目を見開いて硬直した。
まぁ、当たり前だろうけど少女達と同じで蛇口を開け閉めしたり、食料庫に出たり入ったり元水瓶の冷凍庫を開け閉めしたり。
「こ…これは、どのような魔法を使って改築されたのでしょう?」
「あ〜、水まわりは水の魔法と食料庫と蓋付き箱は、火の魔法の応用だね。魔法には恒久的な指示を与えて現状、つまり今の状態を維持させてるんだ。」
もちろん、大嘘。
コッチの世界の魔法は単純な事しか出来ないらしいので、それを複雑にしただけとごまかす為の嘘。
「ユージ様の国では此れ程までに魔法が進んでいるのですか?いやはや眼福です。」
髭男爵は俺の言葉にすっかり騙されてくれたみたいだ。
「だから増改築は必要無いんだけど、外にちょっと生活排水用の水路が欲しくてね。」
裏口から外に出るとキッチンの壁から出しといた排水管を見せて、調理した時の汚れた水を流すなり捨てるなりする水路が欲しいと説明。
髭男爵は少し何か考えてたが「近くに川が無いので害が無いなら地面に染み込ませるのが一番では?」と、提案してくれたので周りを少し掘り返して水捌けのよい砂利と入れ変えてもらう工事をお願いする。
魔法ですれば簡単に終わる事でもこれからの付き合いなんかを考え、俺は楽出来るし髭男爵も儲かるお互いにとって有効な手段に決めた。
それから工事の日取りやら他に必要そうな家財やらの話をしながら部屋に戻ると、着替え終わってたメイド少女隊が商会の三人を先頭にベッドの前に整列していた。
ーー黒を基本にやや簡素ながらもシンプルな王道的メイド服!うむ、やはり王道はジャスティス!
内心ガッツポーズで拳を強く握る。
「では排水工事の件ですが、商会に戻りましたら業者に連絡を取り、近いうちに取り掛かるよう手配致します。本日は誠にありがとうございました。」
髭男爵と三人が前後から深々と頭を下げ、これが諸々の経費を引いた代金ですと小切手を手渡され、全員で玄関まで見送る。
「よし、んじゃあこれからはこの衣装を日常的に使う制服にするから。あ、予備も渡しておくから各自で管理するように。」
「「「はいっ!」」」
「後、さっき聞こえてたかも知れないが君達には家事を基本的にしてもらう。魔法で改造してる所がいくつかあるので判らない事はいつでも聞いてくれたらいい。とりあえず今日は全員一緒に食事でもしながらこの家と俺に馴染んでくれ。」
メイド隊は予備として渡された服と各自の服装に少し戸惑っていたみたいだか、昨日よりは嬉しそうな表情を浮かべているのが見れただけ俺も嬉しくなった。
「じゃあ早速だけど、料理番の三人は済まないが味見もかねて料理を作ってくれ。後の子はその手伝いをして、何か判らない事や足りない物があったら二階にある俺の部屋まで遠慮なく来てくれ。」
「「「はいっ!」」」
そう言ってしばらく様子を見ていると、奴隷用の食器(犬の餌入れみたいなの)をそれぞれが床に置いていくのが見えた。
「えと、これは何かな?」
「はいっ!私達の食器です。こんなに高級な物を用意して下さりありがとうございますっ!」
一番近くにいた年少ちゃんが元気な声で説明してくれるのを軽く眩暈しながら聞いて、今日からは全員同じテーブルの上に並べた料理を食べる様にと指示。
食器は棚に戻させ、陶器の器や皿を人数分並べさせる。
それと料理は俺のと自分達用を作り分けないようにも指示しておくと、全員が驚いた表情をこっちに向けながら固まった。
なんで、そんな事くらいで驚くんだよ?
ドッと疲れを感じながら食堂を出て階段を上ると自室のベッドに倒れこみ盛大に溜息を吐く。
ーーもしかして、昨日の夕飯もそうやって食べてたのか?
そう考えると、奴隷商で彼女達がどう過ごしていたのか?そもそも他よりも年少だった三人はどうして奴隷になったのか?俺が彼女達にこれから何をしてやれるのか?といった疑問がぐるぐると頭の中で渦巻いた。
コンコンッ
そんな答えの出ない疑問に悩まされながらベッドの上でゴロゴロしてると、不意に扉をノックされ足の悪い子ちゃん改め松葉杖ちゃんが入ってきた。
「ご主人様、お食事の用意が整いました。」
「えっ?早っ!あ、ありがとう。今から降りるよ。」
ついつい考え事に没頭してしまっていたらしく、自分の能力を少しでも把握と確認しておこうと自室に来たのに、何も出来ないまま無為に時間を過ごしてしまった。
「あ、あの、ご主人様…。」
そんな後悔を心の隅に押しやり扉に手をかけた時、松葉杖ちゃんが小さく声をかけてきた。
「ん?どうしたのかな?足が痛むの?」
「いえ、そうでは無く…何故ご主人様は私を治して下さったのかと…。」
「んー、怪我したまま生活するのは不便だからと思ったからと、主人なら奴隷の面倒をみるのは当然だと考えてるからだけど?」
「で、でも、以前のご主人様は私が歩け無くなると山に捨てて行きました。」
「その人はその人、俺は俺!考えの違いだね。」
「私は…どうやってこの御恩に報いれば?」
「ん~、別に報わなくても良いけど、気になるんだったら先ずは元気に歩ける様になってから一緒に考えようか。」
少し素っ気なく話を終わらせ、松葉杖ちゃんの前のご主人様とやらに沸いた怒りを悟られない様にと、出来るだけ優しく答えながら二人でキッチンへと向かう。




