三枚起請の回 その6
「で,どう思います」
「何が」
「三枚目のラブレターの犯人ですよ」
犯人,と言いう言葉に俺は思わず苦笑する。
「どうって言われてもなあ」
俺は机の上に視線をやった。村井沙紀は本当にすぐ戻るつもりのようで荷物をすべて書道室に置いていった。
三枚のラブレターが机の上に綺麗に並べられている。右から順に
シンプルなデザインの封筒。
『村井沙紀様』と描かれた半紙に包まれている果たし状のような手紙。
そして封筒にも入っていない折りたたまれた便箋。
一枚目の封筒は俺の出したラブレターだ。最初はもっと飾り気のある封筒にするつもりだったが,なんだか気恥ずかしくて結局無地のを選んだ。そして三枚目がここにいない奴のだとすると。
「これ,お前のか」
俺は半紙に包まれた手紙を指す。
「ええ,そうですよ。ほら」
西島は手紙をひっくり返して隅の方を指差した。『西島修人』とこれまた筆で小さく書かれている。
表の字もそうだが,なかなか達筆だ。
「これじゃ,果たし状みたいだぜ」
「僕の気持ちを伝えるにはこれが一番だと思ったんですよ」
西島は人差し指を筆に見立てて空中に何か書くような動作をしてみせる。書道部の鑑みたいなやつだ。
「中身も全部筆か」
「当たり前です。なかなか大変でしたよ。ほら,彼女朝早いでしょ。かなり朝早くにここにきて作業してたんですけど,思ったよりも時間がかかりましたねえ。僕がラブレターを靴箱に入れたときには校門の方から村井さんの赤い傘が見えてましたから」
傘の色まで把握しているのにはちょっと引いた。
「家でやればよかったじゃないか」
「僕もできればそうしたかったんですけど。家に書道道具無いんで」
書道に熱心なんだか,そうでもないんだかよくわからない。まあでも,家で書道をやるとなるとスペースを確保したり,周りの汚れを気にしたりと色々面倒なのかもしれない。
西島は話を戻す。
「で,どうですか。僕は,とんでもないチャラ男だと思います。それかヤンキー」
「大分偏ってるな」
「だってそうじゃないですか,こんなに人を待たせるなんて。大体手紙を封筒にも入れないなんて,よっぽどがさつな人間だと思いますよ」
西島は恨みっぽい調子だ。さっきの時間が大分堪えたらしい。
「先輩は,どんな人だと思いますか?」
「これだけの情報じゃ,何とも言えんな」
躱したつもりだったが,西島はなおも食い下がった。
「別にただの遊びですよ。適当にどんな人だと思うか言ってみてください」
西島はどうしても俺に差出人の人物像を言ってほしいらしい。どんな奴か当てたい,というより悪口を言い合いたい,と言うのが本当のところだろう。
「そう言われてもな」
俺は顎に手を当てて考えてみる。
待ってる間やることもないんだ。暇つぶしにはちょうどいいかもしれない。
「まず,一年生だな」
「それはさっき聞きましたよ」
「それも書道部が怪しい」
「え,何故です」
「だって,犯人,は角が立つな,……名無しの権兵衛はここを待ち合わせ場所に指定したんだ。今日ここを使わないなんて,書道部以外は知りようがないだろ」
「先輩は書道部じゃないじゃないですか」
「じゃあ,書道部もしくは書道部関係者が怪しい」
「うーん。絞れたようで絞れてないような。でも,そう言われれば,そうですね」
少しこじつけっぽくなったがまあいい,どうせ遊びだ。
「お前,選択授業は何にしたんだ」
「僕は音楽です」
「お,ちょうどいいじゃないか。いないのか,音楽の授業にでてた書道部か,書道部関係者」
「関係者はちょっとわかりませんけど。ええ,いることにはいますね一人だけ」
なんだ,簡単な話じゃないか。思ったより話が早く終わりそうで俺は肩透かしを食らった気分になる。
「ならそいつが……」
「でも斉藤くん彼女いますよ」
あ,そうですか。何故か少しイラっとした。
「そいつが彼女がいるにもかかわらず他の女子に手を出すような不貞の輩と言うことはないのか」
「なんですか不貞の輩って。かなり一途だと思いますよ。それに不貞の輩はラブレターをだすようなピュアな恋愛せんでしょう」
西島は俺の悪あがきに淡々と応じる。全くの正論である。
「じゃあ,音楽の授業に出てたやつでそれっぽい奴は? 例えばずっと村井沙紀を見つめていた,とか。そいつが実は書道部関係者かもしれん」
こんなのは西島の主観次第の話だった。さっきみたいな偏見を聞かされそうだなと思う。どうせ遊びだし構わないか。
予想に反して西島は真面目な顔だ。
「それでいうなら全員です」
「はあ?」
「だから,音楽の授業に出てた男子全員がそれっぽいんです。それほどの衝撃でしたからね,彼女の歌声は」
西島はかつて見た絶景を思い浮かべるような表情だ。恍惚としている。
だめだこりゃ。と思ったがよく考えたら俺も似たようなものであった。
男とは皆こうも単純なのか。




