三枚起請の回 その2
目の前の教室の壁は,多種多様な字が書かれた半紙で埋め尽くされていた。明朝体のように整った字から,達筆でなんと書いてあるかわからない,草書のようなものまである。
ここは書道室。主に書道の授業,書道部の活動場所として使われる。教室に着く頃には,ほとんど約束の時間だった。
中には入らずに,一旦息を整え,周りを見回す。もしかしたら彼女が外で待っているかもしれない。
廊下はどんよりと薄暗い。今日は朝からあいにくの雨で,告白日和とは言い難かった。彼女の姿が見えないとほっと息をつく。待たせるようなことにはなっていないようだ。
書道部員でもない俺が,なぜ告白の場所を書道部の部室にしたのか。それには並々ならぬ,とはいかないまでも訳がある。
最初は,一般的な慣例に則り,体育館の裏だとか,部室棟の裏だとか,メジャーな場所で告白しようと考えた。しかし,下見をしてみるとそんなところに限って,案外人が来る。それにそもそも,今日のような雨の日に屋外は使えない。どうしようかと考えているところに,思わぬ幸運が舞い込んだ。
俺には一つ上の兄がいる。そしてなんとこの学校の書道部の部長だ。その兄から偶々,書道室を使わないという情報を手に入れた。文化祭で行う書道パフォーマンスの練習のために,体育館で活動するらしい。本来ならその間,書道室の鍵は閉めるらしいが,兄に頼み込んでなんとか開けておいてもらえることになった。
屋内で,静かで,人も来ない。これほど絶好の場所もないだろう。
登校の早い彼女より先に靴箱に手紙を入れるのは大変だったが,その甲斐あって,手紙は絶対に届いているはずだ。あとは,来てくれさえすれば。
神妙な心持ちで教室の扉に手をかける。すでに約束の時間だ。来ているのなら,もう中にいるはずだ。
深く息をすって吐き出す。どうか居てくれ,と祈るような気持ちで扉を開けた。
中には人がいた。が,それは彼女ではなった。のっぽの男子生徒が仁王立ちしている。




