三枚起請の回 その1
俺,篠崎陽介はかなり浮足立っている。
腕時計を見るが,針はさっき確認した時とほぼ同じ位置を示していた。
約束の時間まであと二十分。待ち遠しいような,ずっと来ないでほしいような,妙な気分だ。
それから十分すると,限界が訪れた。もう居ても立っても居られない。少し早いが約束の場所に向かってみよう。
「あれ,篠崎先輩もう帰るんですか」
教室を出ようとすると後輩女子,山田七海に声を掛けられた。
「ア。ああ,いや,ちょっと大事な用事があってサ」
緊張からか声がひっくり返った。
山田はそんな俺を見て,不思議そうな顔する。来て十分で部室から出ていこうとすれば流石に不自然だろう。だったら最初から来るなと言う話だ。
山田は俺の顔をじろじろと訝し気に見ると,やがて揶揄うように笑った。
「告白でもするんですか」
「なっ」
俺は眼を剝いた。思わず後ずさる。
図星だった。
俺は今から,17年の人生で初めて愛の告白をしようとしている。
山田は冗談のつもりだったのか,俺のあまりの狼狽振りに却って驚いた様子だ。しかし,すぐにまたいたずらっ子のような顔にもどって
「先輩の事だから,古風にラブレターなんて渡してそうですね」
なんて言った。今度は声も出ない。
硬直した俺に山田はまた驚いて,それから何か思いついたのか,思案するように口に手を当てる。
「ちょっと待っててください」
そう言うと,放心している俺をよそに,部の備品をごそごそと漁り始めた。
山田は備品のCDが収納されている棚に手を伸ばすと,その中から一枚手に取り,それを俺の無理矢理制服のポケットに押し込んだ。
「おい,なんだよこれ」
俺は確認しようとポケットに手を伸ばす。しかし,山田に制されてしまう。
「お守りですよ。……先輩,時間良いんですか」
慌てて時計を見る。約束の時間まであと五分だった。
畜生,さっきまであんなに鈍間だったくせに。
心の中で時計に毒づいて,俺は落研の部室を後にした。




