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吸血鬼が憩える保健室  作者: 坂持


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身体は正直

「えぇっとぉ〜、なっちゃんがきゅーけつきっていうのはほんとーで、先輩も人魚っていうのもほんとーで合ってる?」

「正確に言えば血を引いている。吸血鬼じゃない」

「人魚の血を引いているだけで人魚じゃない。ほら、脚ついてる」

「えぇ……どっちも同じじゃあ……」

「違うんだよな〜。私が吸血鬼なら、佳はもう血を吸われてるし、私は死んでるよ」

「私が人魚なら脚は無い」

「そー言われると……そーだよねぇ……」


 一限挟んで次の休み時間、再び保健室に集まって先輩と二人で懇切丁寧に説明をしている。


 噂はその通りと言えばその通りだけど、私は吸血鬼じゃなくて吸血鬼の血を引いてるだけということは強調して訂正したい。恐らく私の学年でこの噂の真偽のスタート地点になるであろう佳にはそこん所をしっかりと理解してもらいたいし。


「血を引いてるからこんなに綺麗な白髪をしている。まあ、超絶美人なのもこの血に起因していると思うけど」

「そのとーりだから、なにもツッコめない……。先輩も?」

「ん。人魚の血を引いているから超絶美人、泳ぐのは得意というか運動全般得意」


 あっ、やっぱり先輩泳がないだけ泳ぐのは得意なんだ。


 果たして容赦のない真実を聞いた佳はなんと言うのか。


「あっ、佳は可愛いよ」

「ん。可愛い」

「なんか読まれてる⁉」


 冗談抜きで佳は可愛いと思う。良い人だし、犬みたいに人懐っこいし。そのせいか陽が凄いけど……。


 佳はベッドにばっさんと倒れて、程々に叫んだ。


「分かったけど分からない!」


                 △


 さて、佳と一緒に教室に戻った時の視線はアレだろう。『血を吸っていたのかな?』的なものだろう。一限目終了の休み時間に私が佳の血を吸い、一限丸ごと佳は保健室で休んだ。そんな物語が作られているはず。知らないけど。


 しかし待ってほしい。いつもは逆だ、私が運ばれて佳は元気に教室に戻って来ているはず。でも悲しいことに、強烈な噂というものは今までの行動を見えなくしてしまうものだ。


 知らないけど。


「よし、どうする?」

「どーするって?」

「噂、肯定」

「あー。なっちゃん自分でいーなよ!」


 おい。


 完全に佳任せにしようとしていたのに、なんで急に? いや分かるよ? 普通に戻ってるんだから私が言えよってなるよね!


 でも無理‼


 超絶美人でも、私は陽に弱いんだ。なんで自分から陽を浴びないと駄目なんだ! ってそもそもこの噂を肯定して陽が凄くなればどうする?


 今のまま、今の佳みたいに戸惑わせていたら陽はかなりマシ。うーん、このままでよくない?


「いや、なんか今更感あって言いにくいし」

「だいじょーぶだよ! なっちゃんだもん! うちが言うよりセーカクに言えるだろーし!」

「だって〜センシティブだし」

「センシ——えっ? どーいう意味?」


 いやあ……自分で言った方がいいのかぁ? クッソ……、これが狙いかあの狐野郎め!


 私がアイツへの怒りを募らせても無駄で、淡々と教室への距離は縮まっていく。


 こうなれば、佳を放って先に教室へ戻るべきか? そしたら佳が説明するしかない。


 いやいやいや、それはできない。


 ここまで悩んだけど大丈夫だ。


 急に謎の確信をしてしまった。だって戻っても私に聞ける人いないし。基本的に佳にみんな聞くだろうし。私が言わなければ自然と佳に聞きに行くはず。


「佳、頼んだ」


 佳からの陽がこないのをいいことに、私はサムズアップを使ってみた。


「えぇ〜」

「超絶美人のサムズアップだよ。ほら、佳にしかしたことないよ」


 いつぶりだろうか——というか初めてのような気がする。こうして私が真正面から佳を見るのは。


 いつもは陽が凄くて見られないし、多分佳もそうなんじゃないんだろうか。


「うぅ……なっちゃんズルいよぉ」

「おっ、照れてる」

「言わなくてもいいのー!」


 頬を染めた佳は新鮮で、淑やかで、見慣れない。私も少し照れてしまう。


 佳が私から視線を外さなければ、私の熱くなった顔を見られていたのだろうか。


 私は肌が白いから赤くなればすぐに分かるはず。


 いかんいかん、他にも人がいるのに、こうして赤くなったであろう顔を見られるのは良くない。佳にバレない程度に深呼吸。——よし。


「ほら、いつまで照れてるの?」

「照れてないもん」

「身体は正直なのに?」


 いつも陽にやられてるから、なんかちょっと意地悪したくなる。多分この噂が一段落したらまたいつも通りの佳に戻るだろうし、今のうちだ。


「なんかなっちゃん変!」

「えー、そう?」

「うん、なんか今日はめっちゃ目が合うし、意地悪だし……!」


 おおう、そう言われると言い返せない。


「まあ……まあまあ、色々あるし——あっ、教室だ」


 これ幸いにと、佳から逃げることにした。何事もなかったかのように教室に戻り、いつも通り席に着く。


 超絶美人の受ける陽は今日は少なく、過ごしやすい。このまま噂を蔓延らせたままの方が良いのでは? と思うだけならタダだし思うことにした。噂が更新されるのは恐らく長い昼休み、それから午後、放課後にかけて活発になっていくはず。

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