ようこそ、保健室へ
「佳は知ってるの? こかげのこと」
佳に聞くといっても、佳の陽に耐えられる気がしないから先輩に丸投げすることとなる。適宜口は挟んでいくけど。
「そりゃーもう! 先輩となっちゃんとおんなじですよー‼」
やっぱそう見えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼
「賢くて美人でカッコいい系で! 運動神けー抜群だし! すっごい人なんですよー!」
つまり私も先輩もそう思われているということで悪い気はしない。なんならちょっと照れ臭い。
「なるほど。結構見る感じ?」
「んー……見ないかなぁ。あっ、でもなんかかいちょーが困ってたんだよねー」
まさかの情報に私と先輩は思わず身を乗り出してしまう。でも私は佳の陽に耐えられそうにないからすぐに引っ込んだ。
「なにか言ってたの?」
「覚えてないんですよねー……」
「ん。じゃあ仕方ない」
そりゃあその考えられる状況じゃあ覚えてないか。うーん……まあ上手い具合に学校生活送っているのかぁ?
これはあの生徒会長に話を聞きに行くべきか……佳を連れていけば話してくれそう。でもなあ……あまり詮索しない方がいいか。
ということで、佳から聞ける話はもう無いはず。佳にお礼を言って、先生に謝って、私達は教室に戻ることにした。
△
そして二日後、朝教室にいるとやけに視線を感じて少し居心地が悪い。この感覚はなんというか新感覚、つまり経験したことの無い種類の視線ということだ。
これは超絶美人に向ける視線と……戸惑いと困惑……? ちらっと見ると奇異のものを見る目もある。超絶美人だからそう思われても当然だよねって入学したてならまだしも、もう六月だしこれはおかしいと違和感。
「なっちゃん、おはよ」
「おはよう」
佳の声もどことなく沈んでいる。えっ、佳の声が沈んでる⁉
「なにかあったの?」
他の人はまだしも、佳がこの調子なのは気になる。
すると佳は言いにくそうに、私の耳に口を近づけてきた。
「えっと……後ででもいーい……?」
「いいけど……」
そんなサッと終わる話じゃないのか。気になる、今日の授業中はこれに対して考えよう。
でも、悩むまでもなくこの小さな騒ぎの原因が判明した。
時折聞こえる声に『吸血鬼』という言葉が混じっていた。
その単語がこう日常の中に突然現れるなんて、驚いたけどなるほどそうきたかと妙な納得感もある。
全く……よくも陰湿で最悪なことをやってくれたな‼
でもまだ吸血鬼だということがバラされただけだろうし大丈夫。私レベルの圧倒的な超絶美人にかかれば、先生もこの前言ってた通り、美人過ぎるが故、吸血鬼だとバレても騒ぎにならないはず。
授業が終わった私は、佳と共に自分の足で保健室に向かった。保健室に入ると不知火先生の他に永海先輩もいた。
「ん。鳴月に、佳」
「なっちゃん……」
おっと、ということはまさか先輩も?
「あれ、先輩?」
私のことは先生も先輩も知っているから別に構わない。逆に先輩の話は佳の耳に入っていないのだろうか。
「なるほど、三人で話そう」
私を見た先輩は頷いて、和室で話そうと促してくれる。先輩がそう言うのなら拒む理由は無い。
早速放課後よろしく、和室の中に集まる。
まずは佳になにがあったのか話してもらおう。
「佳、なにがあったの?」
「えーっと……なんかちょっと変な噂流れてて……うちも昨日の夜知ったんだけど」
すごく言いにくそうにしている。それもそうか、私の噂だから私には言いにくいはず。
「私が吸血鬼って噂だね」
それは本当だから認めるしかない。言いにくいのなら、私がこうして認めたほうがその先は話しやすくなる。
「えーっ⁉ なっちゃん知ってたの⁉」
「ちらっと聞こえたからね。それで、出どこは?」
「いやうちもメッセージ送られて初めて知ったっていうか。うーん……」
スマホを見ながら悩んだ様子。友達とのトーク履歴を見せるかどうか迷っているっぽい。いや、良い人すぎる……。
「友達からメッセージきたのは分かった。その友達はどこから聞いたとか言ってなかった?」
「多分部活関係だと思う」
するとそこで先輩は佳の代わりに答えた。
「なんで分かるんですか……⁉」
驚く佳に先輩は続ける。
「出どこは二年生で、多分一年生に聞いたんだと思う」
「一年の高橋鳴月って超絶美人は吸血鬼だって本当? みたいなですか?」
十中八九この噂を流したのはアイツだろうし、そう考えるのが妥当か。
「なんでなっちゃんも分かるのー⁉」
「私達頭良いから」
「ん。そういうこと」
実際にはこの噂流したヤツを知っているからなんだけど。
「でもまあアレだね、周りはどう思ってるの?」
私と仲が良い佳なら、友達からこの噂の真偽を確かめてと言われているはず。
そう問われれば素直に認めるしかない。多分大丈夫だと思うし。
「うーんと……みんなうちがなっちゃんと仲が良いから連絡してきて――って本当かどうか知りたがってたっぽい」
「だと思った。佳はどう思ってるの?」
「なんか全部読まれてる⁉」
「佳は、鳴月が吸血鬼だと思ってるの?」
私と先輩の言葉に、佳は押し黙る。
そこまで気を遣わなくてもいいのに。
「佳、私って吸血鬼の血を引いてるんだよ」
「えぇっ⁉ ほんとーなの⁉」
「ちなみに私は人魚の血を引いている」
「「えぇっ⁉」」
「やった。鳴月も驚いてくれた」
「いやいやいやいや、先輩も言っちゃっていいんですか⁉」
「ん。私も噂を流されたから」
「えーえーえーえー……ちょっと待ってー‼ 分かんない、うち分かんないよ‼ どーいうこと⁉ なっちゃんがきゅーけつきで、先輩が人魚で……それはなっちゃんも知ってて?」
徐々に目がぐるぐるになっていく佳。これは、佳も保健室デビューをしてしまうやつだ。
あーうーあーうーと佳は唸って、やがて頭から煙を出して倒れてしまった。
倒れた佳を先輩と二人で運ぶ。
「ようこそ、保健室へ」
ベッドへ運んだ佳にとりあえずそう言って、私は先輩に聞いてみる。
「先輩も噂流されたんですね」
「ん。朝来たらその噂で持ちきりだった」
「……大丈夫でした?」
「大丈夫。私、学年一位だし超絶美人だから」
ピースしてくれる先輩にとりあえず安心した。先生にもとりあえずの事情は話しておく。
私達の血筋のことをバラされてもまあもういい。先輩も血のことだけだから大丈夫だと言っているし、私も肯定しても問題無い。ただ、こうして秘密にしていたことを簡単にバラされてしまうと、私は注意しなければならない。
この体質のこと。いつかは佳に伝えないといけないと思っているけど、それを他人から、ましてや悪意を持った他人からバラされるなんてしたくない。
神出鬼没なアイツのことだから、発言にも注意しないと駄目っぽい。
めんどくせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼
これも佳に言えば解決なんだけどさ‼ そんなサクッと言えたらこんなに困って無いし!
あーでも……一歩前進か。ポジティブに考えたら、まあまあまあ……。
とりあえず、佳が目を覚ましたらもう一度丁寧に教えよう……。




