その性格で超絶美人は無理あるでしょ
「鳴月。覚悟を決めてほしい」
「はい、そうなりますもんね」
今日の昼休みは保健室ではなくて教室でいた。でも教室で昼食――とはならず、永海先輩との昼食になる。
その昼食の場所は、勝手知ったる保健室だ。ちなみに佳は友達と食べる約束をしていたらしい。今日に関しては好都合だ。
先にご飯を食べてからの作業。なんか悪魔召喚の儀式みたいだけど、似たようなもんだ。だって呼ぶ相手ってロクでもないやつだし。
でもその前に。
「先輩、今日は香水つけて無いんですね」
「ん。もう必要なくなったから」
「確かに、普通に良い匂いですもん。超絶美人の香り」
はにかむ先輩に私の闘志は燃え上がる。別にどうする訳でもないけど、とりあえず先輩が自分の匂いのことを気にしないでも大丈夫になったみたいでよかった。
私は先輩と頷き合って、アイツの名前を言う。
「名前なんでしたっけ……?」
「浅倉こかげ」
「あっ、そうだった。本気で忘れてました」
本気で忘れていた浅倉だ。そしてこうして名前を出せば、アイツはその恐るべきというか気持ち悪い程敏感な嗅覚でやって来る。
「ンだよ、二人揃って。コソコソ悪口か?」
「浅倉さん⁉」
あっ、先生に言うの忘れてた。まあいっか、口喧嘩するとは伝えてるし。ということでとりあえず挨拶代わりに言い返してやる。
「そうやってすぐに出てくるの気持ち悪いって話」
「だったらアタシの名前を出さなきゃいいだろ」
「まああんたに固有名詞いらないもんね。アレとかアイツで伝わるだろうし」
おっとここで舌打ち。もっと言ってやろうか、私の気は収まらないんだよ。
「でもこかげ、あなたは私の前に現れる」
でも先輩が私を手で制して、今日浅倉を呼び出した理由を告げる。
「私はあなたが怖い。鳴月がいるからこうして言えるけど、あなたに傷つけられて、あなたを見るだけで息が苦しくて、震えて、辛い日々を過ごしてきた」
「だからどうした? そんなのオマエが弱いからだろ」
こいつマジでクソ。今すぐその鼻先をサンダルで叩いてやりたい。そんな怒りに震えているであろう私のブラウスの袖を先輩は摘まんでいる。
待てということか。
「私が強くても弱くても、あなたが酷いことをしているのには変わりない。そんなのが分からない人じゃない、あなたは。つまり、私をわざと傷つけている。どうしてそんなことをするの?」
果たして先輩の言葉になんと返すのか。まさか先輩が好きだから意地悪をしている訳じゃないよね?
「楽しいだろ?」
は?
「…………楽しい?」
聞き返した先輩の、私の袖を握る力が強くなる。ちょっとこれは、私も参戦した方が良いかもしれない。
「人を傷つけるのが?」
「それも楽しいけどな。そんなどうでもいい道端の石を蹴るよりも楽しいんだよ。魚野郎、あとお前もだ蝙蝠野郎」
「はあ?」
私も含まれてるってどういうこと? あと先輩は人魚で私は吸血鬼だ。
「先生、大丈夫だから、見守っていてほしい」
「でもぉ、さすがに先生としてこれ以上は見過ごせないかなぁ」
もしもの安全のために先生がいてなおかつ人が来にくいであろう保健室を選んだのが悪手になったか。実際、コイツの言っていることは虐めに近いはず。でもコイツは手は出していないし、学内でもめったに先輩に接触してこない……らしい。ただの物騒な会話ということで見過ごしてくれないだろうか。
「見過ごすもなにも、アンタら教師にはどうにもできねえよ。だって問題を起こしてねえからな」
コイツヤバいわ、そもそも存在自体が問題だろ。
「先生。今止められても、先生がいない場所でまたこうしますよ。だったら先生の目の前の方がいいと思います」
「なっちゃん……」
こうなるなら他の場所ですれば良かった。ただシンプルに先生に迷惑と心労をかけることになるとは、私が甘かった。
でも過ぎたことは仕方がない。
「どういう意味?」
先程の答えを、この性悪女に吐いてもらう。
「テメェら二人、ツラは良いだろ?」
「「うん」」
なにを右足を出して左足を出せば歩けるみたいな当たり前のことを。
「そして頭も良い。全て持っている種類の人間だ。まあ、人間って言えるか分かんねえケドな」
「なに、嫉妬してんの?」
「アタシも同じだろうが。テメェの目は腐ってんのか?」
「その性格で超絶美人は無理あるでしょ」
おうおう、みるみる眉が釣り上る。でも当たり前じゃん、人を平気で傷つける人間が美人な訳ないじゃん?
「中身の醜さって、思いのほか外見に出るんだよ」
知らないけど。
少なくともコイツの性格を知った私は、コイツのことは美人に見えない。だから周りに私達とコイツを同列に扱われるのは業腹だ。
「まあ続けて。それで?」
「チッ。テメェらみたいな調子に乗ったヤツを傷つけるのが楽しいんだよ」
「うっわダッサ」
さっきの今での発言だから途轍もなくダサい。言っていることはなかなか凶悪だけどとにかくダサい。
ああもう、顔真っ赤にしちゃって。
「えっとぉ、浅倉さん?」
ほらぁ、先生も心配してくれてるよ?
まだ昼休み終わりまで時間があるし、チャイムにも助けてもらえない。さあどうする?
「もう二度と私らに関わらないのならあんたも恥ずかしい思いしなくてもいいんじゃない?」
まあ、これで現れなくなれば先輩も苦労してないんだろうけど。
「ん。それなら、私達もあなたの話はしない」
一触即発の空気と言うべきか、相手がなんて言ってくるのか緊張が漂う。これで引くのか、まだなにかあるのか。まだなにか言うのなら言い返してやる。
「なっちゃーん……?」
と思った時、まさかの佳がやって来た。それは聞いていない。まあ、先輩と食べるとしか言っていなかったし、来てしまうのも仕方がない。そして一応超絶美人に分類されている浅倉もいることで、全学年の超絶美人が揃ったということ。そしてそれを見てしまった佳の反応は当然――。
「あっ……ああああああああああああっ……‼ 浅倉先輩⁉」
「チッ、クソがッ」
するとやけに焦った様子で、浅倉は保健室から出て行った。もちろん反対側の扉から。
「マジかー……」
まさかこういう流れで終わってしまうとは。
「……とりあえず、佳に聞いてみよっか」
「……ですね」
浅倉は逃げたけど、それでもやれることはあるはず。佳を巻き込みたくなかったけど、今ので私達と佳の関係はバレてしまった。なら、佳の知っている浅倉の情報を集めようということだ。
ということで、残りの昼休みは佳から浅倉のことを聞くじかんにする。




