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吸血鬼が憩える保健室  作者: 坂持


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39/41

ちなみに手土産はゴーフレットだから別に冷蔵庫は圧迫しないし大丈夫

 羽子板で遊ぼうと、佳が家から持って来てくれたけど残念ながら雨が降った。その雨の日が続き、結局すごろくを最後までプレイするチャレンジをしたここ数日。


 そんな中土曜日になり、私はゴールデンウィークに佳と海に行った時に降りた駅で人を待っていた。


 事の発端は昨日の夜。私が明日は休みだーってリビングでテレビを見ながらだらけていた時。


 突然鳴り出したスマホに驚いてお手玉をして、なんとか割れてしまうのを回避した――ということはどうでもよくて、永海先輩から電話があった。


『鳴月、明日家に来てほしい』


 いきなりなに言ってるんだろうこの人と思ったけど、別に先輩だしふざけて言っている訳じゃないし、なにか事情があるのだろうと思って予定もなにも無かった私は二つ返事で了承した。という感じで先輩の最寄り駅に着いたんだけど……。


「今日家に誰もいないの。早く行こ」


 なにか事情があるんだろうけどなんで?


 先輩の両親がいないとなると、先輩自身になにか事情があるということ。ちなみに手土産はゴーフレットだから別に冷蔵庫は圧迫しないし大丈夫。


 先輩について行ってしばらく。そろそろ汗かいてくるよねって思ったところで先輩が止まった。


「ここ」


 先輩の指さす先を見るとなんと『永海』の表札。間違いなく先輩の家だ。まあ普通の家だね。


「お邪魔しまーす」


 ということで先輩に続いて家に上がらせていただく。


「下でも大丈夫?」


 なるほど、部屋に入れるのは恥ずかしいということか。


「いいですよ」

「ん。ありがとう」


 先輩の家に上がって、以外だと思ったのは家の中の匂いは普通だったことだ。


 先輩が凄く良い匂いだから、家の中も良い匂いだと思っていたんだけど違った。別に臭くは無いというか普通に良い匂い。でも想像してたレベルの良い匂いじゃなかっただけ。


「お茶でもいい?」


 先輩に促せれてソファに座る。座り心地が良い。


 先輩がお茶を入れてくれる間、なんとなく家の中を観察する。ソファにテーブル、テレビ台にテレビ、まあ普通の家だ。私の家と大差無い。


「ん」

「ありがとうございます」


 少し喉を乾いていたからありがたい。飲んだ麦茶が身体に染み渡る。


 私の隣に腰掛けた先輩も麦茶を飲んでいる。


 とりあえず私は半分だけ飲んで、残りはテーブルに置く。


「喉乾いてたんですか?」


 先輩は麦茶を全部飲み干して、空になったコップを持っていた。コップについた水滴が、先輩の親指を湿らせる。


「緊張してる」

「人を家に呼ぶのってなんやかんやで緊張しますもんね」

「そうだけど、そうじゃない」


 とはどういう意味だろう。そう考えていると、先輩は体の向きを変えて私を見ていた。


「鳴月、前に私から良い匂いがすると言ってくれてた」


 いつも通り表情の変化は乏しいけど、なんとなく表情に力が入っている気がするし、少し瞳も揺れている。


「先輩めちゃくちゃ良い匂いしますからね」


 とりあえず事実だけを返す。踏み込んだ質問をしていいのかそれとも、先輩のタイミングを待つか。


「本当に?」

「本当ですけど」


 急にどうしたんだろうか、もしかして……もなにも、本当にどうしたんだろう。


「じゃあ嗅いで。ここ」

「えっ?」


 なんで? いや、むしろいいんですか的な感じだけど、匂いトラブルでもあったのだろうか? と推察してみる。


 固まっていると、先輩の目元が少し動いたのが見えた。これは、先輩はふざけているんじゃない。


「いいですけど……いいんですか……?」

「ん。お願い」


 そうして、先輩は長い髪の毛をかき上げてうなじを見せた。


「…………なんか緊張しますね」

「早くして……」


 固く目を閉じた先輩の、震える唇が目に入る。緊張でもなくこれは……怖がってるみたいだ。そりゃあ体臭を嗅いでもらって、臭いって言われたら凄く傷つくから分かるけど。じゃあなんで嗅がそうとしているんだってなる。


 怖がりながらも、私に嗅いでと言う先輩の意図はこれしか無いっていうのはあるけど、なんで私と同じ超絶美人の先輩が怖がっているのかが分からない。良い匂いに決まっているのに。


 私も絶対良い匂いだし。


 でもまあ、先輩が嗅いでって言うんだから嗅ぐけど。


 ……なんか緊張してきたな。先輩がめちゃくちゃ良い匂いなのは知ってるけど、こう改めて嗅ぐとなると照れてしまう。


「じゃあ……」


 いきますよ代わりのじゃあを言って、私はゆっくりと先輩のうなじに鼻を近づける。


 先輩の微かに跳ねた肩、詰まった吐息、逆に私が恥ずかしくなってしまう。


 そうやって羞恥に耐えて嗅いだ先輩の匂いは、やっぱめちゃくちゃ良い匂い。なんかもう目の前に穏やかで綺麗な海が広がるもん。南国の穏やかな海の匂い! どんな匂いか分からないけど、少しトロピカルな甘さはあるけど透き通った波の無い澄んだ匂い。つまりよく分からない。


「めちゃくちゃ良い匂いですよ」


 とりあえず顔を元の位置に戻して言う。


「ん。香水使ってるから……」


 すると先輩はホッと息を吐いて、私から視線を逸らして呟いた。


 この匂いが香水のものだとしたら、じゃあなんでわざわざ匂いを嗅がせたんだろう? 新しい香水を変えたから匂いを嗅いでって訳じゃないだろうし、ますます先輩が私を家に呼んだ意図と匂いを嗅がせた目的が分からなくなる。


「そうなんですか。急にどうしたんですか……?」

「鳴月、シャワー浴びてきてもいい?」

「なんでですか⁉」


 そんな思い詰めた顔をされても、なにがなんなのか分からない。


「いやほんとにどうしたんですか?」


 本当に先輩はどうしたんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼


 声を大にしてツッコみたいけど、先輩の雰囲気がツッコませてくれない。


「ごめん……鳴月」


 先輩は自らの腕を抱きながら、絞り出すように呟く。


「ごめん……でも、まだなにも言えないの」

「なにも言えないって、そう言われても……」

「お願い」


 なにもかも訳が分からないし、全てにおいて置いてけぼりをくらっている訳だけど、真摯な目で見つめられたら頷くしかない。


「……分かりました」


 本当に意味不明だけどね‼

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